3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 試合中継を身終えたサトシたちはそのままミーティングに入る。
 チーム<セキエイ>の戦いぶりを頭に叩き込み、各々が必勝を胸に期す中決戦の舞台が決まる。
 カントー組にとっては故郷であるセキエイスタジアムへ乗り込むのだ。


PNTT Fighting! 戦いの歌 未知の世界へ

「ハハコモリ!」

 

「アリアドス!」

 

「「いとをはく攻撃!!」」

 

「はぁーッ、はッはッは、ぶひゅーッ!!」

 

「あどびゅー!!」

 

 サトシとジェニーは練習試合の真っ最中。こそだてポケモンハハコモリとアリアドスが互いに白糸を発射すれば、

 

「オーエス!オーエス!オーエス!」

 

「ぬっ、負けるなアリアドス!力一杯引っ張れ!」

 

 どちらも絡まった糸を掴み、さながら綱引きの様相となってゆく。どこかふざけたような構図にシゲルは苦笑していた。人格は違えど元ポケモンハンターJの今の姿がコレか、とも思ったがそれは振り払う。彼女は今やジェニーであってJではないのだ。

 翌8月8日、チーム<マナーロ>は、無事大量発生していたナマコブシの対処に成功したマナーロ・アイランドのスタジアムを使っての公開練習を行なっていた。

 スケジュールとしては今日と明日9日にチーム練習をみっちり行い、10日にカントーへ出発、11日の決勝へ臨む形だ。

 

「みんな!水分補給は忘れるな!本番前に熱中症にでもなったら大変だからな!」

 

 カキがクーラーボックスを担ぎながらメンバーに声かけをして回る。準決勝で四天王レンブを相手に奇跡の勝利をもぎ取った代償は大きかった。

 『限界を超えたZ技』の影響により、日常生活にこそ支障はないものの思考的なコンディションに著しい低下が見られたのだ。

 ポケモンバトルにおいてトレーナーの指示は繰り出したポケモンの的確な挙動はもちろんのこと安全面への配慮にも繋がる。千変万化な戦況に対する思考の瞬発力が低下していては勝敗に関わる以前にポケモンの重大な負傷へと繋がる危険があった。

 チームドクターとしてのタケシの診断曰く一過性の虚脱症状に近いものらしく、時間が経てば回復していくが大会中の起用は避けるべきとナンテは進言され、それを受け入れた。早い話がドクターストップによる出場停止である。

 その診断結果を練習前に伝えられたカキは、一瞬気落ちした表情を見せるもすぐに切り替えてこう申し出る。

 

「ならせめてみんなの練習のサポートをさせて下さい!試合に出られなくても出来ることはあるはずだ!」

 

 それをナンテが快諾して今に至るのだ。

 

「お疲れ様です監督。私、ポケモンルポライターのパンジーと言います。取材よろしいでしょうか?」

 

「選手の皆さんに配慮しながらであればいくらでも。」

 

「きぃあん。」

 

 癖毛の毛先がカールした茶髪の美女の申し出をナンテは快諾する。彼女の肩を占有するはつでんポケモンエリキテルの人懐っこい仕草から大事に育てられていると感じ、いわゆる『マスゴミ』の類ではないだろうと直感したからだ。

 

「ありがとうございます。では監督、ズバリ!決勝戦に臨むにあたり勝算のほどは?」

 

 直後、真剣ながら笑みを携えた眼差しを向けられナンテはん゛ッ、と喉を鳴らす。選手への取材が優先で、自分に話が向くなどとは考えていなかったからだ。

 

「そうですね…1回戦からずっとですが、とにかく勝てるかどうかではなく、どう勝つか。自分が選手と一緒に考え続けているのは常にその一点です。答えを出すのは選手で、その答えが合っていたか間違っていたかは出た結果が全てでしょう。」

 

「それはシングル、ダブル問わず盤石な布陣を敷くチーム<セキエイ>を相手にしても変わりありませんか?」

 

「もちろんです。そしてそれは、大会が終わってから各々が自分の旅に戻っても変わらないことだと思っています。せっかくこうして同じチーム、仲間として集まったのです。最良の結果を目指すのは前提として、選手たちにとってそこに至るまでの過程も今後のプラスになるよう働きかけができるならば、こんなに嬉しいことはありません。」

 

 語り終わりにナンテは照れを見せた。あくまで代理の立場で出過ぎたことをいったものだと自嘲をする。

 

「らいらい。」

 

 そんな主人の足元でライチュウのテディはコッペパンのような手をポンポンと膝裏に置き、よく言った!と褒める。

 そのチャーミングな様に、パンジーはついクスリと笑った。

 

 

 

ウオオオオオオオッ!!

 

 8日から9日にかけてのチーム練習を終え、サトシたちが決戦の地へ赴く8月10日、ナイターで満員御礼のヒガキスタジアムは灼熱の時を迎えていた。

 

「イッシュ代表チーム<ヒガキ>が本拠地にてジョウト代表チーム<シロガネ>を迎え撃つ形のPNTT3位決定戦は両チーム2勝2敗でシングルバトル1の大将戦を残すのみとなりました!それではここまでの流れをゲストのシッポウジム、ジムリーダー兼シッポウ博物館の館長アロエさんと、その夫のキダチさんご夫妻とともに振り返っていきたいと思います!」

 

 フィールド全体を清掃ロボットに入り込んだロトムが整地していく中、スタジアムの電光掲示板には前4試合のハイライトが流れ始めてゆく。

 

『『ウオーーー!マリナ!ウオーーーーーー!』』

 

「両タッグともにチャンピオンリーグを主戦場とする4人が顔を連ねてのダブルバトル2は前半、バージル選手&コテツ選手の素晴らしいチームワークを前に苦戦するケンタ選手&ジュンイチ選手でしたが、突如として2人とも激しく奮起!怒涛の巻き返しで初戦逆転勝利を飾りました!!」

 

「男って単純なもんだからねぇ。気になるコの前じゃ見栄を張りたくなるもんさ。この人も若い頃はそうだったんだよ。」

 

「いやぁ、あはは。」

 

 緑のドレッドヘアに褐色肌の、肝っ玉という概念を全面に押し出したような恰幅の良い美女が隣の線の細い男の肩に腕を回す。

 男の方は困り顔ながらまんざらでもないようだ。アロエの語る通り、仕事を片付けて試合中にどうにか間に合い、応援席へ駆け付けたマリナのエールを受けたことがケンタとジュンイチのカンフル剤となった。

 最後はイーブイとルカリオをにほんばれの下でバクフーンが渾身のふんか攻撃を叩き込んで決着。

 

「イッシュが誇るジムリーダータッグの練度の高さを前にジムリーダーアカネとチリ選手は自慢のビリヤードアタックを封印し、メロメロを主体としたプリティギャル作戦を展開するもそこは厳格なジムリーダーシャガの統率のもとにペースを乱すことなくチーム<ヒガキ>が1勝を奪い返して両者1勝1敗!」

 

「この人も初めて会った時からずっとあたしにメロメロでさぁ?」

 

「そんなぁ、照れちゃうなぁ。」

 

 なおも夫婦は惚気ている。モニター内ではメロメロ攻撃を受けたシャガのオノノクスは即座に地面に頭を打ち付けてこれを解除。

 ホミカのペンドラーが体を丸めたローリング形態を尻尾で思い切り弾き飛ばし、さながらボーリングのピンのようにアカネのようせいポケモンピクシーとチリのひげうおポケモンナマズンを薙ぎ倒していた。

 

「シングルバトルに移り変わり勢いを掴んだのはチーム<シロガネ>でした!一回戦で大金星を挙げたバンジロウ選手を前に、コトネ選手は狙い澄ました采配を悉く決めていき、ジャイアントキリングの立役者ラティオスを物量戦で仕留め2勝目をもぎ取りました!」

 

「あの坊やの今後の課題は"自分のデータが丸裸にされている場合の立ち回り方の習得"だね。」

 

 惚気から一転、豊かなインテリジェンスを見せるアロエの言う通り、ウルガモスとガブリアスを早々に倒されたバンジロウは、反撃として繰り出したラティオスでコトネのバリヤードとメガニウムを倒すものの、倒され際に万全のサポート体制を整えられてしまう。

 満を持してのタイプ相性を活かしたマリルリによってラティオスも轟沈となった。

 

『やった、やった〜!』

 

 勝利に喜びながらベンチへ引き上げ、勢いよく飛びついてきた彼女を顔を真っ赤にしながら受け止めるカズナリ。

 彼のデータこそがコトネ勝利のキーであった。

 

「シングルバトル2はドラゴンバスターの面目躍如!ジョウトのトップジムリーダーイブキを相手に堂々戦うラングレー選手のツンベアーが必殺の"ジャイアントホール颪"をカイリューへ叩き込み試合を決めました!!」

 

『よっしゃあああああッ!!』

 

「セットアップからフィニッシュまで、豪快ながらも実に計算されたばかぢからの応用、まさしく必殺技のお手本だったね。」

 

 リプレイ動画にて戦勝を掴んで吼えるラングレーにアロエは腕組みしながら満足げに頷く。その眼下のフィールドではロトムによる整備が終わり清掃ロボットが引き上げていった。

 

「さぁいよいよシングルバトル1であります!両選手ともに準決勝では出番が回ってくる前に団体戦で敗退。今大会最後の舞台で勝利を掴み、チームに3位という結果をもたらすのは果たしてどちらか!?」

 

 

 

 フィールド2箇所のトレーナーサークルに入る視線が開戦前より激しくぶつかり合う。

 豪奢なドレスに身を包んだ無垢なる少女と一族の誇りを胸にマントをたなびかせる青年は、共にこの日を心待ちにしていた。

 

「これよりシングルバトル1、チーム<ヒガキ>チャンピオンアイリスvsチーム<シロガネ>チャンピオンワタルの試合を行います!!」

 

ウオオオオオオオ!ドラゴーン!!

 

「ワタルさん!あたし、全力でいきます!!」

 

「俺もさアイリス、悔いのない試合をしよう!」

 

 互いに先発のボールを手に取る。

 

「ドラゴンマスターの夢のため…チームのみんなのため…イッシュリーグチャンピオンアイリス!あなたに勝ちます!!」

 

「チームの皆の想いとともに、ジョウト代表の誇りを胸に、リーグチャンピオンとして…ドラゴンつかいのワタル、いざ参るッ!!」

 

 アイリスとワタルがそれぞれ手に取ったボールをフィールドへ投げ込む。その頭上の雲は、いや、天は真っ二つに割れていた。

 

 

 

「はい皆さん。忘れ物はありませんか?ホテルに着いたらそこで解散、おやすみなさいということで。明日10時にロビー集合、よろしい?」

 

「「「はーい。」」」

 

 カントー地方クチバシティの空港にチーム<マナーロ>が降り立ったのは夜の23時過ぎであった。

 入り口に待機させてある貸切バスの所へ向かいながらのナンテの号令に返事するハウ、スイレン、カキの声は眠気を隠し切れておらず、サトシに至ってはピカチュウ共々完全に寝落ちしておりタケシにおぶられている。

 欠伸する口元を押さえながらスマホロトムを操作するセイヨが目を通すのは検索サイト『ポケグル』のニュースサイト、その内にあるつい最近更新され、大きめに表示されるトピックをスワイプして傍に逸らしスルーしてゆく。実際に機内で見届けていた事だ。記事を読むほどでもなかった。

 

『チャンピオンアイリス、勝利の咆哮再び!ドラゴンチャンピオン対決は若き竜姫に軍配、3位決定戦の勝者はチーム<ヒガキ>!!』

 

 そして8月11日、ポケモンバトル最強地方の座を賭けた決戦が始まる…!!

 

 

 




 『アロエ』
 45歳。イッシュ地方シッポウジムのジムリーダー。
 『ナチュラルボーン ママ』の通り名が示すそのままの肝っ玉母さんで、町の博物館の館長も兼任。
 イッシュ時代のサトシの挑戦を跳ね返したこともある猛者中の猛者で、ノーマルタイプのエキスパートだ。
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