3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
試合はそのままチーム<シロガネ>ムードのまま続き、マサトの降参により団体戦の決着もつくのだった。
『マサト選手、ここで降参を申告!審判がこれを受理したため試合終了ッ!!チーム<シロガネ>3勝達成のため勝ち抜き決定ですッッッ!!』
「マサトらしいな。」
「あぁ。」
パチパチパチパチ…!
サトシとタケシがテレビの向こうのマサトの健闘を讃えて拍手を送れば自然と店内からも拍手が上がる。
「2人とも残念だったね。ハルカの弟くん。」
「うん。」
拍手しながらもヒカリがサトシとタケシに声をかける。ヒカリも個人的な繋がりから、ハルカの弟としてマサトを認識はしていた。
3年前、ミクリカップのためにシンオウ入りしていた彼女とサトシたちを通じて知り合い、今も親交は続いている。熱心に動画をチェックしてくれているらしい。
「お疲れ。」
「パパ…。」
優しい瞳を向けながら父が息子の右肩に手を置く。
「出せるものは出し切れたか?」
「うん。」
「なら、いい。」
今は同じトレーナー同士頷き合えば、センリはマサトの眼鏡の奥の瞳が、触れた肩が震えているのを感じ取る。それで以て思わず心中喜んでしまった。
マサトは、悔しがっている。この悔しさをチャンピオン相手に抱けるならば、間違いなくまだまだ強くなれるだろう…そんな確信が父親として嬉しかったのだ。
「みんな、胸を張ろうじゃあないか。」
ミクリも送り出した時同様、マサトの左肩に手を置く。出番なしのうちの敗退なれど、ホウエン代表としてファンの前で毅然とした姿は見せねばならないと知っているからだ。
「どうだった?」
「かなり筋がいい。きっといい強者になるよ。」
チームの勝ち抜きを決めたワタルはフィールド中央にて整列のため集まる仲間たちを出迎え、隣に立つシバに答える。
「それはいいな。」
「彼が地方リーグを勝ち上がったら、シバもチャンピオンリーグに出てみるといい。」
「そうするとしよう。」
「(サトシくん。アイリスちゃん。きみたちもうかうかしてられないぞ。)」
次世代の才が萌える尊さをシバと共有するワタルは、この試合を遅かれ早かれチェックするであろう若きチャンピオンたちへ向け、思いを馳せた。
カフェのマスターはポケモンバトル観戦が趣味であるらしい。客に軽く断りを入れながらチャンネルを切り替える。
もう片方の試合中継が映し出されるのは、サトシたちにとっても都合がよかった。
「カロスvsカントーも今シングル3か。」
フィールドに立つのはユリーカと、タケシを一回り小さくしたような糸目の少年であった。
「カロス代表チーム<ミアレ>vsカントー代表チーム<セキエイ>の試合はダブルバトル2試合を終えて互いに1勝1敗!ダブルバトル2は四天王ガンピとジムリーダーコルニの役職持ちタッグを前にアキラ選手とカオルコ選手が惜敗!続くダブルバトル1は四天王カンナとジムリーダーカスミの師弟コンビがジムリーダーシトロンとアヤカ選手を圧倒しすぐさま1勝を取り返しております!シングルバトル3も既に両者残りダウン可能数は1体のみ、大詰めであります!!」
「こ、ここだぁ!ドサイドン、がんせきほう…発射!!」
「どっさぁぁぁい!!」
糸目の少年ジロウの指示を受け、ドサイドンは両掌の穴から猛烈な勢いの岩弾を発射する。
迫る砲弾に、相対するユリーカはしめた!と笑みを浮かべた。
「チルタリス、もこもこバリア!!」
「ちぃるぅ〜ッ!!」
もこもこもこもこぉ!ぼふぼふぅッ!!
「な、なにィッ!?」
「コットンガードの応用か。」
カントー側ベンチ、キクコ監督のすぐ前の席に座り腕組みしているシンジが呟く。
ドサイドンの放つ岩弾は、メガチルタリスが膨張させた背部の羽毛の前に絡め取られ、取り込まれてしまった。
味な真似をする…そう内心続ける。
「今がチャンス!チルタリス、もこもこリフレクション!!
「ちるったッ!!」
取り込み、無力化しただけではない。羽毛に防がれた岩弾が徐々に排出されていき…
ビュオン!
「どさ!?へぶあッ!?」
そっくりそのまま撃ち返される。
がんせきほうの反動により身動きの取れないドサイドンは、自らが発射した岩弾を脳天めがけ叩き込まれ、意識を手放してしまった。
『ドサイドン、戦闘不能、チルタリスの勝ち!よって勝者、チーム<ミアレ>ユリーカ選手!!』
『やったやった〜!』
『ちるるるる…!』
画面の向こうに、勝ち名乗りを受けてチルタリスと抱き合いながらはしゃいでベンチへ引っ込むユリーカの姿が映される。
「ユリーカも強くなってるな。PWTの頃からまたさらに。」
ピカチュウはポケモンたちのディナーの中の宴にて、いつもの如く十八番の形態模写の芸を披露しておりサトシの側を離れている。ポケモン同士の付き合いだ。
「あの娘も一緒に旅してたんだっけ?」
「そうさ。」
ヒカリにもハッキリと頷く。マサトやバンジロウ同様、ユリーカも着実に強くなり続けている姿を見れて嬉しくなった。
「タケシは、弟さん残念だったね。」
「あぁ。ま、真剣勝負だからな。」
勝つこともあれば負けることもある…そう、達観しきれないところをタケシは拭えない。
「(いわタイプの硬さは、トレーナーの"意志の固さ"に比例する。最後のところしか見れていないが、ジロウの表情にはどこか迷いや焦りが見えた。)」
長男として弟妹の面倒を見ながらジムリーダーをやっていた時期もあるタケシだ。親代わりという自覚から、ジロウのメンタル部分が不調気味であるのを察し取るのは容易なことだ。
「(何かあったな。ジロウ…。)」
ドサイドンをボールへ戻し、とぼとぼとベンチへ引き上げてゆく弟の姿を画面の向こうに見るタケシ。愛する弟の抱えた苦難の中身までは、それぞれの人生のため疎遠気味になっていて掴みようがなかった。
「うわ、なんだアレ!?」
「すっご〜い…!」
ケンゴがまず声を上げ、ヒカリが感嘆するのを聞きサトシもタケシも意識を現実まで引き戻す。
「「な、なんだぁっ!?」」
画面に映る光景に、同時に声を上げてしまった。
薄いピンク色の髪を右側に流し、十字型の髪留めをした褐色の美丈夫イリマは穏やかな性情の持ち主である。物腰も柔らかく、プリンスというイメージを付与されるのもむべなるかなというものである。
そんな彼をジロウが立ち去ったトレーナーサークルから見下ろすのは…鎧武者。比喩ではない。2mを越す巨体の全身を、正真正銘当世具足の鎧が包み込んでいるのだ。
無論、そんな出で立ちの相手から放たれる圧力に屈するイリマではない。
「(ポケモンバトルはトレーナーの身なりでするものでもないでしょう?)」
「フシュー…フシュー…。」
口には出さず、柔和な視線にて威圧を返すのを受け取る鎧武者の表情は見えない。全身の具足と同じ鉄に漆塗りの黒々とした面具にて顔も全体的に覆われており、一定のリズムで呼吸音が聞こえる。
ギョロリとした瞳だけが、イリマを捉えていた。
「サトシ、ビックリするだろうなー。あの子のこと知ったら。」
カントー側ベンチ、カンナの隣に座るカスミは鎧武者の背中をボーっと見ながら呟いていた。
『これよりシングルバトル2チーム<ミアレ>イリマ選手vsチーム<セキエイ>サムライ選手の試合を開始します!!』
「サムライだって!?」
カスミの想起した通りのリアクションで驚愕を隠せないサトシはギョッとしながら画面の向こうの鎧武者を見る。
「知り合いか?」
「昔バトルしたんだ。」
タケシに簡潔に答える。
3年前、トキワの森を彷徨っていた頃に出会った帯刀と虫取り網の二刀流で今より簡素な装備ながら確かに鎧兜姿の少年は、サトシのトレーナー人生において初めてのポケモンバトル、真剣勝負の相手であった(ロケット団のあいつらは悪人なのでノーカウント)。
当時、傷付いたピカチュウの為という事情はあれどサトシに自転車を強奪され、挙句破壊されたのでその弁償を求めて付き纏う形で旅についてきていたカスミが2人の経緯の唯一の証人である。
「参ります!イーブイ!!」
「ぶいーッ!!」
サムライの威容、それはなにもその出で立ちからの圧のみでもない。純粋にポケモントレーナーとしての練度の高さが闘気、オーラとして鎧兜の隙間から漏れ出るのを感知するイリマの取る手立ては、初手エース投入であった。
イーブイがフィールドへ飛び出してゆく。
「むんんん…!」
サムライはボールは投げず掌の上に乗せたボールが開閉して射出光がフィールドへ直接放たれる。
イーブイを見下ろすのは、小さな棘が複数突き出た長い2本角と、縦に長く横並びの歯が生えた口が特徴の虫ポケモン。太く短い脚に対し、腕はその倍近く細長いその名はくわがたポケモンカイロス。
「さぁ先に王手を賭けたチーム<ミアレ>、このままイリマ選手が決め切るか、はたまたサムライ選手が巻き返すのか!?」
「いいわねあのカイロス!まさに歴戦の猛者って感じ!」
スタジアムの最前列を走り回り、さまざまなアングルから一眼レフカメラで撮影していくのは毛先が虫の触覚のようにカールした金髪と太い眉がチャーミングポイントで白いタンクトップを非常にたわわな乳房でいじめている美女はカロス地方ハクダンジムのジムリーダービオラである。
彼女の見立て通り、サムライのカイロスは全身至る所に傷があり、多くの修羅場を潜り抜けているであろうことは否応なく伝わってくる。
「おいでフレンズ!」
「ぶーーーい!!」
初手にエースを投入した以上は相応のリターンを得なければならない。
イリマの決断は迅速であった。Zリングを起動し、それに応えるようにイーブイが咆哮する。
「今、空と大地を超え、僕のイーブイに君たちの力を分けてください!」
ポポポポ〜ン!!
イーブイの呼び声に反応し、スタジアムのあちこちからモンスターボールが開く音。そして各所からイーブイフレンズ…イーブイの進化系ポケモンたちが集結していた。
「イリマさん、いきなり本気だね!」
「それだけの相手と見たのでしょう。」
カロス代表のジムリーダー枠であるコルニとシトロンもサムライの闘気を肌で感じ取っている。特にかくとうタイプのエキスパートであるコルニに至っては、二の腕に鳥肌が立っていた。
「ナインエボルブースト!!」
「ぶーーーーーい!!」
イーブイフレンズからのエネルギーを受け取ったイリマのイーブイが8色の光を纏う。
それを見たサムライは左腕の籠手、その手の甲部分にあるカバーを取り外せばそこにはキラリと光るキーストーン…。
「あーっとサムライ選手、Zワザに対抗してかメガシンカ発動!カイロスが虹色の繭の中に包まれてゆくーッ!!」
「一意専心、乾坤一擲…カイロス…メガシンカ!!」
繭から姿を見せるのは強化された角に加え二対の翅を得て飛翔する黄色の双眸が、ギラッと輝く。
メガカイロス。その威容に怯むことなくイーブイは駆け出してゆく。
「イーブイ、すてみタックル!!」
「ぶいぶいぶいぶいぶい!!」
「コー…ホー!コー…ホー!!」
「マカセロス!!」
カイロスもまた翅を羽ばたかせて突進。技としては同じくすてみタックルだ。
ズッガァ!!
「両者スタジアム中央にて正面衝突ゥゥゥーーーッ!!」
グググググ…!!
額を擦り合わせるようにぶつかる2体。その均衡はやがて崩れ…
「ぶぃ〜ッ!」
「イーブイッ!!」
弾き飛ばされたのはイーブイであった。
『ミクリ』
28歳。ホウエンリーグチャンピオン。
ポケモンコンテストの世界でも傑出した実力を持ち、『コンテストマスター』の異名を取る。
世界一美しいポケモンと言われるミロカロスをパートナーに幻想的なみずのテクニックを数多駆使するその実力はダイゴと全くの五分五分。