3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 オーキド研究所にやってきたサトシとカスミは、ケンジやオーキド博士と再会する。
 PWCSのランクマッチに挑むカスミ、その相手はサトシのライバル、シンジであった。


それぞれの戦い 師弟2つ キクコとシンジ

「お祭り騒ぎは好きじゃない。」

 

 それが3年前、シンジがこうサトシに語ったPWCS不参加の理由である。

 生来からの性分としてその言い分に間違いはないが、全国の垣根を越えて各地の強豪とやり合える機会は、生粋のポケモントレーナーであるシンジから見ても極めて魅力的な話であった。

 サトシと同様の実力を備えた彼ならば、マスターズ・トーナメントの席を奪い合う立ち位置までは間違いなく登って来れたろう。

 それがなかった理由もまた、3年前にあった。

 

 

 

 時を遡る。

 サトシがサクラギ研究所に居着くようになってすぐの頃、シンジはカントー地方まで遠征しており、そこでPWCS参加を決めていた。

 "使えそう"なポケモンをゲットしてはトレーニングを行い、自分の流儀について来れそうになければ野に帰す。

 道中何度かそれを繰り返しながらトキワシティに辿り着く。

 

「サワムラー、セントウフノウ、ドダイトスノカチ、ヨッテショウシャ、シンジセンシュ。」

 

「どぅだぃ!!」

 

「ご苦労だった、ドダイトス。」

 

 

"来た、見た、勝った。"

 

 遠征の主目的であるランク戦そのものの結果を、シンジは兄のレイジにそう簡潔に伝えた。そんなことはさておき、シンジはあることに目をつけていた。

 トキワシティとは、ポケモンリーグが行われるセキエイ高原の目と鼻の先な距離にある町、拠点とするには都合がよかった。

 シンジはこの町に逗留し、高原との往復をする日々を過ごし始めた。

 セキエイ高原はポケモンリーグ本部のお膝元であり、バッジを集め終えたトレーナーたちにとっては最後の難所でもあった。陸路、水路問わず強力なポケモンたちが縄張りを作り、迂闊に踏み入れば前進もままならない。

 繰り返すがセキエイ高原とはポケモンリーグ本部のお膝元である。したがって往来するトレーナーの質も自然と高くなる。そんな者たちが険しい道行きに現役を諦め、肥沃な土地に苦楽を共にしたポケモンたちを逃していくのが、過酷な生態系の形成を加速させている現実であり、この世界にとっての社会問題として横たわっていた。

 シンジからすればそれは、"使えそう"なポケモンと出会える可能性が高い、ということになる。

 

「ギャラドス、メタング、フカマル。こいつらは鍛え上げれば使えそうだ。元々トレーナーがいたからか人慣れもしていて都合もいい。」

 

 狙いは当たった。セキエイ高原からの帰りにシンジは珍しく上機嫌であった。地元で育て屋稼業を営むレイジが見ればそのウハウハ振りにつられて笑い出す勢いである。

 無理もない。ゲットするポケモンを厳選し、期待できなければ躊躇なく逃がすというスタイルであるシンジのお眼鏡にかないそうな新戦力が、この日は3体もゲットできたのだ。

 トレーナーとして育て上げるのに腕がなるというのもむべなるかな、というものである。

 

「ん…。」

 

 トキワシティに拠点を置いてからシンジは早々に町の構造を把握し、近道を利用し始めている。そのルートには陽の光もろくに当たらず、人通りの少ない路地裏も含まれていた。

 まさにそこをいつものように通り抜ける予定であった。

 ゾワリ。全身の熱が抜け落ちるような悪寒と、射すくめられるような視線。

 表情が普段の険しいものに戻り、立ち止まる。

 シンジは、寡黙で冷徹な性格の持ち主だ。それはポケモンバトルにおいても如何なく発揮される。早い話しが遠慮も容赦もないのだ。

 それが理由で逆恨みを買って闇討ちを受けるようなことも一度や二度ではない。だが、この視線はその類ではなかった。

 元より、逆恨みしてくる程度の輩の視線で悪寒など覚える道理がないのだ。その刹那だ。

 

「きーっしっしっし!」

 

「ぶるぁ!」

 

 シンジは正面から視線を映さない。

 ただ、喉元にまで迫っていたシャドーポケモンゲンガーをノーモーションで腰のホルダーから手繰り寄せたボールより繰り出すらいでんポケモンエレキブルによって抑え込ませていた。

 

「ほっほ、感知できたみたいだね。浮かれ気分からのスイッチ切り替えが速くて結構。」

 

ズズズ…。と、影の中からせり上がるように老婆が姿を見せる。ゴーストポケモンの通り道を自らも通り抜けたのだろう。

 正面に立ち塞がるその視線の持ち主が、ゲンガーに不意打ちを命じたのは明らかであった。

 

「四天王が何の用です?」

 

 一見、直接攻撃をかけて来たゲンガーに自分を害する意思がないのは、エレキブルを出した時点で読めていた。

 生理的な鳥肌を作る悪寒は、ゴーストポケモン特有の霊障であろう。

 それを意図的かつ最大限に使いこなせるのは、目の前のゴーストタイプポケモンのエキスパート、その始祖たる存在であるキクコの他にないのも明らかだ。

 

「今はしがないジムリーダーの代理さね。用事と言ったらアンタ、ここはカントーだよ?」

 

 ポケモントレーナーたるもの、目と目が合えばそれは勝負の合図である。

 鋭い視線が交錯し、互いの覇気が衝突、両者の遙か上空、その中心部を境に雲が断ち切れくっつくことがない。

 天が、割れていた。

 

「シンオウでも同じですね。エレキブル!」

 

「ぶるあか!」

 

 シンジが叫ぶ。エレキブルはそれだけで抑え込んだゲンガーを捻り潰しにかかり抑え込む圧を強めた。

 それに対してゲンガーは、地面の影にその身を溶かし、強引に拘束から脱してキクコの側へ舞い戻る。

 

「いいねぇ。ポケモンは戦わせるもんさ。それをよく分かってる目だよ。」

 

 バトルはいい。だがキクコほどの人物がわざわざ自分に仕掛けてくるその理由がシンジには見えない。

 さりとてそこに意識を向けながら退けられる相手であるはずがないのも、ぶつけ合わせる覇気を見るまでもなく分かっていることであった。

 

「いくよゲンガー、さいみんじゅつ!」

 

「げげげげげげ〜ん…!」

 

「カウンターシールド展開!」

 

「ぶるぁっ!」

 

 ゲンガーの両目から放たれる催眠光線、それをエレキブルは地面に背を向け回転しながら放電して弾き飛ばす。

 元はシンオウ地方を巡っていた際の、いけすかないピカチュウを連れたライバルが編み出した戦術であった。

 優れたものは出自がどうあれ積極的に取り入れる柔軟性をシンジは持っていた。

 

「ほう。ゲンガー!いきな!」

 

「げゃーん!」

 

 キクコの号令に、ゲンガーは再度地面の影へその身を溶かす。

 シンジもエレキブル姿を消した相手を探して辺りをキョロキョロ…などしない。大方の攻め手の検討はついていた。

 

「跳べ!エレキブル!」

 

「れっきぁ!」

 

 気配の方角は、真下。

 エレキブルは勢いよくジャンプする。そこから飛び出したのは、紫色の闇球だった。

 

「シャドーボールか!」

 

 チッ、と舌打ちしながら再度気配を探る。

 シンジ陣営がシャドーボールへ意識を向ける一瞬こそが、キクコに千載一遇の好機をもたらした。

 

「空中ではさっきのやつは使えないんじゃあないかい?ゲンガー、さいみんじゅつ!!」

 

「れきィッ!?」

 

「げげげ、げ〜ん!」

 

 エレキブルから向かって右側のビルの影からゲンガーが飛び出しては催眠光線の発射態勢に入っている。元より真下からの奇襲はブラフで、飛び上がったところを眠らせるのが本命であった。

 眠らされては終わりだ、そんなことはシンジは百も承知である。カウンターシールドはキクコの指摘通り空中では使えない。

 万策尽き、エレキブルがゲンガーのさいみんじゅつにより眠らされ、そのまま一方的な展開になる…ことはなかった。

 

「ゲンガー、どうしたんだい?」

 

 エレキブルが眠らない、そもそもゲンガーが側面を突いてから動きがない。

 エレキブルの巨体がちょうど死角であり、いつまでもさいみんじゅつを発動しないゲンガーの姿が見えずキクコは顔をずらす。

 そのゲンガーの現状に目を丸くした。

 

「げ、げげげ、げッ〜!」

 

「これは、サイコキネシスかい。」

 

「ギリギリで間に合いました。エレキブル、やれッ!」

 

 真下からの奇襲をブラフに使い、側面から飛び掛かってのさいみんじゅつ…そこまでシンジは最初から読んでいたのだ。

 エレキブルのかざした手から放たれるサイコパワーが、ゲンガーの体の自由を完全に奪っている。

 ゲンガーは両手足でもがいて見せるが、サイコキネシスの拘束から解き放たれはしない。

 

「れぇぇぇっきぁぁあ!!」

 

「げげ〜ん!!」

 

 エレキブルはサイコパワーで捉えたゲンガーを容赦なく地面に叩き付け、自らも自由落下で後に続く。

 

「かみなりパンチ!!」

 

「れっきぁぁぁぁぁ!!」

 

 ズドォ!!

 

 地面に落着するゲンガーの腹に、エレキブルが落下の加速も加えたかみなりパンチを叩き込めば、地面とエレキブルの拳にサンドイッチされたゲンガーを中心にクレーターが出来上がった。

 手応え、あり。

 エレキブルは飛び退きシンジの側へ舞い戻る。

 ゲンガーは両目をぐるぐるさせ完全に伸びていた。戦闘不能である。

 

「ご苦労だったねゲンガー。」

 

 杖に接続された形のモンスターボールへキクコはゲンガーを戻す。

 一方シンジも退けはしたが未だキクコの真意は測りかねていた。

 

「さて、結構だ。文句なしの合格だよ。」

 

「なにがです?」

 

 短いやり取り、これだけでシンジはこの一連のバトルにおいて自分が何かしらのことについて試されていたことを察する。

 問題はその中身なのだ。

 キクコは身の上を語り始めた。長期間空の状態が続いているトキワジムを放置している体裁の悪さから、セキエイリーグは四天王にジムリーダー代理の就任を打診、その中でそれを承諾したのがキクコであった。

 

「四天王っていうのも存外暇なもんだからね。気軽に頷いてやったんだけどさ。」

 

 ポケモントレーナーとしてリーグチャンピオンを目指すには決まった手順がある。

 ポケモンリーグ公認のジムを巡り、そこのジムリーダーから8つの認定バッジがその地方で行われる『地方予選大会』への参加条件となっている。

 地方予選大会を潜り抜けたら、全国各地の地方予選大会優勝者が集まり覇を競う『チャンピオンリーグ』へと駒を進め、それを勝ち抜いてようやく地方予選大会で優勝した地方で認定されている4人のトレーナー、"四天王"への挑戦権を得ることができる。

 それを行使することにより『四天王戦』、四天王全員に勝利することで初めてその地方のチャンピオンと王座を賭けた『タイトルマッチ』に挑むことが出来るのだ。

 要は、1シーズンごとにどこか一箇所の地方へ1人だけしか、四天王への挑戦権を持ったトレーナーは誕生しないのだ。

 よほどの腕利きかつ野心家でなければ、どこか適当なタイミングでトレーナーの道を諦めてしまう理由の大半がこの制度上の険しさにあると言ってもいい。

 

「安請け合いしたはいいんだけどなかなか骨のある子には巡り会えなくってねぇ。」

 

 無理もない。トキワシティは、トレーナーのデビューを支援するポケモン研究所があるマサラタウンの隣町なのだ。従って、まず挑みかかってくるのはデビューしたてのルーキーが大半である。

 ジムリーダーとは、挑戦者のポケモントレーナーとしての資質をチェックしバッジ進呈の是非を決めるのが役割だ。

 当然、相手に合わせてポケモンのレベルも調整はする。

 しかしそこは四天王経験者。多少ポケモンのレベルを調整しようとトレーナー間の地力の差は埋まりようがない。

 大抵のルーキーはキクコに挑み、敵わず後回しにするのだが、ある程度研鑽を積み再度トキワジムを訪れる有望株はそうそう現れないのが現状であった。

 

「あたしも一個のトレーナーさね。いつまでもジムリーダー代理でぬるま湯に浸かってちゃいられない。ここらでちょうどいい感じの後釜を見繕って何処かの地方に殴り込みにでも行こうかと思ってねぇ。」

 

「はぁ。」

 

 ここまでの話の流れから薄々シンジはこの後の展開に予想がつく。

 そんな勘の良さをキクコが見抜けぬはずもない。

 

「安心しな。なるならないはお前さんが決めな。ただこれだけは保証しとく。"お祭り騒ぎ"よりタメになることは、たくさん教えてあげるよ。」

 

 ズイ、とキクコは瞬時に懐まで距離を詰め、ギラついた目で見上げる。

 ジムリーダーへのスカウトはともかくとして、四天王直々に修行をつけてもらえるという話は、シンジには願ってもない話であった。

 

 

 




 『シンジ』
 13歳。トキワジムのジムリーダー。
 3年前のシンオウリーグで、歴史に残る名勝負を繰り広げたサトシ最強のライバルだ。
 どのポケモンもエース級に強いが、強いて挙げるならやはり彼のストイックな信念を最も理解しているエレキブルだろう。
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