3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
バトルがしたくてたまらないサトシは、4人でのダブルバトルを提案するのだった…。
サクラギ・コハルとサトシのファーストコンタクトはお世辞にも印象のよろしいものではなかった、というか、割と最悪のそれであった。
「わぱ!わぱ!」
「ワンパチ、ただいま。うっ…!」
3年前、学校から帰宅したコハルが見たのは玄関前に倒れる黒焦げの少年、というか…不審者。
状況を見るに、どうやら絡み方がよろしくなかったのか、ワンパチの不興を買ったらしい。
まぁいくらワンパチを怒らせたからと言って、電撃を喰らわせられて死ぬほどでもないだろう、何よりわざわざ関わり合いになりたくもない…。
そんな思いから、コハルは不審者を避けて通り抜けた。
そのおかしな不審者、もとい少年、サトシの一体どこが父であるサクラギ博士の琴線にどう触れたのかはその当時のコハルには定かではなかった。
後になってアローラ地方のリーグチャンピオンであると言う話を聞き、そのネームバリューによる宣伝狙いでもしてたのか?そう邪推してもみたがすぐにそれは立ち消えた。
ワンパチとの一件でも見られた天衣無縫たる振る舞いがいきすぎてむしろ年不相応な、ぶっちゃけガキっぽさ丸出しなはしゃぎぶりを見せるサトシにチャンピオンの風格はまるで見えなかった。
なによりそんな腹黒い狙いを考えつくような父ならば、ワンパチから見て家族においての扱いを最下層に放り込まれるような情けないことになりはしないだろう。
良くも悪くも大らかな人柄こそが父の拠って立つところなのだから。
そんないつの間にか父の研究所に転がり込んでいたサトシが、これまたどうやって父を上手いこと説得したのか、いや、情け深さがいきすぎてまんまと弁論にて丸め込まれたのか…?
ともかく、同じくリサーチフェローに任命されていた幼馴染の少年ゴウとバディを組んで各地を飛び回っているのを側から見ていたのが関係の始まりであった。
そこからひょんなことにより2人の調査に幾度か同行をして、ポケモンの世界の広さに触れ始め、イーブイと言うかけがえのないパートナーと出会えた。
そのきっかけをくれたのが当時はこのアローラチャンピオンでしかなかったのが、今やバトル世界一のワールドチャンピオンにまで上り詰めたサトシであるということには感謝してもし尽くせない。
だからこそ、コハルにとってこのタッグは話が違うのだ。
「ねぇサトシ、本当に私じゃなきゃダメ?ほら、こんなにいっぱい人いるんだし、私よりバトル上手いトレーナーだっていくらでも…。」
コハルが人混みの中にサトシの視線をそれとなく促そうとするもそれは通らない。
サトシはジッとただ一点、コハルをのみ見ている。
「コハルはバトルしたくたいのか?イーブイはやる気満々だけど。」
「ぶぃ!ぶぃ!ぶぃぶぃぶぃ〜?」
ダブルバトルとはいえ、お互いに出会ってすぐの即席タッグだ。
軽い作戦タイムと称してプランを練り合おう、そんな話から互いに背を向け合っている。
その最中、イーブイはすでにやる気満々、ハヅキとナオシに向けオラオラかかってこいよ!ビビッてんのか、おーん?とばかりに時折尻を向け、尻尾を振って見せ挑発を繰り返している。
それが体の大きくてイカついいかにも戦闘特化です、というようなポケモンなら一触即発なことにもなろうものではあるが、バトル向けよりはどちらかといえばペット向けの需要が高いイーブイなので側から見ればただただ可愛いだけであった。特に問題になることもない。
「ぴかぴか。」
ピカチュウがまぁまぁ、とイーブイを宥めているのを見てバシャーモは苦笑し、コロトックは口元を押さえながら上品に微笑んでいる。
「それは…でも、ダブルバトルなんだし、サトシがポケモン2体出すのもアリでしょ?」
言ってる自分でも明らかに苦し紛れ丸出しな代案をコハルはどうにか捻り出す。
ポケモンバトル自体したくない、というわけではない。
この3年間、平日は学校に行き、休日に調査へ出向く生活をしていく中で血の気の多い野生のポケモンや、町で会ったトレーナーとバトルを何回かしてきた。
勝ったり負けたりを繰り返し、その度にイーブイといろんなことを学び、いろんな感情を分かち合ってきた。
コハルに多くの経験を、ポケモンバトルはもたらしてくれたのだ。であるからこそ、自分がどれほどのものかをコハルはコハルなりに客観視できていた。
それ故に、そんな世界でトップに立つサトシの名前に、自分が足を引っ張り泥を塗るようなことになるのがどうしても忍びなかったのだ。
「うーん、それもいいんだけどさ。やっぱダブルバトルって2人で組んでやる方が楽しいじゃん!」
内心分かってた気もする、あっさりとしたサトシからの代案の却下。
屈託のない笑顔をサトシがコハルに向ける。
そこにはなんの打算も、保身もない。
そんな天真爛漫に笑い飛ばされてしまえばコハルは、こちらが色々と気をつかってヤキモキしているというのがだんだんと馬鹿らしくなってきた。
イーブイのコンディションを理由にしたくともやる気満々ときている。こうなってはもうやぶれかぶれだ。
「もー…私ちゃんと言ったからね。足引っ張るかもって。」
「大丈夫だって!俺に任せとけ!」
再び根拠のない自信に溢れながら、サトシは自分の胸を叩いた。本当にその自信はどこから湧いてくるのだろう…。
コハルは嘆息するしか出来なかった。
「サトシくんの相方の彼女は未知数だけど油断は禁物。それは大前提として、そちらはダブルバトルのセオリーは知ってる感じかい?」
「人並み程度には。ダブルバトルにおいて最も肝要なのはいかに数的有利を取るか、ということ…でしたかね。」
「OK、それさえ分かってくれてるなら問題はないな!頼んだぜナオシさん!」
「えぇ、こちらこそ。信頼していますよハヅキくん。」
ハヅキにナオシは竪琴をポロリン、と鳴らして見せながら返す。
もう片方の即席タッグは、ダブルバトルの根幹を軽く確認してから早々に相談を切り上げている。
この辺りはポケモンリーグを知る経験豊富なトレーナー同士、実戦の流れを読み取ってその場その場で連携を合わせるつもりであろう。
細々とプランを練ることもない。両者の佇まいには余裕があった。その視線の先には、因縁あるサトシがロックオンされていたのは言うまでもない…。
『ゴッドバード炸裂ーッ!メガリザードンこれは耐えきれない、ダウンだーッ!!試合終了ォォォォォ!!』
船上のポケモンバトルがダブルバトルと相なったすぐ後の頃に時は遡る。
船内に用意された客室にて、先のPWCS開幕戦の試合記録がマウスのクリック音とともに何回も、バラバラなタイミングで止められたり巻き戻されたりをしながら再生されている。
マウスを動かしてその操作を繰り返す男は、その度にタブレットに文字を打ち込み、または図式を書き込む。
「トレーナーからピジョットへ指示が伝わるのがおおよそ0.6秒、ピジョットがゴッドバードのエネルギーチャージを開始し、本来ならば十数秒でフルパワーになるところだいたい5秒ほどチャージしたエネルギーを使ってフレアドライブを防いでいる、と。」
合間に別ウインドウから検索をかけ、情報を照らし合わせている。
短い黒髪に橙色の眼鏡をかけ、スーツは首元を緩めたラフな出で立ちで、視線がノートパソコンの液晶とタブレットを行き来するこの男の名はナンテ。
バトルやコンテスト、様々なポケモントレーナーたちの晴れ舞台に顔を出し、独自のコラムを打ち出し活動しているポケモン評論家だ。
その仕事の一環として、サトシとアランの試合の放送席にも招かれ、解説を担当していた。
と、言ってもそれはこの男にとって食っていくための日銭を稼ぐ目的の、仮初の立場に過ぎない。
「おい聞いたか?ワールドチャンピオンがバトルするんだって!」
「アローラチャンピオンのサトシが!?この船乗ってたの!?」
廊下より聞こえるたんぱんこぞうの足音と声。
「連れ歩いているのは、片方がマンキー、もう片方はガラルのジグザグマ。」
ナンテは視点を液晶から動かしてはいない。
部屋の外の廊下を通り過ぎてゆくトレーナーから感じる気配、足元の呼吸と歩行感覚から見抜いていた。
「マンキーは忙しない歩き方からせっかちな性格かな。技はレベル帯からにらみつける、きあいだめ、みだれひっかきにけたぐり。ジグザグマは逆に主人の斜め後ろをついて歩くおっとりさんで技はまだ4つ揃ってない。トレーナーともども駆け出しさん、かな。」
タブレット用のタッチペンを指先でくるくると弄ぶ。明らかに部屋の外からした会話の中身によって気が散ってしまっていた。
「ワールドチャンピオンのバトル、か…。」
主が独りごちるを目ざとく認め、ベッドで寝転がっていたのがコロコロとそのまま床に降り、椅子に座るナンテの側まで近寄るのは眼鏡と同じ橙の電気鼠…。
「らいらいら。」
「そうだね。せっかくだし気分転換がてら散歩にでも行きますか。」
「らいーちゅ。」
そう、ライチュウに返せばナンテは部屋を出る。
先程まで腰掛けていた部屋に備え付けの椅子にかけてあるジャケットの胸ポケットからポロリと落ちるナンテのトレーナーカード。
床にペタリ、張り付くように落ちた天井を向いている側の面には、金のシンボルが7つ、爛々と輝いていた。
『ナオシ』
22歳。全国各地を回る吟遊詩人であり、トレーナーとしてもコーディネーターとしても高いスキルを持つ。
3年前、地方予選ではサトシと、グランドフェスティバルではサトシの仲間のヒカリと鎬を削り合った仲だ。
エースポケモンは相棒であり、共に演奏を奏でるコロトック。