3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 道場で試合が繰り広げられている頃、スイレンはダクマに連れられ波打ち際にある塔を訪れていた。
 階層ごとに襲いかかるポケモンたちを倒し最上階まで辿り着けば、そこには女将のミツバが待ち構えていた…!


PNTT Fighting! みずの塔の試練!スイレンvsミツバ

「順を追って話すよ。」

 

 ここまで塔を登り詰めたスイレンには聞く権利が当然ある、とミツバは肩の上に乗るダクマを撫でる。

 

「この塔はね、ダーリンが秘伝のヨロイ…ダクマを修練させるために建てたんだよ。ここ以外にももう1つある。」

 

「そっか。ウーラオスって型に合わせて2種類だから…。」

 

「そ。こっちはみずの型…連撃の極意をダクマと認められた子に刻み込む場所さ。その子が昔ダンデちゃんと一緒に修行してたんだけど、連れて行ってもらえなかったって話は前したね?」

 

「はい。聞いてます。」

 

 ここまでダクマの身のこなしを見てきたスイレンからすれば、その源泉がダンデによる育成と言われれば納得の一言であった。

 

「ダンデちゃんとのことはショックだったろうけど、その子なりに折り合いをつけて18年間、道場に出入りする子たちを見続けて、お気に入りをずっと探してたんだよね。」

 

「18年…。」

 

 13歳である自分の人生より5年多い月日を、共に歩める相手を求め生きてきたというダクマに自然とスイレンの目は向く。

 

「人同士ですら相手のことはよく分かんないもんだ。それが人とポケモンなら尚更…その子にとって何が琴線に触れたのかはあたしにもダーリンにも分かんないけど…ただ一言言えるのは、確かにスイレンちゃんのことを気に入ったから、姿も見せたし一緒に塔を登りたい、って思ったんじゃあないかな?」

 

 前に心を通わせたダンデとは、彼の悪癖が災いして試練の場である塔までたどり着けなかった。その経験から、ダクマは次こそはと気に入った相手、スイレンをここへ連れ込んだのだ。

 

「そうなの?」

 

 スイレンが訊けば、ダクマは恥ずかしそうにそっぽを向く。図星だったらしい。

 

「じゃあ、ここまで戦ってきたポケモンたちは…。」

 

「この塔での試練でダクマを鍛える役割を担うためにダーリンが育てた子たちだよ。」

 

 そこまで話せば、ミツバの肩の上にいたダクマがバトルコートへ飛び降りる。

 それに続いて、スイレンの足元のダクマもバトルコートに入った。その意味するところと言えば、たった1つしかない…。

 

「ということは、最上階では…。」

 

「察しがいいね。あたしとこの子が相手になるよ。」

 

「べあ〜まッ!!」

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

 

ゴォォォォォッ!!

 

 試練として立ちはだかるダクマが構えを取れば、ミツバはそれに合わせて闘気を発散させた。噴き出す闘気を前にミツバの衣服が弾け飛べば、中から人妻の肉感と、鍛え抜かれた圧感がないまぜとなった肢体をピッチリと包み込んだ普段着のオフショルダーと同じ黄緑色のシングレット姿を見せ付けた。

 

「ぶ、ぶいい…!」

 

「す、凄い…!」

 

 タジタジになるナギサ。ミツバの闘気や肉体も去ることながら、スイレンが着目したのは彼女とダクマの調和にこそあった。

 これだけでも、ここまで塔で戦ってきた相手とは別次元の存在であると断定できる。

 

「あたしってさ。結婚前はしがない社長業で、ダーリンと結婚してからここに移り住んだんだけど、この島って自然豊かはいいけど娯楽なんてものとは無縁だろう?だから自然とダーリンとポケモンバトルしたり体を鍛えるくらいしかやることがなかったんだよね。ま、そのダーリンと一緒、って言うのが最高だった訳だけどさぁ!」

 

 ゆらぁ、とミツバがダクマと同じ構えをするのにスローモーションのように見えたのは、全身から放たれる闘気とは裏腹に、その所作がどこまでも自然であるからだ。

 

「本来ならこの最上階での試練はダーリンがやるんだけど、ダーリンは今道場の方でお楽しみに夢中だろうからあたしが代わりになったげたのよ。大丈夫!ダクマの扱いは、慣れたもんだからねぇ!」

 

 スイレンの口角が吊り上がる。聞きたいことは全て聞いた。

 ならば後は…ただ、勝つのみ!

 

「よろしくお願いしますッ!」

 

「いい覚悟だねッ!」

 

 こう言葉を交わしたのが、開戦の合図となった。

 

「「べぁまぁぁぁッ!!」」

 

 2体のダクマが、バトルコート中央目掛けて駆け出してゆく。互いの右拳を、挨拶代わりにぶつけ合わせた。

 

バッキィィィィィィィ!!

 

 拳と拳がぶつかり合い、互いのかくとうエネルギーがスパークする。次撃もタイミングは全く同じ、左脚でのキックだ。

 

ゴォォォォォォォッ!!

 

 キックのぶつかり合いに、塔全体が震動する。少し、動きが見えた。

 

「べあッ…!」

 

 スイレンのダクマが、僅かに打ち負けて後ずさる。

 ミツバのダクマはすぐに距離を詰めた。

 

「オラオラッてやって!ばくれつパンチッ!」

 

「べあべあべあべあべあべあ!」

 

「突き(ラッシュ)の速さ比べか…!」

 

「あまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあまあま!!」

 

 スイレンのダクマの拳打のラッシュに、ミツバのダクマも合わせてラッシュ。

 互いの拳が交錯する中、ダメージを受けるのはスイレン側だ。

 

「(ダクマのレベル…パワー…スピード…どこを取っても大きな差はないのに…!)」

 

 何故、と浮かぶ前に劣勢の理由は浮かび上がる。浮かんでしまえば、簡単な話であった。

 

「気付いたね。」

 

 スイレンの瞳に宿る闘志の熱量が上がってゆくのを感じる。

 ミツバは熟れた2つの膨らみを暴力的に揺らしながら演舞をし、ダクマに闘気を伝播させてゆく。

 

「はぁぁぁぁ…はぁッ!!」

 

 ラッシュ比べで遅れを取るダクマがニュートラルポジションまで下がる中、スイレンは気合いを込め直す。

 

ドンッ

 

 ノースリーブのセーラー服と裾の広いパンツが闘気により弾け飛べば、中に着ていて時折チラ見えするスクール水着にぴっちりと張り付いた、曲線は少ないなれど相応に鍛え込まれた肢体を露わにしてゆく。

 

「ダクマ、お待たせ。私も入れ直したよ、気合い。」

 

「べあまッ!」

 

 ここまではダクマのスペックを引き出すだけで何とかなってきた。しかし、このミツバを相手取るにはトレーナー自身も闘気を漲らせねばならない。

 それは、去年のリーグ戦でカキに敗れた経験から学んだエビデンスと言えた。

 あの時も、カキの気迫に押し負けたのだ…。

 

「(もうしたくない…あの時の失敗は…!)」

 

 スク水姿でスイレンはダクマと同じ構えを取る。スイレンに格闘技の心得はない。構えは完全に見様見真似の範疇でしかない。

 重要なのは、トレーナーの闘気をポケモンに伝播させることなのだ。

 

「ダクマ!いっけー!」

 

「べあああああ!」

 

 スイレンのシャウトに、ダクマは力強く駆け出す。

 

「迎え撃つよ、ダクマ!」

 

「あんまぁぁぁ!」

 

 ミツバのダクマは、今度は待ちの姿勢で構えを深めた。その両腕には、爽やかに吹き抜ける風のオーラを纏わせる。

 スイレンのダクマも、また…

 

「「つばめがえしッ!!」」

 

ガキン!ガキン!ガキン!ガキン!

 

 空色に眩く輝く両腕を互いにぶつけてゆく。

 真剣と変わらぬ切れ味を押し付け合う立ち回りに、今度はスイレンのダクマも決して遅れは取っていない。

 

「ダクマッ!」

 

「あまぁ!」

 

 ガスゥ!スイレンのダクマが不意に蹴り上げられ、空へ逃れる。

 

「ダクマーッ!」

 

 スイレンとダクマの視線が重なったのは、ほんの一瞬。

 

「勝機!!」

 

 そこへミツバのダクマが追撃し、空中にて間合いに滑り込めば…

 

「あまぁ〜〜〜ッ!!」

 

ドドドドドッ

 

 放つは天翔ける百もの裂なる拳。

 必殺の拳打がスイレンのダクマを襲った。

 

ドシャアアアッ

 

 2体のダクマが地へ戻る。

 スイレンのダクマは両手両膝を突き、ミツバのダクマは軽やかに着地する。

 スイレンとミツバも、体の内から迸らせる闘気を収めてゆく。決着が、ついたのだ。

 

「激流を制するのは静水…静水を制するのは激流…この世の理は、"静"と"動"の運用こそ肝要。ダーリンが言ってたことさ。」

 

 ミツバが穏やかに語りかける。その微笑みは、愛する家族や門下生たちを見守っているそれと何ら変わらない。

 

「合格だよスイレンちゃん。ダクマとよく頑張ったね。」

 

 言い終えた瞬間であった。

 

「あまぁぁぁ…!!」

 

 ミツバのダクマの全身に拳痕が浮かび上がり、突如その身が吹っ飛べば背中から倒れ込み、仰向けで目を回した。

 

「べぁ…べぁ…。」

 

 対してスイレンのダクマは、満身創痍で息絶え絶え確かに立ち上がって見せ、押忍!とばかりに一礼した。

 空中での交錯は、確かにミツバのダクマが必殺の間合いを取った。しかしてそれは、スイレンのダクマにとっても同様の話。詰めの拳打を前にスイレンのダクマは、決死のカウンターを百裂拳に合わせていた。

 

「べあ〜…。」

 

「おっとと。」

 

 最後の試練を乗り越え、精魂尽き果てたダクマが後ろに倒れ込むのを、スイレンは走って近づき抱きかかえる。

 最初こそ成り行きであったものの、ここまでやり抜いてしまえばもうスイレンからしてもダクマはかけがえのない仲間となっていた。

 

「女将さん!あの…。」

 

「あたしもダーリンも野暮じゃあないよ!皆まで言わずとも、ってやつさね。」

 

 ミツバが自分と一緒に戦ったダクマにキズぐすりを噴きかけては、その残りをスイレンに投げ渡す。

 それをキャッチしてスイレンはダクマの傷を回復させる。言葉は要らない。もうこのダクマは、スイレンのポケモンなのだ。

 

「べあま!」

 

 全快とはいかずとも、普段と変わらぬ動きが出来るまで傷の癒えたダクマが飛び上がれば、スイレンもそれに応え互いの左手の甲をコツンとぶつけ合わせた。

 着地したダクマは、笑顔で両手の正拳突きを眼前の虚空に放ち、喜びを爆発させる。

 

「2人とも、よく頑張った!さぁ、修行の総仕上げだよ。」

 

 ミツバとダクマが掛け軸へ至るように道を空ける。

 

「その子にこのみずの掛け軸を見せてあげな!」

 

「はい!」

 

 スイレンとダクマは頷き、歩を進める。

 部屋の奥の座敷の壁に立て掛けられた掛け軸の前でスイレンが促せば、ダクマはそれを見上げる。

 

「べあ?べあ、あーま…。」

 

 ダクマの中の何かが、大きく膨らみ…

 

「!…べべあーッ!!」

 

 そして、弾けたような気がした。そしてスイレンたちが見守る中、ダクマの体が光に包まれ…

 

「うらっしぁぁぁ!!」

 

 進化を遂げた。

 

「よーく見な!これこそがウーラオス!どんな矛をも屠る頑強な鎧…みずの型を極めた姿だよ!」

 

「あんまぁ!」

 

「ぶーーい!」

 

 ミツバのダクマがやったな!とサムズアップを贈れば、ウーラオスもそれに応える。

 ナギサが進化したウーラオスの周りを走れば、ウーラオスも肩にナギサを乗せてやる。これからは同じスイレンのポケモン同士仲良くやっていくのだ。

 

「それじゃ、そろそろ戻ろっか。あたしの勘だと、ちょうど戻るくらいのタイミングで1番いいとこになりそうな気がするからねぇ!」

 

「女将さん!」

 

 からから笑いながら階段へ向かうミツバの後ろ姿にスイレンが呼び掛ければ、その歩を止める。

 

「私…大事に育てます。ウーラオスのこと。もちろん!私自身も、もっと、もっと強くなります!」

 

 スイレンの決意表明に、ミツバは振り返ることなく右手を軽く上げて応え、階段を降り出す。若者の成長と、面倒を見ていたダクマの旅立ちによる色々な感情がないまぜになった涙を見られるのを恥じたのだ。

 それを察したスイレンは、少し遅れるようにして階段を降り、2人はみずの塔を後にした。

 




 みずの塔の試練
 スイレンvsミツバ

 スイレン ミツバ
 ダクマ○ ダクマ●

 勝者 スイレン
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