3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
カントーvsジョウト、古くから因縁のある地方同士が決勝進出をかけていざ戦う!
果たして、サトシたちの次なる相手はどちらになるのか…?
ジョウト側タッグのケンタとジュンイチはは1回戦と同様意気軒昂であった。
とりあえずなにかにつけてハッスルしていること自体が彼らの1番の取り柄であり、チームメンバーとして採用された要因だったのだが。
「マリナさんからケンタさん、ジュンイチさんへ伝言を預かっています。"2人へ。今日の試合はコンテストの営業が急に入り、どうしてもスタジアムに応援に行くことができなくてごめんなさい。"」
「そ、そんなぁ〜…。」
「まぁ、マリナはトップ・オブ・トップのポケモンコーディネーターだしなぁー…。」
試合前挨拶の後、一旦ベンチに引っ込んだところでマリナの不在、応援に来れないという旨を伝えられ、あからさまにテンションが下がる野郎2人に気持ちは分かる、とコトネを横目に一瞬見ては内心同情しながらデータマンのカズナリは伝言を続ける。
「"その代わり、今日の試合で頑張った方とデートしてあげる♪マリナより"…だそうです。」
「「なにィッ!?」」
瞬間、下がっていたテンションが一気に倍以上へぶち上がるケンタとジュンイチは、
「「ウッヒョーーー!マリナとデート!マリナとデート!」」
「試合前に何浮かれとるねん、おんどれらぁ〜!!」
たまらずはしゃぎ倒すところをアカネにハリセンでスパン!スパン!と引っ叩かれていた。
「マリナくんとデート、か…いいな。」
「あぁ…いいな。」
スパン!スパン!
ベンチに腰掛け腕を組み、しみじみと頷きながら呟くワタルとシバの頭にもイブキによる無言のハリセンツッコミが火を吹く。
「あーもう!男どもはコレだから!監督ぅ!ビシッとひとこと言うたってください!」
「私もしたいなぁ、マリナくんとデート。」
アカネからのフリにヤナギがお決まりのオチからのチーム<シロガネ>全員でだぁぁとズッコケて寸劇は終了。
「おーーーし!いくぞジュンイチ!!」
「おうよ、やらいでか〜!!」
そうしてトレーナーサークルへ駆け出す若人の背中を、ヤナギは満足げに笑みながら見送っていた。
『この大会を最後まで勝ち抜き、さらに言えば未来のカントージムを盛り立てていくにはジムリーダーとして選んだ誰かが大きな覚醒を得ねばならない。そこであたしはお前さんに目を付けた。お前さんが試合で勝って見せない限り、あたしはシンジを試合に出さない。分かったね?』
チームに合流したジロウにキクコが監督として投げかけた言葉が、コレだった。
ニビシティでジムを切り盛りするジロウからすれば、各地のリーグで結果を残し、バトルフロンティアの完全制覇も付け加えた輝かしい経歴を背景にトキワの森を挟んだ隣町のジムリーダーへ就任したシンジはまさに憧れの対象であった。
暇さえあればトキワジムに顔を出してスパーリング相手を買って出る間柄になるのにそう時間はかからなかった。
「よう!あまり気を張りすぎるなよ。リラックスしていこうぜ。」
「アキラさん…はい。」
バシリ、背を軽く叩かれるジロウはアキラに愛想笑いで返す。
シンジのエントリーが絡むジロウへ課せられたタスクはチーム全員にも無論共有されている。事実上、この試合にジロウが勝てなかったらたとえ決勝進出を決めたとしてもシンジはオーダーされないのだ。
この事実を前にただ1人責任に押し潰されそうなジロウの姿に、アキラはひと肌脱ぐことにした。
「これよりダブルバトル2、チーム<シロガネ>ケンタ選手&ジュンイチ選手vsチーム<セキエイ>ジムリーダージロウ&アキラ選手の試合を始めます!!」
審判はコガネ弁の訛りがそれなりに入りながらも聞き取ることは特に問題のないイントネーションで試合開始を宣言した。
「いっくぜーッ!」
「頼むよッ!」
「ばくあああッ!」
「にぁぁぁむ!」
ケンタはバクフーン、ジュンイチはメガニウムを先発させる。
「(狙いは1回戦と同じか…!)ゆけっ!サンドパン!」
「ぱんんんぬ!」
アキラの先発はサンドパン。
「は、はうあ!ハガネール、いけッ!」
「がんねぇい!!」
少し遅れてジロウはてつへびポケモンハガネールを先発させた。
その巨体が降り立つのでフィールドが振動し、バクフーンとメガニウムは身構える。
「よーしメガニウム、にほんばれだ!」
「がーにゃ!!」
ジュンイチの指示のもと、メガニウムが全身を発光させ、パワーボールを上空へ打ち上げる。
それがアキラの予測を確信に変えた。
「させるかッ!サンドパン、すなあらしッ!!」
「ぱぱぱぱぱぁ!!」
飛び上がるサンドパンが全身からじめんエネルギーを変換させた砂の嵐を巻き起こせば、にほんばれの擬似太陽を即座に霧散させる。
「メガニウムのにほんばれに対してサンドパンはすなあらし!アキラ選手、ケンタ選手とジュンイチ選手のタッグ戦術を読んで初手を潰しにかかったーッ!!」
「見事!しかし、天候を塗り替えるのでサンドパンは無防備。そこを狙わない道理はなかろうな。」
バクフーンの狙いがサンドパンであるのを見逃すシジマでもミカンでもない。
「バクフーン、かえんほうしゃだ!!」
「ばぁぁぁくぁぁぁッ!!」
シュボアアア!
すなあらしの勢いに負けることなくバクフーンの大口より放たれる炎のブレスが空中のサンドパンの胴体を貫いた、ように見えた。
が、手応えはイマイチ感じない…。
「チッ、すながくれだな!」
舌打ちとともにケンタは辺りを見回す。フィールドがすなあらし状態の時に視界不良な環境を利用して回避能力を向上させる特性の煩わしさに分かりやすく苛立っている。
「ケンタ、乗せられてるぞ!作戦通りやればいいんだ!メガニウム、もう一度にほんばれ!」
熱くなりやすい幼馴染を制しながらジュンイチは再度にほんばれの指示を飛ばす。
「がぁぁにぅッ!」
再度打ち上げられるパワーボール。むざむざ通すアキラでは、ない。
「ぱぁッ!」
「もう一度すなあらしで吹き飛ばせーッ!!」
砂に隠れてまんまと着地してすぐ、これまた砂塵の大竜巻が一瞬フィールドを照らしたパワーボールを消し飛ばす。
目まぐるしい天候の奪い合いに興じるアキラの隣では、ジロウは堂々巡りに陥っていた。
「(戦術の核はにほんばれ…ならメガニウムから、いや、攻撃役のバクフーンを先に倒した方が…どうする?どうすればいい…?)」
「ジロウ…かなり重症だな。」
デントと乾杯してからジョッキを空けるタケシからして、弟が何かしらの袋小路にハマり込んだことはイッシュで見た中継の頃より明らかであった。
パートナーのアキラの奮戦を前にハガネールをフォローに走らせることすら忘れる有り様を嘆くより先にその袋小路の深刻さが顕著に映っていた。
「ニビジムの坊や、だいぶ参ってるみたいだね。」
我が師ながらぬけぬけとよく言えたものだ、とシンジは思わないでもない。ジムリーダーになった時期自体はジロウの方が早く、そこから来る経験談はシンジからしても『使える』と判断でき、何より邪気もなく真摯な態度で慕ってくる相手をわざわざ無碍にする理由もない。
そんな中でジムリーダー間の付き合いをしていてからの代表入りをしてキクコは自分ではなくジロウに難題を振りかけたのだ。
「そうですね。」
無機質な声色で返す。それでもシンジは知っていた。この人は苛烈だが、決して出来もしないことを相手に要求したりはしないのだ。
2度のチャンスの中で勝ってみせろと言ったらば、それは死力を尽くせば必ず届くギリギリの目標を絶妙に課すのだ。
トキワジムに入った自分にしたように…。
「(早く気付け。お前の"使えるところ"を見せてみろ。)」
内心で呟く。
なんだかんだでPNTTの大舞台を前にお預けをくらわされているのもポケモントレーナーの本能として辛い。
シンジとしては、やはり戦いたいのだ。
「ぱぁん、ぱぁん…!」
「くそ、そろそろキツくなってきたな!」
にほんばれをすなあらしで上書きしつつバクフーンの追撃をすながくれを活かしいなし続けるサンドパンだが、流石に息が上がってきていた。
「アキラさん…!」
「答えは出たかよ?」
バク宙しながらかえんほうしゃを回避するサンドパンがハガネールの側に着地、鋼鉄のボディを見上げる。それでもこのヒリヒリとした状況にアキラ共々不敵な笑みは崩さない。
「俺は…俺は…!」
ジロウの脳裏に、憧れ続ける男たちのそれが重なる。
「シンジさん…!サトシさん…!」
2人の奥から優しく笑みを向けるのは、
「兄ちゃん…!」
家族のためにジムを切り盛りしていた偉大なる長兄タケシ。彼が挑戦者を迎え撃つ横顔と大きな背中にジロウは痺れ、憧れた。それは、今も変わらない。
そんな兄が、憧れる男たちがいつまでも蹲っているか?答えは、否!
「うおおおーーーッ!!」
モリモリモリモリモリィィィッ!!
「どうやらひと皮、剥けたみたいだね。」
「そうですね。」
肉体をパンプアップさせて着ていたシャツを破り、鋼のような、いや、鋼以上に険しい岩山を思わせる筋肉を露わにするジロウに、キクコもシンジも覚醒の到来を確信する。
「な、なんだ!?急に圧が増したぞ!?」
相手取るジョウト側ベンチからは吹き荒れるすなあらしの影響で視界がぼやけて覇気の増大しか感知出来ていない。
「吹っ切れたみたいだな。」
「はい!」
ムキッ!ムキムキッ!
アキラにジロウはハキハキと頷き、自身の肉体を確かめるようにサイドチェストからモストマスキュラーへ流れるようにポージングを決めてゆく。
「俺はジロウ!ニビジムを預かるジムリーダー!!強くて硬い、"石"の男!!」
そして丸太のように太太とした二の腕を胸の前でクロスさせる。
「もう俺の"意思"は揺らがない!!ただただひたすらに、勝利に向けてひた走るのみよ!!」
「がねあああああッ!!」
ジロウの決意と共にハガネールが咆哮する。主人の覚醒をひたすら待ち続けたのは、彼が元はタケシのポケモンであったのも大きい。
「タケシ!」
「あぁ。なにやら色々抱え込んでたようだが、もう大丈夫だろう。」
チーム<マナーロ>にドクターとして参加を決め、ジロウがチーム<セキエイ>に加入したというタイミングから、兄弟は自然と一時的に連絡を断絶していた。お互い所属するチームへの義理からのことである。
そんな状態なのでタケシは一切ジロウ側の事情は把握していなかった。それでも弟の迷いが晴れたのが分かるのは、やはり家族だからといえよう。
タケシとしては、ジロウがPNTTを通してまた一つ大きく成長したと言うならばそれを喜ぶ以外にない。
「そういうのを繰り返して人は強くなるんだぞ、ジロウ。」
しみじみ呟くタケシの空のジョッキにデントは微笑みながら次の一杯を注いでいた。
『ジロウ』
13歳。ニビジムのジムリーダー。
タケシの弟で大家族の次男に当たる。夢を追いかける決断をした兄に代わりジムを切り盛りする実直な少年
エースポケモンはタケシ譲りの硬い意志(石)を共有するハガネールだ。