3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ファイヤーの圧倒的なパワーに加えカブのサポートもあり、なすすべなく2人はやられてしまうのだった…。
パルデア地方オレンジアカデミー、その生徒寮。
生徒たちが寝床を置く部屋こそ男女別であるが、大画面のテレビが置かれたフリースペースに性別の垣根は存在していない。
「あぁ…アローラ代表、また負けちゃいました…。」
「流石に強いな。ガラル代表は。」
そんなフリースペースで試合を観戦する生徒たちの中に、グラジオとリーリエの兄妹もいた。チーム<マナーロ>の2連敗にリーリエは肩を落とすも、
「でもまだここから3連勝すれば大丈夫!それに次の試合は!」
「あぁ…まず間違いなく勝てるさ。ただ…。」
「"勝ち方の問題"…ですよね?グラジオくん。」
兄妹に合流するのは生徒会長でありパルデアリーグ新チャンピオンのオモダカだ。彼女の言にグラジオはただ首肯する。
偶然廊下で鉢合わせし、オモダカと共にフリースペースに足を運んだひばりは、バトルにあまり熱心でないが故に2人のやり取りの意味を理解しかねていた。
ドワオオオオオオオオ!!!
もう後がないチーム<マナーロ>ベンチから次に戦う選手がトレーナーサークルへ歩き出せば、会場が一気に沸き立つ。
その肩に乗る黄色い影は、もはやガラルにとっても彼のトレードマークと言えた。
「いいんですかナンテさん?何かしら言わなくて。」
「言えば何かが変わるんです?」
「変わりませんね。あいつは。」
シゲルは、この監督が崖っぷちに追い込まれたチームの状況などは関係なく、ただ目の前のバトルにゼンリョクを尽くす我が幼馴染のことを存外理解していることが意外だった。
そこからすぐに考えてみれば、この人も自分たちと同じマサラタウンの出であることを思い出していた。
「頼むぞーサトシー!」
「俺まで繋いでー!」
ベンチからカキとハウが声を張り、ネクストサークルのジェニーも視線を送る。
トレーナーサークルへ向かう途中のサトシは振り返り、元気にサムズアップして見せた。
「あぁ!俺に任しとけ!」
「ぴっかぁ!」
ピカチュウもサトシに倣い、威勢よく片手を上げた。
直立不動のビートの前でベンチに座ったまま傘をつき、ポプラは瞑目している。その瞼がゆっくり開かれると共に、言の葉が紡がれ始める。
「相手は遥か格上だ。余計な色気は出さず、目の前のことを着実に遂行していきな。せっかくワールドチャンピオンとやれるんだ。しっかり胸を借りて来るんだね。」
「はい。」
短く返事をしてからベンチから出る前に、ビートはポプラを振り返る。
「1つだけ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「この試合、僕が負けると思ってます?」
愛弟子の問いに、ポプラは笑みを向ける。
「負けるのを承知で選手を送り出す監督なんかいるものか。まして可愛い自分の弟子を。」
童話の嘘つき魔女そのものだ、そう思いながらビートはニヒルな笑みを返す。
「何が何でも勝って見せますよ。」
ハッキリそう告げてからトレーナーサークルへ向かう背番号908に、ポプラは目を細めた。
彼こそは、自分の全てを継ぐべき『ピンク』の申し子なのだ…。
「おや、あの子…。」
時は遡る。
所用でナックルシティを訪れたポプラは、途方に暮れる癖毛の白髪少年を見てビビビ!と心で感じ取った。
「いかにもピンクだね!真っ直ぐだし、捻くれてもいる…。
これは運命だ、そう直感する。
「いいねえ…そうでなければ人間の幅は出てこないよ。」
少年と目が合う。ポプラの双眸が、クワッ!と見開かれた。
「よし、ジムミッションだよ!」
「なっ!なっ!?」
驚く少年をよそにポプラは日傘をかなぐり捨て、全速力で駆け寄った。
「ピンク!」
「えっ。」
「ピンク!!」
「なにっ。」
「ピンク!!!」
「なんだぁっ。」
「おめでとう!」
「う あ あ あ あ あ あ あ あ あ。」
少年の名はビートで、孤児院育ちからブラックナイト騒動の主犯である先代ガラルリーグ委員長ローズ子飼いのトレーナーであり、その委員長がムゲンダイナ鎮圧と共に行方をくらまして寄る辺をなくしていた身の上だというのは、後から聞いたがどうでもいい話であった。
ようやっと見つけた原石を磨き上げることで頭がいっぱいになっていたからだ。ビートを見出した時点で齢88の老体だ。いつ終末が訪れたとしてもおかしな話ではない。いくら生涯現役と嘯いてみたところで自分に残された時間は決して多くはないのだ。それ故に、フェアリージムのマイナー落ちすら大した問題とは思わなかった。
巡り会えた『ピンクの塊』に、ただただ己の培ってきた70年の全てを叩き込むこと…ポプラはこの3年間それだけに注力していた。
時を戻そう。そんな愛弟子が、今世界一の男と対峙する。
この時ポプラは、チームの監督としてよりもビートの師として試合を見届けようとしている自分を隠せなかった。それを見て見ぬふりしてくれているガラル代表のメンバーたちの計らいに、彼女は首を垂らした。
「これよりシングルバトル3!チーム<マナーロ>チャンピオンサトシvsチーム<シュート>ビート選手の試合を行います!!試合方式は6C3D!各種システムの使用ルールはダブルバトルと同様の裁定です!!」
審判のコールを前にサトシとビートは視線をぶつけ合わせる。ピンク&ミント&ホワイトというファンシーな色使いが特徴的なユニフォームに身を包む少年の目が、サトシにはキラキラ輝いて見えた。
それでいて口元には見覚えのあるいけすかなさが同居している…。
「いい勝負にしようぜ!」
「勝負の良し悪しに関わらず勝つのは僕ですよ。そうでなければこの3年間、ピンクだのフェアリーだのみっちり叩き込まれた意味がない!」
気合いもよくノッた相手だ。サトシの口角が吊り上がる。
市販のスーパーボールを左手に構えるビートに合わせ、サトシもモンスターボールを右手に握る。
「ゆけッ!!」
「キミに決めたッ!!」
互いにボールをフィールドへ投げ込めば、先発の対面だ。
「げっこ!」
「サトシはゲッコウガだ!」
スイレンがベンチから身を乗り出す。
「ひひぃぃぃん!」
白いボディに青緑と薄紫色のパステルカラーのたてがみ。その毛先がカールしたボリューミーなロングヘアは童話の世界に出てくるようなファンタジックな印象を与えるいっかくポケモンギャロップが、相対するゲッコウガを見下ろす。
「さぁここから試合はシングルバトルに突入!ワールドチャンピオンサトシが連敗を止めるのか、それともビート選手が大番狂わせを起こし、チーム<シュート>の3連勝で試合を決めるのか!いっときたりとも目が離せませんッッッ!!」
「ゲッコウガは高いスピードの反面耐久力に難がある!ギャロップ!!」
「ひひひぃん!」
パカラッ!パカラッ!パカラッ!
ファンシーな見た目に反してキリリと鋭く、攻撃的な目つきのギャロップはビートの指示に了解、とばかりに嘶けば、螺旋状の角に激しい回転エネルギーを纏わせながら突撃を開始した。
「いきなりつのドリル…当たればそれでよし、かわせばその先に追撃の二者択一策か。」
呟くジェニーはもちろん、この場の皆は、この直後に驚愕させられる。
「ほぉ…。」
「よしッ!いいぞ…!」
すぐに事態を把握したダンデとナンテを除いては。
「ぶるるるぅ…!!」
意気揚々とゲッコウガに迫るギャロップが、間合いに入れることすらなく右横腹をフィールドに付け、倒れ伏したのだ。
「なッ…ギャロップ!?」
ビートが目を見開くのと同時に審判が慌ててポケモンチェックに入る。
倒れたギャロップの前面には、みずエネルギーの塊がいくつも突き刺さっていた。これは、みずしゅりけん…。
「ビデオ判定〜!!」
会場がにわかにザワつく中、すぐに審判がコールすれば、スタジアム上空から試合を記録していたドローンロトムが電光掲示板に映像を転送する。
そこには、つのドリルを発動し突撃するギャロップに対し、ゲッコウガは両掌からみずしゅりけんを確かに生成して連射していた。最新式のカメラでスローモーション撮影を駆使して、ようやく一連の流れを皆が把握した。
分かってみればなんてことはない。ゲッコウガがギャロップを瞬殺したのだ。
「ギャロップ、戦闘不能!ゲッコウガの勝ち!!」
サトシ、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。
ビート、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。
「あーッと!なんということだーッ!!ビート選手のギャロップの、いきなり一撃必殺を狙う奇襲作をチャンピオンサトシのゲッコウガ、目にも止まらぬ早業で斬って落としたーッ!!試合開始のコールから戦闘不能のコールまで僅か1.8秒の瞬殺劇ーーーッッッ!!」
「オニオンさん…見えましたか?」
「ま、全く、見えませんでした…。」
オニオンが横顔からサイトウの様子を窺えば、目を見開き驚愕の色を隠せないでいた。彼女もゲッコウガの挙動を視認出来ていなかったのだろう。
「いいぞ!いいぞッ!!流石チャンピオン!"勝ち方"を分かってる!!」
快哉するナンテは握り拳を振るわせながら立ち上がっている。2連敗を喫したのはもちろんのことながら、その試合内容もチーム<マナーロ>の旗色を悪くしていた。
ダブル2は最強タッグに貫禄負けをし、ダブル1はシャクヤというワイルドカードにより完封されている…おおよそ最悪と言っていいムードを払拭するには、これら2敗のショックを吹き飛ばすほどのインパクトがある大勝利でもってムードそのものをひっくり返すより他にないのだ。
「見ろ!サトシが!!」
カキが指差せば、その先のサトシの覇気がその体内に収まってゆく。
サトシだけではない、ゲッコウガのエネルギーもまたそこに一体化してゆくのを感知できたのは、百戦錬磨のポプラ監督に、チャンピオンダンデ、そしてナンテ…。
「いくぜー!ゲッコウガ、フルパワーだぁぁぁッ!!」
「げこぉ!!」
サトシとゲッコウガの体の動きがピタリ、シンクロする。
体の動きだけではない。精神や、五感全てがリンクしていく。
「こ、今度は何事です…!?」
ギャロップをボールに戻す中、吹き荒れ始める凄まじい水流のハリケーンがゲッコウガを包み込むのを目の当たりにするビートは、その驚愕の連続を前に最早精神が追いついていない。
「マリィ、アニキから聞いたことある…!ワールドチャンピオンのゲッコウガの特性は、げきりゅうでもへんげんじざいでもない特別なやつだって!!」
「俺も調べたことあるぞ!確かカロス地方にある忍者の里に伝わる、数百年前からの伝説!」
マリィが兄からの口伝を、ホップが知り得た知識をそれぞれ口走る。
「来るか…サトシゲッコウガ…!!」
ダンデは武者震いする。3年前、自分に見せてくることは終ぞなかったサトシとゲッコウガの奥の手…その噂の大パワーを直に味わいたいと欲するのは、まさしくポケモントレーナーの性であった。
「ビート…焦るんじゃあないよ。自分の中の"ピンク"を信じるんだ。」
口をついて出る言葉に発したポプラ自身気付いていない。それと同時に、可愛い愛弟子が一皮剥けるにこれ以上の舞台はない、とPNTT参加に収穫を得ていた。
『ビート』
13歳。アラベスクジム所属ジムトレーナー。
3年前のブラックナイト事件の後にポプラに拾われた少年。彼女からフェアリータイプの扱いをみっちり叩き込まれた。
相棒は元より得意であったエスパー戦術に、叩き込まれたピンク殺法を融合させて戦うブリムオンだ。キョダイマックスも出来るぞ。