3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 メガガブリアスとテラスタルしたオノノクスのぶつかり合いは、3年前を軽く凌駕するシロナとアイリスの魂の応酬へと発展する。
 強さの高みに並び立つ2体のドラゴンポケモンは、主人の意地をその身に宿しスズラン島を揺るがすほどの衝突に全てを込めるのだった…。


PNTT Fighting! 決着!女の意地の果て

『両者空中大激突!競り勝ったのはどちらだーーーッ!?』

 

 

 

 時を戻し、場所を移そう。チーム<スズラン>vsチーム<ヒガキ>の一連の試合をポケチューブでチェックしながらチームミーティングを行うサトシたちチーム<マナーロ>の面々は、ファーストクラスを貸し切っての空の旅の最中であった。

 チーム<シュート>との死闘の後、取材攻めを捌き切り、やっとのことでホテルに帰り着いたのは日付が変わる頃であり、案の定朝にサトシが寝過ごしたので危うくみんな仲良くチェックインし損なうところであった以外は、至極順調。スケジュール通りの流れだ。

 

「またぞろ凄い激突だな。」

 

 43インチ4Kモニターという最高級の機内設備を通して動画視聴しているのも大迫力の試合観戦をアシストしている。自宅のテレビとは比べ物にならないサウンドにカキが呟く。

 

「シロナさんって、こんな荒々しいファイトスタイルだったんだ。」

 

「むしろ好印象だわ。」

 

 スイレンが見慣れないシロナの戦いに一言漏らせば、セイヨはニコリと好戦的な笑みを浮かべながらディスプレイを眺める。

 

「昔の時代の試合映像というのは動画サイトでもなかなか見つかりませんからね。」

 

 無理もない、とナンテは言う。かく言う本人も、シロナ本来のファイトを動画越しとはいえ実際に見るのは久々であった。それだけにアイリスの急成長ぶりに戦慄もしている。PWCS開幕戦の時よりまたさらに大きく成長しているのが明らかであった。

 

「あっ、降りてきた。」

 

 空中で互いのエネルギーをぶつけ合い、激しい大爆発を起こした2体のドラゴンがそれぞれのニュートラルポジションへ舞い戻り、着地する。

 事前に動画をチェックして結果を知っているシゲルにセイヨ、それにバックアップメンバーのタケシとデント…そして監督のナンテ以外は決着の行方に息を呑む。

 

 

 

『おのの…のぉ。』

 

『がぁ…ッ、ぶ。』

 

 息荒く睨み合うオノノクスとガブリアス。程なく揺らめいたのは、オノノクス。

 

『が、ぶ、ぁッ…!』

 

 膝を突いたオノノクスを見て勝ちを確信したのだろう。それを見た安堵が、ガブリアスの緊張の糸を、意識をプツリと切ってしまった。

 

ドッサァ…!

 

 グラリ、後ろに倒れ、右側面側に横たわりダウンするガブリアスは、メガシンカが解除され元の姿へ戻る。

 対するオノノクスは、息こそ絶え絶えながらその王冠を依然輝かせたままだ。となれば決着は…

 

『ガブリアス、戦闘不能!オノノクスの勝ち!よって勝者、チーム<ヒガキ>チャンピオンアイリス!!』

 

『ウオオオオオオオ!!ヒガキ!ヒガキ!ヒガキ!ヒガキ!』

 

 

 

「次に当たるのはイッシュ代表チーム<ヒガキ>か。」

 

 シングル1が終わり、団体戦の結果からジェニーが今後の流れを正確に口にする。

 

 

 

『おおおおおッッ!!しゃあああああッッッ!!!』

 

 モニターの向こうのアイリスが、ドレスの裾が土で汚れるのも構わず両膝を付け、天を拝んで咆哮する。

 3年越しのリベンジ達成に、両拳を、全身を震わせていた。

 

 

 

「アイリス…やったな。」

 

「ぴぴかちゅ…。」

 

 リベンジを果たしたアイリスの咆哮は、サトシの胸を強く打った。

 3年前、マスターズトーナメントでシロナに敗れた後、彼女が悔しさのあまり見せた大粒の涙を知るが故の感慨であった。

 

「はい。ジェニーさんの仰った通り、準決勝で戦う相手はチーム<ヒガキ>…それと、大変申し上げにくいのですが…会場は、大会本部からの通達によると厳正なランダム選択の結果、イッシュ地方ヒガキシティのスタジアムに決まりました。」

 

 初戦に引き続きアウェーでの試合になる、と通達するナンテに、別にアンタのせいでもないだろう、と一同特にリアクションは返すことなく受け入れる。

 

「チーム<ヒガキ>は結果的にはドラゴンバスターのラングレーさんを温存しての勝利になったね。バンジロウくんの体調次第だけど、おそらく次は彼女がどこかで彼に代わって出張ってくるはず。」

 

 先んじて動画をチェック済みであったシゲルが見解を述べる。

 

「あのラティオスの突破力は無視出来なかろう?」

 

「頭の片隅に入れておくに越したことはないけど、オーバさんとの試合での消耗ぶりから中4日で本調子に戻せるとは考えにくいと思うな。エスパーポケモンを扱ってるとたまにあるんだ。彼らと意識のリンクが強まりすぎて、こちらがバテてしまうことが。」

 

 四天王オーバを相手に、ラティオスを繰り出し追い込まれてからの3タテを決めたバンジロウは、そのラティオスとの精神的なリンクによる負荷から、出場を強行したとしても動画の試合のようなパフォーマンスは期待できない…ならばそもそも出てくることもないだろうとシゲルは断ずる。

 自身の経験も踏まえた理路整然とした話にハプウはなるほど、と得心していた。

 

「ナンテさん。1つよろしいかしら?」

 

「なんでしょう、セイヨさん。」

 

「次のダブルバトル2、またシゲルくんと組んで挑みたいのですけれど。」

 

 ナンテからすれば意外な申し出と言えた。ポケモンゼミナール時代よりシングルバトル1本で生きてきたセイヨの経歴から、相手が悪すぎたとはいえ先のチーム<シュート>との団体戦におけるダブルバトルでの惨敗を受け、もうダブルは御免だ、と敬遠するものと思っていたからだ。

 

「そりゃあまた、何故?」

 

「決まってますわ。負けたまま引き下がった、ではポケモンゼミナールの1番星の名が廃りますもの。」

 

 周囲の見立て通りのセイヨの強気な姿勢。それも強気は強気でも、受けた借りは返さねば気が済まないタチであった。超強気である。

 

「僕は構いませんよ。」

 

 ご指名あらば、とシゲルも快諾する。こうなれば組ませない理由もなかった。当人のモチベーションが何より大事だからだ。

 

「サトシはやっぱり、アイリスと戦いたいのかい?」

 

「そりゃそうだけど、実際の組み合わせはどうなるか分かんないし、誰が相手でもゼンリョクあるのみだぜ!アイリスとはイッシュに行けばいつでもバトルできるしな。」

 

「ぴぃかちゅう。」

 

 デントに問われたサトシの答えから、刺激こそ受けたがこだわりにまでは至っていないのをナンテは感じ取る。

 自分の役割がチームの一員として確実に1勝をもぎ取る立場であることを理解しているのだろう、そう思うことにした。結局のところチーム<マナーロ>が団体戦で勝ちを拾うには、サトシにどこかで必ず1勝を確保してもらうことが大前提なのだから…。

 

 

 

 チームミーティングは機内が安定飛行に入ってからの30分ほどで切り上げられ、残るフライト時間は各々好きに余暇を過ごしていた。

 

「ぽけちゅーぶとはほんに何でも見れるのう。」

 

 ハプウはスイレンと2人で釣り動画を楽しんでいる。ポニ島にてしまクイーンの傍、農業に勤しむハプウとしては、動画の内容云々よりも機内の至る所にあるサービスそのものがいちいち新鮮な体験であった。

 

「ぴかぴかちゅう〜。」

 

 トレーナーとゲットされたポケモンの関係性を『親と子』と表現する文化がポケモン社会の黎明期から根強く存在する。

 苦楽を共にしていくことでトレーナーはポケモンのことを理解し、ポケモンもトレーナーの思想や傾向の影響を少なからず受け、自身の意識を変革させてゆく。

 こと容姿に関わるところに敏感なセイヨのもとで彼女のポケモンとしてやってきたピカチュウが、主人の高い美意識に感化されるのも当然の話であった。

 

「ふふふ、はいはい。」

 

 寝そべるピカチュウの背中のラインをセイヨは丹念にブラッシングしてゆく。

 毛並みを整えることで彼女が自慢とする背中の茶色い縞模様や、ハートマークをイメージさせられる尻尾の丸みをより強調し雌としての魅力を際立たせるのは、何より『可愛いこと』を信条とするセイヨにとっても良き感化であった。

 可愛い自分のポケモンたちもまた、とびきりに可愛くあるべきなのだ。

 

「ゴーッ!!」

 

「「ふんぬぬぬぬぬ…!!」」

 

 ハウとカキが腕相撲に興じているアームレスリングの競技台はレフリーを務めるデントが持っていた私物だ。アームレスリングソムリエとしての必需品だからと暇を持て余していた2人に快く提供した折り畳み式の台座は、それゆえに簡素な作りながら握り棒の手触りにも配慮された一級品である。

 デント自身の厳正なレフェリングにより、いつしか2人とも全身汗だくになりながら熱中していた。

 

 そんな暑苦しい空気をよそにジェニーは窓際席から外の景色をボーッと眺めている。

 昨日の試合の時から、『もう1人の自分』に対する恐怖や不安は既に払拭された。思うにもう二度と『彼女』が出てくることはないし、出てきたとしても毅然と払い除ける心積りは出来ている。

 

「どうでもいいことだ。そうだろう?ジェニー…。」

 

 アイナ食堂で拾われる前の『自分』を振り切る決意を固める。ジェニーは、自分に言い聞かせた。

 

「サトシ、ちょっといいか?って、こりゃあ駄目か。」

 

 タケシが席を覗けばサトシはピカチュウを腕に抱きぐっすりと寝入っていた。昨日取り切れなかった分の睡眠を取り直しているのだろう。

 チームの中で最も苛烈な取材攻めを受けていたのだ、無理もない。

 

「起こそうか?」

 

「出来るのか?」

 

「コツがあるのさ。」

 

 ちょうどトイレ帰りのシゲルが通り掛かれば、意外な申し出にタケシは若干首を傾げる。自分もサトシとは長い付き合いだが、こうも完全に寝入ったところから起こす方法は知らなかった。

 

「"長靴さん"が出たぞ〜〜〜…。」

 

「うわわわわッ!?」

 

「ぴかぴか!?」

 

 シゲルの耳打ちにより、深い夢の中にあったサトシの意識がたちどころに呼び覚まされる。

 カラカラ笑うシゲルをよそに、サトシは辺りを激しくキョロキョロ見回してから、大きく安堵のため息を吐いた。

 

「"長靴さん"?」

 

「マサラ人に伝わる都市伝説の類だよ。」

 

 マサラタウン南部にある21番水道には立ち入り禁止の柵がある。その先の川辺で町の子供が流されて行方不明になる事故が起きたのが柵が敷かれた理由なのだが、話としてはその溺れた子供の成れの果てがツルじょうポケモンモンジャラとなり、仲間を増やそうと川の中へ引き摺り込んでくるぞ…といった、言うことを聞かない悪ガキの類を躾けるためにダシとして使われている話だとシゲルが解説する。

 かく言うシゲル自身も幼少期は相応に腕白小僧であり、幼き日に死に別れた両親の代わりを務めてくれた姉から"長靴さん"の話を持ち出されて震え上がったことがあるのは内緒だ。

 

「あ〜びっくりした〜…!なんだよシゲルの奴〜!」

 

 シゲル同様腕白小僧であったサトシもまた、母のハナコから"長靴さん"の話で脅されていた経験があり、目覚まし効果はテキメンと言えた。

 自分の席へ戻ってゆくシゲルの背中を苦々しく見つめるサトシの視界に、タケシがスマホロトムの画面を見せる。

 

「ヒカリからお前宛にオファーが来てるぞ。」

 

「ヒカリから?」

 

「ぴかか?」

 

 ポケラインの会話グループなどは未読スルーが安定のサトシは、ピカチュウとキョトンと首を傾げるよりなかった。

 

 

 




 PNTT第1回戦 シングルバトル1
 シロナvsアイリス
 シングルバトル 6C3Dルール

 シロナ      アイリス
 ミカルゲ     エモンガ
          →サザンドラ
 →トリトドン
 トリトドン● サザンドラ◯
          →リザードン
 トゲキッス
 →ミロカロス
 ミロカロス● リザードン●
 ガブリアス● オノノクス◯
 (メガシンカ使用) (テラスタル使用)

 勝者 アイリス
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