3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 サトシにダブルバトルの相方に誘われたコハル。
 あの手この手で固辞しようとするも通用せず、イーブイもやる気満々。
 覚悟を決めるより他にないコハルは、やぶれかぶれでサトシとのコンビを承諾した…。


それぞれの戦い 船上の再会、そしてバトル③

 両サイド作戦会議を済ませ、スペースをとって対峙する。

 バトルする4人を、人混みが楕円形に囲みさながら人混みのスタジアムが出来上がっていた。

 それを尻目に、ライチュウを引き連れた青年がボールを開くと中から飛び出すポケモンに群衆がどよめいた。

 なにごとかと、4人も振り向く。

 

「ぎゃおぉぉ!」

 

「きょうあくポケモンのギャラドスだ!」

 

「お騒がせして申し訳ない。是非そのバトル、特等席で見たいと思いましてね。自分のことはお気になさらず存分にどうぞ。」

 

「ちゅう…。」

 

 全身を覆う空色の鱗が艶やかで、鱗に覆われた腹部も白というよりは白銀に輝いている。なにより6.5mほどが一般的な高さとされている中、このギャラドスは10mの大台に届きうるほどの巨体を宙に浮かし、風に乗り揺らめいていた。

 その背に腰掛ける青年は、右の中指と人差し指を交差させ手のひらを4人に向ける。

 フィンガーズ・クローズド…幸運を祈る。この場面ならば両者健闘を祈る、というメッセージか。

 かけている橙の淵の眼鏡のレンズの奥の瞳の色は、日差しの反射から判然とはしない。

 

「ちう。」

 

 隣のライチュウも、主人がやっているハンドサインを真似しようとしたが、そのコッペパンのような特徴的な手には、そもそも指自体が生えてないので生物的な構造上で出来ず、憮然としていた。

 

「大きい…あんな大きなギャラドス初めて見る。」

 

「よく育てられてるみたいだ。」

 

「えぇ。見た目通り強靭な個体と見てよいでしょう。」

 

 これからバトルをする者たちの視点と意識は、青年のギャラドスに向く。サトシを除いては。

 

「ぴかぴ。」

 

「あぁ、分かってるよピカチュウ。」

 

 ギャラドスの威容はそれはそれとして、サトシとピカチュウが見過ごさなかったのは、波導。

 一瞬放たれたそれは、その気になればこの船全体はおろか周辺の海に住むみずポケモンたちをもまとめて畏怖させるほどの圧力を備えた波導、即ちオーラだ。

 

「らいらいら。」

 

「うん。流石ワールドチャンピオン、ニャース被りを見抜いたね。」

 

 感じ取ったオーラが体の中へ引っ込んでゆくのを見ればサトシは改めてハヅキとナオシを向く。

 サトシがこちらの放った覇気にしっかり気づいた様子に、ナンテは満足して頷いた。

 ポケモン大好きなサトシが、不意のギャラドスになんらリアクションを示さないことに対して、コハルはバトルが待ち切れないのだろう、と判断した。

 そして、あのギャラドスの彼に自分の代役を頼めばいいのではというアイデアが浮かんだのは、後の祭りであった。

 

「いこうぜコハル!俺はこいつだ!」

 

 いざ開戦となれば、サトシが口火を切る。

 

「ピジョット、キミに決めた!」

 

「ぴじょおおおッ!!」

 

「えっ、あ、うん!イーブイ、お願い!」

 

「ぶぶーい!」

 

「ゆけッ!バシャーモ!!」

 

「しゃあもッ!!」

 

「お願いします、コロトック!」

 

「くぉろろろ…!」

 

 ダブルバトルで両サイド2体ずつが出揃う。

 特に審判を入れるでもない野試合だ。自分のポケモンが戦闘不能になれば脱落、それ以外の細かいことは抜きである。

 

「それでは早速ですがお見せしましょう。我々のゼンリョクを!」

 

ポロリン…。

 

 ナオシが竪琴を弾く。それがゴングか、と誰もが意識を一瞬向けたのが術中であった。その腕に煌めいたのは、緑色の中に虫を象ったクリスタル…。

 サトシはしまった、と目を見開く。完全に初手を取られた、と。

 ハヅキは上手い、と口角を吊り上げる。機先を制したのは僕たちだ、と。

 

「コハル、コロトックはイーブイを狙ってるぞ!!」

 

「えっ、えっ!?」

 

 サトシは瞬時にナオシの狙いを看破するも、バトルにおいて専門的な技術はそこまで持ち合わせていないコハルに、そんな刹那の見切りが出来るはずもなく慌てふためく。

 

「流石は吟遊詩人なだけあるなぁ。ペースを握るのに長けてるようだ。」

 

「ありがとうございます。ところで、飛ぶ斬撃を見たことはありますか?」

 

 ナオシが竪琴を真上に放り投げれば手元に落ちてくる前に素早く、しかして流麗な舞を披露、Zワザを発動させる際のゼンリョクポーズをこなしてから竪琴をキャッチする。

 ムシZから放たれ注がれる巨大な虫エネルギーがコロトックに宿れば、それは強靭な糸状の刀となり口元に生成されてゆく。

 

「あれはムシZのZワザだ!」

 

「絶対捕食回転斬だな!」

 

「でも動画で見たのとなんか違うぞ?」

 

 野次馬の中で訳知り顔が数人、ナオシのアクションを認めるも違和感を訴える。

 

「一世三十六煩悩…二世七十二煩悩…三世…百八煩悩…!!」

 

「ッ!イーブイ、まもる!!」

 

「ぶいッ!!」

 

 バトルは嗜む程度なコハルにも分かるほどの強者の覇気が、すかさず防御を固めさせる。

 体内の空洞にて反響させ綺麗な音色を奏でるために擦り合わせるべく発達しているコロトックのその両腕は、今この時だけは虫エネルギーを纏った名刀のそれであり、口元にはZエネルギーによる糸の刀を携えググ…と体をひねり左肩を見せる形で頭の上に二刀を構えた。

 

ガガッ…オオッ…

 

「三刀流…!"百八煩悩鳳"!!」

 

「くぉるるるるる…!!」

 

ドゴォン!!

 

「ほぉー…。」

 

 三本の飛ぶ斬撃がイーブイを襲う。

 むしタイプのZワザ、絶対捕食回転斬の応用。その手腕に誰もが舌を巻く。

 ギャラドスに腰掛ける青年は顎に手をやり感心の声を上げた。

 

「イーブイ!!」

 

「ぶぃぃ〜!!」

 

 原則、技の効力をシャットアウトするまもるという技にも限度はある。

 フェイントによりタイミングを外されては効力自体意味をなさなくなるし、これから受けることになるZワザやダイマックス技などはその威力を完全には受け流しきれないのだ。

 

ガガ、ガァン!!

 

「ぶぃ〜!」

 

「イーブイ!」

 

  1発目、2発目と、まもるの技のバリアで防ぐも、飛び込んだ3発目の飛ぶ斬撃がイーブイに命中する。

 かろうじてZワザそのものの直撃は免れた。宙を舞うイーブイは空中で姿勢制御をし持ち堪えてみせる。

 しかし、コハルに安堵できる暇はない。

 

「しゃあもぉぉぉッ!!」

 

「バシャーモだぁッ!」

 

「飛び上がってるぞ!」

 

 開幕早々Zワザを放ち、激しく目立つコロトックを隠れ蓑にバシャーモは高く跳躍。

 その全身が虹色の繭に包まれてゆく。

 

「輝けキーストーン!ミシロ魂を見せてやろうぜ!バシャーモ、メガシンカ!!」

 

「しゃもぉぉぉぉぉーッ!!」

 

 ハヅキの腕には、輝くキーストーン。

 繭より飛び出すはバシャーモがメガシンカした、メガバシャーモだ。

 

「ぶぃッ!?」

 

「逆光が…!」

 

 ハヅキは抜け目なかった。ナオシの奇襲に合わせ、バシャーモに太陽を背にする形で跳躍させていたのだ。

 イーブイはたまらず目を瞑ってしまう。これではコハルが最速で指示を出してもアクションに遅れが出るのは明らかであった。

 

「ダブルバトルの鉄則はいかに数的有利をとるかにあります。」

 

「だからこそ、ここはいかせてもらうよ!バシャーモ、とびひざげりだ!!」

 

「しゃぁぁぁぁぁもぉッ!!」

 

 両膝に渾身の力を込めたメガバシャーモの急降下がイーブイに迫る。

 さながら獲物を捉えた猛禽のそれだ。本場の鳥ポケモンに優るとも劣らない狩りの迫力を発散している。この即席タッグ、容赦がない…。

 

「急降下に加え、メガバシャーモの特性であるかそくのパワーも合わさって、しかもノーマルタイプのイーブイにかくとう技は効果抜群。おまけにイーブイは空中かつ逆光のせいで身動きは取れない。さて、"後輩くん"が取る手段とすれば…。」

 

 Zワザにメガシンカを惜しみなく投入するという怒涛の展開を演出するハヅキとナオシの組に野次馬たちがエキサイトする中、ギャラドスの青年は腰掛けている膝にライチュウを乗せながら、サトシのリアクションは大方シュミレート済みであった。

 

「ピジョット!ゴッドバード・バリア!!」

 

「ぴじょおおおおお!!」

 

「なにィッ!?」

 

ガキィィィィィン!!

 

 ピジョットがイーブイとメガバシャーモの間に急速チャージしたひこうエネルギーを纏った状態でその身を割り込ませる。

 ノーマルタイプでもあるピジョットには、かくとうタイプの技であるとびひざげりの威力を完全に半減に抑えることは出来ないが、ゴッドバードのエネルギーを盾代わりにしたバリア戦法がダメージを最小限に留めたのだ。

 

「開幕戦で見せたやつかッ!?」

 

「しかしこれはダブルバトルです!コロトック、うたう攻撃!!」

 

「くぉるるるるる…♪」

 

 バイオリンムシポケモンのコロトックがその本領を発揮する。素早く接近すれば両手を擦り合わせ、催眠音波をピジョット目掛け放ったのだ。

 メガバシャーモの膝を受けて硬直させられているピジョットに避ける術はない…。

 

「イーブイッ!ハイパーボイス!」

 

「ぶいっ!ぶぉえ〜〜〜〜〜!!」

 

「コハル!」

 

 それは、コハル咄嗟の思い付きであった。元より相手とのレベルの差から、まともなダメージなど望むべくもない。

 イーブイの咆哮が音波となり放たれては、至近距離でピジョットに肉薄していたメガバシャーモを吹き飛ばし、コロトックの演奏を盛大に妨害したのだ。

 

「しゃも…!」

 

「ぶい!?ぶい!?」

 

「ピジョット!」

 

 コロトックの隣に軽やかに着地するメガバシャーモ。

 ハイパーボイスで再度空中でバランスを崩すイーブイを、サトシの一声でピジョットは意図を察しその背に乗せて高度を取った。

 ひと呼吸を置く。

 強豪トレーナーから集中攻撃を受けたイーブイは肩で息をしている。

 体力も残り僅かである。しかしその表情はコハルがこれまで見たことのない充実感で彩られていた。

 

「イーブイ、楽しくなってる…?」

 

「多分な。だってあんなすっげー相手とバトルしてるんだぜ。」

 

 無我夢中で指示を飛ばし、辺りを見回していたコハルもまたヘトヘトであった。タッグパートナーとしてそれが分からないサトシではない。

 

「コハル、さっきはありがとうな。あのハイパーボイスはナイス判断だったぜ。」

 

「そ、そうかな?サトシならピカチュウに交代すればいいからむしろ余計なことしちゃったかもって…。」

 

「あ、その手があったか!」

 

 ポン、と手を叩くサトシにコハルはずっこけそうになるのを我慢する。

 

「いや…やっぱりそれは、ここではない、かな。ハヅキさんとナオシさんは、メガシンカにZワザを惜しみなく使ってぶつかってきてくれてるんだ。真っ向勝負なら、引けないぜ。」

 

 だからこそやっぱりコハルに助けられたんだ、そう締めくくるサトシは爽やかな笑みを向ける。

 厳格なルールのない野試合であるが故の野郎同士の譲れない"なにか"はポケモントレーナーとしてチャンピオンを目指すではないし、そもそも女の子であるコハルにはイマイチ分からない。

 ただ、自分が思ったよりは足を引っ張ってるわけでもないというのに、安心と嬉しさがあった。

 なにより、熱いバトルの高揚感はこれまで味わってきたものとはまるで桁違いだった。

 

 

 

 

 




 『ハヅキ』
 21歳。ホウエン地方ミシロタウン出身のナイスガイ。
 3年前、ジョウトリーグでサトシを破った強者だ。
 エースポケモンのバシャーモは、サトシのリザードンと激闘を繰り広げたんだ。
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