3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ジェニーはマオを抱きながら、己が内に僅か残っていた『J』を静かに葬った。彼女はアイナ食堂のジェニー…それ以上でもそれ以下でもない。
「さぁーみんな!!今日も日替わりフルコース・マオちゃんスペシャル作っちゃうジャンジャン飲んで食べてってちょうだいね〜!」
「「「「「うぇーーーい!!」」」」」
ジェニーと一緒にアイナ食堂に戻ったマオが泣き明かして腫れぼったくなった目元も気にすることなく厨房という名の根城に入れば、チーム<マナーロ>の面々も待ってました!とばかりに囃し立てる。
「マオ、どんどん作ってくれよ。今日は皆ナマコブシ投げで盛大に腹を空かせてるからな。」
「りょーかいっ!」
カウンター席からのジェニーの言にマオは景気良く答えながらテキパキ作業している。既に数品かは作り終えているほどだ。
「すっかり吹っ切れたみたいだね。ジェニーさんも、マオさんも。」
「そうみたいだな。」
サトシたち、元からJを知っていた組としてはこれで完全にジェニー周りの懸念要素が消えたことになる。
ホッと安堵する彼らの足元では、皆のポケモンたちが集まり昨日に引き続きの宴会が行われていた。
「らいらいちゅ!」
「ちゅい〜!」
「ぴぃかぁ〜。」
宴会部長であるサトシのピカチュウがケチャップのチューブを片手にナンテとハウのライチュウが繰り広げる漫才を具に見ている。
「ぴかぴか〜。」
100点満点中55点、とその可愛らしいフォルムと様子とは想像つかないほどにシビアに芸を評価していた。
「皆さん。そろそろ試合中継が始まります。まずは普通に観戦して、その後に動画で諸々の確認がてらミーティングですのでよろしくお願いします。」
「「「「「はーーーい!」」」」」
貸し切りの食堂を取りまとめるナンテの額には止血用ガーゼがテープで貼り付けられている。マナーロ・アイランドの港のコンクリートに土下座で何度も頭を打ち付ける中で出血していたものの処置である。
監督の方針説明にサトシたちもご機嫌に返事すればバイトのスカル団が店のテレビモニターを中継が行われるチャンネルへと合わせる。
「おっまたせ〜!どんどん来るから食べながら見てね〜!」
マオちゃんスペシャルの先鋒がテーブルに並べられていく辺りで時間となり、予定が変更されることなくテレビモニターはシロガネスタジアム上空を映していた。
ジョウト地方シロガネタウン。その名の通り、ジョウトリーグシロガネ大会の舞台として使用される霊峰と2つの湖に囲まれた町である。
本来ならば予選リーグが開催される10月以降以外はシロガネ山登山目的くらいしか外部からの旅行者は見られないが、今日は例外であった。
PNTTの試合会場に選ばれたのはもちろんのこと、その対戦カードも大きな要因なのだ。
「全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様、こんばんは!本日はPNTT準決勝第2試合の模様をシロガネスタジアム放送席よりお送り致します!実況はわたくし、ジッキョーで解説にはこの方々にお越しいただきました!」
「うっす!タンバジムのジムリーダー、シジマだ!今日はこの特等席から試合を見れる日を楽しみにしてたんだ!今日はよろしく!」
「ウフフ、おじさまったら相変わらずですね。アサギジムのジムリーダー、ミカンです。今日はよろしくお願いします。」
髭面の豪快さを全面に出し、擦り切れた道着姿の中年の男と白いカーディガンを羽織り、橙色のリボンが付いた薄緑のワンピース姿で茶髪のロングを上の方で二つに結び、橙色の丸い飾りを着けている美女が挨拶を交わす。
シジマとミカン。共にジョウト地方のジムリーダーとして日々強さを追い求めるつわもの同士だ。
「あ、そうそう!この間差し入れてくれたもりのヨウカン!アレはとても美味かったよ!今度家族旅行はシンオウに行こうってくらいにな!」
「それはよかったです。」
「お2人は、プライベートでも親交があるみたいですねぇ。」
「あぁ!ミカンちゃんはワシがジムを開いてすぐに挑戦しに来てくれた。ルーキーの頃からよーく知っとるよ!若い頃のカミさんによく似て美人さんになってくれて、ほとんど娘みたいなもんだな。」
「えっ、そうだったんですか?」
「うむ、まぁわしはカミさん一筋だがな!」
ガハハと笑い飛ばすシジマ。娘のように見ていると初めて聞かされたミカンとしては素直に喜んだ。
「なるほどー。さて、今回の試合は巷では"伝統の一戦"などと言われているみたいですが、お2人はどう見ておりますでしょうか?」
「あー、らしいな。カントーとジョウトってのは昔から割とゴタゴタしておるみたいだからなぁ。やはりそういう意識や話を聞かされてる選手もいくらかはおるのではないか?」
「情報アドバンテージで考えるなら、3タテで勝ち上がったチーム<シロガネ>に対して、シングル1までもつれたチーム<セキエイ>はどうしても開示されてるデータの違いで不利になりますよね。なによりホームタウンはジョウト側だし…。」
「なるほど。ミカンさんが見るならば若干チーム<シロガネ>側有利、と言ったところでしょうか。」
「はい。」
ウオオオアアアアアッ!!
「おっと、応援席からの盛り上がりがヒートアップ!選手入場ですッ!!」
「いざ、参ろうぞ!」
マントをたなびかせながら先頭を切るのはチーム<シロガネ>のリーダーであるチャンピオンワタル。
その左右を四天王シバとジムリーダーにしてワタルの従姉妹でもあるイブキが囲み、残りは後ろに続いている。
「スリバチやまの かぜにのりでんこうせっか やってくる〜!」
ジョウト側応援席の最前列にてコガネエレブーズの帽子とユニフォーム姿の美少女が音頭を取れば、
「「ひかりのかべだ!かみなりパンチ〜!にらみつけるぞチーム<シロガネ>〜!!」」
歌声に反応するのは同じく『エレ党』『エレキチ』と呼ばれるほどに熱烈なエレブーズファンのアカネとチリである。
「「「フレー!フレー!フレ、フレ、フレ〜!!チーム<シロガネ>〜!!」」」
オオオオオッ!!シ、ローガネ!シ、ローガネ!!
「えーれ!ぶ〜ッ!!」
エレブーズの応援歌をもじってのパフォーマンスは今回集まった応援団代表のナナコの半ば強引な独断である。
彼女の隣では、自作の旗をまさしく自身がゲットしているでんげきポケモンエレブーが振っていた。
「俺、スターミーズファンなんだよなぁ…応援してくれるのはありがたいけど。」
「滅多なこと言うなよケンタ。2人に聞こえたら試合前に殺されちゃうぜ?」
ケンタのぼやきに慌ててジュンイチが口を塞ぐ。幸いエレブーズの応援歌で気を良くしているアカネとチリの耳には入っていないようであった。
そんなことより2人の懸念は別にある。それは…
「「マリナ、いないなぁ?」」
この一点に尽きた。
「チーム<シロガネ>、堂々入場ッ!!初戦ではホウエン代表チーム<サイユウ>を相手に無傷の3連勝!!ノリにノッています!!」
「チーム合宿の折、わしのジムを宿舎として提供したんだがその時親父さん…ヤナギ監督も言っておった。"ツボにハマれば止まらない、面白いチームになる"とな。」
1回戦の快勝がチーム全体に大きなプラスをもたらしている。端的にシジマは評した。
ウオオオオ!!セキ、エイ!セキ、エイ!セキ、エイ!セキ、エイ!
「大丈夫かいジロウ?顔色よくないよ?」
「ぴっか。」
「だ、大丈夫です!元からこういう顔だから…。」
「そうかい?」
アウェーの空気の中、ワタルたちの反対側入場口より姿を見せるのはチーム<セキエイ>だ。チームリーダーを務める四天王カンナを先頭に、すぐ後ろにカスミがつき、あとはそれぞれ好きに続く。
最後列、足取り重いジロウにヒロシが声をかけていた。兄のタケシ同様浅黒い肌を理由に沈澱した闘志を押し隠す。1回戦より彼に課せられたタスクが、彼の足取りを、気持ちを沈めていた。
そんなジロウを横目で見るシンジ…彼の名誉のために言うなら決して睨んでいるわけではない。目つきがキツいのは生まれついてのもの。要は、元からである。
「さぁ、両陣営スタジアム中央にて集結し睨み合う中監督がオーダー表の交換と同時に電光掲示板へと対戦の組み合わせが発表されます!」
「監督のお二方はかなりバチバチと覇気をぶつけ合っておられるな。」
「現役の頃からずっとやり合っているからな。」
「ホント、いつまで経ってもお元気なこと。」
一触即発の空気を醸し出しながらオーダー表を渡し合う監督のヤナギとキクコを見るワタルにシバとカンナが言葉を紡ぐ。
ポケモン歴1972年生まれのワタルとしては、ポケモンバトル界における主戦場で全盛期の力を振るっていたタマランゼ、ヤナギから来る『TY世代』やオーキド・ユキナリとキクコから来る『OK世代』の現役時代は記録映像でしか推し量れず、実際それらを体感してきたカンナやシバが素直に羨ましかった。
「おおっ、対戦カードが出たぞ!」
電光掲示板を指差しながら観客の1人が叫ぶ。次いでおお〜、と各地で皆それぞれに唸っていた。その組み合わせとは…
『ダブルバトル2
ケンタ&ジュンイチvsジロウ&アキラ
ダブルバトル1
アカネ&チリvsカンナ&カスミ
シングルバトル3
コトネvsサムライ
シングルバトル2
シバvsカオルコ
シングルバトル1
ワタルvsヒロシ』
「シンジの奴、一体どうしたんだ?」
画面越しに互いのオーダーを確認してサトシがまず気になったのはそこである。1回戦に引き続き、シンジが試合に出て来ていない。
ハッキリ言って、チーム<セキエイ>の中で見ればあいつの実力は間違い無くトップクラスだ、とサトシは思っている。もっと言うなら、シンジがオーダーに入っていればチーム<ミアレ>との試合ももっと楽に立ち回れていたことだろう。
試合前の握手を同じ補欠枠のイブキとしてからそそくさとベンチへ引っ込む紫髪の後ろ姿は、ただただ不可解だ。
「温存か、それともコンディションがよろしくないのか…ううむ。」
シンジをチーム<セキエイ>の最大戦力として見ているのはナンテも同様だ。PWCSでは最短でハイパーランクまで到達し、試合記録においても盤石の試合運びでジョウト四天王カリンを破り、マスターズ8も視界にとらえた現在11位の俊英がPNTTの舞台で沈黙を保ち続けているというのはどうにも心臓に悪い。
マオちゃんスペシャルに箸をつけるのもそこそこにチーム<マナーロ>の皆が中継へ意識を向ける中、『伝統の一戦』が幕を開けるのであった…。
『ナナコ』
13歳。ポケモントレーナー。
ジョウト地方出身でプロポケベースチーム『コガネエレブーズ』の熱狂的ファン。
チームの象徴であるエレブーを引き連れトレーナー活動の傍ら試合応援に球場へ足を運ぶタケシ曰く『5年後が楽しみ』な美少女だ。