3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
先鋒のガラルギャロップをゲッコウガが瞬く間に撃破し、サトシとゲッコウガが3年ぶりのシンクロを果たす…!
ボッシュウウウーーーッ…!!
ゲッコウガを中心に、包み込むような水流は天にも昇るほど打ち上がり、やがてそれらが全て水飛沫として飛散する。
そうして姿を見せるゲッコウガは、頭部中央が赤く変色し、背中には巨大な水の手裏剣をマウントした状態へとフォルムチェンジを果たしていた。
「げこッ。」
ゲッコウガからの視点が、サトシにも鮮明に伝わってくる。
古い伝承より伝わる『キズナ現象』…その力を体現したサトシゲッコウガだ。
「あーッと!こ、これはーッ!!間違いありません!!3年前のカロスリーグにて旋風を巻き起こした、サトシゲッコウガですッ!!長き空白期間の果てに、今再び!真剣勝負の舞台に姿を現しましたーーーッ!!」
ジッキョーが片足を機材に乗っけて実況に入る熱も上がりっぱなし。
サイトウとオニオンは、サトシゲッコウガの圧力にコメンテーターとしての役割も忘れて見入っていた。
「アレがサトシゲッコウガ…!」
「僕とバトルした時とは、根本からテイストが変わったね…!」
圧倒されるのは観客や相手だけではない。セイヨを始めとしたチームメンバーも目を奪われ、直近にゲッコウガと手合わせしたデントも自分が経験したのとは桁違いであると唸らされる。
「冗談じゃあない!」
ビートの脳内は既にサトシゲッコウガ打倒の方策をシュミレート出来ていた。と、なればあとは実行に移すのみ。
言葉とは裏腹に、理外の力により場の空気を支配された狼狽から、苦戦の苛立ちを口にしつつ逆転の為の立ち回りを冷静にシュミレートする…これも、ポプラから叩き込まれたトレーナーとしての在り方だ。
「くっち〜!!」
投げ込むボールから飛び出したのはあざむきポケモンクチート。小人を思わせる華奢な身体に、ポニーテール状の巨大な金属製のおおあごを備えるポケモンが、その戦法の定石といえる相手に背を向ける形でおおあごを付き合わせる形ではなく、クチート自身がサトシゲッコウガと相対すれば…
「かげぶんしん!」
ビートの号令に応え、無数のクチートがサトシゲッコウガを瞬く間に取り囲んだ。
「あーッと!ビート選手!クチートのかげぶんしんでサトシゲッコウガを完全包囲!完全に逃げ場を封じたぞーッ!!」
「これではゲッコウガの持ち味であるスピードが殺されてしまいますね。ただ…。」
「はい…サトシゲッコウガが、す、凄く落ち着いてます…。」
クチートのかげぶんしんが全方位を囲み、ジリジリとにじり寄る。その中心点に佇むゲッコウガは程よい脱力感の下瞑目していた。
ゲッコウガが視界を暗転させれば、サトシの視界も暗転する。サトシは今、『ゲッコウガになっている』のだ。
「いかにサトシゲッコウガといえど、この数の分身から本体を射抜くのは不可能!」
ビートの顎から汗が滴り落ちて…
ぴちゃり。
「いけーッ!!じゃれつくだーッ!!」
「くちちちぃ〜ッ!!」
地面に落着し、土と同化してゆくのと同時に総攻撃の指示を飛ばした。前後左右から無数のクチートが飛びかかる。
「げこッ…!」
ゲッコウガが開眼すれば、ゲッコウガの視界がサトシにも共有される。
「みずしゅりけんッ!!」
「くぉがぁ〜!!」
ズババババババ…!
背中にマウントされた手裏剣の形をするみずエネルギーの塊を投擲する、その破壊力もさることながら、何より見る者を驚かせたのはそのレスポンスだ。
完全に後手に回った形から、最良のタイミングでカウンターとして放たれたみずしゅりけんは、周囲を回転しながら飛び回り分身を霧散させてゆく中でついにクチート本体へ辿り着けば…
「くちィッ!?」
そのまま命中してみずエネルギーが飛散。ゲッコウガの背中には再度同じ手裏剣状のみずエネルギーが展開され直す中、みずしゅりけんの直撃を受けたクチートは空中で撃墜され、完全に目を回していた。
「クチート、戦闘不能!ゲッコウガの勝ち!!」
サトシ、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。
ビート、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。
「サトシゲッコウガ、強しッッッ!!かげぶんしんでの包囲戦術がものの見事に切り返されたクチート、あっという間にダウンです!!これでビート選手はあと1体戦闘不能にされたらそこで試合終了となります!!」
「ポケモンと感覚をシンクロさせてこそできる芸当…まさに究極の"後の先"ですな。」
しみじみとナンテは頷いている。
サトシゲッコウガの姿は、ある意味ではポケモントレーナーの目指す究極系ではないか?そんな仮説も浮かぶが今はこのままサトシが勝ち切ってくれることを祈るのみだ。
「クチート、よくやってくれました。」
ポケモンはベストを尽くしてくれた。それで届かないならば、育てた自分の落ち度に他ならない。そこは捻くれていても弁えているのがビートという少年である。
あっという間に追い込まれた。小手先が通じる相手でもない。となれば、残された手はたった一つ…。
「勝ったと思っているその余裕、吹き飛ばして見せましょう!」
「ビートのやつ、直接いく気だぞ!」
「後先考えて戦える相手じゃあないものね。」
ビートが投入キャンセルのテクニックを使用してから、手に持つボールが肥大化するのをホップが一番にリアクション。
ルリナとしても、自分が同じ状況に立たされたなら、やはり同様の手を取っただろうと腕を組んだまま首肯した。
問題は、それがどこまで通用するかだが…。
「ダイマックスで大きくするのはボディだけじゃあない!魂だ!魂のぶつかり合いで負けるなよビート!!」
ダンデが叫ぶ。酷く抽象的な話だが、正しくそれがダイマックスを極める奥義であるということを知るチーム<シュート>のメンバーは、ちゃちな突っ込みなど入れようはずがない。
「大いなるピンクを見せましょう!ブリムオン、キョダイマックスです!!」
肥大化したダイマックスボールを投げ込む様もフェアリージム流の優雅な所作だ。
ビートが決死の覚悟で投げ込むは、水色とピンクのロングヘアーで身体を覆ったセクシーな女魔法使いを連想させ、頭に被った帽子から伸びるおさげの触角が三又に分かれた威容はキョダイマックスしたせいじゃくポケモンブリムオン…進化前のおだやかポケモンミブリムの頃より苦楽を共にしたビートが最も信頼を寄せるパートナーだ。
『ビート選手、ここでブリムオンをキョダイマックスさせつつ投入だーッ!!快進撃を続けるサトシゲッコウガ相手に、成るか!?下剋上ッッッ!!』
場所はカロス地方7番道路に建てられた豪奢な建物。お城のような『バトルシャトー』と呼ばれる施設にて、カロス代表チーム<ミアレ>は試合を明日に控えての最終調整の真っ最中であった。
「もしかしたら、があるのがポケモンバトル…ではあるわよね。」
トレーニングを終え、髪の色と同じ上下真っ黒のスポーツウェア姿で汗を拭いながらスマホロトムから試合中継を見るカロスリーグチャンピオンカルネは、そう一言誰ともなく呟いていた。
3年前、活き活きとしたルーキーであるサトシと関わりを持ち、当時ピカチュウと並ぶエース格として君臨していたゲッコウガのことも当然知っていた。
キズナ現象の伝承も聞きかじり程度には把握しており、なんとなくという感覚からサトシゲッコウガの欠点を見抜いていたのは、彼女がチャンピオンにまで登り詰めた才覚故だろう。
『バトル中のポケモンと感覚をリンクさせれば、ポケモンが味わう全てをトレーナーは一緒に味わうことになる。』
かねてより導き出していたサトシゲッコウガのウィークポイントを心中で反芻しながらふとカルネは窓の向こうの庭園にあるバトルコート、その様子を眺める。
『バトルハウス』より出向してくれたシャトレーヌ4姉妹を相手に立ち回るアランの顔色は、チーム参加時から変わらず芳しくない。黄、青、赤、緑とそれぞれ豪奢なドレスで舞うように戦うシャトレーヌたちを前に明らかに精彩を欠いた様はバトルを見守っているシトロン、ユリーカの兄妹も不安がらせている。
アランは、完全に絶不調であった。
「流石はフェアリージムの秘蔵っ子さん…同じブリムオンでも完成度は段違いだ。」
ブリムオンは、シゲルもゲットしているポケモンだ。チーム合宿中、サトシ相手にも勝敗をつけない軽いスパーリングで見せたことがある。そのことが、シゲルに危惧を抱かせた。
「サトシ!僕のブリムオンと同じように思ってかかると痛い目を見るぞ!!」
元来お調子に乗りやすい性質であることを幼少期から知るシゲルだからこそのアドバイスに、バトル中の幼馴染の雄大な背中が頷いた。そんな気がした。
「ゲッコウガ、みずしゅりけん!」
「ここッ!」
ゲッコウガが飛び上がり、背中の手裏剣状のみずエネルギーを再度投擲する。
クチートの分身を薙ぎ払いつつ、本体を一撃で倒す威力を見せたみずしゅりけんは、ブリムオンの巨体を前にバチ!と命中こそすれ倒れはしなかった。流石はキョダイマックス…。
「り゛、む゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛…!」
「くッ…!」
キョダイマックスのタフさにサトシが舌を巻く中、ビートはビートで戦慄が上から塗り重ねられていく。確かにゲッコウガのみずしゅりけんをブリムオンは耐えて見せた。しかし、そのダメージが問題であった。
ブリムオンが削り取られた体力は、想像より遥かに大きいのだ。
「一撃で決めていくしかない…!!」
覚悟を決めた瞳の色が、ピンクに燃える。ポプラはサトシに感謝した。ビートは、間違いなくこの試合で大きくステップアップを果たすのだ。
「アラベスク!ピンク・フル・パワー!!」
ビートが全身から放つ、宣言通りピンク色の波導がブリムオンへ注がれてゆくのをサトシは見る。
波導使いだったのか?そんな疑問はすぐに立ち消える。それどころではなくなった。
「り゛む゛う゛う゛う゛!!」
ブリムオンの放つエネルギーが、より強大化したからだ。
「ブリムオンは、ミブリムの時から他者の感情エネルギーに敏感に反応するポケモンです。そこに、トレーナーからの闘志を感知させ、よりパワーを引き出させるとは…!」
ガラル最年長のジムリーダーとして、マスタードと熾烈なチャンピオン争いをしたポプラの奥義…その確かな継承をナンテは感じた。
強く確信する。ガラルのフェアリージムは、彼を中心にまた最盛の時代を迎えるだろうと。
「いけぇぇぇぇぇッ!!キョダイテンバツ!!」
「お゛お゛お゛お゛お゛ん゛!!」
ブリムオンが咆哮。体内のフェアリーエネルギーが巨大な星を象れば、ゲッコウガの頭上より落下してゆく。
逃げ場はない!サトシは直感した。この直感も、ゲッコウガとシンクロして得られたものだ。
「防いですぐに反撃だ!いあいぎりッ!!」
ゲッコウガは姿勢を低くし、手元にみずエネルギーの忍者刀を生成する。文字通り、居合斬り。
ゴオオオオオオオッ!!
「げこぉ…!」
「エネルギーの中核を見極める…!」
ここにきてサトシは、ゲッコウガとのシンクロに波導の技が良い相乗効果をもたらしていることに気付く。
少なくともカロス時代では迫るキョダイテンバツに対して、たとえサトシゲッコウガでもどうにもできなかったろう…。
「そこ、だぁぁぁぁぁッ!!」
「こがぁぁぁぁぁッ!!」
ズッパァァァァァ…!!
フェアリーエネルギーの星を、スパリと…斬る。
「な…!そ、そんなッ…!?」
ポプラ直伝のピンクの奥義を使ってまでの死力の一撃を、一刀の下に斬って落とされた。
その事実がビートの豊かな思考力をフリーズさせる。
「「サトシゲッコウガが跳んだッッ!!」」
放送席でサイトウとオニオンが同時に叫ぶ。
「は、はッ!?」
決死の必殺技をやり過ごされ、呆けたビートを誰も責められようはずはない。
しかし、それはそれとしてこの僅かな空白が致命的なのは間違いのない事実であった。
「つばめがえしッ!!」
「げぁ〜がぁ〜!!」
巨体を眼下に置くほどの大ジャンプから、自由落下に任せての忍者刀で、今度はブリムオンへ縦一文字に一刀両断。技術を見せた次は豪快な斬撃…たまらずブリムオンはダイマックスのエネルギーを飛散させた。
「ぶ、ブリムオン!」
キョダイマックスが解除され、ビートにとって見慣れた姿のブリムオンが横たわる。目を回しているのを審判が確認すれば、決着のコールを宣言した。
「ブリムオン、戦闘不能!ゲッコウガの勝ち!よって勝者、チーム<マナーロ>チャンピオンサトシ!!」
ドワオオオオオオオオ!オオオオオオオオ!!
「3タテです!ワールドチャンピオンが圧倒的な力の差を見せつけての完封勝利!!カロスリーグ以来のサトシゲッコウガも以前と同様、いいえ!それ以上の強さと凄みで持って完全復活ですッッッ!!」
サ!ト!シ!サ!ト!シ!サ!ト!シ!サ!ト!シ!サ!ト!シ!
元来ガラルのポケモン好きはバトルにうるさいところがある国民性だ。そんな彼らは地元チームを応援する気持ちが当然強いのだが、それ以上に強い存在に賞賛を惜しまない。
誰ともなく湧いたサトシコールに、当のサトシはベンチを振り返り、ピカチュウ、ゲッコウガと共に右腕を天に突き上げた。
「ジェニーさん!ハウ!俺に続け〜!!」
「うおおお〜!!」
チームリーダー渾身のパフォーマンスにハウは咆哮。入れ替わりですれ違うジェニーとサトシは、互いの握り拳をコツンとぶつけ合う。
チーム<マナーロ>は、サトシの快勝で確かに息を吹き返したのだ。
PNTT第1回戦 シングルバトル3
サトシvsビート
シングルバトル 6C3Dルール
サトシ ビート
ゲッコウガ◯ ガラルギャロップ●
ゲッコウガ◯ クチート●
ゲッコウガ◯ ブリムオン●
(キョダイマックス使用)
勝者 サトシ