3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
互いに後がなくなれば残す手立てはあと1つ、エースポケモン同士のガチンコ対決のみだ。
「今の絶対しんそくよ!間違いないわ!」
「そうかな?でんこうせっかを徹底的に鍛え上げただけなようにも見えるけど。」
「しーんーそーくーでーすー!」
画面の向こうのレオンの超スピードの一撃をヒカリとケンゴが議論している。
ヒカリとしては手持ちにいて、当該の技を一時期覚えていたしゅくふくポケモントゲキッスとの関わりから確信を持っている。
一方のケンゴとしては、ヒカリの言い分に一定の理解を示しながらもピカチュウというポケモンの性質上覚える技範囲にはなかったはず、と反論した。
「アレがしんそくにしろ強化型のでんこうせっかにしろ、あのスピードを捉えないことには始まらない。もしそれが遅れたりしたら…カルネさんでももしかするかもしれないぞ。」
そんな2人のヒートアップする様を宥めるように話すタケシはチラ、とサトシを見る。
依然としてその意識が画面の向こうにあるとなれば、試合が終わるまではそのままにしておくことにした。サトシにとっての、ヒロシとの因縁もよく知っているからだ。
レオンがしんそくを習得したのは去年のチャンピンリーグ直前の時期であり、習得に着手し始めたのは3年前、ヒロシがホウエン地方を旅していた時のことである。
ハカタシティへと向かう新幹線の中で出会ったサクラ仙人なる人物から極意を伝授され、ようやく完成に漕ぎ着けたのだ。
「さなッ…!」
「ぴっか!」
シュバッ!
サーナイトが左腕を振り払うのに合わせてピカチュウは空中へ飛び退き、また姿を消す…と同じようなタイミングでパパパと今度は右サイドより走り込んで来る。
「サーナイト、ムーンフォース"速射"!」
「さなはぁ!」
右掌からピンク色をしたフェアリータイプのエネルギー弾を発射するサーナイト。
レオンは瞬時にバックステップ。観客やカメラが早々に追いきれなくなっている超スピード撹乱を前にカルネが対応出来ているのは彼女もまたサーナイトとサイコ・リンクを発動しているからに他ならない。
当然のことながらヒロシのそれと比べるまでもなく精密生や取り回しなど全てに上回っている。13歳の小僧とはトレーナーとして潜り抜けてきた修羅場の数からして違うのだ。
「(肉弾戦頼り、でもなさそうね。)サーナイト!」
「レオン!」
「「10まんボルト!!」」
「ぴか、っちゅううう!!」
「さなぁぁぁ、はぁぁぁ!!」
バチチチチチチチィィィ!!
しんそくによる撹乱をしつつピカチュウの頬の電気袋がスパークしていたのもカルネには見えていた。10まんボルトを合わせたのも半分ほどはメガサーナイトのパワーを示威し、精神的なアドバンテージを得んが為の戦略だ。
「(流石に互角にはならないか。)」
エスパー、フェアリーの2タイプを持つサーナイトからすれば、でんき技の10まんボルトは補助的な役回りでしかない。
正真正銘でんきタイプであるピカチュウの、いわゆる本場の10まんボルトとぶつけあって競り負けることそのものは折り込み済みである。
「さぁな!」
ギンッ!!
サーナイトの両眼がサイコパワーにより紫色の発光。迫る電撃を捩じ切るように消し飛ばすサイコキネシスで、そのままピカチュウをもキャッチしにかかる。
「レオンッ!」
「ぴぃか!」
ババッ!!
レオンが空へ逃れた。ジャンプ一番、それはいい。ただ、尻尾のバネすら使わず両足踏み込んでのものとしてはあまりにも高すぎる…。
「空気の流れが…。」
カルネはハッとさせられる。スタジアム中を駆け巡る空気、風がピカチュウを吹き上げ、サイコキネシスの回避に一役買っていた。
「つむじ風?」
「はい。おそらくはキョダイマックスバタフリーが巻き起こしていた突風の影響が残っていて、そのエネルギーの残滓であるつむじ風を利用してヒロシ選手のピカチュウは大ジャンプをしたんだと思います。」
「流石はシトロン殿、博識であるな。」
コルニにシトロンが話せば、ガンピは彼のサイエンスに対する深い造詣を誉める。
いやぁ、と照れるシトロンを横目に監督のウルップはジッとピカチュウの、さらに上空を見つめていた。
「キョダイマックスしてたとはいえバタフリーの羽ばたきだけでコレなら…。」
ポツリ呟く。チーム<ミアレ>の皆、監督の視線を追えば、そこにある光景に目を見開かされてしまうのである…。
「さなッ!?」
「アレは…!?」
カルネもサーナイトも遥か上空を見つめ事態の把握と共に脂汗をかく。
ピカチュウの頭上には…積乱雲。ゴロゴロと、唸るような音を立てている。
「キョダイマックスバタフリーの発生させたひこうエネルギーの残滓がつむじ風となったんだ。伝説のポケモン…とりわけ"海の神"と称されるほどのルギアの置き土産とすればこのくらいの話にはなって来るさね。」
キクコはカラカラと笑いながら試合を注視する。
ポケモンのタイプエネルギーとは自然界のエネルギーに根差している…こと伝説のポケモンにカテゴライズされる彼らが何故強大なのかと言えば、ひとえにより原始的な自然エネルギーを我が物とし、周囲の環境に影響を与えるようになるからではないのか…というのは、戯れに在籍していたタマムシ大学時代、『永遠にして宿命のライバル』から耳にオクタンが出来るほど聞かされた推論であった。
「全て狙い通り、か。」
ルギアも、キョダイマックスバタフリーも、倒れこそすれど残した爪痕によりヒロシをなおも支え続ける。戦術としては見事だ。そこは認める。
「気に入らんやつだ。」
ポツリ、シンジは独白(毒吐く)。初めて顔を合わせた時より感じていたヒロシへのいけすかない思いの理由が、ここで改めてハッキリとした。
やはりコイツは、同じくピカチュウを連れたアイツとそっくりなのだ…!
「レオン!今こそ風を、雨を呼べ!!あまごいだッ!!」
「ぴぃぃぃかぁぁぁ〜…!!」
空中に飛び上がってのレオンの雄叫びが天へ届く。そうして現れた雲々が広がっていき…
ポツッ!ポツッ!ポツツツツッ!
やがて雨が降り始め、
ゴロゴロ、ゴロロロッ…!
蠢くように雷鳴が響く音を増していく。
「(冗談じゃない!)」
ルギアの放っていたエネルギーの残滓によって形成された雷雲ともなれば、それはまさしく嵐と形容しても良い。そんなところから雷など落とされようものならたまったものではない。
「サーナイト!」
「さぁー…!」
サーナイトは両手首を合わせて手を開いて体の前方に構え、次に腰付近に両手を持っていきながら、
「なぁー…!」
体内のフェアリーエネルギーを両手の間に集中させてゆく。
「さぁー…なぁー…!」
「最大パワーでムーンフォース!!」
「さぁぁぁぁぁッ!!」
そして両手を改めて体前方へ押し出し、凝縮させたフェアリーエネルギーを発射。
カッ!ゴロロロロロオオオオオ!!
一直線に放たれたエネルギー波が、精密に自然エネルギーの中心点を射抜き、霧散させるのと同時の落雷は…!
「あーッと!こ、これはーッ!?」
「ぴ、ぴかぁ…!」
バチチチチチッ…!
サーナイトではなく、レオンの頭上へ叩き込まれていた。
「うっそぉ!?」
「もしかして隠れ特性!?」
「いや。ヒロシのレオンの特性はせいでんきなはずだ。」
仮に隠れ特性のひらいしんだとしても、ピカチュウというポケモンの持ちうるエネルギー許容量からして直接的な自然エネルギーの塊である今の落雷を無効化などはしきれない。ましてパワーアップなど図る前にオーバーフローして自滅するのがオチなのだ。ポケモンの放つ技としてのかみなりと自然現象としての雷は、その内包するエネルギーやもたらす結果はそれこそ天地の差である。
無論、自然現象の方が上で、ポケモンも鍛え抜けば同じような規模の事象を起こせもするだろうが、どうしても生物としての規格に限界はある。
「ヒロシ…レオン…!」
「ぴかぴ?」
食事を終え、宴会騒ぎもお開きにしたポケモンたちはとっくに解散し、それぞれの主人の元へ戻っている。
ピカチュウも例外ではなくサトシの肩によじ登り定位置へ舞い戻ったが、それに気付くことなく主人の拳は握り込まれ、プルプルと震えたままであった。
自然エネルギーの落雷を全身で浴びたレオンが空中で仰向けになりながら落下してゆく。
カルネに躊躇は…ない。
「サーナイト、シャドーボール!!」
「さなな!!」
両手から放つ闇玉をピカチュウの周囲めがけ無数に放つ。それらが途中でピタリと静止するのは、メガシンカにより強化されたサーナイトのサイコパワーにて制御されているからだ。
「"魔空包囲弾"…これで幕を引きましょう!!」
カルネとサーナイトの動きがシンクロし、同時に突き出した両手を構え、ピカチュウめがけ一斉に闇玉をぶつけにかかる。
「レオン…僕たちは…!」
「ぴかちゅ…!」
「賭けに勝った!」
ヒロシとレオンの不敵な笑みもまた、シンクロする。
ドドドドドオオオオオ!!
無数の闇玉が炸裂し、爆音が現場の人たちの鼓膜を容赦無く打つ。
大女優にしてチャンピオンカルネのバトル、その決着に相応しいフィナーレと言えた。
「(あの落雷がサーナイトに直撃していればこうはならなかったでしょうね。)」
勝利を確信しながらカルネは額の汗を拭う。
サーナイトも瞑目し、背筋を伸ばしたまま片足を斜め後ろに引き、もう片方の膝を軽く曲げるカーテシーのポーズを取る。が…
「ぴぃぃぃぃぃかちゅううううう!!!」
爆発のモヤを吹き飛ばす、気合い。
サーナイトと正対するニュートラルポジションには、バチバチと全身にオーラとスパークを纏わせた、ヒロシのレオン…!
「さぁな…!?」
その威容を見てカルネは愕然とする。そして察したのだ。落雷を呼び込んだヒロシの本当の狙いを。
「確かに、いくらレオンが強くタフになったところで自然エネルギーによる雷をまともに受ければあっという間にオーバーフローでダウンです。でも、だからこそ…カルネさんほどのトレーナーならすぐに動くと思ってました。」
「…あたしたちが、即座に雷雲を吹き飛ばすと読み、あなたのピカチュウ…レオンとして耐えられるギリギリまでパワーダウンされた雷を浴び、エネルギーとして変換した…!!」
拭ったはずの脂汗が、程よく塗られた化粧と混ざり合って額から顎まで伝い、滴り落ちる。
シャドーボールの包囲も、落雷によるパワーアップを活かしてやり過ごしたのだろう。
「サイコキネシスッ!!」
ピカチュウが満身創痍なのは変わらないのだ。
「さなぁ!!」
その身を捉えんとサーナイトは視界一杯にサイコパワーを放ち、黄色い影をキャッチしにかかるも、
「レオン、しんそくだッ!!」
「ぴかッ!!」
あっという間に視界の外へ逃げられる。それだけではない。
ドッゴ!!
「ぐなァ…!?」
黄色の肉弾がサーナイトの左脇腹に深々と突き刺さる。今度はガードする間もなく…
ガガガガガガガ…!!
「さな、ん、ながッ!!」
落雷を浴びてのパワーアップはレオンの筋肉や神経を研ぎ澄まし、サーナイトの反応すら超えた先の肉弾の連打を見せる。
サーナイトはガードも追い付かず、全身を瞬く間に打たれ続けてゆく。
「あー、あれだよ。こりゃあ、かなりやばい。」
「でもカルネさん諦めてない!」
ウルップの呟きに被さるようにユリーカは声を発する。
メガサーナイトが打ちのめされながらも、その右手には、ほんのりとピンク色のエネルギーが集められてゆくのが見えたからだ。
それはPWTの折、ユリーカ自身が体験した良きライバルの最後の一手とまるで同じであったからだ…。
『ウルップ』
51歳。カロス地方エイセツジムのジムリーダー。
キャッチコピーは『熱く厚い 堅氷』。『あれだよ』が口癖で不器用ながら愛情も懐も深い大人物。
カロス地方のジムリーダーたちのまとめ役でもあり、挑戦者としてジムを訪れたサトシにも1度勝ったほどの実力者だよ。