3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 サトシに続けとばかりにジェニーは大胆な開幕Z技でいきなりダウンを奪うことに成功する。
 そのままマリィをあと1ダウンというところまで追い詰めるものの、『内なる自分』からの呼び声にまた苦しめられることになる…!


PNTT Fighting! 第1回戦 シングルバトル2 ジェニーvsマリィ②

「どうしたんだ?ジェニーさんは。」

 

「また女の子の日かのう?」

 

 審判が試合を一時的に止め、ジェニーの下へ足代わりのギルガルドを滑るように向かわせれば簡易的なバイタルチェックが入る。

 

「まさか!バトルによって脳に大きな刺激が加わることで、ジェニーさんの封印された記憶が呼び戻されるのでは…?」

 

「なら、もうじきジェニーさんは記憶を取り戻せるということかしら?」

 

 仮説を口走るタケシも確証が持てずセイヨに強くは頷けない。

 

「チャンピオン、それにシゲルくん。」

 

 ナンテが声をかけるので2人は振り返れば、その目は真剣なものであった。ナンテとしても、決起集会の時点でサトシとシゲルらのジェニーへの応対にどこか違和感はあった。

 『ジェニーの記憶が戻ること』に対する反応、それが、タケシを含めた3人と、残りメンバーとで正反対なのが、ひとつの決定的な材料であった。

 

「そろそろ話してくれませんか。同じチームの仲間じゃあないですか。」

 

 穏やかながら瞳で訴える。サトシもシゲルも、これには観念するよりなかった。

 

 

 

「おっと、ここでアクシデントか?マリィ選手を追い詰めたジェニー選手、膝を突いて蹲ったまま立ち上がれていません。」

 

「ジッキョーさん。もしこのまま彼女が試合続行不可能となったらどうなるんでしたか?」

 

「はい。大会の規定上、補欠メンバーはシングルバトル1が終わった段階で決着がつかない場合に行われる勝敗決定戦にのみ参加資格がありますので、もしジェニー選手が試合続行出来ないとなれば、この時点でマリィ選手の勝ちとなります。」

 

 

 

「なんだって!?ジェニーさんが、元ポケモンハンター!?」

 

 観念するよりなかった2人…主に事情を説明したのは弁論の才があるシゲルだった。

 3年前のシンオウ時代の、サトシたちとJとの因縁。それを聞かされてまず絶叫したのはカキだ。

 

「道理で素人ながらにやたら強いはずだわ。」

 

 セイヨは絶句ながらにある種彼女の強さの源泉として納得いくものだと頷く。

 

「それがなんじゃ!Jとかいう奴はJとかいう奴で、ジェニーはジェニー、妾たちの仲間ではないか!つまり、そんな過去の話など、今のジェニーにはなんの関係もないではないか!のうスイレン?」

 

「そりゃあ、私たちはそれでいいとしても…。」

 

 過去は過去に過ぎない、と一蹴するハプウにスイレンはもちろん、チームのみんな気持ちは同じである。だが、これまでサトシたちが危惧し、抱え続けてきた懸念要素と、世間からの受けというのが必ずしも同じだとは限らない。

 それを分かっていたからこそサトシたち事情を知っていた組はここに至るまでずっと隠してきていたのだ。

 

「ジェニーさーーーん!頑張れ〜〜〜!マオも応援してるよ〜〜〜〜〜!!」

 

 皆俯き、言葉が出ない中、ひときわ大きな声でエールを送るのは、ネクストサークルのハウだった。無論、ハウもベンチの話し合いは聞いているし、気持ちはみんなと同じだ。

 その上で導き出したハウの想いは、ただひたすらにシンプルであった。

 

「は、ハウ…。」

 

「アローラ代表で頑張って、アイナ食堂を全国に宣伝するんだろーーー!?」

 

 仲間が苦しんでいるならば、元気付ける。エールを送る。外野に出来ることといえば、それだけだ。

 

「ジェニーさんッ!頑張れーッ!!」

 

「ぴぴかぴか〜ッ!」

 

 ハウに次いで意を決してサトシが続く。

 

「あとちょっとで勝てるよ!マオちゃん喜ぶよー!」

 

 スイレンも声を張り上げる。

 

「帰ったらウチの牧場のミルク、好きなだけ飲んでくれ〜!!」

 

 カキの自分でもよく分からないエールの後に、チーム<マナーロ>は一丸となってジェニーに呼び掛けてゆく。

 事情を聞き、皆が声を限りに叫ぶ中、ナンテは腹を決めた。

 

「デントくん。今の話、監督命令として緘口令をチーム全体に敷いたことにして下さい。」

 

「ナンテさん?」

 

「そうすればもし話が漏れたとて、責任は口封じに走った監督である自分にまず降りかかるでしょう?」

 

 選手を気持ち良く試合に送り出し、いざとなれば泥を被る。チームの指揮官としての覚悟をナンテは決めたのだ。

 

 

 

「あたし…こげん決着、納得いかん!」

 

 マリィは客席のネズにアイコンタクト。愛する妹の心理を察せられぬ兄ではない。大きく頷けば、

 

 

 

ギャッギィィィーーーーーン!ギャギギャギギャギィィィーーーーーン!!

 

 思い切りギターをかき鳴らす。

 

「ね、ネズさん…!」

 

 マリィを熱心に応援するエール団とは、元を正せばネズのあくジム所属のジムトレーナーだ。

 ネズが魂を込めたギターの音色から、その意図を察せないでは彼らはエール団足り得ない。

 

ジェニー!ジェニー!ジェニー!

 

ジェニー!ジェニー!ジェニー!

 

 

 

「あーッと、マリィ選手の熱狂的な応援団からジェニーコール!周りの客席にも伝播して見事な大エールです!」

 

「マリィ選手は戦いたいのでしょう。追い込まれたいくさであるからこそ、その危地を乗り越えれば己が血肉となるというもの。」

 

「ぼ、僕も…もっと試合、見たいです…!」

 

 オニオンにサイトウも頷いて見せる。放送席のジムリーダー2人、熱い戦いに向ける情熱もまた同じだ。

 

 

 

「おーい!もっと凄いバトル、見せてくれよ!」

 

「このまま終わっちゃあ不完全燃焼だぜ〜!」

 

「マリィの底力はここからなんだぞ〜!!」

 

 敵味方問わずのエールに、ついにはガラル代表のメンバーたちも同調していた。

 ダンデとキバナが肩を組みながらジェニーに語り掛ければ、ネクストサークルのホップも続く。

 

「心を熱く燃やすんだ!」

 

 真剣そのものなカブもエール。シャクヤも客席の父親に目配せして客席からエールに参加させていた。

 

「まったく、ウチのチームはお人好しの集まりなんですから。」

 

 ベンチに腰掛けたまま直接的にジェニーへ声を投げかける気はないビートの発想も正論ではある。彼女がリタイアすればその時点でチーム<シュート>の勝ち抜けが決まるからだ。

 そんな彼の瞳も、熱いバトルの続行を望んで揺れているのを隠せていない。まっすぐで、ひねくれてもいる…このビートの屈折した闘志こそ、ポプラの信奉する『ピンク』であるのだ。

 

 

 

「み、みんな…。」

 

 あらゆる角度から自分に呼びかける声がする。途端にジェニーの意識がトリップ。

 深層心理の中に踏み入っているのは、蹲る自分を見下ろす『もう1人のジェニー』…。

 

『喧しい奴らだ…私の居場所はこんな騒がしいところにはない。もっと暗く、深淵の世界こそが…!』

 

『ジェニーさんはそんな人じゃあないよッ!』

 

 苛立ちのままに言葉を投げかける『もう1人のジェニー』。そこに響く声で『2人のジェニー』が振り向けば、エプロン姿のマオがいた。

 

『お前、何を…!』

 

「マオ!」

 

 ジェニーが『自分』をはね除けてマオに駆け寄る。

 腕を振り抜かれた『もう1人のジェニー』は、たちまち霧散して、消えた…。

 

『ジェニーさんは強くて優しい人だって、私も店のみんなも分かってるから。ジェニーさんにどんな過去があったって、私たちはジェニーさんの味方だよ!』

 

「マオ…マオ…!」

 

 マオの健康的な褐色を後光が照らす。ジェニーは、マオの手を取る。

 

『でも、これだけは約束。無事に帰って来てね?あ!あと無茶はしないこと!』

 

「あぁ…あぁ。マオが、そう言うのなら。」

 

 後光がジェニーの視界を染め上げる。意識が現実へと舞い戻れば、スックと立ち、苦しい頭痛も消えていた。

 

 

 

「ジェニー選手、改めて聞くが大丈夫かね?」

 

 ジェニーは審判をゆっくりと見る。大袈裟なまでに頷いてから告げた。

 

「済まなかった。もう大丈夫だ。」

 

 キリリとしたジェニーの瞳に、闘志とともに決意が宿る。

 

「ありぃ…。」

 

「お前にも要らぬ心配をかけたな。」

 

 ニュートラルポジションのアリアドスにジェニーが不器用ながら微笑みかけるのを見れば、審判も長らく公式戦をジャッジしてきたベテランだ。

 直感からフィールドに入って来た救護班に両掌を向けて振るい、撤収を呼びかけた。そうして高らかに宣言する。

 

「試合続行ッッッ!!」

 

 

 

イエェェェ〜〜〜イ!!ジャスティス!!

 

 

 

「続行です!試合続行!!ジェニー選手持ち直したようです!!いやーよかったよかった。」

 

 両陣営はもちろん、この場の全員不本意な決着とならずに済めばひと安心。あとは試合の行方の話だ。

 

 

 

マリィ!マリィ!マリィ!マリィ!マリィ!

 

 ジェニーが持ち直したとなれば、エール団は気を取り直してマリィコールに戻る。彼らはどこまでいってもマリィ一筋なのだ。

 

 

 

「みんなのエールがあるったい!絶対の絶対に勝つもんね!」

 

 熱狂的な応援を一身に受け、マリィが投げ込むボールから飛び出すは、ビルドアップポケモンオーロンゲ。全身を髪の毛で武装する彼女の切り札だ。

 

 

 

「やっぱり来たな、マリィのオーロンゲ!」

 

「ぴかぁ…。」

 

 3年前とは流石にレベルからして違う、とサトシは唸る。PWCSハイパーランク帯にて、ゲンガーと熾烈なバトルを演じた強敵の再来であった。

 

 

 

 そんなオーロンゲが、すぐにボールに戻される。

 

「戻れ、アリアドス!」

 

 ジェニーはそれを見てすかさずアリアドスを引っ込めた。

 

「チームのために…勝利のために!キョダイマックス!」

 

 格上相手に出し惜しみなど出来ようはずがない。マリィはダイマックスボールを力一杯投げ込んだ。

 

「ろ゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

 

 

 

「マリィ選手、ここでキョダイマックスです!エースポケモンのオーロンゲで一気に形成をひっくり返しにかかります!!」

 

 

 

「もうひと働き頼むぞ…ボーマンダ!!」

 

「ぼまがあああああ!!」

 

 黒髪で全身をコーティングするオーロンゲがキョダイマックスにより全体的な等身をスラリとしたものへと変化させる。

 そこにジェニーはボーマンダのいかくを差し込んだ。

 

「やっぱり、バトルが上手い…!でもッ!」

 

 ほんのわずか表情を歪ませるマリィだが、止まるわけにはいかない。ここで引き下がればもうムードを掴み返すことは不可能なのだから。

 

「ズルズキンの分もくらわせてやって!ダイフェアリー!!」

 

「ろ゛お゛お゛お゛ッ!!」

 

 オーロンゲの咆哮がフェアリーエネルギーで模られた三条の星を、ボーマンダを取り囲むように落着させる。

 

「ぼま!?」

 

チュッドオオオッ!!

 

 即座に落着した星々が大爆発を起こし、星型の綺麗なエネルギーの残滓を打ち上げれば、爆発に呑み込まれたボーマンダはあえなくフィールドに横たわる。

 

「ボーマンダ、戦闘不能!オーロンゲの勝ち!!」

 

 

 

ジェニー、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

マリィ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

「ボーマンダダウ〜ン!マリィ選手、早速反撃の狼煙を上げたーッ!!」

 

「しかしジェニー選手もむざむざやられたわけではありません。いかくで確実にオーロンゲのパワーを下げています。」

 

「ポケモンのダメージが大きくても、で、出来ることを見つける…大事なこと、です…。」

 

 

 

「いい仕事だったぞ、ボーマンダ。」

 

 相手のエースポケモンにデバフを喰らわせた。この意味は決して小さくはない。

 何が何でもチームの望みを繋げる為に勝つ算段を組み上げるジェニーは、続けてボールを投げ込んだ。

 

「頼むぞッ!!」

 

「がうううッ!!」

 

 ジェニーのボールから飛び出したのは、グランブル。鋭い目つきと咆哮によるいかくが、さらにオーロンゲに突き刺さった。

 

 




 『ネズ』
 28歳。スパイクタウンあくタイプジムリーダー。
 通称「哀愁のネズ」。マリィの兄であり、エール団を束ねる寡黙で痩身の男。シンガーソングライターとしても有名。
 相棒は硬いガードからチャンスを伺い勝利を狙うタチフサグマだ。
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