3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
サトシたちチーム<マナーロ>はヒガキスタジアムに入り調整を行う。次なる相手はアイリス率いるチーム<ヒガキ>だ!
「なんでだよじーちゃ〜〜〜ん!!」
「当たり前じゃろがばかも〜〜〜ん!!」
翌日8月5日の18時30分。ヒガキスタジアム内のチーム<ヒガキ>側控え室に祖父と孫の絶叫が響く。
去る1日のチーム<スズラン>との試合において大将戦へ望みを繋げる劇的な勝利を四天王オーバより収めたバンジロウであったが、ラティオスとの長時間のサイコ・リンクを強行した結果、その反動としてこの3日間昏睡状態に陥っていた。そんな状態の彼を試合に出すなどは身内である以前に選手の身を預かる監督として到底出来るはずもないとアデクはバンジロウを控えに回す決断をした。
もしも5戦で決着が付かない場合、補欠戦は不戦敗にて対応する所存であった。しかし、そのバンジロウがオーダーを決め切ってからの試合直前のミーティング中に目を覚ましたのはいいとして、ヒウンシティの病院を抜け出しここまで走って来たというのだ。そこから今日の試合で補欠に回されているのを抗議するバンジロウにヒートアップしてしまったのは、相手が孫であるというのも要因の1つであろう。
「まったくお前という奴は!無茶して皆に心配かけおってからに〜〜〜!!」
「うぎゃ〜ッ!ごめんよじーちゃ〜〜〜ん!」
「わ、我が師アデク!落ち着いて下さい!」
アデクのグリグリ攻撃はバンジロウに効果抜群であった。両手で握り拳を作り、相手の側頭部かこめかみに拳の先端を両側から挟み込むように宛がって固定してネジ込みまくる様に慌ててレンブが止めに入る。
ホミカはそんな馬鹿騒ぎを見てケタケタと笑う。
「くぅ〜痛ぇ〜!」
「まぁ今回は私たちに任せて、アンタは決勝に向けて準備してなさいよ。」
グリグリから解放され頭を抑えながらグロッキー状態なバンジロウの背中をバンバンと叩きながら快活に声をかけるのはラングレーだ。
バンジロウは彼女にブスッとした表情を向ければラングレーはスンッと澄まして見せる。
「ポケモンたちは大丈夫なのか?」
「うん。」
そうでなければ補欠撤回の直訴などしない、というバンジロウの瞳にシャガももっともであると頷く。問いの中に込めたポケモンたちへの配慮を感じられたのでそれ以上追求することもない。
「アイリスはずっとなにやってんだアレ?」
「マインドフルネス瞑想さ。アイリスは龍神瞑想って言ってたけどね。」
コテツとバージルが話す先には復活したバンジロウを中心とした喧騒をよそに控え室の片隅、椅子の上で正座し、手のひらを下にむけて膝や太ももの上に置き、背筋を伸ばしたアイリス。その目は優しく開かれたままま伏し目がちに1.5~2m先の床を柔らかく眺め続けている。
人間の背骨を通っている7つのチャクラと肉体の外側にある7つのオーラとを結んで動いている波動を龍(流)に見立てる。その波動やエネルギーの乱れを整えるためのマインドフルネス瞑想が『7つの龍神瞑想』であり、アイリスは3年前のマスターズトーナメントの後にこれを試合前のルーティンとして取り入れていた。呼吸に向けていた意識を、ゆっくりと戻してゆく。
「皆さ〜ん。入場お願いしますって。」
微かに聞こえていたカツカツと廊下を走って来るベルの足音と同時であった。ヒョイと椅子から立ち、仲間たちを振り向く。
アデクとのアイコンタクト。しっかりと頷き、口を開いた。
「みんな!今日の相手チーム<マナーロ>はダンデさんたちチーム<シュート>に勝って勢いに乗ってる。でもそれはシロナさんたちチーム<スズラン>に勝ってきたあたしたちだって同じこと!チームの全員で大きな1つのやじるしになって、この試合も絶対勝ちましょう!!」
「「「「「「「おうッッッ!!」」」」」」」
「チーム<ヒガキ>ー!!」
「「「「「「「ベスト・ウィッシュ!!」」」」」」」
アイリスの声出しからチーム<ヒガキ>全員の円陣が必勝の決意を共有し、控え室を後にする。
我ながらいいチームに仕上がったと自画自賛のアデクは、誰にでもなく照れ隠しに頭をかきながら最後尾に続いた。
「チーム<ヒガキ>の原動力と言えばやはり1回戦にてチーム<スズラン>戦におけるチャンピオン対決を制した彼女に他なりません。」
「アイリス…。」
チーム<マナーロ>の控え室でも試合前のミーティングは行われていた。
思いがけぬバンジロウの乱入と、そこから発展した騒ぎの収拾に終始していたチーム<ヒガキ>のそれと違い、1回戦同様ナンテが主導になってメンバーの手元にまとめられたデータのおさらいと補足を頭に叩き込んでいる。
「勢いに乗っているという意味では、彼女はチーム<セキエイ>のヒロシ選手と並び、今大会最強クラスでしょう。ハッキリ言って団体戦を戦う観点から今のチャンピオンアイリスとは正面切って戦いたくない…。」
ナンテが申し訳なさげな視線を送れば、サトシは困ったような笑みを返す。
「ぴかぁちゅ。」
「大丈夫です。アイリスとは、イッシュに来ればいつでもバトルできるんだし。」
サトシの言に安堵するナンテは話題を切り替えた。資料のページを移せば、そこにはオーバのゴウカザルをKOするラティオスと、飛び跳ねてガッツポーズするバンジロウが一面の記事が表示される。
「1回戦大金星のバンジロウ選手ですが、彼に関しては昨日の公開練習で姿を見せてなかったということは今日のオーダーに含まれていないと見ていいでしょう。」
チーム<ヒガキ>側の偵察に行ってもらったデントからの報告を受けた上でナンテはオーダーを組んだ。当然、バンジロウがサイコ・リンクの使いすぎで倒れた事実は掴んでいる。こちらの公開練習にも向こうのチームマネージャーとして帯同しているベルの姿は見ていたためお互い様としていた。
「ならラティオスへの対策は必要なしということ?」
「あまり優先度は高くなくて大丈夫でしょう。なんなら2勝2敗1分みたいな形になればそのままこちらが補欠戦を不戦勝として切り抜けられるかもしれませんな。」
セイヨの問いかけにナンテは首肯して見せながら次の項目へ話を移す。
「バンジロウ選手が事実上の欠場と考えるならば、オーダーの枠を埋めて来るのは1回戦でサブに回っていた彼女になるのは間違いないでしょう。ドラゴンバスターのラングレー選手。対ドラゴン戦術に特化した実力者です。ドラゴンのみならず、こおりやフェアリーに相性のよくないポケモンを無理に出すと痛い目を見るかもしれません。」
3年前のイッシュリーグにてサトシがアローラリーグを制覇した裏でアイリスもまたアデクから王座を奪取したことは周知の事実だ。そんな彼女を地方予選の舞台で文字通り最も寒からしめたのは、ドラゴンバスターとしての開眼、覚醒を見たラングレーであった。
当時1番の成長株で、PWTにおいては無敵街道を驀進していたシューティーを破り、決勝戦でぶつかったアイリスをあと一歩のところまで追い込んでいる。その翌年に主戦場をチャンピオンリーグへと移し、今もなお打倒アイリスに燃えている女傑なのだ。
「同じくチャンピオンリーグへ駒を進めているバージル選手、コテツ選手といった有望な若手を押し上げるようにアデク監督の愛弟子である四天王レンブが、イッシュジムリーダーの中でも実力上位と名高いシャガさん、ホミカさんが脇を固めている…これがチーム<ヒガキ>の陣容です。」
「流石は長らくチャンピオンで在り続けた名将アデクさんの率いるチーム…改めて見ても隙がない。」
シゲルが息を呑む。分かってはいたがやはり1回戦同様楽な試合運びにはなりそうもない。
「というわけでこれを迎え撃つオーダーとしましては、まずダブル2に先の申告通りセイヨさんとシゲルくん!」
「「はい!」」
今度こそは戦勝を期すチームきっての美男美女が力強く頷く。
「ダブル1は黄金ペア!」
「うむ!」
「は、はいッ!」
ナンテの発案により組まれたユニットとして、こちらも初勝利を目指すハプウとスイレン。
「シングル3にはカキくん!」
「任せてください!」
初のオーダー入りにカキは意気込みを見せる。
「シングル2にチャンピオン!シングル1にハウくん!お願いします!」
「「はいッ!!」」
サトシとハウが元気よく返事をする。
「みんな、頑張ってくれ。」
今回補欠枠のジェニーが柔らかな笑みと共にエールを送る。任せろ!とばかりに皆拳を見せて応えた。
「最後にチャンピオン、一言お願いします。」
ミーティングとオーダーの通達を済ませ、後は円陣を組むのみ。ナンテが1回戦と同じくチームリーダーのサトシに声出しを求めた。
「ガラル代表は強かったけど、今度のアイリスたちイッシュ代表もきっと凄く強いと思う。だから俺、もう昨日からワクワクが止まらないんだ!みんなで一緒にこの試合を目一杯楽しんで、そして勝とうぜ!」
「「「「「「「応ッ!」」」」」」」
「チーム<マナーロ>、"Winning"!!」
「「「「「「「「ゲットだぜ!!」」」」」」」」
「ぴっぴかちゅう!!」
声出しからの円陣。オーダー入りした選手はもちろんジェニーやナンテ、バックアップのタケシとデントも輪に参加して気持ちを1つにする。
「よし、行こう!行こうぜみんな!!」
大会スタッフからの入場指示にサトシが先導して控え室を後にする。目指すは勝利、決勝進出、そして優勝あるのみだ。
「全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様!本日はポケモンナショナルチームトーナメント…通称PNTTの準決勝、チーム<マナーロ>vsチーム<ヒガキ>の試合模様をお伝え致します!!こちら、ヒガキスタジアム放送席には実況として私、ジッキョー!解説兼素敵なゲストとして、このお二方に放送席を華やかにして頂きました!!」
「こんばんは。ライモンジムジムリーダーのカミツレです。今日はよろしく。」
「フキヨセジムのジムリーダーフウロでーす!よろしくお願いします!」
黒髪で、サイドの髪を長く伸ばしたヘアスタイルに右側が赤、左側が青のヘッドホンを着け、ボリューム感のある黄色いコートと、黄色と水色を基調としたセパレート式のコスチュームを合わせたスレンダーな体型のクールさが窺える美女。
隣には美女なのは変わらないが、向かって左前方に花、もしくはプロペラを思わせるリボンで束ねた独特なシニヨンをしており、両サイドのみ垂らす赤髪の人懐っこそうな顔つきで水色の飛行服に褐色肌を晒すヘソ出し型のホットパンツを合わせている。
どちらもイッシュ地方で極めて人気の高い女性ジムリーダーだ。
「さてお二方。この団体戦、どちらも非常に勢いのあるチーム同士の対戦ですがどう見てますでしょうか?」
「そうね…1つ言えるとするなら、より煌めきを放つ側がこの舞台を制する、といったところかしら。」
「私が見てるのはもちろん!どっちがより高くぶっ飛んでいけるか!コレに尽きます!」
「なるほど!」
カミツレはモデルとして、フウロはパイロットとして、それぞれジムリーダーとは別の道でも非凡な才を発揮する同士。
彼女たちの信奉する独特な要素を理解できるのはそう多くはないのだが、その美貌から本人たちがあまり困ることもないのもまた事実である。
ワアアアアアッ!!ウヒョーッ!!
「おっと、スタジアム両サイドより選手入場!中央へと集まりオーダー発表からのいよいよ試合開始となります!!」
時刻は19時、ヒガキスタジアムは超満員。これより始まるは…死闘、死闘のさらに死闘。
『カミツレ』
21歳。イッシュ地方ライモンジムのジムリーダー。
キャッチコピーは『シャイニングビューティ』。ジムリーダーと二足の草鞋のスーパーモデル。
でんきタイプのエキスパートでありエモンガやシビシラスによる凄まじいハイスピード戦術が大得意。