3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ダブルバトル2に突入した団体戦。黄金ペアのスイレンがいきなり仕掛けた。
 天候の奪い合いを囮としてのヨワシのZワザがリーフィアを粉砕。幸先の良いスタートダッシュを切るのだった…。


PNTT Fighting! 準決勝 ダブルバトル1 ハプウ&スイレンvsバージル&ラングレー②

 牧場育ちの次男坊として生まれ育ったバージルがポケモンレスキューの道に足を踏み入れたのは元々ボランティアをしつつ一家総出でレスキュー活動をしていたのもさることながら、決定的なきっかけは幼き日に森の夜道で迷った際、一緒にいたイーブイがブラッキーへ進化し、その力を借りて森からの脱出に成功した過去にあった。

 父のジェフからはそれはもうこっぴどく叱られたものであったが、その時のバージル少年の胸の内はすっかりとイーブイフレンズに魅せられていた。

 

 

 

『クリムガン戦闘不能!イーブイの勝ち!よって優勝はバージル選手!!』

 

 時は遡り3年前。

 レスキュー修行の一環として臨んだポケモンリーグ挑戦は、イッシュリーグヒガキ大会優勝という最高の形で身を結んだ。

 当時PWTジュニアカップ優勝の肩書を提げての参戦であったシューティーや、個人的にもマークしていたサトシを始めとした有力なライバルが自分とぶつかる前に敗退していったとはいえ結果は結果だ。バージルは素直にその栄誉を受け喜んだ。そこからである。自身の『悪癖』との長い付き合いが始まったのは。

 ポケモンレスキューとはその名の通りポケモンの力を借りて救助活動を行うことである。で、あるが故に人間側に求められてくるのは的確な判断力だ。これ自体に関しては父や兄からしてもバージルのそれにケチなどつけようがないほどに優れていたし、そこに対して自負も人並みにはあった。そうでもなければ地方予選を突破など出来ようはずがないからだ。

 千変万化するバトルフィールドを災害現場と見立て、常に最善の指示を出し続けられることこそがバージルの強み…その『的確さ』そのものが、バトルの世界に骨を埋める覚悟の猛者たちにとっては格好の的となった。

 1回戦でのコウヘイに喫した敗戦や、今こうしてスイレンにリーフィアを倒された流れは、まさにバージルの的確な指示を前提に動かれてのことと言うよりない。

 端的に言えば、バトルを制するために必要な『意地汚さ』が致命的に欠けていたのだ。

 

 

 

「バージルさん!」

 

 未だ『悪癖』が抜けぬ自分の情けなさから過去に意識をトリップしていたところを隣からの声掛けで現実に引き戻される。ほんの数秒ほど呆けてしまっていたようだ。

 

「す、済まない…!」

 

「とりあえず、あのヨワシをなんとかしましょう。あのデカブツに頭を抑えられ続けてるのはたまんないわ。」

 

 ヨワシを見上げるラングレーの横顔から、バージルはチームに参加した時に聞いたドラゴンバスターの由来を思い出す。竜の里を訪れた際、そこのドラゴンつかいにメタメタにやられた悔しさが起因であるという、こう言ってはなんだが酷くシンプルな話に呆気に取られたものである。

 同じく聞いていたコテツなどは『しょーもない』とハッキリ言い切ってしまったがためにラングレーからコブラツイストの制裁を受けていたのを苦笑いするよりなかったチーム発足時期のやりとり…彼女に関してはそこから本当にアイリスを寒からしめる実力者にまで上り詰めているに至るほどの立ち振る舞いには相応の努力が見て取れる。

 それは理論や正しさとは別の意地…泥臭い根性か。

 

「ラングレー。ヌオーはどう来ると思う?」

 

「あたしだったら退きますね。じこさいせいがあるかもしれないけど、突っ張るようならもっかいエナジーボールをぶつけてやりますよ。」

 

 大雑把なラングレーの読み、バージルはそこに密かに全てを賭けた。

 

「グレイシア、出動!」

 

「ぐぅい!」

 

 降雪地帯でのレスキューに特化したグレイシア、その前方にフラージェスがさながら盾のように躍り出る。

 

「狙いは、ヨワシ…!」

 

 相手陣営の視線がヨワシに向くのを分からぬスイレンであるはずもない。

 

「(妾はヌオーを下げるか、もしくはじこさいせいでどのみちヨワシを孤立させるよりないと踏んだか…。)」

 

「フラージェス、突撃ッ!!」

 

「じぇあ〜!!」

 

「グレイシア、フラージェスの後に続くんだ!」

 

「しぇああい!」

 

 今度はバージルとラングレーが先んじることとなる。

 

 

 

「棒銀作戦か…フラージェスは銀で、グレイシアは飛車。差し詰めヨワシが玉、と。」

 

 フラージェスが先陣を切り、その背後にグレイシアが四つ足を躍動させヨワシへ迫る。

 シンプルながら突破力を活かした戦陣をナンテは見守るよりない。

 

 

 

「妾を…しまクイーンを舐めるでないわぁーッ!」

 

 咆えるハプウが取った手は、ヨワシへ攻めかかるフラージェスとグレイシアの前にヌオーを立ち塞がらせた。

 半ば捨ての策だがヨワシによる制圧力の押し付けを優先したのだ。

 

「地脈のエネルギーを込めよ!じしん攻撃ッ!!」

 

「ぬおーん。」

 

ミシシィッ!!

 

 ヌオーがヌッとフラージェスに肉薄し、大地に脈動するエネルギーを叩き込むのはほんの僅か…

 

「邪魔ッ!フラージェス、エナジーボール!!」

 

「じゃあッ!!」

 

 すぐさま至近距離から再度放たれたエナジーボールで吹き飛ばされてしまう。

 これも計算のうち、即座に迎撃されることでヨワシへじしん攻撃が入るのを食い止めている。

 

「スイレンッ!!」

 

「ヨワシ、ハイドロポンプ発射!」

 

ボシュアアアアアッ!!

 

 ヌオーが身を挺しての足止めは、確実な照準に繋がる。

 ヨワシの大口から、みずタイプであることを存分に活かした強烈な水流弾が発射され、フラージェスを撃ち抜いた。

 

「じぇじぇじぇ〜ッ…!」

 

 崩れ落ちるフラージェス、その背後からヨワシの鼻先へ取り付く四つ足の影…!

 

「バージルさん!」

 

「グレイシア、フリーズドライ!!」

 

「しぁぁぁらぁぁぁッ!!」

 

バヒョアアアアア!!

 

「くッ…!」

 

 グレイシアの全身から放たれる瞬間冷凍式の凍結波がヨワシの群れた姿に浴びせかけられる。スイレンは表情を歪めるよりなかった。

 

 

 

「グレイシアのフリーズドライッ!この技はこおりタイプながら特殊な作用により、本来今ひとつであるみずタイプにも効果は抜群だーッ!!」

 

 ふぶきやれいとうビームといったポピュラーなこおり技は凍気そのものを叩き付け相手を凍て付かせる。対してフリーズドライがそれら凍結技と似て非なるところは、技そのものが対象の体温を急速に奪い去ること、その一点に特化しており、従来のこおり技とはまるで違う性質を獲得していた。

 そんな技の原理はともかくとして、カミツレやフウロからすれば、効果抜群を突かれ大きなダメージを受けたヨワシの状態こそが肝要であった。

 

 

 

ビジュシュシュウ…!

 

「みんな…!」

 

 圧倒的な威容を誇る怪魚のボディがみるみる小さくなってゆく。群れた姿を形成していたヨワシたちがダメージにより天井から飛び跳ね、元いた水辺へ避難していったのだ。

 

「よよよ…。」

 

 残されたのは正真正銘、スイレンにゲットされた怪魚の中心部を担っていたヨワシのみ。さりとてへこたれてもいられない。

 

「戻ってきてヨワシ、クイックターン!」

 

「よよッ!」

 

 空中を泳ぐようにグレイシアめがけ突撃するヨワシ。それを認めるバージルは、的確な判断力に冷静さを取り戻していた。

 

「こおりのつぶてッ!」

 

「しゃしゃしゃ!」

 

ビュババババ…!

 

 微細ながら大量の氷弾にてヨワシを迎え撃つ。

 

「よ、よ…。」

 

 その弾幕を前にヨワシは…

 

「よぁ〜!!」

 

 まんまと弾き返されてしまった。

 

「ヌオー、戦闘不能!フラージェスの勝ち!!」

 

 公式戦を担当する審判が遵守するレギュレーションとして、戦闘不能のジャッジは一番古いものから遡って行うようになっている。

 審判はフィールドの枠線外まで吹っ飛ばされたヌオーのチェックをしてすぐに反対方向で沈黙するフラージェスのチェックへ向かう。

 

「フラージェス、戦闘不能!ヨワシの勝ち!!」

 

 最後にフィールド内、グレイシアの前方に落着するヨワシをチェックだ。

 

「ヨワシ、戦闘不能!グレイシアの勝ち!!」

 

 

 

ハプウ、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

スイレン、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

バージル、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

ラングレー、残りポケモン2体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

ウオオオオオッ!!コイツハスゲーゼ!!

 

 目まぐるしいKO劇に観客も沸き立つ。3体が倒れた末に残るグレイシアの姿は、一部の熱心なマニアにも突き刺さる晴れ姿と言えよう。

 

 

「棒銀戦法が突き刺さり群れた姿のヨワシ轟沈!それでもやはりその制圧力は抜群!瞬く間に各選手残りダウン可能数1体まで追い込まれたーーーッ!!」

 

 

 

「よしッ!」

 

 バージルのガッツポーズにフラージェスを戻すラングレーは一瞬何事?と目を丸くするもすぐに同調していく。

 ムードを一気に取り返した…そう、まずは自分で自分を信じて戦うのみだ。

 

「ツンベアー出陣よ!グレイシアに続きなさいッ!」

 

「べんつぁ!!」

 

 とうけつポケモンツンベアー。厳ついシロクマを思わせる真っ白いボディに氷柱のような顎ヒゲを蓄えた頼れるパートナーを繰り出す。

 

「しゃあら。」

 

 グレイシアとツンベアーが互いに頷き合い、構えを取る。凍て付くこおりタイプの2体の瞳は情熱に満ちていた。

 

「よく休めヌオーよ…出番じゃゴルーグ!!」

 

「ヨワシ、お疲れ様…いくよ、パルシェン!!」

 

キュピーン!

 

「ぷぁっしゃ!」

 

 ハプウがゴルーグを、スイレンが2まいがいポケモンパルシェンを倒れたヌオーとヨワシに代わり投入する。

 群れたヨワシを中心にしての制圧戦を跳ね返され、場のムードを奪い返されたのでスイレンの気は重い。

 

「まだまだ勝負はこれからじゃ!のうスイレン?」

 

 そこにすかさず気持ちを奮い立たせるべく声かけを飛ばすのはハプウだ。

 スイレンはハッとしてからうん!と大きく頷く。まだ勝負はこれからなのだ。

 

「ゴルーグ!ゆけい!」

 

「ツンベアー!いっけぇ!」

 

キュピーン!!

 

「べつぁい!!」

 

グワシィィィ

 

 両者巨体なポケモン同士、ゴルーグは顔の直角的な幾何学模様を光らせ、ツンベアーは咆哮しながら一目散に駆け出してはフィールド中央でがっつりとロックアップする。

 

「グレイシア、ゆきげしき!」

 

「しぁらッ!」

 

 リーフィアが晴れ状態を呼び込んだように、グレイシアもまた自身の凍気を全身から打ち上げれば天井を今度は雪雲が覆い、程なく雪が降り始める。

 

 

 

「バージルは、もう大丈夫そうじゃな。」

 

「そうねおじいちゃん。」

 

 少なくとも今この場において躍動する彼に逡巡は見られない。アデクもアイリスも、バージルが長いトンネルを抜けたと確信していた。

 

 

 

「(ゴルーグだけ不味い、これだと!)からをやぶる!そして狙いはグレイシア!」

 

カアアッ!

 

 スイレンの指示によりパルシェンの全身が光に包まれ、

 

ピシシシ、パキィン!

 

 それがヒビ割れ砕け散る。

 

「しぇあッ!!」

 

 横開きの二重殻より覗く黒くて丸い顔が不敵な笑みのまま、パルシェンは、跳んだ。

 




 『ラングレー』
 14歳。ポケモントレーナー。
 対ドラゴンポケモンに特化した通称『ドラゴンバスター』を名乗る。その実力は出身地のドラゴンチャンピオンアイリスにも届きうるとのこと。
 エースポケモンのツンベアーは弱点をつくのはもちろん、ドラゴンポケモン相手に決して当たり負けしないパワーも自慢なんだ。
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