3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 3年ぶりのサトシゲッコウガ、その冴えはサトシとゲッコウガ…双方のそれぞれの歩みにより更なる高みへ至っていた。
 ギャロップに続きクチート、さらにはキョダイマックスを発動させたブリムオンすら打ち破り、ビートを相手にサトシは3タテで勝利を決めるのだった。


PNTT Fighting! 第1回戦 シングルバトル2 ジェニーvsマリィ①

「ブリムオン、お疲れ様でした。」

 

 ブリムオンを労い、ボールに戻したビートは沈痛な面持ちでトレーナーサークルを出てベンチへ引っ込む。『何が何でも勝つ』…そんな大言壮語を吐いたくせに3タテを喰らっての完封負け。

 かろうじて俯かず踏みとどまるクセの強い白髪を掻き分けるように白い指がピン、と額を打つ。

 

「あ痛ッ!」

 

 ビートがマリィからのデコピン攻撃を予期できなかったのは、その視線が地面を向いていたからである。俯いてこそいなかったが、その瞳は悔しさに沈んでいたからだ。

 

「しょげるのは後。あたしたちはガラルのみんなの代表、でしょ。」

 

 普段から見る起伏に乏しい表情に反して黒と紫のツートンカラーで、ヘソ出しのタンクトップと破れタイツスタイルのあくジムユニフォームがぴっちりと体のラインを見せるマリィは、ビート同様ガラルのジムリーダー界を牽引していくことを嘱望された存在だ。

 同じ身の上として、デコピンで止めて発奮を促したのはマリィなりの優しさである。それが分からぬビートではない。

 

「は…ハハッ!今回の立ち回りでワールドチャンピオンの力は把握できました。次やる時は僕が勝って見せますとも。この試合だけはあなたに華を持たせて差し上げますよ。いや、もしかしたらホップかもしれませんがね。」

 

 普段の憎たらしい饒舌さが帰ってきたビートにマリィは口角を吊り上げながらこう返し、トレーナーサークルへ向かった。

 

「マリィが決めるに決まってんじゃん。」

 

 

 

「これよりPNTT第1回戦シングルバトル2!チーム<マナーロ>ジェニー選手vsチーム<シュート>マリィ選手の試合を行います!試合方式、各種システムルールはシングルバトル3と同じです!!」

 

 

 

「ジェニーさーん!俺まで繋いで〜!!」

 

 ネクストサークルに移動したハウが声援を送る。

 

「お疲れ様。どうだった?」

 

 試合を終え、ベンチに引っ込んだサトシにシゲルがタオルとスポーツドリンクを手渡す。

 言外に聞くのは試合の手応えではない。すれ違ったジェニーの様子だ。

 

「なんか、静かに燃えてるって感じ。」

 

「ぴかぴか〜。」

 

 サトシも言外にポケモンハンターJの記憶が戻っている、というような兆候は感じられないと返す。もしものことがあるならばたとえ試合を台無しにしてでも止めに入る必要がある。

 それは彼女をチームに引き入れた時から覚悟していたことだ。

 

 

 

「「いけッッ!!」」

 

「ぼまがあああああ!!」

 

「ずるっきんんん!!」

 

 ジェニーの先発ボーマンダが咆哮すれば、マリィの先発である真っ赤なモヒカン頭にダボついた皮を持つあくとうポケモンズルズキンがお返しとばかりに据わった目つきで睨みつけてガンを飛ばす。

 互いに特性『いかく』を発動させ、審判の開始コールと共に大きく初手を動かしたのは、ジェニーだった。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

「あれは、ゼンリョクポーズ!?」

 

「カプ・レヒレがジェニーさんにくれたんだ。俺との熱いバトルに応えてな。」

 

「カプ・レヒレが…。」

 

 どうやら抽選会のためにアローラを離れて以降のことらしい。サトシにカキは得意げに話す。

 3年前、カキもまたポニ島の守り神で、4つの島々に根ざすとちがみポケモンのうち1体のカプ・レヒレからZクリスタルを授かった1人であるのだ。ジェニーがZワザを習得する手引きは、彼がしたのだろう。

 

 

 

 鳥が翼を羽ばたかせるように両手を上から下に広げ、全身を屈ませてから反動を使い一気に体をピンと伸ばす。この時右手は胸の前、左手は体同様に真っ直ぐ伸ばせば、ジェニーの持つZリングからZパワーがボーマンダへ注ぎ込まれてゆく。

 

「コレが本場のZワザ!?」

 

「ぼま!!」

 

 膨大なひこうエネルギーを纏ったまま空高く翔けるボーマンダをマリィとズルズキンは見上げる。逃げも隠れも、しない。

 

「迎え撃つよズルズキン、もろはのずつきで!!」

 

「ずっきんきん!!」

 

 ズルズキンは頭部を岩のように硬質化させ、大地を踏み締める。

 

「翔けろボーマンダ!Zの風と共に!!」

 

「まぁぁぁぁぁッッッ!!」

 

「ファイナルダイブクラッシュ!!!」

 

 ボーマンダの狙いを定めた急降下に合わせてズルズキンも迎え撃つ。踏み締めた大地から思い切りジャンプし、文字通り頭からぶつかりにいく。

 

「いっけえええええ!!」

 

「おおおおおッ!!」

 

 両者空中激突。結果は…

 

 

 

「ずきゃ〜!!」

 

 

 

「ズルズキン、ふっとばされた!」

 

 ジッキョーが絶叫ながら正確に実況を進める。競り勝ったのはボーマンダであった。

 

 

 

 渾身のZワザを決め切り、ニュートラルポジションへ舞い戻る。

 背中から墜落するズルズキンは、完全に目を回していた。

 

「ズルズキン、戦闘不能!ボーマンダの勝ち!!」

 

「いいぞボーマンダ、よくやった!」

 

「ぼまぁ〜!」

 

 

 

ジェニー、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。

 

マリィ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

 

 

「ズルズキンダウンですッ!ジェニー選手の奇襲策!初手Zワザが決まったーッッ!!」

 

「ダブル2でチャンピオンがダイマックスを初手で発動したように、Zワザも同じ使い方が先述としてあるのですね。」

 

「普通は、奥の手は隠すものですけど、それが…ふとした時に、逆手に取って動ける材料にもなる、です…。」

 

 

 

「お疲れ、ズルズキン。」

 

 結果的には競り負けたが、もろはのずつきでボーマンダに多少なりともダメージは通した。今はそれを収穫としてマリィは呑み込む。

 最初にシステムを解禁した以上、温存した形のこちらに全体的な分はあると見た。

 

「モルペコッ!」

 

「戻れッ!」

 

「ぺこぉ?」

 

 2番手として繰り出されたモルペコは、ボーマンダが入れ替わりで回収されていくので思わず首を傾げる。

 マリィは、やはりボーマンダも負ったダメージは決して小さくないと確信する。そしてそれは、的中していた。

 

「(とりあえず1つダウンは奪ったが…。)」

 

 マリィが1体分のダウンと引き換えにダメージを優先してその結果に納得しているということは、ジェニーからすればボーマンダが受けたダメージは想定より大きいことになる。

 ポケモンチェンジによるサイクル戦が鍵を握るCD方式において、実質ボーマンダもダウンしたような盤面と見て差し支えなかった。

 

「(さりとて押さないわけにはいかないな。)」

 

 せっかく掴んだ試合のペースだ。コレを活かして勝ちに繋げるのがジェニーの仕事なのだ。

 そう、仕事…

 

『違うだろう?』

 

 脳裏に響く、『自分』の声にジェニーは一瞬目を見開く。すぐに首を振ってから、

 

「アリアドス!!」

 

「ありり。」

 

 2番手のアリアドスがモルペコと対峙する。今度はマリィが先手を取った。

 

「オーラぐるまッ!!」

 

「ぺこぺこぺこぺこぺこぉ!」

 

 先手を譲れば何をされるか分かったものではない…それもまた、マリィが得たジェニーへの知見であり、正しい。

 頬袋に溜め込んだエネルギーを回転車のように形成し、その中で車輪を回すようにモルペコが四つ足で疾走すれば、文字通りでんきエネルギーを纏ったオーラの車がアリアドスを撥ね飛ばした。

 

「ぐも…!」

 

 

 

「今度はマリィ選手が先制!モルペコのオーラぐるまがアリアドスに直撃ィィィッ!!」

 

「妙ですね。下手に避ければその先に追撃を受ける現代バトルにおいても、今のアリアドスの動きは完全に棒立ちに過ぎる。」

 

「あっ!も、モルペコを見て下さい…!」

 

 オニオンが異変に気付き、フィールドを指差せば、サイトウも驚愕する。

 

「あーッと、こ、これはーッ!?」

 

 

 

「も、ももも〜!!」

 

 モルペコがにめんポケモンという分類にあるのは、特性『はらぺこスイッチ』によるフォルム運用にある。

 アリアドスに手痛く一撃を加えたのは黄色を中心とした体色に、耳から腕にかけての模様がそれぞれ右は茶色、左は黒とそれぞれ異なっている『まんぷくもよう』、現在切り替わっている紫色の体色に耳から腕にかけては左右ともに黒、真っ赤で悪い目つきの『はらぺこもよう』の2種類だ。

 そのはらぺこもようのモルペコの四つ足が、地面に張り付く真っ白い粘着性の物体に絡め取られて身動きを封じられていた。それは、蜘蛛の糸だ。

 

「道理で、あっさり喰らったと思った…!」

 

 マリィは歯噛みしながら確信する。相対するこのジェニーという女、自分より上手の実力者だと。

 

 

 

「オーラぐるまで撥ねられた時の接触で、アリアドスはいとをはくでモルペコの足に糸を撃ち付けていたんだ。」

 

 ガラルベンチ側でこのさりげない後の先を一部始終視界に捉えることが出来ていたのは、ダンデとポプラだけだ。

 

「あれほどの使い手が在野にいるなんてね。アローラ地方、存外人材の宝庫かな?」

 

 彼らもまた、ジェニーの実力の底の深さを痛感させられていた。

 

 

 

「アリアドス、シザークロスッ!!」

 

「ありありィ〜!!」

 

 ズバシ!と系から抜け出そうともがくモルペコにアリアドスは容赦無く前脚2本を振り下ろす。

 

「もぁぁ〜!!」

 

 タイプ上変化はないが、はらぺこもようはでんき、あくのうちあくタイプの側面が強く出るフォルムだ。シザークロスを受けたモルペコへのダメージは大きい。

 

「まずいッ…モルペコ、戻って!」

 

「させるなアリアドス!クモのす!!」

 

 マリィが構えたボールからの回収光線目掛け、アリアドスは口から糸の塊を放つ。

 

「なッ…!」

 

 塊が文字通り蜘蛛の巣の形となれば、それが回収光線を遮ってしまった。交代封じである。

 

「ヘドロばくだん!!」

 

 ジェニーはすかさず追撃。アリアドスはお尻から紫色の毒爆弾を打ち上げれば、未だ蜘蛛の糸を前にもがくモルペコの頭上でチュドン!と爆発し、残りの体力を奪い去った。

 

「モルペコ、戦闘不能!アリアドスの勝ち!!」

 

 

ジェニー、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。

 

マリィ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

「ズルズキンに続きモルペコも撃破!!ジェニー選手、ノリにノッています!!ワールドチャンピオンの勢いが乗り移ったかーッ!?」

 

「勢いは大事ですからね。何事も。」

 

 サイトウの表情がほんの少し浮ついたのをオニオンは見逃さなかった。そこで「惚気か?」とツッコミを入れる勇気はなかったが。

 

 

 

 モルペコを労い、ボールに戻すマリィの脳内では必死に打開策を模索していた。

 どうする?どう挽回する?思考を巡らせる中、知らず知らずのうちに強張る精神を…

 

 

 

ギャギィィィィィーーーーーン…

 

 解きほぐしたのは打ち鳴らされたネズのギターと、

 

マ!リ!ィ!マ!リ!ィ!マ!リ!ィ!マ!リ!ィ!マ!リ!ィ!

 

ウオオオオオオオ!!ウオオオオオオオ!!

 

 スパイクジムの応援団、エール団のみんなだった。

 

 

 

「負けん!負くるもんか!!」

 

 心が奮い立つままにマリィは吼える。闘志は、より強く燃えたぎった。

 

「ふぅ…。」

 

 そんなマリィを見て、残り1つのダウンを奪うのも決して簡単ではないと気を引き締めるジェニー。

 

『お前の居場所は"ここ"ではないだろう。』

 

 またも響く、『自分』からの声。同時に、覚えのある苦痛が湧き上がる。

 

「ぐッ…!うううッ…!!」

 

 

 

 頭痛に襲われて片膝を突き、ジェニーが蹲る。Jを知るサトシとシゲル、タケシはまさか、と顔を青くした。

 

 




 『マリィ』
 13歳。ポケモントレーナー。
 スパイクタウンのあくタイプジムを預かるジムリーダーネズの妹で、ジムトレーナーたちによるサポーター集団『エール団』のアイドル。
 不器用ながらも優しさに溢れたところからたちまちガラル中で大人気、そんな彼女のエースはオーロンゲ、兄譲りのあく戦術で巧みに戦うぞ。
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