3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ついに始まった親善試合最終戦。ぶつかり合うのはもちろんサトシとマスタード。
 先発のクワッスはレベルや体格差をものともせずにサトシの指示のもとジャラランガと堂々と戦い、必殺の一撃を叩き込むのだった。


PNTT Fighting! 親善試合 シングルバトル1 サトシvsマスタード②

「くわ、くわぁ…。」

 

「いいぞクワッス!よく決めたな!」

 

 アクアジェットとアクアカッターの併用技は、クワッスをゲットし、アローラに着いてからずっと特訓していた。

 スイレンがドヤ顔でネーミングするのも聞こえていたサトシは、ありがたくそれを頂くことにする。

 

「じゃあら…がッ…!」

 

 ジャラランガのボディが崩れ落ちる。仰向けに倒れては、完全に目を回していた。

 

「ジャラランガ、戦闘不能!クワッスの勝ち!」

 

 

 

サトシ、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。

 

マスタード、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

 

 

「くわぁぁぁぁぁ!」

 

 勝ち名乗りを受けたクワッスが大きく鳴けば、そこから全身が眩い光に包まれてゆく。

 

「ぴかぴ!」

 

「この光は、間違いない!」

 

 一同が目を見張る中、光が収まればそこにはクワッスの時に比べて大きい眉毛が追加され、キリッとした凛々しい顔立ちで全体的にバレエダンサーを彷彿とさせる姿となり、特徴的な頭髪は大きく後ろに回ったシニヨン・スタイルへ変化している。

 サトシがポケモン図鑑アプリを開けば、スマホロトムの電子音が抱いた確信を確定へと導いた。

 

『ウェルカモ、レッスンポケモン。クワッスの進化系。ひたすらに浅瀬を走り込んで足腰を鍛え、仲間同士で足技の華麗さを競い合う。』

 

「クワッスが…ウェルカモに進化した!」

 

 サトシが目を輝かせたのも束の間、そのウェルカモはクワッスの時に咆哮したので体力の残りを使い切っていた。

 

「くわ…!」

 

「ウェルカモ!」

 

 その場で倒れ込むウェルカモに審判役が駆け寄りチェックすれば…

 

「う!ウェルカモも戦闘不能!」

 

 こちらもダウンのジャッジを下した。

 

 

 

サトシ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

マスタード、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

 

 

「形的には両者ダブルノックアウトか。」

 

 ジャラランガをボールに戻すマスタードに続き、サトシも倒れたウェルカモを回収するのを見ながらツルギが一言。

 

「お師匠様の残り2体と言ったら、アレよね。」

 

 アサヒも腕を組み、豊かな膨らみを強調した形でフィールドを注視する。2人の知るマスタードにとって、ジャラランガはあくまで尖兵に過ぎないのだ。

 

 

 

「流石に小兵の扱いに長けておるわい。」

 

 ダンデもこうやって戦場をかき回されて敗れたのだろう、そうマスタードは直感する。そして、次に続くポケモンの入るボールを手に取った。

 

「いざ見せん!連撃の奥義!!」

 

 マスタードが投げ込むハイパーボール、中から飛び出したのはウーラオス、その構えから連撃の型である。

 アサヒのそれと違うのは、放つオーラと、レベルだ。

 

「ビリビリ来るぜ…!」

 

 ウーラオスの戦闘力の高さは3年前から知ってはいる。こうして直接対決に至るのは初めてであり、サトシからしたら願ってもない話だ。

 

「よーし!キミに決めたッ!!」

 

 ウェルカモのガッツを引き継ぎ、サトシの2番手として投げ込まれたボールより姿を現したのは…

 

「かんび!」

 

 いねむりポケモンカビゴンだ。

 

 

「カビゴン、か…流石にサトシも本気だね。」

 

 シゲルからすれば忘れもしない1体である。3年前、ジョウトリーグでの直接対決において、リザードンに次いで盤面を崩壊へ追い込んできたサトシのカビゴン…その突破力の高さを肌身で感じていたからだ。

 

 

 

「見た目通りにッ!」

 

 ウーラオスがカビゴンの懐へ飛び込む。引き締まった鎧の如きウーラオスとは対照的に、丸々と大きなカビゴンの鈍重さから先手を取られるのは明らかな話であったが、それ以上にマスタードがダーティーな一手を打った。

 

「すいりゅうれんだッ!!」

 

「べぁくまぁッ!!」

 

 ウーラオスの拳打がカビゴンの正中線に3発、寸分狂いなく叩き込まれる。いずれも急所に当てた連撃だ。

 

 

 

「マスタードさん、今コール前に仕掛けたっしょ!?」

 

「アローラチームの人たちは、抗議する気はないみたいだけど…。」

 

 ゴウがマスタードの悪辣なやり口に声を大にする。

 恐る恐るトキオがチーム<マナーロ>陣営の方を見れば、誰もこの程度のフライングで騒ぎ立てることがないので一流のトレーナーの肝の据わりように圧倒されてしまう。

 当のサトシが全く気にも留めていない以上、チームメンバーがいちいち口を挟むこともない、と言うのが仲間たちの総意であった。

 

 

「やり返すんだカビゴン、メガトンパンチ!」

 

「がんび!!」

 

 正中線にすいりゅうれんだを叩き込まれたカビゴンは、返す刀とばかりに右の拳を振り抜く。

 

「受け流せ、ウーラオス!」

 

ガッ

 

 その剛拳を、ウーラオスは膝を上げ、左足裏で受け止める。

 

「ぴかぁ…!」

 

「くッ…!」

 

 

 

 ここでようやくチーム<マナーロ>の面々は、にわかに旗色の悪さを感じ取る。

 

「サトシ!カビゴンの動きはウーラオスに見切られてしまってるぞ!!」

 

 カキが暗にカビゴンの交代を促す。

 いかに鍛え抜かれたポケモン同士のパンチの応酬とはいえ、ウーラオスのような厳密に定められた型を極めた拳と、カビゴンのようにきままに振るう拳とでは精度は雲泥の差なのだ。

 

「アレではいくら振り回してみても当たらぬわい。」

 

 ハプウも苦々しく呟く。カビゴンが振り抜く右腕の勢いに合わせ、ウーラオスは空中へ舞い上がり、一回転。

 

 

 

「べぁ…!」

 

 何事もなく着地…することが出来なかった。グラリ、と190cm、105kgの引き締められたボディの構えが崩れる。

 

「な、なんと…!?」

 

 マスタードは、一同は驚愕するよりなかった。

 ウーラオスの左足が、ダメージ過多でイカれてしまっている…カビゴンの剛力を受け流したはずが、結果としてコレであった。

 

「今だ!いけ、カビゴン!!」

 

「かんび〜!!」

 

「べ、ああう…!」

 

 千載一遇の好機到来。カビゴンはそのでっぷりとしたボディとは裏腹に見事な跳躍を見せた。

 左足を破壊されたウーラオスはそれでもどうにか立ち上がる。

 

「撃ち落とせウーラオス!インファイトッ!!」

 

「べぁべぁべぁべぁべぁ!!」

 

 迫るカビゴンの巨体にウーラオスのラッシュが突き刺さるも、その落下を凌ぐには届かない。

 

「(片足を壊され、大地を踏み抜けぬでは手打ちになるもやむなしかッ…!)」

 

「のしかかり攻撃だーッ!!」

 

 さりとて回避運動など尚のことできるはずもない。

 

「かびぃ〜ん!!」

 

ドッシィィィン…!!

 

 飛びかかったカビゴンがウーラオスを押し倒す。

 

「べぁ、ぐがぁ…!」

 

 460kgという自身の4倍近くの体重に覆い被さられたウーラオスがもがくも、やがてその抵抗が弱まってゆく。

 いくらか鍛え抜かれた拳がカビゴンの顔にもヒットしていたが、ついにその振り回される拳も地に付いた。

 

「もういいぞカビゴン!」

 

「かびっ。」

 

 のそり、カビゴンは体を起こしのっしのっしとニュートラルポジションへ引き上げてゆく。

 押し潰されたウーラオスは、白目を剥いて倒れていた。体力以上にカビゴンの脂肪に圧迫されたことによる窒息ダウンだった。

 

「ウーラオス、戦闘不能!カビゴンの勝ち!」

 

 

 

サトシ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

マスタード、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

「なんと規格外の剛力よ…!」

 

「俺のカビゴンはゲットする前から凄い奴でしたからね。」

 

 ウーラオスを戻しながらマスタードは唸るより他にない。

 賞賛されてはカビゴンも鼻を擦る仕草で照れ隠し。野生の頃よりオレンジ諸島を泳ぎ渡る体力と、あちこちの食糧を食い荒らして回る活力を兼ね備えたそのパワーは、ピカチュウを始めとしたサトシのエース級たちにも匹敵どころかむしろ上回る勢いといえよう。

 その反面として、パフォーマンスを維持するために洒落にならない食事量と睡眠量というデメリットもあるのだが…。

 

 

 

「師範があと1体、か。」

 

 このナンテの呟きの意図は、デントには分かりかねた。ただ、その視線からこの先の展望を容易く捉えてはいないのは察する。

 

 

 

「あの人は追い込まれてからが本番だ。」

 

 相も変わらずツルギの見識はシンプルな一言に纏められている。マスタードがこのまま終わるとは思えない、そういう確信があった。

 

「でも、リズムに乗ったサトシも凄いはず。」

 

 ゴウが返してきたのに、ツルギは黙って相槌を打つ。ゴウは、ツルギが同調して来たのが少し意外だった。

 

 

 

「なるほど…ダンデが押し負ける訳よな。」

 

 ここまでの流れで、マスタードはサトシのポケモントレーナーとしての性質をおおよそ掴んだ。

 ツボにハマれば止まらない、ダンデと同じタイプ…それでいて、粘りの底力も有している。その中に、ほんの少しの危うさも孕んでいるのはご愛嬌というところか。

 

「この歳で挑戦者か…。」

 

 その実感が、心地よい。

 

「血沸く血沸く♪」

 

 呟くマスタードは、道着を脱ぎ去り、鍛え抜いた鋼の肉体を晒す。

 

「ふんぬうううううッ!!」

 

モリモリモリモリモリィィィィィッ!!

 

 

 

「キャー!ダーリン素敵〜!」

 

 マスタードが自身のトレーナー・マッスルを解放したので年甲斐も忘れてミツバが狂気する。在りし日の、心奪われた夫の、勝負に一意専心する姿にときめいていた。

 

 

 

「このマスタード、ポケモントレーナーとして七十余年…幾多のつわものたちとやり合うてきた。マサラタウンのサトシよ!認めよう!!お主こそ、我が人生にて相見えし最強のトレーナーとな!!」

 

「マスタードさん…。」

 

「ぴかぴ!」

 

 『浮かれるなよ』と気を引き締めるよう促すピカチュウに、サトシは首肯して返す。バトルはまだ終わっていないのだ。

 

「で、あるからこそ!ワシは是が非でもお主に勝ちとうなったぞ!これより先はこのマスタード、真に全身全霊の姿と心得よ!!」

 

 言い終えるや否やマスタードはハイパーボールを両手で左右から押さえ込むように力を注ぎ込んでゆく。

 するとどうだ?ボールはみるみるうちに肥大化してゆく。ダイマックスバンドからのエネルギーに、自身の闘気も加えて繰り出すポケモンへ送り込んでいた。

 

「俺たちもやるぞカビゴン!」

 

「かびぃ!」

 

 サトシもカビゴンと共に奮起する。

 無意識に帽子のツバを後ろへと回した。こちらも本気モードだ。

 

「巨大な拳となりて、目前の敵を挫け!!」

 

 マスタードがダイマックスを投げ込めば、降臨せしは『怒りの化身』…

 

「べあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 白と赤のカラーリングを現し、ヨロイ島全体に咆哮を轟かせる一撃の型のウーラオス、キョダイマックスの姿だ。

 

 

 

「おぉ!見よ!天が!!」

 

 ハプウが空を指差す。

 サトシとマスタード、両者の中央に位置する所から雲が綺麗に寸断されている。

 

「雲が…!」

 

「いや…!!!天が割れた!!!」

 

 

 

 サトシとマスタードが、カビゴンとウーラオスが、それぞれ視線をぶつけ合う。

 天を割る巨頭の決戦は、ここからが本番だ。

 




 『オルオル』
 25歳。ポケベース選手。
 コイキングス所属でパートナーのカビゴンと一緒にプロの世界で活躍している。
 3年前、サトシたちの通うポケモンスクールに講師としてやって来たこともあるんだ。
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