3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
その圧倒的なパワーを前には、歴戦の猛者たちもなすすべがなかった。
「ピカチュウ!10まんボルト!!」
「ぴぃぃぃッ、かッ!ちゅううううう!!」
バリバリバリバリバリ…
「「「あばばばば…!!」」」
ドゴーーーン!!
「「「やな感じー!!!」」」
「そーーーなんっす!!」」
キラリ。ロケット団が吹っ飛ばされはるか彼方へ消えていく。
いつの間に密航していたのやら、船に忍び込み例によってピカチュウゲットの悪事を企んだのがあっさり防がれてのことである。
サトシからすればちょっとスリリングなだけの、顔見知りとの定例行事のそれですらあった。
もはやじゃれ合いの領域である。最高の相棒を付け狙われ続けているサトシからしたら、たまったものではないのは無論あるが。
「お疲れ様、ピカチュウ。」
「ぴかぁ。」
ロケット団との何時ものやり取りを済ませ、肩に飛び乗るピカチュウの頭を撫でてやるサトシ。
これで船がどこかに停泊するまであいつらが悪さをしにやってくることはないだろう。そう安堵した。
コハルとタッグを組み、ハヅキとナオシのタッグとダブルバトルをしてからは、今しがたのロケット団とのいつもののじゃれあい(繰り返すがサトシからしたらたまったものではない。)以外は至って平穏な航路であった。
そんな中でサトシは、暇さえあればギャラドスを座椅子代わりにバトルを見学していたライチュウを連れている青年を探してみたのだが、見つけることが出来なかった。
毎食のビュッフェ会場でも完全に波導を押さえ込み、姿を消しているのを感じては、意図的に避けられているのかな?そんな気にもさせられた。
「あんな大きなギャラドスを持ってる人とサトシがバトルなんかしたらこの船沈んじゃうんじゃない?」
「あー…そうかも。」
冗談混じりのコハルの言にサトシは納得してしまう。
実際3年前、豪華客船サント・アンヌ号の沈没事故に巻き込まれた経験もあるからだ。
さらりとそのことを話すのと、船を沈めるほどの規模のバトルになりかねないことへの肯定に、コハルが顔を青くしていたのは言うまでもない。
そんな状態のまま船はそのうち、サトシとコハルの降りる予定であったカントー地方クチバシティに到着。
ギャラドスとライチュウの青年に巡り会えなかった名残惜しさはありつつも、船旅を続けるハヅキとナオシに手を振って別れた。
そのままコハルを彼女の自宅でもあり、かつて身を寄せ働いていたサクラギ研究所まで送り届けては所長のサクラギ博士とも久々の再会を果たし、暫し互いの現状を報告し合ったのち、サトシは研究所を後にした。
「前より色々すっげー機械がいっぱいだったなピカチュウ!」
「ぴっか!」
3年前、サトシはサクラギ研究所所属のリサーチフェローとして全国各地を飛び回っていた。
その途中にPWCSへの参加を決め、トレーナー業とリサーチフェローとの二足の草鞋状態になりながらも基本的にサトシは現地での荒事に対処する役回りに落ち着き、現地のポケモンの調査、ゲットによる研究サンプルの回収はバディを組んでいたもう1人の相方の役回りであった。
その研究サンプルの中には、伝説のポケモンであるスイクンやレジエレキも含まれており、新たに取り揃えられていた機材に関するサクラギ博士の熱心な説明は、サトシにはイマイチよく分からなかったが、どうやら研究業界においてサクラギ研究所は今、飛ぶ鳥を落とす勢いであるようだった。
「ゴウの奴、ホダカ博士のところでツルギさんとアサヒさんにみっちりシゴかれてるんだろうな。」
「ぴぃかぁ。」
そのサトシとバディを組み、リサーチフェローとしてサンプル回収の役回りを担っていた少年、ゴウの現状もサクラギ博士から聞いている。
船旅の際にコハルとの会話でも話題にはなっており、元気にやっている裏付けとなったのでサトシは安心した。
『俺はしんしゅポケモンミュウの元へ辿り着き、ゲットする。そのためにはたくさんのポケモンをゲットして、知る必要があるっしょ!』
常々そう語っていたゴウの高い知性と芯の強さ、そしてなにより見果てぬ夢への思いを誰よりも近いところで見てきたサトシとしては、彼が彼なりに歩みを続けていることそのものにさほど心配はしていなかったのだが。
そうして古巣の一つへ挨拶を済ませたサトシは、そのまま故郷を目指し歩き始めた。
ピジョットに頼めばひとっ飛びだし、公共機関を利用すればずっと早く辿り着けるのは分かっていたがそこはポケモントレーナー。
地に足付けて歩いて行き、道中にいる野生の中から良さげなポケモンを探しながらの旅にこそ意義があるのだ。
そんなようなことを流儀としてハッキリ考えていたわけではないがさして急ぎの帰郷でもない、というのが歩いての陸路を選んだ大方の理由であった。
「うわわわわわわ〜!!」
「ぴぃぃぃ〜ッ!!」
「ぶーーーーーん!」
「ぶーーーーーん!!」
「ぶーーーーーん!!!」
それからサトシはクチバシティから北上を開始。
道中の草むらでポケモン散策していてはついうっかりスピアーの群れの巣に足を踏み入れてしまい盛大に追いかけられるなんて目にも遭いながらハナダシティへ。途中ハナダジムを訪ねたのだが…。
「えっ、カスミいないんですか?」
「ちょうどマサラタウンの方に用事ができたから、って今しがた出て行っちゃったのよ。」
「ホント、相変わらずこういうところはタイミング悪いのよねあの娘。」
「ごめんなさいねサトシくんせっかく来てくれたのに。お茶でもしていく?」
応対に出てきた"ハナダ美人三姉妹"のサクラ、アヤメ、ボタンにより目当てのカスミの不在を聞かされる。
異名として有名になる程の三姉妹は、3年の時を経てさらに美貌に磨きがかかっておりそのプロポーションを水着姿が扇状的に演出していた。
たゆん、たゆんと目の前で言葉を発する際たまに揺れる6つの果実…ジムに備え付けの巨大なプールで水浴びでもしていたのだろう。
よく見たらぷっくりと浮き出ているのは乳頭であろうか…強調された豊満な胸の谷間の魔力にサトシは…。
「そうですか…。また遊びに来ます、お邪魔しました。」
まるで反応せずに一礼してジムを後にした。
「あいつ何しに行ってんだ?」
「ぴかちゅぴ〜。」
サトシがデビューした際、トレーナーであるサトシよりよっぽど懐いて甘えていた相手であるカスミとの再会を期待し、肩透かしを喰らわされたピカチュウもガックリとするしかなかった。
その後、ポケモンセンターで一泊してから(今回は珍しく個室を取れた)ハナダシティを後にし、おつきみやまを抜ける際に、ロケット団といつものじゃれ合いがあったがサトシからすれば全く普段通りのやり取りで、ロケット団もやな感じー!と締めるしかない話なのでここは省略をする。
「ぴっぴ、ぴっぴ、ぴっぴっぴ。」
「ぴかぴかちう!」
「あはは!」
ロケット団を蹴散らし、月下で踊るピッピ達にピカチュウも混ざっている。
満月が照らす中、3年前もこうしてつきのいしを囲って踊るピッピたちを見て楽しんだこと。サトシは思い出していた。
おつきみやまを抜け、ニビシティへ到着しては、その足でニビジムに顔を出してみる。
デビュー当時、カスミと共に長く冒険を支えてくれた青年タケシは、元々はここのジムリーダーで、サトシとの出会いもここでのジム戦がきっかけであった。
そんなタケシも今やポケモンドクターを目指している中たまに会うくらいで、本人がジムにいるという確証があったわけでもなかった。
「本日完全休業日、かぁ。」
「ぴぃ〜かぁ。」
もしかしたらたまたまタケシがジムにいるかもしれない、それでなくてもジムリーダーを引き継いだ弟のジロウ始め、その家族らにだけでも顔を見せに行こうとしていたのだが、またも間が悪かったのか肩透かし。
誰もいないのでは仕方ない、そう切り替えてサトシはニビシティを後にした。
トキワの森はサトシにとって間違いなく思い出深い場所である。
ピカチュウを連れてマサラタウンから旅立ち、最初にゲットしたキャタピー、そのキャタピーがきっかけでゲットしたピジョンとの出会いの地だ。
キャタピーは立派なバタフリーに成長し、繁殖期を迎え海を渡る群れの中から見つけ出したパートナーの雌とともにサトシの元から旅立っていった。
それからマスターズトーナメント優勝ののち、とある浜辺で再会した時は、決勝後のトロフィー授与式には流れることのなかった涙が滝のように流れた。
初めてゲットしたポケモンとは、ポケモントレーナーにとってデビューする際のパートナーとの出会いとはまた違った思い入れの深さを抱かせるのだ。
一方のピジョンはピジョットに進化し、一時期この森に置いていったが、今またこうして自分の元にいる。それもサトシには嬉しかった。
トキワの森を通り抜け、トキワシティへ辿り着く。
ここまで来ればあとは目と鼻の先。そのままサトシとピカチュウは街中を走り抜けていった。
雨上がりの晴れ渡る中を悠然と飛ぶ黄金色のホウオウ…?の姿を見た道を、オニスズメの群れに襲われた道を、ゴム手袋をして体に結んだ紐を引っ張りピカチュウを連れてた道を遡る様に駆けて行く。
そうして彼方に小さな屋根の数々がポツポツと見えた。
「帰ってきたぜ、マサラタウン。」
「ぴかぴ!」
母のハナコには、一応定期的に生存報告を入れている。事前に伝えてある大体の帰宅時期に対しても誤差の範疇だ。
あの日から3年ぶりの帰郷にサトシはピカチュウに頷いてからまた走り出す。
旅立ちの日の景色を逆走し、生まれた時からずっと見慣れきった赤い屋根の我が家の前を掃き掃除しているのは、バリヤードのバリちゃん。
便宜上はサトシのポケモンなのだが、バリヤードの気性として母のハナコに懐いたのでそれを尊重して家に置いている。
「ばりばり〜。」
「バリヤードただいま!ただいまー!」
バリヤードに手を挙げて見せてから家の扉を開く。
「あら、おかえりー。」
「なんでカスミがいるんだよ?」
「ぴかちゅぴー!」
帰宅を出迎えてきたのは母ハナコではなく、カスミ。
怪訝な顔のサトシとは対照的に顔を輝かせながら、ピカチュウはカスミの胸元に飛び込んでいた。
3年前にも似たようなことがあったような…?そんなデジャヴをサトシは抱いていた。
『サクラギ博士』
サクラギ研究所の所長で、コハルの父親。
かつてサトシをリサーチフェローとして雇っていた。
研究所では一番偉いが家で飼ってるワンパチからしたらヒエラルキーは1番下扱いの可哀想なお父さんだ。