3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 準決勝を終えアローラに帰ってきたチーム<マナーロ>はアイナ食堂にて祝勝会と洒落込んでいた。
 途中しまキングのハラも顔を出す中、ククイ博士の要請を受け皆で翌日ナマコブシ投げ大会に参加するのだった。


PNTT Fighting! 投げろ!ナマコブシ②

 このポケモン社会において野生ポケモンの大量発生などは日常茶飯事であり、それそのものはさほど珍しいことでもない。今回のナマコブシの大量発生に関しては、その量と場所が問題であった。

 人工島マナーロ・アイランドはポケモンリーグに根ざした商業都市であり、景観などは最優先で保持される要項なのだ。それが今では島の中央にあるマナーロスタジアムの周辺区域がほぼナマコブシに占領されていた。

 その理由としては酷く単純なものであった。島全体で発生する食品ロス、その残飯の投棄ルートを遡る形でナマコブシたちは流入してきたのだ。

 

『美味い餌を求めて動き回るのは生き物の性だ。そこは責められない。ただ、こうまで数が溢れてしまっては対処はしなくちゃね〜。』

 

 スマホロトム越しに事情を解説する女の声は呑気なようで事態の深刻さそのものはきちんと捉えていた。

 

『おっ、ギーくんも来たんじゃん。』

 

 そんなスマホロトムが駆け寄り、周囲をおちょくるように飛び回るのを鬱陶しげに見るのは180cmほどの筋肉質な黒髪の青年だ。

 

「ぴか?ぴーか?」

 

「ぴっかちゅ。」

 

 サトシのピカチュウは定位置である主人の左肩から青年の足元にいた同種の前に降り立つ。

 自前に拵えているピンク色のサーフボードを抱えたピカチュウは挨拶を受け、互いに背を向け尻尾を交差させる。ピカチュウ同士の仲良くしようというコミュニケーションだ。

 

「おっ、ギラじゃないか!そろそろ選手権じゃあないのか?」

 

「ククイ博士、ご無沙汰してます。選手権は来月ですね。」

 

 浅黒い男同士の固い握手を見るサトシたちにククイ博士は青年を紹介した。

 

「彼はギラ。ポケモンスクールの卒業生で、プロのマンタインサーファーなんだ。」

 

「マンタインサーファー!」

 

「オルオルさんみたいな感じか。」

 

「あの人と並べられるのはちと荷が重いかな。」

 

 みずポケモンを専攻的に扱うスイレンが目を輝かせ、同じOBとして関わったプロ野球選手をサトシは思い出す。

 よろしく、とサトシたちとギラが知り合ったところでナマコブシ大会の開会と説明として集まった皆の頭上を通話モードのスマホロトムが何台も飛び回る。その声の主は全てイライズであった。

 

『ナマコブシ投げ大会に来てくれてみんなどうもありがとうございま〜す。進行は私、アローラリーグ広報担当イライズがさせていただきますね〜。』

 

 進行を受け持つイライズの通話音声に反応してスタジアムの電光掲示板がパッと点灯すれば、マナーロ・アイランド全体のマップデータが映し出され、その周辺を囲う海域の5箇所に赤丸でチェックが入ってゆく。

 

「ナマコブシはその生態上、ただ投げて海に帰したとしてもすぐに帰って来てしまいます。投げた先を気に入ってもらわないと。と、いうわけでエーテル財団協力のもとここ数週間のうちに餌の豊富なエリアを割り出しました〜。」

 

「それが赤い丸でチェックされた場所かぁ。」

 

 ハウがのほほんとモニターを見上げながら呟く。皆、なんとなくは話の要領が見えて来ていた。

 

「今回は17時までにどれだけ指定されたエリアにナマコブシを投げ入れられるか。そこがポイントとなってま〜す。事前に参加者の皆様のスマホロトムには大会用の専用アプリをダウンロードしてもらってますので、最寄りの投擲ポイントの確認にご利用下さ〜い。」

 

「ただたくさんナマコブシを投げればいいってわけではないわけだね。」

 

「シゲル、どっちがたくさんポイント稼ぐか勝負しようぜ。」

 

「いいだろう。」

 

 親友でこそあるが根本的にはライバル同士。競う物事あらばぶつかり合うのがサトシとシゲルの本能と言えた。

 やれやれ、とピカチュウは2人を見る。

 

『それでは皆さんお待たせしました〜。200万円目指して、ジャンジャンナマコブシを投げまくっちゃって下さ〜い。』

 

「うお〜!」

 

 イライズの開幕宣言、我先にと走り出したのはイシツブテのTシャツがトレードマークのヒロキだ。

 

「200万円は俺が頂くぜ〜!」

 

 目についたナマコブシをガシリと持ち上げるところで、

 

「こぶっし!」

 

ボカーン!

 

「あら〜!」

 

 反撃され自分が指定エリアまで吹っ飛ばされてしまう。ナマコブシの口から飛び出す拳型の内蔵でぶん殴られたのだ。

 

『あらら〜。まぁ、ああならないように慎重にお願いしますね〜。』

 

 安全第一、そうイライズは念押しした。

 

 

 

「よっ、と。これで20体目。」

 

「手慣れてる、凄い。」

 

「ナマコブシ投げのバイトもそれなりにやってるからな。」

 

 狙いを定めるポイントの被ったスイレンとギラは世間話もそこそこにナマコブシを手際よく投げ込んでゆく。

 スイレンが聞くにギラという青年は、マンタインサーフをメインに活動してこそいるが本質的には海周りの仕事全般を手広く担当しているとのことだった。アローラ各島のビーチでのライフガードや、ライドポケモン水上部隊の調練とサーファー以外にも活動は多岐に渡る。

 

「マルチに働く海の男、ですね。」

 

「善い事を積み重ねないと善い波は来ないからな。」

 

 それは、ギラの信条と言えた。

 

 

 

「ほにゃあああああ!?なんじゃあああああ!?」

 

 ハプウはナマコブシ投げどころではない状況に陥っていた。何かが彼らの琴線に触れたのか、体中にナマコブシが張り付いている中あたふたと走り回っている。

 

「ナマコブシ的にはハプウさんみたいな感じの子がいいのかしら?」

 

 自らの容姿に絶対の自信を持つセイヨとしては、ナマコブシとは言え注目を掻っ攫われるのはいい気分はしない。

 ただ、それはそれとして賞金がかかっているのもまた事実。200万円争奪レースであるナマコブシ投げ競争から事実上脱落したも同然なハプウを他所に着実にスコアを稼いでいた。

 

 

 

「おい、このナマコブシは俺が目をつけてたんだぞ。」

 

「俺が先に見つけたんだもんね。」

 

 同じ個体に手を伸ばしたところでバッタリ鉢合わせするのはカキとハウ。2人はひとかどのポケモントレーナーだ。みだりにポケモンを繰り出すなんてことは考えない。

 だが、この場の決着は何かしらの方法でつけねばならない…そうして知らず知らずのうちに、2人は四股を踏んでいた。

 

「アームレスリングの勝敗はガラルとイッシュからの帰りでお前が2勝、イッシュへの行きで俺が1勝だったな!」

 

「その番付にこの結果も加えるの?」

 

「無論だ!」

 

 門外漢ながら鍛え込んでいるだけ見事な四股を踏む、とハウは内心カキを褒める。

 そんなハウも相撲で決着をつけるとあらば上着を脱ぎ捨て、カキ同様上半身裸となっていた。

 両者の間に割って入るのは本格的な軍配を片手に持ったデント…。

 

「ふふふ、僕はアームレスリングソムリエであり、本格的な大相撲ソムリエでもあるのさ!行司なら任せて欲しい!」

 

 カキもハウも一向に構わない、と首肯する。

 

「2人のしこ名は?」

 

「カキヶ山!!」

 

「ひが〜し〜!カキヶ山〜!」

 

「ハウの里!!」

 

「に〜し〜!ハウの里〜!」

 

 物々しくも本格的な取組の空気にだんだんと人が集まってくる。

 

「見合って見合ってー…はっけよい!!」

 

 デントの行司のもと、2人はがっぷり四つと組み合った。

 

「のこった!のこったのこった!のこったーッ!」

 

 最早当初の目的も忘れ、カキもハウも相撲に興じるのだった。

 

 

 

「ふぅ〜。ナマコブシ投げって大変なんだね〜。」

 

「マオ、あまり無理はするなよ?夕方またチームのために店開けるんだろう?」

 

 扱いをしくじってナマコブシの反撃を受け逆に指定エリアに吹っ飛ばされたバイトのスカル団を心配しながらもマオとジェニーはナマコブシを投げ続けていた。賞金こそ欲しいは欲しいが、どちらかというと2人は久々に水入らずな空気を堪能している。

 

「大丈夫!ここ最近新メニュー開発で煮詰まってて、そういう時は体を動かしたらいいって"先生"も言ってたから!」

 

 メレメレ島の森に人々が建てて送った小屋で住むヤレユータンは島の皆の良き相談役として親しまれている。

 マオも何度か彼の小屋へと足を運び金言を得ていた。いつしか父同様、マオもヤレユータンを『先生』と呼び慕うようになっていた。

 溌剌とするマオにジェニーは自然と顔を綻ばせる。

 

「ジェニーさん、あっちの方見に行ってみようよ!」

 

「私はトイレ。先に行っててくれ。」

 

 頷くマオを見送るジェニーの表情が途端に真剣なものへと変わる。

 

「昨日、空港からずっと事あるごとに見張ってるのは分かってる。いい加減出て来たらどうなんだ。」

 

 バササ、と茂みから姿を現す影がジェニーと正対する。

 トレンチコートを着た中年の男は、どこか冴えない印象を与える全体的な容姿を高い洞察力の携えられた双眸が打ち消している。

 

「アイナ食堂のアルバイト、ジェニー…いや、あえてこう呼ばせてもらおう。"ポケモンハンターJ"。」

 

 切れ者の視線がジェニーを刺す。

 ジェニーは、不思議と違和感なく男の言を受け入れていた。ポケモンハンターJ…それこそが、記憶を失う前の自分である、と。

 

 

 

「リククラゲ、キノコのほうし!」

 

「くふぅ〜ッ!」

 

 高らかな指示に応えリククラゲが催眠作用のある胞子をばら撒けば、繁華街にたむろしていたナマコブシたちは皆スヤスヤと眠り状態になってゆく。そこをまんまとシゲルは海へ次々放り投げるのだ。

 

「ずるいぞシゲル!」

 

「賢いと言ってくれたまえよ、サートシくん!」

 

「「「「「「いいぞ!いいぞ!シ、ゲ、ルぅ〜!!」」」」」」

 

 ぐぬぬと唸るサトシをよそにシゲルはナマコブシをどんどん投げていき、その様に応援ギャルたちはエールを送る。

 実際のところルールとしても過度に痛め付けるでもない限りナマコブシ投げの為のプロセスに自分のポケモンを使ってはならないとの記載はないのでシゲルの作戦は特に問題にはならない。

 

「こうなったらピカチュウ!俺たちも協力しようぜ!」

 

「ぴっかぁ!」

 

 任せとけ!とピカチュウもナマコブシ投げをすべく辺りを見回せば、

 

「ぴかぁ〜?」

 

 路地裏に見たことのない色のナマコブシを見つけた。ナマコブシは通常黒い体色に赤い突起、色違いの個体は緑の体色に黄色の突起が特徴なのだが、なんと見つけたナマコブシは全身真っ白であったのだ。

 

「ぴかぴか!」

 

 考えられるとすれば、栄養失調。黒いボディが真っ白になるほど弱っているならば急いで餌のある場所へ投げてやらねばなるまい…そう思って駆け付けるピカチュウの頭上から網が放たれ…

 

「ぴかぴかぁ〜!?」

 

「ん、ピカチュウ!?」

 

 悲鳴を聞き付け、サトシが駆けつけた先にはピカチュウを捕えた網を手に持つ異様なロボットが佇んでいた。

 見上げるロボットのフォルムとしては、そのまま機械化されたドサイドンを10mほどサイズアップしたような姿をしている。

 

「サトシ!」

 

そこに騒ぎを聞きつけ駆け付けてきたのはタケシとシゲルだ。

 

「タケシ!シゲル!ピカチュウが!」

 

「なんなんだ、きみたちは!」

 

 内心薄々勘付きながらもシゲルが叫ぶ。するとロボの頭部からせり上がるように姿を見せるは、やはり見慣れた奴らであった。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」

 

「答えてあげよう、明日のため!」

 

「フューチャー…白い未来は悪の色。」

 

「ユニバース…黒い世界に正義の鉄槌。」

 

「我らこの地にその名を記す!」

 

「情熱の破壊者、ムサシ!」

 

「暗黒の純情、コジロウ!」

 

「無限の知性、ニャース!」

 

「「「さあ集え、ロケット団の名の下に!」」」

 

「そぉぉぉぉぉ、なんすッ!!」

 

 お決まりの口上が済めば抗議するのは彼らと付き合いの長いサトシにタケシだ。

 

「ロケット団!ピカチュウを返せ!」

 

「相変わらずだなお前たちは!」

 

「どうせあたしたちは相変わらずですよ〜だ!」

 

「でもそれも今日限りだい!」

 

 ムサシ、コジロウ、ニャースは機体のコクピットへ引っ込んでいく。

 網の中のピカチュウは、白いナマコブシがニャースの変装で誘き出された事実に悔しがった。コレでこいつらに捕まるのはもう何度目だ?数えるのはとうの昔に止めていた。

 




 『いろんなソムリエであるデント』
 ポケモンソムリエとして知られるデントだがコレ以外にもソムリエとして修めているものがいくらかあり、その内訳はサイエンス、探偵、刑事、メトロとキリがない。
 といってもやはりその精度はポケモンソムリエが1番だ。
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