3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
若き闘志と熱量を込めて競り勝ったスイレンは、連撃ウーラオスを新たに仲間にしたのだった…!
「ここまでの成績は3勝1分け…公式戦のルールならばシングルバトル2の時点で決着だけれどもこれは親善試合で最後までやる…。」
時と場所を戻せばシングルバトル2が終わったマスター道場の屋外バトルコート。対抗戦の推移をナンテは噛み締めるように呟く。
「ことマスター道場を相手取るならば、やはりあの人を打倒出来ねば"勝った"とはならないのが物の道理。」
その視線の先、この場の皆が同様に見つめるは、フィールド中央にて向かい合うサトシとマスタードの2人…。
親善試合は結果問わず、この2人の試合を以て終了となるのだ。
「これよりシングルバトル1、チーム<マナーロ>チャンピオンサトシvsマスター道場&ホダカ研究所連合チームマスタードの試合を執り行います!!」
サトシとマスタードが試合前の握手を交わす。
「ダンデさんの師匠とバトル出来るなんて、俺感激です!」
「ワシちゃんもワシちゃんも!ダンデちんに勝った実力、たっぷりと見せてもらっちゃうからよろぴくね〜!」
朗らかな雰囲気は、一瞬。トレーナーサークルへ散るべく背を向ければ、どちらも戦士の顔となる。
「クララ!セイボリー!」
「「は、はい!」」
鋭い声色と共にクララとマスタードは反射的に両手を前に出す。
そこにバササッ!とピンポイントで投げ込まれたのは、クララの手元には帽子、セイボリーの手元にはジャージの上着…どちらも黒と緑のツートンカラーのデザインが特徴的なマスタードの普段着だ。
「試合が終わるまで持っておれぃ!そしてとくと見届けよ!マスタードのいくさぶりをな!!」
トレーナーサークルのマスタードは、普段垂れ下がっている細い白雲のような眉を吊り上げ、キリッとした目付きで左胸に青い剣と赤い盾のデザインをあしらった黄色と黒の胴着姿でしなやかな構えを見せる。
その姿は、まさしく在りし日の『本気の姿』…師匠がワールドチャンピオンを相手取り、全力を見せて戦うというシチュエーションに、クララとセイボリーはもちろんのこと、門下生たちは皆興奮を禁じ得ない。
「ぴかぴ…。」
「あぁ…すっげぇ。波導がまるで皮膚のように張り付いている。」
マスタードの体表を包み込むような波導にサトシも震えた。トレーナーとしてはともかく、これほど自らの内なる力を制御しきる猛者の姿はそうそうお目にかかれない。
「さぁ!若きチャンピオンよ、存分に試合おうぞ!!」
「はいッ!!」
厳しくも不敵な視線にサトシは、目を輝かせながら頷いた。
「おうスイレンではないか。って、なんちゅう格好しとるんじゃ!?」
「だ、大胆だな…。」
「い、色々あって…。」
その頃ミツバとともに道場に帰ってきたスイレンは、点滴の甲斐もありちょうど体調が回復したジェニーや、彼女に付き添っていたハプウとタケシに合流して屋外バトルコートへと向かう。
みずの塔での試練を終え、そのままの姿なのでスイレンはスク水姿、ミツバはシングレット姿だ。特にミツバに関しては横乳が露わなのに加え、Vラインを丸出しとしたデザインは、彼女が人妻であるのを加味しても容易にタケシの鼻の下を弛緩させた。
女性に対してだらしないことをすれば即座に飛び出してどくづきを喰らわせる彼のボールの中のグレッグルからしても、だいぶギリギリのラインでスルー案件である。
「ほらほら、早く行きましょ!みんなにもダーリンのカッコイイとこ自慢したいんだから!」
そんなミツバはと言えば、愛する夫の出番にドンピシャで帰り着けたのでひたすら上機嫌であった。
元よりバトルの舞台で見せる凛々しい姿に一目惚れをしたのが彼との馴れ初めなのだ…。
「ツルギさんとアサヒさんは、どっちが勝つと思いますか?」
「うーん、そりゃまぁ元門下生としては、断然お師匠様!って言い切りたいのは山々なんだけどねー…。」
トキオからの純朴な問いかけにアサヒは苦笑い、ツルギはノーコメントである。
確かにマスタードは全国屈指の強豪エリアとして名高いガラル地方においてリーグチャンピオンにまで登り詰めた実績を持っている。しかしそれはもう35年以上も前の話である。一見まだまだ壮健に思える身のこなしをしてようと老体に変わりはないのだ。
「正直言って、サトシが変な気を使ってくれでもしない限りは厳しいだろう。」
「あぁ!?てめぇ育ててもらった恩師に向かってコラァ〜!!」
「クララさん!抑えて!短慮はなりま・セーヌ!」
ツルギのようやく絞り出した簡潔なコメントが耳に入り、怒髪天で詰め寄ろうとするクララをセイボリーが羽交締めで押さえる。気持ちとしては彼女と同じくしているが、それで一緒に癇癪を起こして師匠の試合を台無しにするのは違うのだ。
「サトシ…。」
ゴウはというと、久々に見るサトシの真剣勝負を純粋に楽しみにしていた。3年前から彼のバトルは見るものを昂らせる。それはゴウにとっても同様であった。
「相手はダンデさんの師匠だ。きっととんでもなく強いポケモンを出してくるに違いないぜ。」
あちこち外野の思惑などはどこ吹く風で、サトシは高揚感のままにボールを握る。否応なく嗅ぎ取る死闘の気配に胸の昂りを抑えきれない。
「マスター道場師範マスタード、いざ推して参るッ!!」
「いくぜッ、キミに決めたーッ!!」
マスタードがハイパーボール、サトシがモンスターボールを投げ込めば、中から飛び出したのは…
「じゃらんらぁぁぁ!!」
「くんわっすぅ!」
マスタードのジャラランガと、サトシのクワッスのマッチアップにより試合は始まった。
「クワッスvsジャラランガ、か。」
「"ジャイアントキリング"はサトシの十八番だが、さて…。」
迷いなくクワッスがジャラランガへ一直線に走り込むのを皆固唾を呑んで見る。
「クワッス、つばさでうつ攻撃!」
「くわぁッ!」
バッチィッ!
間合いへ飛び込むクワッスはジャンプ一番、両手をジャラランガめがけ振り下ろす。構えられた両手のガードもお構いなしだ。
「弾き飛ばせぃッ!!」
「じゃあら!!」
キィィィン!!
金切り音とともにクワッスの体が弾かれる。ジャラランガの全身の鱗を擦り鳴らして放つ振動波、スケイルノイズによるカウンターだ。
「ポニ島の主ポケモンより遥かに洗練されている!」
言ってみてカキはそれも当然と納得する。かつてチャンピオンであった男の元で育成されたポケモンなのだから。
「負けるなクワッス!引いちゃ駄目だ、アクアジェット!」
「くぅわ!!」
クワッスが水流を纏ってジャラランガに迫る。
「あぁ、そうか。スケイルノイズって確か。」
「そうですわ。あのカウンター、実は割と撃たせ得ね。」
ジェニーの気付きにセイヨも続く。
ジャラランガのスケイルノイズは、攻防ともに全身の鱗を打ち鳴らす振動波が肝である。激しく振動させる分鱗そのものが擦り減り、防御能力が下がるのだ。
小兵の足回りを活かしての機動戦、その撹乱を受けるマスタードでもない。しかしてサトシの押しの一手には、言語化し難い巧妙さを感じ取ってもいた。
「(ひたすら前に出てこちらの足を止めに来よる…。)」
マスタードとて、本質的な話をするならば押すか引くかで言ったら断然押す方を好むタイプなのだ。
この盤面は正直言って面白くない。
「ジャラランガよ!」
「じゃらん!」
アクアジェットを弾き飛ばしてからこちらも前に出る。それがマスタードの方針であった。
ジャラランガの上体が前方へ傾き、両膝を縮める。右足が前、左足が後ろだ。
「(脇腹に引き付けた左拳が、上向きになってる…!)」
ジャラランガの構えに気付かぬサトシではない。このまま真っ直ぐ突っ込む愚を本能的に察知する。さりとて距離を置けば今度はマスタードに攻めのリズムを構築されてしまうのは明らかだ。
「スカイアッパー!!」
「じゃあらッ!」
「左だ!ジャラランガの左脇腹へ回り込めーッ!!」
「くわぁ!」
ゴアオ!!
縮めた右膝を思い切り起こし、その勢いで体ごと突き上げられた左拳が空を切る。
元より鍛え抜かれたプロのそれならば抜群の破壊力を生むアッパーカットだ。人間より遥かに強靭なボディを持つポケモンが放てばその威力は筆舌に尽くし難い。
「うわ、こっちまで風圧が飛んできた!」
「それだけじゃあないよゴウ!見てアレ!」
ジャラランガの左アッパー、その余波で地面が削れ飛び、拳圧のみで眼前の木々が薙ぎ倒されていた。
その破壊力にゴウもトキオも青ざめるよりない。
「読みおったか!」
「いけ、クワッス!」
「くぅわ!」
ジャラランガの左アッパーを、クワッスは急激な右カーブで掻い潜り、ガラ空きの左脇腹へ飛び込む。
「しかしッ!」
マスタードはほくそ笑む。スカイアッパーをやり過ごそうと間合いへ飛び込むならばスケイルノイズでまた弾き飛ばすまで。今度はそこから攻めに転じるのだ。
「つばさで、空振るんだ!」
「ぬぅッ!?」
キィィィンッ!
隙を突きに来たクワッスへカウンター目的で防御の為の振動波を放つジャラランガ。
それを見越してクワッスはつばさでうつにより両腕を、空振り。その勢いにて空中で対空し、僅かに距離を離す。
依然、間合いのままだ。
「いけぇ、エアスラッシュ!!」
「くわぁ!くわぁ!くわぁ!」
バシュウ!とそのままクワッスは両腕を追加で振り、空気の刃をぶっつける。
左側面から至近距離での直撃、ジャラランガに効果は抜群だ。
「じゃうらッ…!」
「そこらの相手ならコレでダウンだろうけど…。」
ギョロリ。ハウが呟いた通り、ジャラランガは健在。着地するクワッスを眼下に睨む。
「インファイト!」
「らんがぁぁぁぁぁ!!」
ジャラランガの両眼が発光し、守りを捨てた拳打のラッシュを見舞う。
「クワッス、負けるな!打ち合うんだ!」
「くんわぁ!」
その辺のルーキーならば正気を疑う指示、しかし、サトシには確信があった。
パルデアからアローラに来てずっと鍛えてきたクワッスならば、打ち負けるにしろ一方的にやられはしない、と。
バチバチバチバチバチバチ!
ジャラランガの両拳とクワッスの両腕が幾度となく交錯する。互いの突きが身体中を掠め、徐々に傷だらけになってゆく。
「負けてない…クワッスは負けてないぞ!」
糸目ながらタケシにもはっきりと見える。クワッスが、確かにジャラランガと互角にラッシュを交わし合っている!
キィィィン!
「くぅわ!?」
インファイトのラッシュ、その終わり際に振動音を放たれ、クワッスの体が空中へ打ち上げられる。
「今ぞ!!」
マスタードと構えをシンクロさせ、今度は右のアッパーを仕掛けに入る。
「クワッス!」
空中のクワッスが全身をみずのエネルギーに包み込むので、マスタードはアクアジェットを予見する。
「かまわぬ、振り抜け!スカイアッパー!!」
「じゃうらぁぁぁ!!」
ジャパァ!
渾身の右アッパーを振り上げる…より先に入ったのは、クワッスの全身を使った水流突撃だ。
急降下による右肩側から左足の付け根へ斜めに真っ直ぐの太刀筋が決まった。
「アクアジェット…じゃあないな。少なくとも、直撃の瞬間は。」
「えぇ。加速こそアクアジェットを発動してスピードを稼いでますが、ジャラランガへ打撃を加える際には全身の水流をアクアカッターへ切り替えることで、巨大な水の太刀を振り下ろし、スーパードライなテイストになってます。」
ナンテが一言呟けば、デントが土壇場で決めたクワッスの大技を解説する。
「アクアジェットとアクアカッターの併せ技…。」
「ジェットカッター…!」
カキは、クワッスの土壇場の競り勝ちもさることながらスイレンの独特なネーミングセンスが珍しくまともに仕事したことにも驚いていた。
『アサヒ』
21歳。ポケモン研究員。
ホダカ博士の研究所に所属するリサーチフェロー。厳格さゆえに周囲と軋轢を作りやすいツルギのフォロー役をする気さくなお姉さん。
パートナーはマスター道場で一緒に鍛えた連撃ウーラオス。