3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
イッシュで彼女の動画に出演してからの打ち上げで、別れた後の話をサトシとタケシは聞くのだった。
「タケシ!試合始まっちゃうぜ。」
「ぴかちゅ。」
「すまんすまん。」
タケシがトイレから戻れば、3人は店内に備え付けられたテレビを注視していた。
時間は夜19時。PNTTにおいてサトシたちと反対側ブロックの団体戦が中継されるのだ。
「きっとワタルさんが勝つぜ。」
「いいえ、ミクリ様が勝つわ。」
これからぶつかる2チームのうち、サトシがジョウト代表チーム<シロガネ>の肩を持てば、ヒカリが負けじとホウエン代表チーム<サイユウ>の肩を持つ。
「ワタルさんだ!」
「ミクリ様!」
「「ぬぬぬぬぬ!」」
「こらこら。お店の皆さんに迷惑だぞ。」
推しが分かれ、額をぶつけ合わせる勢いで面突き合わせながらヒートアップするサトシとヒカリの間でタケシが2人を嗜める。3年前のシンオウ時代ではよくあった流れだ。彼らの足元では例によってポケモンたちも宴会を勝手に始めている。
「あれ?おい3人とも、オーダー表!」
「「「えっ?」」」
ケンゴが指差すのを見れば、3人はおろかこの試合に関わる誰もが驚愕を共有することとなる…。
『"氷の貴公子"ヤナギ監督の奇策が試合前より炸裂ッ!!サイユウスタジアムに動揺が広がっております!!』
電光掲示板に映し出される両チームのオーダー表は以下の通り。
『ダブルバトル2
テツヤ&マサムネvsケンタ&ジュンイチ
ダブルバトル1
センリ&ハヅキvsアカネ&チリ
シングルバトル3
マサトvsワタル
シングルバトル2
アダンvsイブキ
シングルバトル1
ミクリvsシバ』
「ワタルさんがシングル3に回ってる、ってことは…。」
「早いうちに3勝取りきって、ミクリさんまで回さない算段ということだろうな。」
サトシにタケシは補足する。それ以上にタケシが気の毒に見るのは、ワタルと当たることになったマサトである。
ハルカから送られたポケラインのグループへのビデオメッセージで、サトシを相手にそれなりに戦いが成立するくらいのトレーナーになったらしいことは窺えたが、やはりまだまだデビューしたばかりのルーキーだ。押しも押されぬチャンピオン相手には分が悪いとしか言いようがない。
「いいなぁマサトの奴。ワタルさんとバトル出来るなんて。」
「ぴかぁ〜。」
一方サトシは呑気なものである。コレが包み隠すことなく本心なのだからなお始末に負えない。
「あっ?あれ、マリナさんじゃあないか?」
「え、どこどこ?」
「ほら、ジョウト側の応援席。」
「ホントだ〜!」
目敏くケンゴが続けて画面を指差した先を見たヒカリが目を見開く。コンテスト時代、ミクリカップV2を飾る決勝の舞台で争った憧れの『トップ・オブ・トップ』…今でも彼女に競り勝てたのは当時の自分がいわゆるゾーンに入ってたからに過ぎないと思うヒカリは、過去最大の難敵を思わぬところで見かけていた。
場所を移す。ホウエン地方サイユウスタジアム。
ジョウト側応援席にて、青緑色の髪が上向きに跳ねた二つ結びの美女が金銀の鮮やかなチアガールズを従えパフォーマンスを行っている。
「Fight!シロガネ!!GO!GO!シロガネ!!」
「「う、お、お、お、おおおおお!!マ、リ、ナ〜〜〜〜〜!!」」
チアガールズのセンターから手慣れたウインクを飛ばしてきたマリナに、黄色と黒の帽子を後ろ向きに被るケンタと、黄土色の髪で中心部が跳ね上がるジュンイチがバトルコートで感涙している。
「くぉらぁ!男子2人ぃ!もう試合やで、気ィ入れんかぁい!!」
ジョウト側ベンチから身を乗り出し怒号を飛ばすのはピンク髪の二つ結びで暴力的なダイナマイトボディが信条のジムリーダーアカネだ。ケンタとジュンイチを怒鳴り散らすので自慢のたわわな乳房がバインバインと揺れている。
「あちゃ〜完全に茹で上がってますわ兄さんがた…お二方からも注意したって下さいな。」
アカネの隣でチリが振り返れば、ワタルとシバも完全にマリナのパフォーマンスに目が向いていた。
「いいな。」
「あぁ…いいな。」
腕を組みながらしみじみとマリナを見て頷いていれば、イブキが手に持つハリセンを振り下ろし、2人の頭を無言で張り倒す。
「兄さんがたもアカン!こうなったら監督はん!いっちょビシッと言ったってください!!」
「私もマリナくんのサイン、欲しいのう。」
アカネに振られたヤナギの一言でジョウト側ベンチの全員がだああっ、と盛大にずっこける。
ギャハハハハ…!!
「いいぞー、ニッポンいちッ!!」
客席からのウケも上々で、チーム<シロガネ>の皆『はいっ!』とポーズを決める。一連のやり取り全てがさながらお笑いの舞台のそれであった。
「さすがはお笑いの殿堂ジョウト地方を代表するつわものたち。ああやってチームの結束を高めているわけか。」
「別にそこまで深いこと考えてないんじゃあないかなぁ?」
「そうなのか?」
この真面目すぎる性質が我が父最大の美徳であり悪徳でもあるのだろうとマサトは思う。トレーナーデビューを果たし、広い世界に目を向けるようになってから自分の家族を顧みてのことだ。
実際、センリの清廉潔白さに魅せられてよくないハッスルが目立つのが故郷トウカシティ北部…通称『キタトウカ』なのだから。
「あー、あたし補欠かぁ。」
一通りの寸劇に付き合ってからため息を吐く茶髪の二つ結びに白い帽子を被せ、赤いシャツに青いサロペットを合わせた少女コトネが少し不満げに漏らす。
そんなコトネの横顔を見て微笑む緑髪の少年カズナリには、場を支配するトップコーディネーターの色香などは通用しなかった。隣にいるコトネさえ見ていれば幸せだからだ。
「んー?」
視線を感じて振り向くコトネに、慌ててメガネの奥の視線をタブレットロトムの液晶へ向ける。彼女への好意はあれど、チームのデータマンとして仕事は完遂せねばならないのだ。
「ほへー、さっすがとっぷこぉでねぇたぁっちゅうんはすげぇンだなァ。」
「そうだね。チーム<シロガネ>の男の人たちに活力を与えている。」
マリナの魅力に奮い立つ…というよりは魅了され、アテられている対戦相手のケンタとジュンイチを前に道着姿のガッチリとした体格の少年マサムネが呟けば、深碧色のコートを羽織った青年テツヤも頷かざるを得ない。
ふとテツヤが背後から視線を感じ軽く振り向けば、ホウエン側ベンチから監督のフヨウがジェスチャーでこちらに指示を飛ばしている。
「(了解。)マサムネくん。」
テツヤがマサムネにも自陣ベンチを向かせれば、2人への指示を浸透させる。マサムネも頷けば、この空気を一気にひっくり返す作戦に乗った。
「ホウエンのペアはサトシも知ってる2人だな。」
「うん。」
場面を移せばイッシュのカフェ。タケシにサトシは頷く。どちらもホウエンリーグで戦い、テツヤに関しては敗れた相手だ。忘れたくても忘れられない。
「ジュンイチのペアはどんなトレーナーなんだ?」
ジョウト側のペアも片方のジュンイチとは手合わせした記憶がある。彼のメガニウムは、サトシのフシギダネですら手を焼いた相手だ。
「お前がワールドチャンピオンになった時期にジョウトリーグを抜けてチャンピオンリーグへ駒を進めてる強豪だな。少なくともジュンイチと波長を合わせて戦えるくらいには強いはずだ。」
「ふーん。」
検索サイトの受け売りでしかないが、とタケシは捕捉する。
そうこうしてるうちに画面の向こうの審判が試合開始のコールをかける。また場面を移そう。
「「いけェ!!」」
「「ぐろぉーッ!!」」
テツヤとマサムネは共に青緑色をした円盤状のボディが煌めくメタグロスを投入。ホウエン地方を代表する強力ポケモンに場が沸き立つ。
「いくぜーッ!!」
「そーれ!!」
「ぶぁぁぁ!!」
「めがにゃあ〜!!」
ケンタの先発は背中に集中した発火器官を活かし、炎をたてがみのように噴き出すかざんポケモンバクフーン。その隣にはサトシも知るジュンイチのメガニウムが立つ。
「「うッ!?」」
いざ戦わん!高まったムードのケンタとジュンイチが目を見開く。
相対するテツヤとマサムネが、腕に装着したメガリング…そこに埋め込まれたキーストーンを起動させていたからだ。
「悪いけどそのムード、ひっくり返させてもらうよ!」
「いくぞ〜メタグロス!!」
「「メガシンカ!!」」
「「ぐぅろぉ〜〜〜!!」」
ダブル投入されたメタグロスが、さらに同時にメガシンカ。
虹色の繭の中でメガメタグロスとして大きくバージョンアップした姿を見せる。
ギュルルルル…!!
そのまま前方に突き出させた4本の腕とともに全身を回転させてゆく。
「狙いはこっちかッ!!」
メガメタグロス2体によるダブル・スクリュー・ドライバーの行く手には、バクフーン。ケンタは握り拳を振るわせる。
「ケンタ!」
「任せとけって、ジュンイチは作戦通りに!」
不敵な笑みとサムズアップを贈られたジュンイチとしては、相方に従うよりない。ケンタは3年前からこうだ、と。
「メガニウム、にほんばれ!」
「にぅあ〜!」
メガニウムはバクフーンへの援護には行かず、全身を発光させスタジアム上空へパワーボールを打ち上げる。
エネルギーが詰まったそれは疑似太陽となり、日差しがフィールド全体へ降り注ぐ。
「攻め手を封じれば崩せるはずだ!」
天候を操っての盤面構築などは折り込み済みの集中攻撃。スクリュー回転するメタグロスのかたいツメがバクフーンに迫り、その身を…
ガッチィィィ!!
「なッ…!?」
「なにィッ!?」
捉えはしなかった。
「あーっとバクフーン抑えたッ!!2体のメガメタグロスの突進を、それぞれ片手ずつで止めたーッ!!」
「まぁ、なんと荒々しい…!」
これには放送席に呼ばれた解説役であるカナズミジムのジムリーダーツツジも驚くよりない。
「OK!完璧だぜジュンイチ!」
メガニウムが打ち上げた疑似太陽、その熱を頭上に感じながらケンタはバクフーンの背中を見る。
「ばくくぅ…!」
「「ぐろろ…!!」」
かわすとか逃げるだのはまどろっこしい、常日頃からそう言い切る直情的な主人の性質を受け、相棒はメガシンカポケモンの連携を抑え込んで見せている。
それは、あのいけすかない目をした赤い髪の男に敗れ、リベンジを誓った特訓の日々が互いの血肉となっていることの証明と言えた。
まぶしくて、おおきくて、もえてるあの朝日への誓いは今も胸にある。新しい風に吹かれても変わらない俺の夢…そう!ポケモンマスター!!
「バクフーン!いくぞーッ!!」
「ばぁぁぁ!!」
バクフーンは2体のメタグロスを片手ずつで抑えたまま、ぐるぐると回転し、その勢いを活かして空中へ放り投げる。
「パワー全開ッ!!」
「ふぅんッ!!」
放り投げてすぐフィールドに両手を突き四つ足の姿勢に入れば、背中の発火機関が熱と光を放ち…
「ふんか攻撃だぁぁぁぁぁッ!!」
「かぁぁぁぁぁッ!!」
灼熱の炎を打ち上げ、メタグロス2体を一瞬で焼き払った。
「ぴかぁ…!」
「すっげぇ…!」
場所を映しカフェにて。豪快なケンタの攻めにサトシもピカチュウも開いた口が塞がらない。
「理想的な晴れパーティの運用だな。テツヤさんたちも初手にメガシンカを切って流れを掴むつもりだったろうが…。」
ニビジムのジムリーダーであった頃の顔を見せながらタケシはフィールドに落着し、2体同時にメガシンカが解除され、戦闘不能のジャッジを受けるメタグロスを見る。
ホウエン側タッグの奇襲作戦も確かに理にかなったものではあったが、それを受け切ったケンタとバクフーンのパワーが上回ったのだ。
「あー…長靴ニャースもやられちゃった。」
可愛かったのに、とヒカリが試合終わりのタイミングでドリンクを一口。結果としては、序盤で完全にムードを掴み切ったケンタ&ジュンイチ組がそのまま押し切っての勝利となった。
途中、マサムネのウインディに乗ったテツヤの相棒のニャースが意地を見せ、連携における守りと補助を担当していたジュンイチのメガニウムをどうにか仕留めるもそこが限界であった。
ダブルバトル2は、ケンタとバクフーンの圧倒的な突破にて捩じ伏せられた形となった。
『ケンタ』
13歳。ポケモントレーナー。
真正面からのガチンコファイトを好む直情的なナイスガイ。幼馴染でトップコーディネーターのマリナにゾッコンであり、昔はカッコつけて好意を隠していた。
パートナーのバクフーンはウツギ博士からもらったヒノアラシを大切に育てあげたんだ。