3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ファイアローに続き、ガラガラまでもローブシンの前に沈められるカキ。圧倒的な力の差、それでも闘志の炎を滾らせてバクガメスとともに挑む。
 それはまさしく男の意地…真っ向から受けて立つレンブもまた、男であるのだ。


PNTT Fighting! 準決勝 シングルバトル3 カキvsレンブ③

「いい面子を揃えたのう、ククイよ。」

 

 イッシュ側ベンチにてアデクは独りごちる。3年前、齢56の折にアイリスに敗れて王座を譲るまでの40年ほどをチャンピオンとして過ごす中、武者修行と遠い島国からやってきた青年は、当時油の乗り切った王者アデクの脳裏に鮮明に残っていた。

 姿こそないが、アローラ側ベンチには確かに彼と共に吹き抜ける爽やかな夏風の気配がそこにあった。

 

 

 

「レンブさん…あなたは強い!人としても!トレーナーとしても!育てたポケモンたちも!」

 

 分かり切っていたことをカキは叫ぶ。

 

「それでも!!俺はこの場に送り出してくれたみんなの期待に応えるため、何がなんでも勝たねばならないんだ!!」

 

「その意気込み、見事なり!されど、それは私とて同じこと!!ぬうううんッ!!」

 

モリモリモリモリモリィィィッ!!

 

 

 

「おーッと!カキ選手に負けじと四天王レンブもパンプアップ、道着を突き破り鋼の肉体美にて応えるーッ!!」

 

「あぁッ、見て!カキ選手が!」

 

 フウロが指差し、カミツレは息を呑む。

 

 

 

「おあああああ…!!」

 

「来るかッ、全力!!」

 

「ゼンリョク、だぁーッ!!」

 

 全身、指の先まで死力を込めてのゼンリョクポーズ。

 

「(俺はこの試合、絶対勝つ!だからみんな…。)」

 

 7色のZパワーが、カキの闘気と共にバクガメスへ注がれてゆく。

 

「俺の全身!全霊ッ!!ゼンリョク!!全てのZよ、アーカラの山の如く熱き炎となって燃えよ!!」

 

「もえあああああ…!!」

 

 注がれたZパワーが巨大な火の玉となりバクガメスのコントロール下で燃え上がる。ローブシンが動く気配は、ない。

 

「(決勝へ行ってくれ!!)」

 

 

 

「さぁ!!いつでも撃って来るがいいッ!!」

 

「レンブさんはローブシンと共に受けて立つつもりだ!Zワザを!!」

 

「ダゲキを出せば楽に済む、ってのは野暮な話よね。」

 

 バージルの隣で特性『がんじょう』が脳裏に過ぎるラングレーはすぐにそれを頭から振り払う。

 そういった理屈の領域ではないのだ。今、この場面は。

 

「いいねぇいいねぇ!文字通り燃えてきた!!」

 

 ギャギギィン!とホミカはギターをかき鳴らす。興奮するところを同じくするシャガは試合の様子に意識を集中させていた。

 

 

 

「ダイナミック…フル!!フレイムゥゥゥアアアアア!!!」

 

「もえええあああああす!!」

 

ドボアアアアア!!

 

「これが最期の一撃だぁーーーッ!!」

 

 カキのゼンリョクを注ぎ込んだZの火球が撃ち放たれる。

 

「ろぅんぬ!!」

 

 ローブシンはガードに使う左のコンクリートを合わせる。

 

ズッドドドドドォ!!

 

 

 

「カキ選手、Zワザを発動!炎のダイナミックフルフレイムがローブシンを襲うもローブシンはしっかりガードしているぞーッ!!」

 

 

 

ドドドドド…!!

 

「ん゛ッ…ぬッ、ぬうッ…!!」

 

 

 

「ローブシンが!!」

 

「一歩ずつ後退りさせれているね…!」

 

 目敏いスイレンに続けるシゲルが光明を見出す。

 

「見よ!カキの奴、なんか変じゃぞ!?」

 

 ハプウが指差す先のカキは、ベンチから見て取れるほど全身から汗が流れ出ていた。

 

「まさか…Zワザにいつも以上の気力と体力を注ぎ込んで…!?」

 

 カキの無茶に内心むべなるかなともナンテは唸った。それだけ歴然たる実力差を埋めるには、普段と同じでは駄目なのも道理ではあるのだ。

 

 

 

「ぐ、うう…!」

 

 文字通り、今ある己の全てを注ぎ込んだ『ゼンリョク』は、容赦なくカキの全身を脱力させた。

 

「め、めまいが…!」

 

 不退転の意思とは無関係に体が言うことを効かない。右膝が、力無く地に付かされる。

 

「これほどまでとは…貴殿とは、是非また別の舞台にてやり合いたいものだ。」

 

 正真正銘の全身全霊を込めた一撃を受け、レンブはカキを1人の武人として認めた。しかし、今はバトルの真っ最中。それはそれ、である。

 ローブシンの後ずさる足も、ピタリと止まっていた。

 

 

 

「おっしゃあ!決まりだァ!レンブさんの勝ち〜!!」

 

 イッシュ側ネクストサークルのコテツがはしゃぐ。後はローブシンが火球を撃ち返すのみ…

 

 

 

「お兄ちゃあああああああん!!!バクガメスううううううう!!!頑張れえええええええ!!!」

 

 

 

 虚ろだったカキの目が見開かれ、瞳に生気が蘇る。

 

「ホシ…!」

 

 地に付いた右膝を立て直す。

 

「ホシ…!!」

 

 両拳を力の限り握るのでプルプルと震える。

 

「ホシ…!!!うおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

 

 

 漢の中の魂が、波導が弾けた。そう、サトシには見えた。

 

「ぴかぴ…!!」

 

「カキ…!!」

 

 

 

「まだだああああああああああッッ!!!!」

 

「めああああああああああすッッ!!!!」

 

 限界を超えたカキのゼンリョク、その一片残さずバクガメスは技のエネルギーへと注ぎ込む。

 一度は完全に止めたはずの火球の勢いが、再び増してゆく。

 

ピシ、ピシシシシ…!

 

「ろぅッ…!?」

 

 ローブシンが異変に気づいた時にはもうどうにもならなかった。

 

「燃え尽きろおおおおおッ!!!俺の魂ィィィィィ!!!!」

 

 咆哮がスタジアムに響き、

 

バッ、キィィィン!!

 

 ガードに構えた左コンクリートが、ダイナミックフルフレイムの威力に負けて粉砕したのだ。

 

「ぶぉ!?しんぁぁぁぁぁ〜…!!」

 

 

 

「あーーーッとローブシン、吹っ飛ばされたーーーッ!!」

 

「あっ、危ない!!」

 

 コンクリートによるガードが砕かれ、火球がローブシンを直撃すれば勢いよく真後ろへ吹っ飛ぶ。その先には、主人のレンブ…!

 

 

 

「(この勢いは不味いな…!)」

 

 迫るパートナーを前に、レンブは避けることなく両手を構え、受け止める姿勢を取った。

 

ドドドドド…!

 

「ぬううううう…!」

 

 ローブシンを受け止めるレンブ諸共火球は後方フェンスまで吹き飛ばし…

 

チュドオオオオオオオン!!

 

 盛大なエネルギー爆発とともにカキのゼンリョクを締め括った。

 

「ぐあッ…!!」

 

 全身に激痛が走り、もはや立つこともままならない。トレーナーサークルの中で四つん這いになり、滝のように流れる汗で出来た水たまりの中心で、カキは息も絶え絶えに意識を保つので精一杯であった。

 

「もぇあ…!」

 

 バクガメスが慌ててニュートラルポジションから駆け寄る。

 

「はぁ…はぁ…こ、これが俺の、正真正銘の、ぜ、ゼンリョクだ…。」

 

 

 

「タケシくん。試合が再開されたらすぐに監督として審判にこちらの降参を通達しに行ってきます。それが通り次第、カキくんの回収をお願いします。」

 

「分かりました。大会本部の医療班にも連絡して動きます。」

 

「頼みます。」

 

 タケシに指示を出しながらナンテはベンチから躍り出る。

 カキの男の意地は見届けた。これ以上の無茶は、チームを預かる身として止めねばならないのだ。ここが、監督として選手の無茶を通させる限界であった。

 

 

 

「レンブさんッ!!」

 

「も、問題ない…。」

 

 一方のレンブはというと、イッシュ側ベンチから向かって右手のフェンスに叩きつけられ、チームメンバーに呼びかけられながら起き上がる。

 そこにすかさず走ってきた審判は、ひとまず責務としてポケモンチェックを行う。うつ伏せに倒れたままのローブシンは、しっかりと目を回していた。

 

「ろ、ローブシン、戦闘不能!!バクガメスの勝ち!!」

 

 

 

カキ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

レンブ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

 

 

ウオオオオオッ!!ナイスガッツニーチャン!!

 

「Zワザ炸裂ーーーッ!!カキ選手、ローブシンという巨大な牙城を、ついに打ち崩したーーーッ!!エースポケモンを倒された四天王レンブ、ここからどう立ち回るのでありましょうかーーーッ!?」

 

 

 

「ぬう…相手の底力を見誤るとはなんたる不覚…私もまだまだ修行が足らぬということか…。」

 

 しかしまだこちらにはダウン可能数に余裕がある。圧倒的有利に変わりはない。そう思いながら倒れたローブシンをボールに戻そうとホルダーに手をかけたところで右腕に激痛が走る。

 ここでレンブは、薄々感じ取っていた自分の体の異変を確信する。それと同時だった。

 

「レンブよ。もうよせ。」

 

『左肩』に置かれるアデクの大きな手…。

 

「我が師アデク…!」

 

「折れておるわ。」

 

 やはり見抜かれていた。一瞬バツが悪い表情をレンブはしてしまう。

 

「しかし、私がここで退いては…!」

 

「お主はイッシュリーグ四天王の要じゃ。これからも長く働き続けてもらわねばならぬ身ぞ?」

 

「それはッ…!」

 

「レンブさん、あたしからもお願いします。早く治療を受けて下さい!」

 

 師弟の間に入るのはアイリスだ。

 

「それは、リーグチャンピオンとしての言葉か?」

 

 レンブにアイリスは頷き、改めて言葉を紡ぐ。

 

「イッシュリーグチャンピオンアイリスの名において、四天王レンブに告げます。今すぐ負傷箇所の診察を受け、治療に専念して下さい…貴方を慕う、みんなの為に。」

 

 トドメであった。ここでアイリスの言を呑まねば彼女の面子を潰し、四天王としての誇りを失う。それは、なによりレンブにとって耐え難かった。

 

「………御意。」

 

 

 

「なんだろう?イッシュ代表の人たちなんか、揉めてる…?」

 

 そんなやり取りを客席で遠目から見るヒカリが小首を傾げれば、イッシュ側ベンチへと様子確認に来た審判にアデクがなにやら通達し、それを受けた審判がスタジアム中央へ走る。

 

 

 

「この試合、四天王レンブの棄権により勝者、チーム<マナーロ>カキ選手!!」

 

 突如発せられた試合終了のコールに観客がざわめく中、電光掲示板にて動画が再生される。

 

 

 

「レンブさんがZワザをくらって吹っ飛ぶローブシンを受け止めたところか。」

 

 一部始終を見せられてはケンゴ同様皆納得せざるを得なかった。

 ローブシンを受け止めフェンスに激突した時と、フィールドへ落着する時にそれぞれレンブの右腕はローブシンが右手に持っていたコンクリートの下敷きになっていた。

 一度だけならばまだしも立て続けに過剰な負荷を受けては、さしもの鋼鉄の肉体の限度を超えてしまっていたのだ。

 

 

 

「あーっと、これは!カキ選手、圧倒的な実力差の中で諦めずに戦い抜き、まさに身を削って勝利を手繰り寄せました!!大逆転です!!」

 

「レンブさんも大したものだわ。ローブシンのコンクリートに2回も強くプレスされて多分骨折?くらいで済んでるんだから。」

 

「ああやって庇いにいかなかったらきっとローブシンは戦闘不能どころじゃあないくらいのダメージだったんだ…それほどのパワーをカキ選手は、文字通り命懸けで捻り出したんだ!」

 

 ポケモントレーナーはバトル中のポケモンが重大な怪我に繋がる可能性がある場合、その身を挺して事象に対処せねばならない…ポケモン愛護の点からもレンブの介入はむしろ当然であるのだ。

 放送席の皆自然と双方の選手に拍手を送っていた。

 

 

 

パチパチパチパチパチ…!!

 

 カキもレンブも、両者その身を犠牲にしての戦いぶりに、観客もまた惜しみない拍手を送る。

 

「か、勝った…?」

 

 勝ち名乗りを受けるカキからすれば訳の分からない話であった。

 バタリ。四つん這いで支える四肢の力も抜け落ち、うつ伏せで倒れ込む。

 

「「「「「「「カキ!!」」」」」」」

 

 すぐさまベンチからチームのみんなが駆け寄る。

 

「無闇に触っちゃ駄目だ!」

 

「タケシ…!」

 

 タケシが制止し、カキのバイタルチェックを行う。脈は相応に弱まっているが体力の消耗によるものだ。

 程なくして大会の医療班が担架を持ってやってきてカキを手際よく乗せていく。

 

「カキには俺が付き添うからみんなは試合に集中してくれ。」

 

 この後試合を控えるサトシとハウを見ながらタケシが話せば頷くよりない。餅は餅屋だ。

 

「サ、サトシ…。」

 

「カキ?」

 

 担架にサトシが駆け寄れば、仰向けで寝かされたカキは力無く右手を上げるのでそれを両手でガッチリと握る。

 

「み、みんなを決勝まで…た、頼んだぞ…チャンピオン…!」

 

 そこまでだった。精魂尽き果てたカキは完全に意識を手放してしまう。

 

「もえぁすぅ…。」

 

「大丈夫、お前のご主人は頑張り過ぎて少し疲れただけだ。一緒に行こう、な?」

 

 完全に気絶した主人を運ぶ担架にバクガメスもついてゆく。そのメンタルへのフォローもタケシは欠かさない。

 

「俺のことはいいからさ。決めちゃってよ、カキのために。」

 

 カキが医務室へ運ばれ、チーム<マナーロ>のメンバーはベンチへ戻る中、サトシの背中に語りかけるのはハウ。

 

「あぁ。」

 

 振り返ることなく言葉身近にサトシは返す。眉を逆八の字にした真剣な眼差しでトレーナーサークルへ歩を進める。

 

「ぴかぴ…。」

 

 相棒のピカチュウも左肩で主人の闘志、その熱量を感じ取る。

 

『頼んだぞ…チャンピオン…!』

 

「よっしゃあああああッッッ!!!」

 

 フラッシュバックしたカキの、漢の懇願にサトシは、漢は咆えた。気付けば腹の底から声が出ていた。

 

 

 




 PNTT準決勝 シングルバトル3
 カキvsレンブ
 シングルバトル 6C3Dルール

 カキ        レンブ
 ファイアロー    コジョンド
 →ガラガラ
          →ローブシン◯
 →ファイアロー●
 ガラガラ● ローブシン◯
 バクガメス◯ ローブシン●
 (Zワザ使用)
(トレーナー負傷により棄権)
 勝者 カキ
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