3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
それと同じ頃、3位決定戦ではチーム<ヒガキ>のエースとしてアイリスが念願のドラゴンチャンピオン対決を制していた。
さぁ、いよいよ決戦の時だ!
カントー地方セキエイ高原。そこは現代ポケモンバトル史におけるメッカとして古くからトレーナーたち憧れの地であり、目指す到達点である。
最高機関ポケモンリーグ本部が置かれ、トップを目指す者たちの運命が待ち受ける場所だ。この地に建てられたセキエイスタジアムは長方形ベースのクラシックスタイルで、各部施設内の改良は随時されているのだが屋根の設置だけは一貫してされていない。
コレはポケモンリーグ最高責任者のタマランゼ会長曰く『ポケモンバトルとは本来いついかなる時にでも発生するもの。頂点を決める戦いの舞台が雨風にさらされない理由などはない。』という意向からのことであった。
「このユニフォームも今日で着納めじゃのう。」
8月11日18時ちょうど。スタジアム内部の施設は東側と西側とで綺麗にチームごとに割り当てられ、チーム<マナーロ>は西側部分を提供された。
女子更衣室内にて、ハプウがユニフォーム姿で出て来て鏡の前で自分の姿を見る。
「あら、ハプウさんは第2回大会以降も四天王枠でいくらでも出れるのではなくて?」
「4年に1度の開催じゃぞ。妾とてその時はこんなちんちくりんとはとっくにおさらば。お主らみたいな"ないすばでい"になっとるわい。」
「そうだな。そうなってはそのサイズでは着れないだろうな。」
「じゃろう?」
あぁ、そういうこと、とセイヨは頷く。続いて出て来たジェニーが上手い具合に返せばハプウは分かってくれるか!と上機嫌になる。
「でも四天王枠だってハラさんやライチさんがいるでしょ?」
「なんの!そうなればバトルで白黒つけるのみじゃ。」
スイレンと肩を組みながらカカカと笑い飛ばすハプウ。
「そうだね。」
スイレンも肩を組み返しながら一緒に笑う。そうして4人着替え終わり更衣室を出れば、先に着替え終わっている男子組と合流しての試合前ミーティングだ。
時計の時刻は試合前のセレモニーが行われる19時の30分前を指している。
「ダブル2はシゲルくんとハウくんにお願いします。相手のダブル2のペアは過去2戦ごとにバラバラ…どう来るか分からない以上、こちらもやはり対応力の高さで勝負したいと思います。」
「「はい!」」
これまで通りナンテが対戦相手の資料を読み込ませながらオーダーの意図を説明していく。
指名されればシゲルとハウは揃って返事し、ガッと腕をクロスさせる。選考会からずっと間近で互いに実力を見極め合っているコンビだ。そのこと自体はどのチームのどのペアでもそうだろうが…。
「ダブル1、ここは間違いなく今大会最強の師弟コンビが出てくるはず…ハプウさん!スイレンさん!」
「うむ!」
「はいッ!」
「この日のための"黄金ペア"です。信頼してますよ。」
ナンテは力強く頷く。1回戦からずっと負けが込んでいようとも送り出す側としての不安は些かもない。
「任せておけ!"3度目の正直"を見せてやるわい!!」
「やろう、ハプウちゃん!」
イェーイ!と両手でハイタッチ。ハプウもスイレンも気合いじゅうぶんだ。
「切り替わってシングルバトルの口火はセイヨさんに切っていただきます!」
「口火どころか私がフィニッシャーとなってしまってもよろしくて?」
「もちろん。世界を魅了してやって下さい。」
「オーホホホ!オーッホッホッホーッ!!」
高らかに笑い飛ばすセイヨ。チームの一員として理知的な面や献身的な姿も見せていたが、本来は自分が1番というエゴイストであるのを顔面偏差値の暴力でなんやかんやチャームポイントに落とし込めているのがどこまでいっても彼女の本性なのだ。
その勝ち気な姿もここまで来ればメンタルの強さ、安定ぶりの顕われとして頼りになるものと皆見ている。
彼女自身もダブル2戦で仲間たちが勝ってくれる前提の話をするくらいにはチームに信用を置いているのだ。
「シングル2はジェニーさん。よろしいですか?」
「あぁ。何がなんでも勝ってみせるさ。優勝してアイナ食堂の宣伝をするんだ。」
ポケモンハンターJとしての人格に決別したジェニーの拠り所はマオたちと働くアイナ食堂にある。
チームに参加した当初の目的を胸に、切れ長の瞳へ決意を宿していた。
「そしてシングル1はチャンピオン!」
「はいッ!」
サトシが元気よく返事する。ここに至るまでの中でナンテもサトシの中で退屈と眠気が精神を支配し始める時間帯を把握し、テンポよくミーティングを進めたのが功を奏した。チームリーダーの瞼はハッキリ開かれたままだ。
「特に言うことはありません。このまま入場前の一言、お願いします。」
全員席を立ち、円陣を作る。
「ぴかぁ。」
皆声出し役のサトシの顔を覗き込むので左肩のピカチュウも主人の横顔を見た。
「チーム<セキエイ>にはカンナさんがいて、監督はキクコさんがいる。トレーナーになる前にテレビで見たようなすっげー人たちを中心にした、とても強いチームだけど…、」
ほんの少し息を整える。
「憧れちゃってたら越えられない。今日だけは憧れを捨てて、勝つことだけを考えていこう!俺たちは、トップになるために来たんだから!!」
皆、おう!と応える。勝つためにここに来た、チームの気持ちは1つ!
「おぉ〜!やっとるのぉ〜!」
「オーキド博士!ママ!」
そこに控え室へ顔を出してきた人物に声出し直前のサトシが気を取られ全員肩透かしを喰らわされる。それでも来訪した2名に驚かされた。
「ぴっかぁ〜!」
「あらあら。ピカちゃんはいつも通り元気いっぱいね。どうサトシ?チームの人たちに迷惑かけてない?」
「大丈夫だよ。心配いらないって。」
「皆さん、そそっかしくて目を離したら何をしでかすか分かんない子だけど、ウチの子と仲良くしてやって下さいね?」
「ま、ママ〜!!」
ハナコからすればどれほど名を上げ、肩書きを増やそうとサトシはサトシ。可愛い息子に変わりはない。
チームの皆に深々とお辞儀をすれば、皆もそれにお辞儀を返すよりなかった。気恥ずかしく、バツが悪いのはサトシである。
「サトシのご母堂にはこんな素晴らしいユニフォームを作っていただいて感謝致しますぞ!」
「まぁ!喜んでもらえてよかった。」
代表してハプウの返礼にハナコも笑みを浮かべながら口元を抑える。
このハナコが作ったユニフォームが契機となり、後にPNTTにおける関連ビジネスとして、各地方代表ごとにユニフォーム製作がなされてゆくようになるのはまた別のお話である。
「先生、ご無沙汰してます。」
「うむ!ナンテくんも頑張っておるようでなによりじゃ!」
もとより平身低頭して人に接するナンテが、普段よりさらに腰低くオーキド博士に応対する。トレーナーとしての基礎を叩き込んでくれた恩師への敬意からだ。
「お祖父様…。」
「シゲルよ。お前さんの活躍も見ておったぞ。"やり残し"は…今宵片付けるのじゃな?」
シゲルは博士にPNTTに参加する旨などは一切伝えていなかった。そのこと自体は博士の従兄弟であり、講師として雇っているナリヤ校長なり故郷の兄弟なりから聞いたのだろう。
話の出元はともあれそこからオーキド博士は祖父として、同じポケモントレーナーから研究の道へ渡る先達として、孫の抱く思いを理解していた。シゲルの胸が熱くなる。
「はい。見ていて下さい。」
またひとつ、大きくなった孫の姿に祖父として大きく頷いた。
「チーム<マナーロ>の皆さん、入場準備お願いします!」
やってきた大会スタッフからの一声に、皆改めて円陣を組む。タケシやデントといったバックアップメンバーも一緒になっているのをオーキド博士とハナコが笑みと共に見届けている。
「チーム<マナーロ>、"Winning"!!」
「「「「「「「「ゲットだぜ!!」」」」」」」」
「ぴっぴかちゅう!!」
決勝戦前、即ちこの大会最後の円陣で全員腹の底からシャウトする。そしてサトシは、これもまたこのチームで最後となる掛け声と共に控え室を出る先頭を切るのだった。
「よし、行こう!行こうぜみんな!!」
「今夜、ポケモンバトル史に新たな1ページが刻まれます。ポケモントレーナー、ポケモンバトルファンのみなさん、こんばんは!本日はポケモンナショナルチームトーナメント決勝戦、アローラ代表チーム<マナーロ>vsカントー代表チーム<セキエイ>の試合をセキエイスタジアム放送席から実況は私ジッキョーと、決勝戦に相応しい超豪華なゲストのお二方でお送りします!」
「やぁみんな!ダンデだ!今日は一緒に決勝戦、楽しんでいこうぜ!」
「カロスリーグチャンピオンカルネです。今日はよろしくお願いしますね。」
「ダンデさんはガラルリーグチャンピオンとマクロコスモスの代表という二足の草鞋を履いた形から今のPNTTの大会責任者でもありますが、どうでしょうか?この大会の手応えというのは?」
「各地方の腕自慢たちがこうも参加してきてくれたことにただただありがとうと言う他ないね!」
「PNTTは4年ごとに開催で、次は2004年だったかしら?」
「あぁ。次こそは俺たちガラル代表が優勝してみせるぜ!」
「それは私たちカロス代表だって意気込みは同じですわ。」
瞬間、ほんの少しだけ空気が張り詰める。強さを求め、勝利を渇望するポケモントレーナーたちの頂点に立つチャンピオン同士、秘める闘志は双方共にひと一倍である。
実際、3年前にはこの2人、マスターズトーナメントで戦った因縁もあるのだし…。
「じ、次回大会以降も目が離せない事になりそうですPNTT!さて、決勝戦に際し、チーム入場前のセレモニーが行われる予定なのですが…?」
ウワアアアアアアア!!ウオオオオオ!?
「なんだアレはーッ!」
「俺知ってるぞ、アレはホウオウだーッ!!」
「ショオオーーーーッ!!」
客席がにわかに騒ぎ出すのも無理はない。上空より飛来する赤い大きな翼と金色の尾羽、頭部には冠のような先が丸まった金色の鶏冠と鋭い嘴が見るものに自らの威厳を否応なく感じさせる。
赤い虹彩は尊大ながら優雅に巨体をフィールドに降り立たせるその姿は、まさしくにじいろポケモンホウオウに相違なかった。
「見ろ!あっちからはルギアが飛んできたぞ!!」
続けて上空より飛来する、白銀の翼…。ルギアがホウオウの隣に降り立てば、両者目が合い睨み合う。
「見ろ!ホウオウとルギアの周りをスイクンが走り回っている!!」
「すすいー!すすいー!」
「ギャーーーーアアス!!」
ルギアの咆哮がスタジアム中に響き渡る。それは、さながら並び立つ彼らの足元の気配への糾弾。
蠢く影が膨張し、その姿を晒せば人々はさらに驚愕するよりなかった。
『サトシとピカチュウとホウオウ』
それは、駆け出したばかりの新米トレーナーでなくてもにわかには信じてもらえない出会いのお話。
危機を乗り越えた少年とポケモンは確かに見た。遥かなる青空に羽ばたいてゆく金色の翼を。
世界一の称号を得てもなお、未だ再会は果たせていない…。