3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ジロウとアキラの豪快な合体技が会心の勝利を呼び込んだ。
 そのまま勢いに乗ったチーム<セキエイ>は、伝統の一戦を3連勝で締め括る。
 決勝は、チーム<マナーロ>vsチーム<セキエイ>に決まった!


PNTT Fighting! チームミーティング、決勝を見据えて

『うおおおーーーッ!!』

 

「ダブル2はやっぱりここが契機になったね。」

 

 ジロウがシャツを弾けさせながらパンプアップしている場面でスイレンが呟く。

 

「このハガネールはタケシのポケモンじゃあないのか?」

 

「あぁ。3年前、スクールのみんながカントーに来てくれた頃はまだジロウに預けてただけだったんだが、あの後にボール契約を切り替えたんだ。今はもう完全にあいつのポケモンだよ。」

 

 ゲットされたポケモンは収容されるモンスターボールの所持者の指示に従うよう基本的にはなっている。

 このポケモンの働きに対しトレーナーはモンスターボールという居住空間に加え、過不足のない食事などといった身の回りの世話やトレーニングを行い相互関係を形成していくのがボール契約の原則である(無論、サトシのピカチュウのようなポケモン側が持つ気性難や、トレーナー側の適性不足により関係性の構築が難航するケースも珍しくはないがそれはまた別の話。)。

 3年前、サトシ、カスミとのアテのない3人旅を終えて別れたのち、タケシはハガネール以下、ジムリーダー時代からのいわポケモンたちとの契約を切り替え正式にジロウに譲渡していた。

 今手元に残っているのは主にジムから飛び出して以降にゲットしたポケモンたちである。

 

「俺もポケモンドクターになる勉強に夢中で家には数えるほどしか帰ってない。だからこの3年であいつがハガネールをどう鍛えたかの全貌は分からないな。」

 

 情報提供出来ず済まない、といったニュアンスのタケシを皆気にする事もない。タケシにはタケシの行く道があるのだから当然の話だ。

 

「ハガネールハンマー…文字通りハガネールが出て来てる時は警戒する必要があるわね。」

 

 セイヨが呟いたのはサンドパンがハガネールを振り抜き、バクフーンとメガニウムを薙ぎ倒す場面だ。

 

「振り回されるハガネール自身はフリーだから技の発動も可能。だからリフレクターのような壁張り防御も意味をなさないね。」

 

 ハガネールはもちろんだがシゲルが着目するのはサンドパンの膂力にこそあった。

 まず間違いなくハガネールを持ち上げ、振り回す想定のトレーニングをして来たろう。それは即ち、ジロウがタッグで出て来た場合、誰が隣にいてもハガネールハンマーの発動はあり得ることを意味していた。

 

「流石にハガネールもあのふんか攻撃をまともに受けて致命傷でないはずはなかった、か。」

 

 ジュンイチが次に繰り出したゴルダックのじんつうりきでハガネールが地に伏せる。同時進行でケンタのスピアーとサンドパンが互いの針とトゲを鍔迫り合わせている。

 

『どっさぁぁぁい!!』

 

 そのゴルダックをジロウのドサイドンがアキラのサンドパンを掌の穴より射出し、ぶつけて撃破する。

 

「ドサイドンのボディを前にしては如何に鋭い針が自慢のスピアーでも厳しいな。」

 

 ケンタもむざむざ相方のポケモンがやられるのを黙って見てはいなかった。が、スピアーがドサイドンの側面より仕掛けるも重量の差からがんせきほうの阻止は出来なかった。

 

『スピアー、戦闘不能!ドサイドンの勝ち!!よって勝者、チーム<セキエイ>ジムリーダージロウ&アキラ選手!!』

 

 今度はスピアー自身ががんせきほうの餌食となり試合が決着。

 敗戦したケンタとジュンイチの背を激励で叩いてからサークルインするアカネ、彼女に続くチリのコガネ娘タッグと相対するのはカンナとカスミのカントー師弟コンビ…。

 

『くらえ〜!ビリヤードアタックや〜!!』

 

 1回戦同様アカネのミルタンクとチリのドンファンがフィールド中所狭しと転がり、勢いを増してゆく。

 

『もぉ〜!!』

 

『ぱぁお〜ん!!』

 

 左右よりカンナのパルシェンへ仕掛けた肉弾攻撃…これが、不味かった。

 

『あーッとミルタンクとドンファン、パルシェンに取り付いた瞬間に凍らされてしまったーーーッ!!』

 

「なんという凍結速度じゃ…しかも精度も抜群!」

 

 ハプウが唸る。パルシェンは迫る2体めがけ、迎撃のふぶき攻撃を左右の棘からパワーを凝縮させて放っていた。

 本来ふぶきとはフィールド全体に吹き荒れさせるように運用する技である。それを光線技のように収縮させるのは間違いなく高等技術の域だ。この時点でドンファンは弱点を突かれ戦闘不能。

 

『スターミー、ハイドロポンプッ!』

 

 どうにかこおり状態から自力で抜け出すミルタンクであったが、そこをカスミが見逃さなかった。なぞのポケモンスターミーの水流弾がミルタンクを撃ち抜き、KOする。

 ダブルバトル2同様にチーム<セキエイ>側が相手の戦法を綺麗に打ち破って見せたのが、そのまま決着まで繋がった。

 

『ピクシー、戦闘不能!ブロスターの勝ち!!よって勝者、チーム<セキエイ>四天王カンナ&ジムリーダーカスミ!!』

 

 最後の1体を破り、勝ち名乗りを受け、客席からの喝采がカンナとカスミに降り注いでいる。早々と団体戦においても王手をかけてみせる師弟の磐石の勝ちっぷりだった。

 

「カンナさんの本質は、やっぱりこおりタイプなんだ。」

 

 眠気も吹っ飛んだサトシがポツリと呟く。3年前、オレンジ諸島マンダリン島で天狗になっていたサトシは巡業に出向いていた彼女にバトルを仕掛け、軽くあしらわれた。

 ピカチュウ自慢の電撃はパルシェンの前に防ぎ切られ、カンナの信条とするみずとこおりの奥義などはその振り出しの部分すら拝むことは叶わなかった。

 

『みんなの旅はどんなことだって無駄にはならないわ。頑張ってね。』

 

『はい!俺、迷ったら風や波の声を聞いて、カンナさんの言ったことを思い出すよ。』

 

 そこがサトシにとってポケモントレーナーとしての練達はもちろんのこと、礼儀作法の始まりと言えた。

 無論カンナとの関わりの後にもサトシは時折天狗になったし、無礼な行いをすることもあった。気を付けているとはいえこればかりは人間、絶対にもうありえないという保証もない。

 

「カンナさんともまたバトルしたいな。なぁ、ピカチュウ?」

 

「ぴぃ〜かぁ。」

 

 膝の上に鎮座する相棒の頭を撫でながらサトシは語りかける。

 

「(そうか。カンナさんとの関わりがサトシの変わってゆくきっかけになったのか。)」

 

 旅の仲間として最も付き合いの長いタケシは、サトシとカンナのことはカスミから伝え聞いた話でしか知らない。

 ダイダイ島でウチキド博士に本格的に惚れ、住み込みで彼女の研究所に居着いてから程なく帰って来てから再会したサトシが、どこかしら精神的に善い方向へ変わり出したのを感じ取っていたのは、この場では言わないことにした。

 

「このタッグ、1回戦でも危なげなく勝ってたよね。」

 

「あぁ。シトロンもアヤカも簡単に勝てるような相手じゃあないぜ。」

 

 ハウにサトシが力説する。旅の仲間であり、ミアレジムにて激闘を繰り広げたシトロンは言うまでもなく、眉目秀麗なエリートトレーナーの少女との2度のバトルもサトシはハッキリと覚えている。

 1度目はアブニヨンの町での野試合、2度目はカロスリーグ準々決勝。どちらも彼女のエースとして君臨する強力なメガアブソルがサトシを大いに苦しませた。

 そんな2人がタッグとして力を結集させてなお、スコアとしてはカンナのポケモンからはダウンは奪えず、カスミのニョロトノを撃破したのみにとどまったのだ。

 

「なによりいやらしいのはこの師弟コンビ、おそらくはダブル1固定だってところですな。ダブルバトルでの連敗は絶対に阻止してやる、って気概を感じます。ハッキリ言うなら…。」

 

 この場の皆が薄々胸に抱くカンナとカスミのタッグの印象、それでもナンテは監督として言語化しなければならないのだ。

 

「今大会最強のコンビ…でしょうね。」

 

 言外にカントー師弟コンビは決勝でもダブル1だろうと告げながらチラ、と視線をやれば、ハプウとスイレンが生唾を呑んでいた。

 その瞳に忌避感は見られない。ナンテからすればそれだけでじゅうぶんであった。ダブル1を固定しているのは、向こうだけではないのだ。

 

「そして、シングル3なんだが…。」

 

 カキも唸るよりない。全身を甲冑で包んだ鎧武者がトレーナーサークルで異様な覇気を放つ様は、祖父が好んで見ていた大河ドラマの登場人物を彷彿とさせていたからだ。

 

「チーム<シロガネ>にはカズナリがデータマンとして加わってたが、まぁコトネが呼び込んだんだろうな。」

 

 シンオウ時代に出会ったブリーダー志望の少年のことをタケシは思い出す。彼と共に行動していた少女がシングルバトル3を受け持ち、確かな成長はポケモンたちのレベルから感じられた。が…。

 

『メガカイロスが止まらないーーーッ!!コトネ選手、マリルリとリキキリンを立て続けに倒されもう後がありませんッ!!』

 

 

 

『ウオオオオオオオ!!』

 

 2ダウンまで追い込まれたコトネが繰り出すのは、相棒のメガニウム。

 くさタイプではむし、ひこうタイプのカイロスに対して最悪の相性である。押せ押せムードに咆哮する鎧武者を前に、コトネの闘志は折れない。

 

「コトネもコトネで頑張ってるんだな。」

 

 シンオウ地方で行われていたジョウトフェスタをきっかけにして少しの間行動を共にしたコトネが画面の向こうでテラスタルオーブを発動し、メガニウムをテラスタルさせる。

 紫色のエスパーテラス、その増幅されたサイコパワーを活かしたしねんのずつきでメガカイロスに対し反撃する様に、先程まで中継で同じ光景を見ていたサトシも気分を高揚させる。幾度かの真正面からのぶつかり合いで競り勝ち、攻勢に転じたメガニウムだったがそこが限界点であった。

 

「この鎧武者、猛々しい見た目だがいくさの退き際を弁えている。厄介だな。」

 

 ジェニーが簡潔に、的確にサムライの一手を評する。突っ込んできたメガニウムに対しメガカイロスは飛翔して体勢を立て直し、コトネ側の攻め気をぼやかしたところでシザークロスをお見舞いする。

 テラスタルでエスパータイプになってみてもむしタイプの技は依然効果抜群であった。

 

『メガニウム、戦闘不能!カイロスの勝ち!!よって勝者、チーム<セキエイ>サムライ選手!!』

 

『えい!えい!おおおおおッ!!』

 

 勝ち名乗りを受けての勝ち鬨を上げるサムライ。団体戦の決着を付けてのパフォーマンスと、チーム<セキエイ>のメンバーも彼のもとに集まり、一緒に鬨の声を上げていた。

 

「このメンバーに加えてカルネさんに競り勝ったルギア使いのヒロシもいる訳だね。それに、ずっと温存されている彼も…。」

 

 これまでチーム<マナーロ>が戦って来た相手も決して楽な相手ではなかった。しかし、ここに来て決勝でぶつかることになるチーム<セキエイ>の層の厚さにデントは穏やかな口調ながら戦慄を禁じ得ない。

 だが、それでもサトシたちなら…と予感めいた希望もある。彼らは皆、相手が強ければ強いほど燃えるのだ。

 

「おっと。たった今、大会本部より通達がありました。」

 

 皆一斉にナンテを見る。

 

「決勝戦を行う舞台は………カントー側のホームであるセキエイスタジアム。」

 

 これで3戦連続アウェーに殴り込みです、とナンテはおどけてみせる。その瞳は思いがけぬ形での故郷への帰還に燃えていた。

 そしてそれは、サトシとシゲル、セイヨも同様であった。

 

 




 『ウチキド博士』
 45歳。ポケモン研究者。
 オレンジ諸島を拠点として『ポケモンの亜熱帯における変化』をテーマに活動している。
 リージョンフォームの権威として高名だがそれと同じくらい『美しすぎる美魔女博士』としても名が通っているよ。
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