3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

202 / 302
 シングルバトル3はサトシの勝利に終わり、チーム<マナーロ>は3勝1敗で決勝進出を決めた。
 両チームの精鋭たちは互いの健闘を讃え合い、ホミカのゲリラライブを楽しむのであった。


PNTT Fighting! 投げろ!ナマコブシ①

「「「「「「「かんぱーーーい!!!」」」」」」」

 

 チーム<ヒガキ>との準決勝を制したサトシたちは翌日8月6日の午前中にはイッシュ地方を後にし、夕暮れ時にはアイナ食堂を貸し切っての盛大な祝勝会に興じていた。

 祝勝会自体は1回戦の後もやっていたが、ヒカリンTVへの出演オファーを受けたサトシと、その付き添いを申し出たタケシは空港からすぐイッシュへ飛んでいたため今度のが初の参加であった。

 祝勝会にはチームメンバーのみならず、ククイ博士の一家やシゲルガールズも出席している。彼らもチーム<マナーロ>を支えてくれる大事な仲間だからだ。

 

「ぴか!ぴぃ〜かっちゅ!ぴか〜!」

 

 もはや宴会部長であるサトシのピカチュウの形態模写芸、その進化は止まることを知らず一人二役でPNTTの試合を全身を使った模写で再現してゆく。

 その完成度の高さと迫真さは、チームメンバーのポケモンたちのみならずシゲルガールズのポケモンたちにも絶賛であった。

 

「ありがとう!そしてありがとう!」

 

 笑顔を振り撒きながら都度、応援ギャルたちのグラスにドリンクを注ぐのはシゲルだ。ホシたち少女隊にも同様である。

 

「やっぱりシゲル先生素敵だわ〜。」

 

「でもホシちゃんのお兄さんも凄かったよね。」

 

 同じシゲルガールズの候補生であるミア、フウラ、クロエの三姉妹が急に兄を持ち上げてきたのでホシは照れ隠しをする。

 

「そらそらそらぁ〜!」

 

 その兄はと言えばガラガラと一緒に空き瓶を使ってジャグリング芸を披露し場を湧かせていた。

 

「倒れた割には元気そうじゃのう。いや、元気であると見せておるのか?」

 

「それで誤魔化せる監督でもないと思うけど。」

 

 1回戦の後同様のカキの芸を見ながらハプウとセイヨはグラスを傾ける。限界を超えたZワザの後遺症、それがどう出るかは未だ未知数というのが皆の見解であった。

 

「おっまたせ〜!よろしく!」

 

「アイアイサー!」

 

 チーム<マナーロ>の貸し切りを受けたマオが相変わらずの笑顔満点で大皿料理を仕上げてはバイトのスカル団がテーブルに次々と運んでいく。

 今回も店側ではなくチーム側として饗応を受けろとマオに直々に言われてしまったジェニーはカウンター席でなんとも言えない表情をしながらちびちびとグラスを空け、料理をつまむよりなかった。

 そんな中で感じるのは、店の外からの視線…。

 

「ジェニーさん?」

 

 隣にちょこんと座るスイレンがジェニーの視線を追う。すると気配は消え、視線も感じなくなる。

 

「なかなか慣れないな。こういうのは。」

 

 決起集会より自分の店で落ち着かない様子のジェニーのその切れ目でキツい印象を抱かせる眉が僅かに八の字になる仕草がどこか微笑ましいとスイレンは思う。この辺りがマオも慕う要因なのだろうとも心の中で繋げていた。

 

「失礼致しますぞ。」

 

「師匠!」

 

 宴の最中、トレードマークである黄色い羽織姿で店にやってきたハラをククイ博士が目を見開き出迎える。

 ハラはその手に一升瓶を持たせた。

 

「近くまで寄りましてな。ラナキラマウンテンの雪解け水を使ったやつですぞ。」

 

「ハウには、やっぱり会っていかないんで?」

 

 戦勝祝いのお酒を渡せば用は済んだと背を向けるハラの足が止まる。ハラは1回戦の後もこうして戦勝祝いをククイを通しチームへ渡すものの、孫のハウとの対面は果たしていなかった。

 互いにその気は無いのだ。今のところは。

 

「今会っては、約束が違いますからな。」

 

『今度の地方対抗戦、みんなと一緒にゼンリョクで戦ってくるからさ!優勝して帰って来たら…俺と立ち合って下さい!』

 

 背中越しに交わした、祖父と孫の約束。家族といえど…いや、だからこそ男と男の誓いは違えてはならない…。

 

「よかったのかい?ハウ?」

 

「いいんだよ。」

 

 ハラが店を出るのを横目で見送るハウはデントのグラスにたんまりと注ぎ直してやる。約束を果たすまであと1つ…決勝戦を残すのみだ。

 

「みんな!ハラさんから差し入れだ!かなりいい酒らしい。…あっ。」

 

「どうしたの博士?」

 

 ハラを見送ってから喧騒の中へ戻ったククイ博士にサトシが問いかける。なにか思い出したらしいのは明らかだ。

 

「ナンテくん。明日、チームのスケジュールはどうなってる?」

 

「日中はオフにしてます。夕方になったらここに集まって、もう片方の試合を見てからミーティングって感じで。」

 

 ククイ博士にナンテが簡潔に答える。

 

「そっか。ならよかった。なぁみんな!明日の正午からマナーロ・アイランドでナマコブシ投げ大会をやるんだが、参加してくれないか?」

 

「ナマコブシ投げ大会?」

 

 アローラに馴染みの深い面々ほど首を傾げる話であった。

 なまこポケモンナマコブシ。黒い楕円形の体を持ち、顔には赤い両目と『大』型の白い口、背中には3対の赤い突起、後端には白い綿のような器官を備えている。全身は地上に1週間いても乾かない粘液で覆われており、最大の特徴は白い手のような内臓を口から出せることである。

 彼らはは背中の突起や口を触られたり踏まれたりするのを嫌い、これらの刺激を受けると内臓で殴りかかって反撃する習性がある。

 

「アルバイトは雇ってないんですか?」

 

「リーグの広報さん曰く手が足りないんだよ。」

 

 ナマコブシは浅瀬や砂浜を生息地とし、お気に入りの場所を見つけるとそこから動かなくなる習性からそのまま干からび、餓死してしまう例も少なくない。そんな哀しい事態を防ぐため、アローラには地上に居着いたナマコブシを餌場、あるいは水辺へ放り投げる『ナマコブシ投げ』というアルバイトが定期的に各島で募集されていた。

 慣れ親しんだ人からすれば愛嬌の1つも感じるフォルムだが、馴染みの薄い観光客からは気味悪がられるケースもあり、ナマコブシの保全とアローラ全体の景観を保つ観点から募集にはそこまで困らないはずなのだが…。

 

「ナマコブシ、そんなにいるの?」

 

「まぁ、な。」

 

 スイレンに歯切れのよろしくない返しをするククイ博士の反応からするにどうやら相当深刻であるらしい。

 

「細心の注意を払って作り上げられた人工島なのはそうだろうけど、やはり野生のポケモンの生活圏へのダメージは完璧には防げなかった、ですかね?」

 

「耳の痛い話だな。」

 

 シゲルにククイ博士も苦い顔をするよりなかった。

 アローラ地方にポケモンリーグを創設する…3年前に叶ったククイ博士の宿願であり、その舞台として作られたのがマナーロ・アイランドの始まりである。

 シゲルの語る通りの懸念は無論のこと、ルザミーネらエーテル財団により完成までこぎつけた弊害だと言うのなら、下手をしたらアローラリーグ全体の問題にもなりかねない。

 

「とにかく明日、ナマコブシをたくさん海に帰してやればいいんだろ?」

 

 話を極めてシンプルに捉えるサトシは腕が鳴るぜ、とばかりに袖を捲った右腕をぐるぐると回す。

 

「ぴかぴかっちゅ!」

 

 その反対の左肩には、宴会を締め括り戻ってきたピカチュウが飛び乗る。

 

「あったあった。コレね。んーと…優勝賞金200万円!?」

 

 PNTT優勝チームメンバーへの配当金の倍じゃない!と目を見開くのはセイヨだ。カントー有数の名家出身とはいえ、彼女が卒業したポケモンゼミの学費はかなりの額で、出費としてもそれなりに痛手であった。

 両親は出世払いで構わない、と鷹揚に振る舞っているが、セイヨとしては耳を揃えて学費分を支払い、そこから恩返しをしたいと考えていた。

 まさに、このナマコブシ投げ大会は渡りに船なのだ。

 

「ナマコブシ投げって、私も何回かやったことあるけど大体相場は1回2万円くらいだよね?」

 

 スイレンは、額からそれだけ事態が切迫していることを察する。

 同時にお高いルアーへの買い替えを夢想し、足元のナギサに怪訝な表情をさせていた。

 

「そういえばそろそろトラクターを新しくしたかったんじゃよなぁ。」

 

「ウチのも結構ガタが来てるんだよな…。」

 

 農家のハプウと実家が牧場なカキの目がバチッと合う。

 

「じーちゃんの相撲部屋もあちこち古くなってたよなぁ…。」

 

 ハウも一言呟けば、それがそのままモチベーションに繋がる。金で勘当に近い祖父との関係をどうにかしようとは考えない辺りが彼の純真たる所以といえよう。

 

「みんなやる気満々みたいだな。」

 

「そういうタケシはいいのかい?タマ大に入った後の学費とか入り用はあるんじゃ?」

 

「ポケモンセンターでのバイトでそのくらいはどうとでもなるようにしてあるさ。」

 

 弟妹たちのもとには帰ってきた両親がいる以上そこまで心配はしていない、そうタケシは付け加える。

 

「なら安心だ。」

 

 特にお金に困るでもないデントは爽やかな笑みを浮かべていた。

 

「お金の話はともかくとして、明日スクールで従伯祖父様に話はしてみますよ。」

 

 講師としてポケモンスクールに出勤予定のシゲルも前向きな姿勢を示す。

 

「あぁ。それ、私たちアイナ食堂も総出で出ることにしたんだ!」

 

 話に割って入るマオも目的としてはシンプルで、お店のリフォーム費用に充てるためだと豪語する。

 

「なら私もやるか。」

 

「いいの?ジェニーさん疲れてない?」

 

「平気さ。」

 

 往復で飛行機に揺られたとはいえ、実際には試合のなかったジェニーにさほど疲れはない。心の中では、もし大金が転がり込んだなら店の、マオのために使おうと決めていた。

 

「みんな、すまん!恩にきる!」

 

 好意的にリーグの事情に乗っかり協力の意を示してくれたサトシたちにククイ博士は頭を下げる。

 顔を上げるよう促すナンテをよそに、ただただナマコブシ投げを楽しみにしているサトシやスクール次第のシゲル以外のチームメンバーはそれぞれ200万円の使い道を皮算用していた。

 

 

 

「ぴ、ぴかぁ〜…。」

 

「えぇー…?」

 

 翌日、午前中はそれぞれの用事を済ませた後メレメレ島に居を置くサトシとスイレンにマオたちアイナ食堂の面々はククイ博士と共にエーテル財団から来た迎えの船でマナーロ・アイランドへと出発。

 途中、リザードンにライドして空路を行くカキと合流すれば、辿り着いた先の『惨状』に言葉を失っていた。

 

「なまなま。」

 

「なまこん。」

 

 係留施設はおろか、市街地の至る所にまでナマコブシが居を置いていたのだ。

 

「ボンジュール!今日はいいナマコブシ投げ日和だね。」

 

「シゲル。」

 

 シゲルが受け持った生徒たちと共に合流する。

 

「午後からの課外授業として校長先生もノリノリで授業内容を変更してくれましたよ。」

 

 その耳打ちにククイ博士はこの場にいないナリヤ校長が仏のように思えていた。

 

「ほにゃあああああ!?」

 

「ぶい?」

 

「ハプウちゃんも着いたみたいだね。」

 

 彼方より聞こえる特徴的な叫び声の方角をナギサとスイレンは振り向く。そこに飛んできたスマホロトムを一堂が見ていけば、通話モードらしく聞こえてくるのはロトムの鳴き声をもとにした電子音ではなく、人間の声であった。

 

『チーム<マナーロ>の皆さんお疲れ様で〜す。ナマコブシ投げ大会の会場はスタジアムなんで、ついてきてくださ〜い。』

 

 誘導を開始するスマホロトム。通話越しに女は、アローラリーグ広報担当のイライズと名乗った。

 




 『ハラ』
 60歳。しまキング。
 メレメレ島にて島巡り全般の管轄をしており、Zリングの製作も行なっている。
 アローラ相撲のノウハウを存分に活かした豪傑のバトルを得意とするであり、切り札はつっぱり自慢のハリテヤマだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。