3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 女チャンピオン同士の対決はアイリスに軍配が上がり、サトシたちの次の対戦相手はチーム<ヒガキ>に決まった。
 アローラに戻る機内にて、サトシはヒカリからのメッセージに目を通すのだった。


PNTT Fighting! ポケチューバー、ヒカリ!

『HIKARIN TV everyday!』

 

『ぶんぶん!ハロー、ポケチューブ!どうも、ヒカリンですッ!』

 

『ぽちゃ、ぽっちゃ〜!』

 

『ポッチャマも元気でーす!今日はぁ、わたしの友達ですっごいゲスト呼んじゃったの!紹介するね。3!2!1!』

 

『こんにちは!俺、マサラタウンのサトシ!よろしく!』

 

『サトシ久しぶり〜!!』

 

『『イェーイ!!』』

 

パシン!

 

 動画お決まりのオープニングから、白いニット帽に黒いノースリーブを合わせ、中身が見えてしまわないか心配になりそうなピンクのミニスカートが眩しい少女が軽妙なトークを飛ばし、そこに合わせてカメラインするサトシとハイタッチ。

 2人の足元ではピカチュウとポッチャマもそれに倣う。フタバタウンのヒカリ…シンオウ地方を旅していた頃のサトシの仲間だ。

 

 

 

「「「「かんぱ〜いッ!!」」」」

 

 場所はイッシュ地方ヒウンシティ。撮影のために借りたスタジオハウスを後にし、適当に見繕ったカフェにてサトシ、ヒカリ、タケシにケンゴの4人が撮影の打ち上げをしていた。

 

「俺、撮影とかよくわかんないんだけど、あんな感じでよかったのか?」

 

「ダイジョーブ!ダイジョーブ!イマイチなところはケンゴが編集してくれるもん。ねっ?」

 

「あんまりアテにしすぎるなよー?」

 

 サトシに気楽に返すヒカリ、彼女の無茶振りにケンゴは頭をかいた。

 

 

 

 こうなる経緯としては前日8月2日のフライト中、タケシがポケラインのグループでヒカリからサトシへの動画出演オファーを受け取るところから始まった。

 監督のナンテも撮影場所が次の試合のための遠征地であるというので特に難色を示すこともなく、先んじる形でのサトシのイッシュ入りを容認した。タケシはサトシのお目付け役のような形での同行である。

 

「それにしても驚いたな。あんなにコンテスト頑張ってたヒカリが動画配信者だなんて。」

 

「コンテストにはもう出ないのか?」

 

「今はひとまず休憩…かな。ママの娘としては、やれるだけやりきったと思ってるし。」

 

 タケシが切り出し、サトシも続く。シンオウ時代の旅仲間にヒカリがほんの少しだけ眉を八の字にしたのを2人は見逃してはいなかった。

 ぽつりぽつりとこうなるまでの話を語り出すのは、撮影終わりであることと久々にシンオウ時代の仲間が全員揃ったことでヒカリ自身開放感に満たされているのが大きい。

 

 

 

 ヒカリの母アヤコは各地のグランドフェスティバルを制した凄腕ポケモンコーディネーターであり、シンオウ地方においては『華の68年組』としてシロナに並ぶほどの知名度を誇るレジェンドである。

 そんな母の娘として生を受けたヒカリが、母が情熱を注いだコンテストの世界に憧憬を抱き、自らの進路とするのは自然の流れといえた。そんなヒカリのルーキーイヤーは、ミクリカップ優勝にグランドフェスティバル準優勝と、レジェンドの血脈をまざまざと見せつける華々しいデビューとなった。

 当の本人からすれば山あり谷あり、肝心のグランドフェスティバルで負けて悔しいというのがまず1番にくる話であったが。

 

 

 

 初出場のグランドフェスティバルを終え、サトシのシンオウリーグ挑戦を見届けたところでサトシ、ヒカリ、タケシの3人の旅は終わりを告げ、それぞれの道を行くことになった。

 ヒカリは、ポケモンコンテスト発祥の地ホウエン地方を次なる修行地に選んだ矢先、巡業として現地でバッタリ会ったシロナにくっ付いていく形でイッシュ地方へ渡航。サトシとの再会に加え新たにアイリス、デントと知己になり、PWTジュニアカップへ参加してからミクリカップ連覇をかけ開催地のジョウト地方へ飛び立って行った。

 

 

 

『彼方、ヒカリ選手!此方、マリナ選手!』

 

 サトシが冒険の地をカロス地方に移し、奮闘していた頃、ヒカリはジョウト地方にて2個目のアクアリボンを手にした。ミクリカップ連覇達成である。1度目の優勝は、決勝でぶつかったハルカがデビュー戦となるグレイシアを投入したのに対し、旅立ちからの相棒ポッチャマのパフォーマンスをフルに搾り出してのギリギリの勝利であった。今思い返してみても、ハルカがより手に馴染むバシャーモやアゲハントを繰り出していたらまず負けていただろうとヒカリ自身回顧する。

 そんなヒカリにとって、当時No.1トップコーディネーターの称号である『トップ・オブ・トップ』の座をロバートより奪い取っていたマリナを相手のV2達成は、誰にも文句の言わせぬ最高の結果と言えた。

 残す冠はただ1つ。グランドフェスティバルのみである。

 

 

 

「負けたよ、ヒカリ。」

 

 念願のグランドフェスティバル制覇…母娘2代に渡る血脈のドラマ…デビュー時に涙を呑んだ好敵手へのリベンジ達成…。報道が好き放題記事書き殴る中でボーイッシュな短い赤髪の美女ノゾミと握手を交わし、ヒカリはついに宿願を果たした。

 

「ありがと、わたし、今さいっこうの気分!」

 

「の、割にはなんか浮かない顔してない?」

 

 良き姉気分であるノゾミの瞳が、ヒカリの瞳の奥底を覗く。

 

「そそそ、そんなことないない!!」

 

 隠し事の下手なヒカリが慌てて繕う内心を見抜けないほどノゾミは愚鈍ではない。ヒカリ自身が内に芽生え、膨らんだ空虚感を見据えているのを察すれば、ノゾミは決して深入りせず、敗者としてヒカリを讃えることに徹する。

 同じ頃、サトシもアローラリーグで念願のタイトル獲得を果たし、リーグチャンピオンの座を射止めていた。

 

 

 

「あははは!あーははは!」

 

「ぽちゃ!ぽーちゃ!」

 

「ぶいぶい〜!」

 

「ヒカリ〜?少し急いだ方がいいんじゃ…。」

 

「あぁ、うん!ダイジョーブダイジョーブ!」

 

 それからのヒカリは、暫し己が内に生まれた空虚感と共生しながらあちこちを転々としていた。

 その中で知り合った少女コハルをよそに、相棒のポッチャマと、コハルのイーブイを連れ花畑の中で満面の笑みを浮かべながらはしゃぐ。側からは脳天気にしか見えない2世トップコーディネーターは、内なる空虚感が何たるか既に掴んでいた。

 

「(ミクリカップ連覇からのグランドフェスティバル制覇…『トップコーディネーターアヤコの娘』としての栄冠は全て掴み切った。ならばわたしはこれから何をしよう?)」

 

 コレには悩んだ。盛大に悩んだ。

 旅と営業を重ねていくその中で、笑顔の内に悩みを押し隠す技術だけが上達していった。『女の子』が『女』になっていくのはこういうことなのかな?ぼんやりそんなことを思いながら旧ヒスイ時代の文化や生活様式を再現するシンオウフェスにも参加していた時、スマホロトムの撮影機能を駆使して楽しそうにカメラの向こう側へトークをし続けている人を何人か見かけた。

 

「動画…動画かぁ。」

 

 これまでヒカリがパフォーマンスして来たのは常にステージの上。生の視線に囲まれながらの表現の世界が居場所であった。

 動画配信はもっと多くの、それこそ世界中の人々と関わり、繋がり、己を表現出来る。ヒカリは、長いトンネルを抜けた気分がした。

 

 

 

「うーん。なんか今ひとつ決め手に欠けるような…。」

 

「ぽちゃあ…。」

 

 そうして見つけた新たな道も、コンテストの世界同様茨の道であった。側から見ればエリート街道をまっしぐらに進んでいたように映るが、ヒカリからすれば当然そんなことは全くない。

 姉貴分のノゾミや高飛車ながらストイックなウララ、奇想天外なパフォーマンスで思わぬところから喝采を攫うキャンディ・ムサリーナといった良きライバルたちと競い合った日々が、ヒカリのポケモンコーディネーター人生を激しく彩っているのだ。無論、彼女たちだけではない。

 

「お邪魔しまーす…何やってるんだ?ヒカリ?」

 

「あっ、ケンゴ。」

 

 幼馴染の少年ケンゴが自宅の部屋に上がり込む。小さい頃からの付き合いからヒカリは特に気にも留めない。彼もまたポケモンコーディネーターとしてのライバルだ。

 

「なにやってんの?」

 

「動画の編集。なんか上手くいかないのよねー。」

 

 ケンゴはスマホロトムと格闘するヒカリの隣に座り、液晶を覗き込む。

 

「始めの挨拶周りを定着させてないからじゃあないか?あとここはさ…。」

 

「えっ?あぁ。」

 

 ポツリと諭した一言、そこからのアドバイスがヒカリの中でストンと落ちる。それがヒカリの開設したポケチューブチャンネル『HIKARIN TV』の本格的な始動となった。

 それまでは、コンテスト時代を知るいわば身内の幾人かのみが知るようなヒカリの、彼女なりのたいあたりな企画が微笑ましく見られる登録者数千人規模のチャンネルであったのが、ケンゴがカメラマンを買って出るようになってからは一気にファンが爆増。ポケモン歴2000年となった頃には登録者1000万人を突破していた。

 コレにはヒカリを第三者の視点から見据えて魅力やネタを引き出せる相方のおかげも大きかった。無論、やらかして炎上騒ぎの沈静化や、コンビを見てのガチ恋勢の暴走への対処など、厄介な事案もあった。

 これからもそのような困難は待ち受けているだろうが今のヒカリは、間違いなくポケチューバーとしてパイオニアの地位を確立していた。

 

 

 

「ヒカリとはどうなんだ?」

 

「聞きたい意味で答えるならそういうのはない、かな。」

 

 店内のトイレでケンゴがタケシに問いの答えを返す。用を足し終え、洗った手をハンドドライヤーで乾かしてから消毒液を掌から両手全体へ浸透させてゆく。

 

「正直、邪険にされてないだけマシかなってさ。」

 

 力ない笑みでケンゴが過去の自分を責めるでもなく回顧するのを見てはタケシも聞く体勢に入ることにした。それは、当時から見ても気になる女子をあえて弄って気を引く類の男子の好意であるのはタケシからしてなんとなく分かっていた。

 幼稚園時代、ポケモン慣れさせる教育の一環として施設に回されていたおうえんポケモンのプラスルとマイナン。そのお世話体験の際にヒカリが不手際を起こして電撃を喰らい、弾けたヘアスタイルを『ピカリ』と呼び笑い者にし、トレーナーデビューしてからも度々彼女のトラウマを抉り続けていたのがケンゴなのだ。

 

「ヒカリがポケチューブ始めた頃はさ。ちょうど僕もコンテストでなんというか、頭打ちになってたような時期でスランプだったんだよね。そこで彼女の家に顔を出したら、そこから先はあっという間だったよ。」

 

 好きだからこそヒカリの長所も短所も動画として演出に使える。それを知っているのは自分だけ…それが、ケンゴの自負であり、想像していたものとは形は違えど確かにヒカリと道を同じく出来た要因に繋がった。

 

「だからさ。このままでいいんだよ僕たちは。そう思うことにしてる。」

 

「そうか。」

 

 ケンゴが先にトイレから出れば、タケシも手を洗う。

 見たところ、ヒカリからケンゴに対していわゆる『LOVE』の方向の矢印は一切向いていない。脈のない片想い…それでも構わない、とケンゴは言い切っていた。

 報われぬ恋でも彼女の側に寄り添えるならという献身に、タケシは『漢』を見ていた。

 

 




 『ヒカリ』
 13歳。動画配信者。
 ポケモンコーディネーターとしての活動に満足してから転身。ケンゴをアシスタントに迎えて絶賛ポケチューバー生活を満喫中。
 相棒のポッチャマは動画内でも大人気なんだ。
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