3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 船旅を終え、クチバシティで降りたサトシは、陸路でマサラタウンをめざす。
 かつて通り抜けた順路を逆走し、辿り着いた我が家には、もはや腐れ縁同然のカスミが我が物顔で寛いでいた。


それぞれの戦い 帰郷 マサラタウン②

「ただいまー、あらサトシ。お帰りなさい。ピカちゃんも。」

 

「ママ、ただいま。なんでカスミがいるの?」

 

「別にいいでしょ。お母さんとカスミちゃん仲良しなんだもの。ねー!」

 

「ねー!」

 

 サトシが自宅にてカスミと不意の再会をすれば、程なく買い物帰りなハナコとの鉢合わせ。

 

「ばりばり〜!」

 

 掃き掃除をしていたバリヤードも買い物袋を持って後に続く。久々の息子の帰宅に張り切って買い出しに出ていたのであろう。

 サトシの方は思い出してみれば3年前、ホウエン地方から帰って来た際にも家にしれっとカスミが上がり込んでいたことがあった。

 自分の知らない間にママとカスミが何やら仲良くやっているらしいと言うのに、なんとなく釈然としないサトシの怪訝な表情も、夕食の大好物攻勢であっさり消し飛んでいた。

 大きなハンバーグに、テーブル中央に置かれた皿にはたくさんのコロッケを3人で頂く。

 

「ぴかぁ。」

 

「ぶろし!」

 

「あの時のウデッポウ、ちゃんと育ててるんだな。」

 

「当たり前じゃない。超強くなったんだから。」

 

 足元で食事をしているポケモンたちのうち1体がサトシの目に止まれば、カスミもすぐに返す。

 マスターズトーナメントの後、リサーチフェローを辞してサクラギ研究所を飛び出してから、特に目的もなく気ままな旅をしていた頃、とある海辺でサトシとカスミは釣り上げた活きのいいウデッポウを巡りバトルをした。

 結果は、カスミの勝ち。ウデッポウはカスミにゲットされる運びとなった。

 

「明日のバトルでも頼むわよブロスター!」

 

「ぶろっし!」

 

「明日?」

 

「PWCSのランク戦よ。研究所の庭でやるのよ。あそこ敷地広くてバトルフィールドにちょうどいいからってよく選ばれるみたい。ホントはこうして前日に現地入りついでに挨拶して一泊させてもらう予定だったんだけど、博士たち今日の日付変わりくらいまで学会に出てて留守だったのよね。」

 

「それでたまたまママとカスミちゃんバッタリ会っちゃって、せっかくだからウチに泊まって行きなさいなって。ほら、この町なーんにもないでしょ?」

 

「ママさんにはホント大感謝ですー!相変わらずご飯も美味しいですし!」

 

「あらあら、うふふ!」

 

 女同士盛り上がっているのに、若干の疎外感と、俺のママなんだぞ?という視線をサトシはカスミに向けていた。

 

「へー…それで、相手は?」

 

「アンタもよく知ってるでしょ?この子。」

 

 女同士の会話をぶった斬る意図もそれなりに篭ったサトシを特に気にするでもなく、カスミがスマホロトムを操作し見せる。

 液晶画面を見たサトシの目と口が大きく開いた。

 

「3年前はジムの方も立て込んでてこっちはあんまり力入れられなかったんだけど、今回はちょっと頑張っちゃおうかなって。」

 

 驚きを隠せないサトシにカスミは不敵かつ妖艶な笑みを見せる。3年の月日はカスミを女性としてさらに磨き上げさせていた。

 髪を一部縛っていた青の髪留めは使わなくなり、オレンジのショートヘアをそのまま下ろしている。

 『ハナダ三姉妹の出涸らし』などと言う不名誉極まりない扱いをされていた青臭さはすっかりと失せ、姉たち同様抜群な発育を進めている。

 その笑みに関してサトシは、不敵さはともかく、妖艶な方は全く理解できていなかった。

 昔馴染みのイメージがあまりにも強すぎたからなのが大きい。ただ、お前に女を見出したら男として終わりだ、というような態度を見せれば、盛大にシバき倒される未来が待っているというのも、長い付き合いから嫌というほど学習していた。

 ママもこの状況では自分ではなくカスミの肩を持つのも目に見えている…。

 

 

 

「あいつ、もうあたしより背高くなってんじゃん。生意気。」

 

 夕食の後、お風呂をいただくカスミは、こぢんまりとした湯船に浸かっている。

 

「あたしが育つのは、こういうところばっかり…か。」

 

 ポツポツと呟く視線は下がり、両手は視線の先の豊かな乳房を持ち上げる。

 性差による成長の違いと、一言で例えれば簡単な話である。

 事実、3人の姉たちに負けず劣らずのプロポーションに実ってきた肢体に、安堵の混ざった喜びが第一に来ているのは確かなことだ。

 ただ、ある程度是正されたとはいえ、あのクソ生意気な小僧だったサトシに身長を抜かされた、という事実は、カスミにとって悔しいものであった。

 

 

 

「ありがとうねバリちゃん。」

 

「ば〜りば〜り〜!」

 

 そんなカスミから複雑な感情を向けられているとは梅雨知らずな旅疲れのサトシとピカチュウは、食べ終わって早々に寝落ちをかましたのでバリヤードの超能力で着替えさせられ、部屋まで運ばれ、そのまま夜は更けてゆくのであった。

 

 

 

「かー!」

 

「かー!!」

 

「かー!!!」

 

「「「かーか、かっか〜!!!」」」

 

 マサラタウンの朝を告げるドードリオの高らかな鳴き声は久々の自宅のベッドの中のサトシには響かない。夢の中にいるままだ。

 

 

 

「ぎゃおおおお!」

 

「戻れ、リザードン!!」

 

「ぐるぅぅう!」

 

 どこかのスタジアム、どこかのフィールドにサトシは立っている。

 それはバトルの真っ最中。船旅で見かけた青年が繰り出しているギャラドスの咆哮がスタジアムを丸ごと揺らす。

 サトシはリザードンをボールに戻した。そして足元のピカチュウとアイコンタクトを交わす。

 

 

 

「ぴかぴ。ぴかぴ!」

 

 先に目を覚ましたピカチュウがサトシの体を揺らす。しかし夢の中から帰ってくる気配は一向にない。

 

 

 

「ピカチュウ!キミに決めた!!」

 

 サトシがフィールドを指差せばピカチュウは頷き、飛び出してゆく。

 それを見た青年はギャラドスを即座に引っ込め、交代にライチュウを繰り出してくる。

 

「いっけーピカチュウ!10まんボルト!!」

 

「ぴぃぃぃぃぃッ!かッ!ちううううう!!」

 

「らぁぁぁぁぁいッ!!ぢゅううううう!!」

 

 高らかに指示を飛ばせば飛び上がるピカチュウ。

 それに合わせてライチュウも跳躍、両者の電撃が放たれ衝突する。対峙した男たちの波導もまた激しくぶつかり合っていた。

 

 

 

「10まんボルトだピカチュウ〜、むにゃむにゃ。」

 

 いくら揺らしてみてもサトシが起きる気配はない。そんな中に技の指示。

 寝言の範疇なのは分かりきっていた。しかしピカチュウはサトシのポケモン、トレーナーの指示に従うのがゲットされたポケモンの役目なのだから。そう、仕方がないのだ、仕方がない。

 ピカチュウはニヤリ、悪い笑みを浮かべた。

 

「ぴかぴ…ぴぃかっ、ちゅううううう!」

 

「あばばばば!!」

 

 ピカチュウの強烈な電撃目覚ましを前に、サトシはベッドからドシン!と叩き落とされようやく目を覚ます。

 

「あれ?なんだ夢か…おはようピカチュウ。」

 

「ぴかちう。」

 

 ピカチュウはえっへん、と胸を張ってからサトシの肩に飛び降りた。

 

「ママおはよー。」

 

「おはよサトシ。13歳になってもお寝坊さんなのは変わらないわねー。」

 

 パジャマを着替えて部屋から出てきたサトシに、キッチンで大忙しのハナコが視線を向けることはない。

 息子が久々に帰ってきて、加えて泊まりの来客もいる朝食の準備に動き回るその横顔は充実感に満ち満ちていた。

 

「カスミは?」

 

「ロードワークと朝のトレーニングですって。もうそろそろ帰ってくるんじゃない?」

 

「ただいまでーす!」

 

「ほら。サトシ、顔洗ってから朝ごはん運んでちょうだい。」

 

「はーい。」

 

「ママさん、あたし何か手伝いますよ。」

 

「いいのいいの。カスミちゃんはお客様なんだからゆっくりしててちょうだいな。」

 

 3年ぶりの家族のやりとりは、サトシにもハナコにも心の平穏をもたらし、物心ついた時にはすでに姉しかいなかったカスミにとってもそのおこぼれに預かれるのは幸福であった。

 穏やかでご機嫌な朝食を済ませてからサトシとカスミは、一緒に家を出る。オーキド博士の研究所に向かうためだ。

 

「はいサトシ、コレお弁当。こっちはカスミちゃんの分で、こっちはオーキド博士の、これはケンジくんの分。」

 

「ママ、1人分多いよ?」

 

「お友達がもう1人来るんでしょ?カスミちゃん、試合頑張ってね。」

 

「ありがとうございます!ママさん!」

 

 出かける直前、両手を弁当入りの風呂敷包みに封じられて歩くサトシの前をカスミは我関せずとスマホロトムをいじりながら歩き始める。

 自分の分だけでも持とうか?そんなようなことを言い出す気配など1ミリも見せないカスミにジト目で毒の一つも吐こうとしたサトシだったが、液晶と睨めっこをしているカスミの表情を見て止めてやることにした。

 おそらく対戦相手の過去の公式記録や使用ポケモンの傾向を直前まで頭に叩き込もうとしているのだろう。

 こういうカスミのストイックなところは、サトシには昔から好感であった。

 

 

 

「サトシ!カスミ!久しぶり!」

 

 近所の顔見知りに挨拶や会釈しながらの道中の果てに辿り着く、この田舎町唯一の名所であるオーキド博士のポケモン研究所。

 カスミがインターホンを鳴らし応対に出てきたバンダナを巻いた青年ケンジは、2人にとっても昔馴染みの仲間であった。

 

「ケンジ久しぶり!ストライクの時は来れなくってごめん…。」

 

「いいよ。フシギダネたちがサトシの代わりに見送ってくれたからさ。」

 

「あたしはちゃんとお悔やみに来たけどねー。」

 

「虫は無視のカスミが?」

 

「友達が大事にしてた子に虫は無視もないでしょ。」

 

 話題のせいか少しだけムードが沈むがすぐに振り切って3人で敷地内へ入ってゆく。

 研究所の敷地の大半は研究サンプルや、サトシ含めトレーナーから預けられたポケモンたち、それに紛れ込む野生ポケモンたちの生活空間となっている。

 田舎町特有の自然溢れた風景や空気感により野生の環境に限りなく近く、生のままのポケモンの姿を見ることが出来るというオーキド博士の持論に共感して、あえて片田舎に研究所を構える研究者も多い。

 

「おぉ〜サトシ!無事帰ってきたか。」

 

「オーキド博士!」

 

 そのオーキド博士もたくさんのポケモンと共に庭園にてサトシたちを出迎えた。博士の周りには博士自身がゲットしたロトムが飛び回っている。

 

「オーキド博士、ご無沙汰してます。今日はお庭使わせてもらいますね。」

 

「カスミか。うむ!存分にやってくれていいぞ。鍛え抜かれた血湧き肉躍るバトルは、ポケモン研究へのいい活力になるからのう〜!」

 

「そんなに血湧き肉躍るバトルが好きならあたしとの決着をつけてみようってことにはならないのかね。」

 

 からからと笑う背後からしたのは、しゃがれた声の老婆の声だった。

 オーキド博士の影から這い出るように姿を見せた気配の主に、カスミとケンジは視認し初めて戦慄する。

 どこから、いつ研究所に入った?まるで感知できなかったのだ。

 

「キクコさん、お久しぶりです!」

 

「おや、流石はワールドチャンピオン。気付いていたね。」

 

「はい!」

 

 杖を両手の老婆、キクコはサトシには朗らかな笑みを見せ、サトシは元気よく返事をする。

 道中よりキクコの波導、その気配は感知してあったのだ。オーキド博士も同様なようで特に驚いてはいない。

 

「ワシは20年以上も前に引退した身じゃ。逆立ちしたってもうお前さんには勝てんよキクちゃん。」

 

「キクちゃん言うんじゃないよ!」

 

 この2人馴染みのある仲なのか、聞いてみようとするのを、彼方から近づく、バトルに疎いポケモンウォッチャーであるケンジですら感じ取れる凄まじい覇気がそれを忘れさせた。

 

ゴオオオッ!!

 

「だねふし!だねだね!!」

 

 一同はもちろん、庭園内のポケモンたちも覇気が近付いてくる方角を向く。その圧力に恐慌してしまうポケモンたちを、フシギダネ以下サトシのポケモンたちがすぐに落ち着かせて回っていた。

 

「キクちゃんや。彼はお前さんの…?」

 

「最高傑作さ。」

 

 気配の主がゆっくりと近づいてくる。先程の覇気は試合前に気合を入れるための発散か、徐々に収まっていく。

 

「カスミ…あいつ、3年前とは段違いに強くなってるぞ。多分、ネットの情報はアテにならないぜ。」

 

「そうみたいね…全身鳥肌なんてアローラスクールの課外授業でアンタとやった時以来よ。」

 

 サトシに返すカスミは脂汗をかく。しかしその表情は不敵な笑みを浮かべていた。強い相手との試合が待っているとなればの、ポケモントレーナーの性だ。

 近づいて来る存在は、強大な波導を体内に収めきる。

 フシギダネたちの尽力により次第にざわつくポケモンたちも日常へ戻ってゆく。

 

「久しぶりだな!シンジ!」

 

「あぁ。」

 

 薄紫の髪に全てを射抜く勢いのある鋭い視線がトレードマークのシンジは、シンオウ地方トバリシティ出身の少年。

 サトシの強力なライバルで、今現在の立場は…トキワジムのジムリーダー。

 

 




 『カスミ』
 13歳。ハナダジムのジムリーダーで通称『世界の美少女』『おてんば人魚』。
 3年前、カントー、オレンジ諸島、ジョウト、それにPWCS後と、サトシの旅に数多く同行した仲間で、彼の未熟な時代をよく知る1人。
 エースポケモンは、そんなサトシと釣り場で取り合ったウデッポウを育て上げたプロスターだ。

容姿としては赤緑時代から金銀時代の姿になっております。
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