3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
マスター道場を後にするチーム<マナーロ>はマスタードたち道場のみんなに大会本番での健闘を約束するのだった…。
月が変わって8月1日。場所はガラル地方シュートシティ。ジムチャレンジの終点であり、ガラルのポケモントレーナーたち憧れの地だ。
その象徴たるシュートスタジアムには、6万人近くの収容人数一杯の観客が席を埋めていた。ナイター中継のためのヘリも複数台上空を飛んでいる。
「全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様!本日はポケモンナショナルチームトーナメント…通称PNTTのオープニングマッチ兼第1回戦!チーム<マナーロ>vsチーム<シュート>の試合模様をお伝え致します!!こちら、シュートスタジアム放送席には実況として私、ジッキョー!解説兼素敵なゲストとして、このお二方に来て頂きました!」
「こんばんは。ラテラルタウンのかくとうジムリーダー、サイトウです。本日はよろしくお願いします。」
「こ、こんばんは…同じく、ゴーストジムを担当してます、お、オニオンです。よろしく…お願いします…。」
ジッキョーに振られた灰色の髪に褐色肌の少女は冷静かつハキハキと、ちょこんと癖っ毛が目立つ黒髪で仮面を被った少年は若干どもり、オドオドしながら自己紹介をする。
両者共に自分の受け持つジム公式のユニフォーム姿で放送席に座っていた。
「本日はよろしくお願いします!お二方は、ガラルリーグでも指折りの強豪ジムリーダーかつ同じラテラルタウンにて、メジャークラスの座をかけて日々競い合っている間柄と聞きます。時にサイトウさんは、その…先日のポケッターによる発表が参加辞退と関係がある感じでしょうか?」
「はい。ガラル代表の選考会の日はちょうど彼の実家へ挨拶に伺ってました。」
去る7月31日の正午、SNSにて挙げられた報告はガラル中を駆け巡り、様々な感情や議論を巻き起こした。
それが、ジムリーダーサイトウの婚約発表である。
「そうでしたか〜おめでとうございます!何か、お相手の方からプレゼントとかはあったんですか?」
「今は仕事中なのでユニフォームを着ていてつけていませんが、18歳の誕生祝いと、プロポーズとして婚約指輪を。」
仮面の向こうで誰にも分からないが、ギョッとした顔で隣のサイトウを見るのはオニオンだ。
3年前、トレーナーデビューと同時にジムを任された期待の新鋭…その鼻っ面を散々に打ち砕いた張本人が、無表情ながらほのかに頬を染めつつトークをこなす様はカルチャーショックであったのだ。
「おめでとう、ございます。」
「ありがとうございます。」
オニオンが祝辞を送り、互いに小さく一礼し合う。
彼の名誉のために言うならば、決してサイトウに特別な感情を抱いていた訳ではない。ジムリーダーの情報網から、彼女に決まったお相手がいるのは公然の事実として知っていたし、どこまでいっても同じ町のジムリーダー同士、ジッキョーの言う通りメジャーの座を賭けて争い合う仲でしかない。言うなれば、商売敵と認識する以上の感情は持ち得ようがないのだ。
オニオンの中には、幸せ絶頂の彼女から公認ジムリーダーの座を奪い取ることへのより高まるモチベーションが渦巻くのみであった。
「さて、今回の試合、オニオンさんはどう見ておりますでしょうか?」
「は、はい。強力なZワザ発祥の地と言われてるアローラ代表チームが、無限に等しいタフネスを誇るガラルの精鋭たちの体力をいかに刈り取るか、通じるかどうか。ここが、焦点かと…。」
「Zワザの"矛"…いや、"剣"と、ダイマックスの"盾"がぶつかり合い、どちらが残るか、か。」
サイトウは、素直にオニオンの見識に頷いていた。自分に及ばない実力なれど、彼のことは一定量評価しているのだ。
放送席がオープニングトークをする中、シュートスタジアムの控え室ではチーム<マナーロ>の面々は暑い季節ということでスーツを肩にかけた姿のナンテによるミーティングの真っ最中であった。
「なんといってもガラル地方はダイマックスの本場、その代表チームと言えばそれこそダイマックスの扱いに関しては他の追随を許さないでしょう。と、なれば対応策としてまず考えられるのは小回りを活かした機動戦です。まぁ、ド迫力ファイトに真正面から応じるのも一興ですがね。」
ホワイトボードいっぱいに書き込んだチーム<シュート>のメンバーの細かなデータを伸縮式のハンドポインターで話す内容ごとに指差しながら、選手たちは都度手元のタブレットロトムに記録されている詳細情報も合わせて頭に叩き込む…ミーティング独特の堅苦しい空気もあり、若干睡魔に負けかけているサトシとハウに関しては、ナンテはあえて捨て置いている。
「続けて、オーダー編成の話としましては、対応力の高いシゲルくんとセイヨさんをダブルバトル2、今大会通して黄金ペアとして固定運用を念頭に置いたハプウさん、スイレンさんのダブルバトル1。シングルバトル3は…ハッキリ言えば3連敗だけはしたくないっていう自分のエゴですな。」
苦笑して見せるナンテにクスリ、と釣られてスイレンが笑う。
こういったキッチリとしているミーティングをしながらも時折本音を開けっぴろげにする話術が、少なからずメンバーの緊張を解きほぐす役割を果たしていた。
「とにかく我々はチームとしては突貫ながら、ポニ島からヨロイ島での合宿で個人、チーム、共に大きくレベルアップしています。その総合力は、決してガラル代表に見劣りはしてません。チャンピオン!」
「は、はいッ!」
ナンテは危うく居眠り寸前であったサトシに鋭く声をかける。
隣のハウも釣られて一緒に肩をビクン!と震わせた。
「試合前に一言、お願いします。」
悪戯っぽく笑って見せながらナンテは締めの言葉を振る。
サトシは居眠りしかけていた照れから頭を掻きながら右拳を突き出した。
「俺たちの目標はもちろん優勝だ!ゼンリョクで戦おう!」
「チーム<マナーロ>、"Winning"!!」
「「「「「ゲットだぜ!!」」」」」
チームメンバーがサトシと拳を突き合わせ、シゲルのスタートで掛け声を重ねた。
「チーム<マナーロ>の皆さん!入場お願いします!」
そこにちょうどよく大会スタッフが顔を出す。
「よし、行こう!行こうぜみんな!!」
「ぴっぴかちゅう!!」
ピカチュウが肩に飛び乗るサトシを先頭に、7人はおう!と答えて一緒に控え室を出る。
その最後尾にナンテ以下バックアップチームのタケシとデントが続いた。
「さぁ、いよいよ始まります!全国各地の精鋭たちがそれぞれの地方の誇りを賭け、"最強地方"の座を争う夢の舞台PNTT!!まずは、遠くからはるばるやってきました、4つの島の連合地方アローラの看板を背負って立つ個性の集団!チーム<マナーロ>!!」
ウオオオオオオオ!!
「リーグチャンピオンにしてPWCS優勝の王者サトシを先頭に、四天王枠としてしまクイーンハプウ!アローラ地方のポケモンリーグは少々特殊でして、ジムリーダーに相当するポジションがないため残り6人のメンバーはいずれも自由枠、在野の人材をかき集めての参戦となっております!」
「それでもあのオーキド博士のお孫さんや、チャンピオンリーグ出場経験者と、経歴で言えば十分見劣りはしませんね。」
電光掲示板に映るチーム<マナーロ>メンバーの顔写真の中で、サイトウが視線を向けるのは直接対決を幾度かしたことのあるサトシだ。
「そんな個性派チームを纏め上げるのはポケモン評論家として活動するナンテ監督!急病により離脱を余儀なくされたククイ博士より指揮を引き継いでここまで乗り込んで来ました!」
「流石はサトシのご母堂じゃわい。大舞台によく映えるユニフォームよな。」
「いやぁ、それほどでも〜。」
「きみが褒められてる訳じゃあないぞサトシ。」
二つ結びを解き、作業帽子を脱いだことで黒のロングヘアを揺らしながら歩くハプウにサトシが照れくさそうにすれば、シゲルがすかさず嗜める。
チーム<マナーロ>のメンバー8人は、ミーティングの時より普段着ではなく、PNTT本番のためにハナコが拵えたお揃いのユニフォームを身に纏い、スタジアム入場を果たした。太陽をイメージした刺繍を左胸に、月をイメージした刺繍をハーフパンツ左ズボンに縫い込んだ上下真っ白のスタイルをお披露目しながらフィールド中央に整列する。
オオオオオオオオッ!!
声援が地鳴りとして伝わる。同時に、サトシたちとは反対側の入場口より、ビリビリとしたオーラ…その圧力が肌を刺してきた。
「お聞きくださいこの大歓声!!アローラ代表を迎え撃つべく姿を見せるは、まさしくダイマックスを極めし"巨神兵団(ティターンズ)"!!ガラル代表チーム<シュート>の入場ですッッッ!!」
イェェェェェェ!!
スマホロトムを飛び回らせて自撮りしながら先頭を歩くのはNo.1ジムリーダーのキバナ、そのすぐ後ろに続くのは四天王枠が存在しないため増設された枠を埋めるカブ青年と、モデルとしても名高いルリナだ。
「先頭集団"ドラゴンストーム"キバナ!"燃える男"若き熱血漢カブ!"レイジングウェイブ"ルリナと強力ジムリーダー陣の後に続く自由枠からの参加メンバーも超豪華です!」
「マ!リ!ィ!マ!リ!ィ!マ!リ!ィ!」
ギャビビビィィィーーーン!!
「スパイクジムのジムリーダー、ネズ氏の妹さんであるマリィ選手!アラベスクジムのジムリーダーであり、チーム<シュート>の指揮を務めるポプラ監督の愛弟子ビート選手!デビュー以降目覚ましい活躍を見せているチャンピオンダンデの弟ホップ選手!!」
「マリっち、めっちゃ愛されてんじゃん。」
「恥ずかしか…。」
最前列から歓声に負けない大音量のギターを派手にかき鳴らす白黒の髪の痩身の青年と、彼と同じユニフォーム姿で熱狂的に応援されまくりげんなりしているマリィの肩に肘を置いて戯れるのは、このチーム最大のサプライズ…。
「さらには先代ガラルチャンピオンピオニー氏の愛娘シャクヤ選手!チーム勝利のワイルドカードとなるか!!要注目ですッ!!」
「うおおおおおおお!!シャ、ク、ちゃあああああん!!」
「うわ、来てるし。」
「シャクヤも人んこと言えんね。」
同じく別の最前列から身を乗り出しながら声を張り上げる褐色髭面の大声援に、今度は自分がげんなりするハメとなるプラチナブロンドの髪の薄い褐色ギャルであった。
チーム<シュート>のメンバーは、それぞれに支給されたジムだったり、ジムチャレンジ用の共通ユニフォームを着用している。
そうして両チーム整列し正対する中、皆とっくに気付いてることを最初に口にしたのは、サトシだった。
「あの、ダンデさんは?」
「言ってる間に来るぜ。」
キバナが上空を指差せば、観客から、
「アレはなんだ!」
「鳥だ!」
「飛行機だ!!」
と声が響く。上空より飛来する影は、元よりパフォーマンスとして仔細を知っているガラル代表でなくとも、一部を除き薄々勘付く正体は…
「リザードンだぁぁぁ!!!」
橙色のボディが舞い降り、その背から軽やかに着地したのは、もちろんチャンピオンダンデ。
ウオオオオオオオ!!ウオオオオオオオ!!
渾身のリザードンポーズに、スタジアムのテンションがぶち上がる。
「噂に違わず、いいえ…噂以上の派手好き目立ちたがり屋さんだわね。」
お前がそれを言うのか?そんな視線をセイヨが味方メンバーから受ける中、
「「カックイイ〜〜!!」」
サトシとハウはダンデの入場パフォーマンスに目を輝かせるのだった。
「ようこそ、アローラ代表の諸君!今日は楽しい勝負をしようぜ。」
パフォーマンスを終え、爽やかにダンデがガラル代表の整列に合流する。
正対するサトシとは、お互い不敵な笑みをぶつけ合っていた。既にやる気満々である。
「さぁ!チャンピオンダンデの入場により両陣営の選手が揃い踏み!それぞれ向かい合う中、監督同士で互いのオーダー表を交換しています!」
「今日はよろしくお願いします。胸をお借りしますね。」
「それはお互い様だよ。」
大会ルールに則り、専用の用紙に記入されたオーダー表を挟んだクリップボードを手渡し合うナンテとポプラ。
相手から渡されたオーダーを見ては、ナンテは左眉をピクリと振るわせた。一方のポプラは全く表情に変化がない。
この辺りは、明確な人生経験の差といえよう。
「見ろ!両チームのオーダーだ!!」
スタジアムの電光掲示板にオーダーが表示されるのを観客が指差す。
皆それぞれに決定した対戦カードに唸った。その巨大モニターが映し出すこれからの対戦カードは、観る者それぞれに悲喜交々を抱かせる。
『ダブルバトル2
シゲル&セイヨvsダンデ&キバナ
ダブルバトル1
ハプウ&スイレンvsカブ&シャクヤ
シングルバトル3
サトシvsビート
シングルバトル2
ジェニーvsマリィ
シングルバトル1
ハウvsホップ』
しかし、誰がどんな思いを抱いたところで始まってしまった死闘の流れは止められはしないのだ、誰にも。
「両チーム、組み合わせが決まればそれぞれこの顔合わせの段階で健闘を誓い合う握手の後、いよいよアローラ代表チーム<マナーロ>vsガラル代表チーム<シュート>のPNTT公式戦、試合開始です!なお、大会の日程としましては本日同時刻に、シンオウ地方スズランスタジアムにてシンオウ代表チーム<スズラン>vsイッシュ代表チーム<ヒガキ>の一戦が、明後日8月3日に残り2試合が行われ、8月7日に本日の2試合の勝者同士が準決勝を戦います!大会の最新情報は、公式サイト及びポケチューブの公式チャンネルにて試合動画他、随時更新されていきますので是非チェックして下さい!!」
両チーム整列を解き、それぞれ来た道を戻り待機用のベンチへ引き下がる。ジッキョーの実況通り、ポケモンバトルNo.1地方の称号をかけた戦いが、ここから始まるのだ。
『サイトウ』
18歳。ラテラルタウンかくとうジムリーダー。
キャッチコピーは「ガラル空手の申し子」で、3年前はPWCSの舞台で何度もサトシと戦い、強敵として立ちはだかった。
エースポケモンはカイリキーでキョダイマックスの奥義も会得しているぞ。