3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
自然エネルギーの雷を吸収したレオンによる猛攻、それでもカルネもサーナイトもしたたかにKOを狙っていた。
決着の時は、もうすぐだ。
カルネは元来勉強熱心でいわゆるマメなところがある少女だった。そんな一面が功を奏してルーキーイヤーのポケモン歴1978年にストレートでリーグチャンピオンになり、現在に至るまで王座は盤石。
子役から始まった役者としての下積み時代は山あり谷ありであったが挫けることなく着実にスターダムを登り詰め、大女優と呼ばれる地位を手にした。どれだけ立場や環境が移り変わろうと、日々の研鑽は決して怠らない。
たとえ取るに足らないルーキーの発展途上なスタイルだとしても、それが使えると判断すれば徹底的に模倣し我が物とする…本質的に貪欲なのだと自認していた。
「(しんそく一本で倒し切れるとは考えてないはず…目を通してきた試合記録からするに…!)」
「さ、なぁ…!」
「(必ず最後は大技で仕留めに来る!!)」
顔面だけはとガードするメガサーナイトの両腕にレオンは飛び蹴り。その反動で飛び退き空中で宙返りしながらニュートラルポジションへと着地する。
「ぴぃー…かぁー…ぴぃー…かぁー…。」
「(流石カルネさん…こっちのトドメに合わせる気だ。)」
レオンの頬の電気袋は浴びている落雷を受け流すための放電行為のために疲弊し、10まんボルトのような精密性を求められる遠距離技にはこの試合中もう使えない。
と、なれば残る手は肉弾戦より他にない…。
「決めるぞレオン!!」
「ぴぃかぁ!!」
落雷の影響か、体毛のあちこちが前髪のように逆立ったレオンは四つ足で構え、ヒロシに『おう!』とばかりに応じる。
「サーナイトの手が桜花に燃える!麗しくあれと轟き叫ぶ!!」
「さぁぁぁなぁぁぁ〜!!」
優雅な容姿とは裏腹のサーナイトの咆哮。それと同時に右手のフェアリーエネルギーを輝かせる。
「走れ閃光ッ!掴め奇跡ッ!!」
「ぴかぴかぴかぴかぴか…!!」
レオンは、黄色い閃光となって駆ける。
「両者スタジアム中央で大激突!!この結末を見逃すなーーーッ!!」
「ミラクル・ボルテッカァァァァァァァッ!!!」
「晴雲秋月!!ムーン・フィンガァァァァァァ!!」
「さぁなぁッ!!」
サーナイトが突き出した右手から凝縮したフェアリーエネルギーを放出する。
それはまさに『月』そのものの迫力…向かっていくレオンは、電気袋からありったけの放電をし、纏うオーラに上乗せしながら飛びかかる。
バッ!!チチチチチチチィィィィィィィ!!!!
ピンク色の『月』と、黄色の閃光が正面衝突。辺り一帯に衝撃波が飛び交い、バリアフィールドを素通りする突風は一部の観客の顔面を強烈に撫で、メガネやかつらを巻き上げてゆく。
「さンななななな…!!」
「ぴかぁぁぁぁぁ…!!」
衝突の拮抗が、カルネとヒロシには果てしなく長い時の出来事のように脳裏に刻み込まれてゆく。その未来永劫とも取れる交錯の中に、
ビュオオオッ!
一陣の風が吹き、シンクロしているカルネとサーナイトの両瞼が、ほんの僅かの瞬き…
「今だぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「ぴかぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
そこに、ヒロシとレオンは全神経を集約させた。黄色い閃光が拮抗を傾け、『月』を突き破り、
ドッゴォォォ…!!
サーナイトの胸元へ全身をぶつけた。
「さ、な…がッ…!」
0.4mの黄色い弾丸が、確かにサーナイトを射抜く。
レオンもその側にもんどり打つように倒れ込めば、それまで纏っていたオーラやスパークが一気に霧散する。ガス欠、エネルギー切れだ。
「ぴ、ぴか…!」
「レオン…!」
レオンは、四つ足で立ち上がる。立ち上がるのでやっとだ。
「ッ…!」
サーナイトは、動かない。メガシンカも解除されたのを確認した審判がポケモンチェックののち、
「サーナイト、戦闘不能!ピカチュウの勝ち!!よって勝者、チーム<セキエイ>ヒロシ選手!!」
団体戦の勝敗を決定づけるジャッジを下す。ヒロシは振り返り、背後の空を見る。そして、ボールホルダーにそっと手を這わせた。
「ありがとう、シルバー…パピー…。」
最後に吹いた風は、倒れたシルバーとパピーが起こしてくれたのだと思う。
チャンピオンカルネのメガサーナイトという超難敵を前に、ヒロシはレオンだけではない。試合に臨んだポケモンたち全員の力を結集させて勝利をもぎ取ったのだ。
そんな戦勝の余韻を感じる間もなく、ベンチから飛び出してきたチームメンバーに囲まれヒロシはもみくちゃにされてゆく。
「お疲れ様、ヒロシくん。」
「カンナさん…。」
「ナイスファイト。」
レオンを抱き上げ、遅れて合流するカンナの優しい笑みに、ヒロシは元気よく頷いて返した。
『ヒロシ選手の奮闘がチャンピオンカルネの牙城を打ち崩し、PNTT第1回戦チーム<ミアレ>vsチーム<セキエイ>の試合は、3勝2敗でチーム<セキエイ>が勝ち抜けとなりました!!』
画面の向こうの大歓声の中、団体戦を戦った選手たちがスタジアム中央へと集まり握手を交わしている。
『これにより、準決勝を戦う4チームも決定ッ!!8月5日、イッシュ地方ヒガキスタジアムにてアローラ代表チーム<マナーロ>vsイッシュ代表チーム<ヒガキ>、8月7日にジョウト代表チーム<シロガネ>vsカントー代表チーム<セキエイの予定となっております!!』
「ジョウトとカントーか…いわゆる因縁の対決、だな。」
サトシやタケシらが出身地としているカントー地方や、その周辺の地方及びそこに点在する独立国家は、広大なニッポン大陸において独自の共栄圏を展開して現在に至る。
その中で、中央に大陸随一の高山である『シロガネ山』を置いて隣接するカントーとジョウトには、それ故の深い関わりが共栄圏成立以前より存在していた。
『ポケモンはカントー圏に150種類近く存在している。』
ポケモン歴1987年にオーキド・ユキナリ…つまりはオーキド博士の名義で学会に提出、認可された研究データには、実際のところカントーのみならず、ジョウトやシンオウ、さらにはアローラのリージョンフォームといったカントー外のポケモンの生態記録も含まれており、それら全てが認可されれば300種近くのポケモンが彼1人の功績として世に知らしめられるはずであった。
が、そこに地方単位で異を唱えたのがジョウトのポケモン研究学会だ。
結果としてオーキド博士の功績は『ポケモン150種類近くの発見』と、『ポケモンが保有するタイプ15種類の分類』が認可される形となったが、その経緯もまたカントー、ジョウト間の複雑な地方間関係を勘繰らせる要因となっている(渦中の人物であるオーキド博士としては功績が削られたことに関して特にコメントを残したりはない。というのも研究データが認可されたすぐ後に妻を、その5年後には息子夫婦を立て続けに亡くしたことによる精神的ショックからそれどころではなかった…というのが実際のところである。)。
カフェでの試合中継が終われば、お客さんたちは席を立ち、会計して店を後にする。
「明後日の試合、絶対応援にいくね!」
「ははは、どっちのだ?」
「ケンゴ〜タケシが意地悪言う〜!」
ヒウンシティの夜空の下、街道を歩きながらヒカリが切り出せばタケシが軽口で返す。一時期イッシュにいて、アイリスとも仲良くなっているが故にサトシとタケシのいるチーム<マナーロ>とアイリスのいるチーム<ヒガキ>の、どっちを応援するか迷っているのもまたヒカリにとって事実ではあった。
「サトシ…大丈夫か?なんだか黙ってばかりだけど。」
「ん、あぁごめん。なんだっけ?」
既にサトシの意識は明後日の試合、そして決勝へと向いていた。おそらくは脳内に焼き付けたアイリスやヒロシの勇姿を自分が戦うものとしてイメージを重ねているのだろう。
ケンゴはいや、いいんだと会話を打ち切る。
「じゃあ私たちここで!サトシ!タケシ!おやすみなさい!」
ヒカリとケンゴが宿を取るホテルの前で手を振るのに応えながらサトシとタケシは通り過ぎてゆく。明後日にまた客席で見るであろう顔だ。名残惜しいことも特にない。
「凄かったな。アイリスもヒロシも。」
「うん。」
「3年前とはまるで別人だな。」
「うん。」
「ぴかぴ?」
サトシの空返事をタケシは気に留めることもない。思えばこの2人のみの取り合わせというのは長い付き合いながらあまり多くはないなとピカチュウは思い返す。大体もう1人は紅一点がいたからだ。
「しかしこのPNTTは各地方選りすぐりの精鋭が集まってるんだ。その2人ばかり意識してたら足元を掬われるぞ?」
「シロナさんやカルネさんみたいに?」
どうやらトリップ気味であった意識は戻ってきたようだ。聞き返すサトシはふわわ、と大口を開けて欠伸する。時刻は21時を回っており、サトシにはおねむの時間だ。
「あぁ。それに、ヒロシばかり意識しててもよくないな。チーム<シロガネ>が準決勝を勝ち上がってくる可能性だってじゅうぶんにある。」
「ワタルさんに、ジュンイチとタッグを組んでたバクフーンのトレーナー…すげーよな。」
ワカバタウンのケンタのことはサトシはよく知らない。中継内のテロップからザッと経歴はなんとなく掴めたが、それ以上に真っ向勝負を信条としたスタイルは好感であった。ぜひ戦ってみたいと思うほどに(サトシがこの大会で戦いたくないと言う相手などいないというのは禁句である。)。
「おやすみ〜…。」
「ぴかぁ〜…。」
ボフリ。帰り着いたホテルのベッドにダイブしたサトシとピカチュウはそのまま寝息を立て始める。
「シャワーくらい浴びてから寝ろよ…。」
リュックを下ろしながらのタケシの小言は既に夢の世界へ意識を旅立たせた両名には聞こえていない。こんなようなやり取り自体は3年前から幾度となくして来ているので特にタケシとしてもあまりキツく言ったりしない。むしろこの蒸し暑い8月によくそこまですぐ深く眠れるものだと感心すらしていた。それにシャワーなどは朝、チェックアウト前に叩き起こして浴びさせれば済む話である。
そもそもからして道に迷い、野宿も当たり前な旅路を行くポケモントレーナーとして、いつでもどこでもしっかり眠れるというのも才能なのだろう。
「さてと。」
こうなれば致し方なしとタケシはサトシを放置し、シャワーを浴び寝巻きに着替えてから備え付けのテーブルを利用してポケモン医学の勉強を少しして、日付の変わり頃に床につく…。
「お前、この朝寝坊の癖いい加減なんとかした方がいいぞ!」
「ごめーん!」
「ぴぃかぁ〜…。」
翌日、やはりというかなんというかチェックアウトギリギリまでにホテルを出るのでゴタついたのは、相変わらず寝起きの悪いサトシのせいであった。
サトシとタケシはケンホロウとしらとりポケモンスワンナの混成部隊によるそらとぶタクシーを利用してヒガキシティへと向かい、そこでチームの仲間たちと合流した(本来ならば朝一番の便で到着するのを空港で出迎える予定であったが案の定サトシを起こすので出遅れが生じたが故の措置である。)。
イッシュリーグの開催地としても用いられるヒガキスタジアムは、中央のメインスタジアムを囲うように4つのサブスタジアムが併設されている。
「これはいったい!?」
「なんということだ…!」
そのサブスタジアムの1つを借り受け、チーム<マナーロ>は試合前の公開練習を行う。
各々が明日の試合本番へ向け調整していく中、観客席の記者たちは驚きの声を上げていた。
チームが推しているハプウとスイレンの黄金ペアを相手に、サトシとシゲルが組んでダブルバトルを行なっているのだ。
「いつでもいいぜシゲル!」
「よし、カメックス!ハイドロポンプ!」
「がんめぇ!」
「いっけぇ〜!!」
カメックスのキャノンにあらかじめスポッと収まるモクローが、ハイドロポンプの水流とともに発射されては面食らうバンバドロに直撃する。
「意外だな…チャンピオンサトシはダブルで起用か。」
「いや、そうでもないかもよ?チーム<シュート>だってチャンピオンダンデが初戦ダブル2に出て来てたんだから。」
「そうか。チームリーダーが最終戦に回らなきゃいけないなんてことも特に義務付けられてはいないもんな。チャンピオンワタルはシングル3、四天王カンナはダブル1だったし。」
同業連中が口々に語る中、くせ毛の毛先がカールした茶髪の美女パンジーはサトシにただ一点『楽しそうにバトルしている』のを見て取り、メモを書き連ねながらカメラで撮影してゆく。
撮影スキルそのものは妹のビオラに譲るものの、被写体への情熱とリスペクトは欠かすことはない。
個人的にも一時期サトシとはカントーからイッシュまでの海路上に点在するデコロラ諸島を巡る冒険を一緒にし、カロス地方への渡航のきっかけになると、それなりに深い間柄でもあり、その縁から独占インタビューなども容易かったりもする。
「これであの名将アデクを騙くらかせるなら苦労はないけどな。」
それぞれの練習を見て回りながら監督のナンテはポツリ呟く。
明日の試合において、ダブルバトルのオーダーは既に決まっている。今サトシがシゲルと組んでるのはシゲルと一緒にバトルしたいと言い出したサトシのその場の気分を尊重したのと、黄金ペアの練度を高めさせるためのものでしかない。
要は周囲を撹乱させる意図あってのマッチングであった。いわゆる、やらないよりはマシ…という程度の話だ。
「ナンテさん。少しよろしいかしら?」
「はいはい、いきますよー。」
ハウと練習試合をするセイヨに呼び出され駆け足で向かう。
ともあれ出来ることは全てして、なんとしても3勝をもぎ取るのみ…監督としての責務を果たすべく、ナンテもまた選手たち同様必死であった。
PNTT第1回戦 シングルバトル1
カルネvsヒロシ
シングルバトル 6C3Dルール
カルネ ヒロシ
ガチゴラス● ルギア◯
パンプジン
→バタフリー
→ルチャブル
(キョダイマックス使用)
ルチャブル◯ バタフリー●
ルギア
→パンプジン
パンプジン● ルギア●
サーナイト● ピカチュウ◯
(メガシンカ使用)
勝者 ヒロシ