3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 PNTT最後のダブルバトルが熾烈を極める中、バンバドロとブロスターが壮絶な相討ちを見せる。
 空中での打ち合いでスイレンはついに伝家の宝刀、スイレン・スペシャルを引き抜いた…!


PNTT Fighting! 決勝ダブルス決着、折り返し地点

「決まった!スイレン・スペシャル!!」

 

「ぴかぴかっちゅう!」

 

 サトシもピカチュウもグッと拳を握り締めて振るわせる。

 会心の一撃、誰が見ても間違いない。

 

「しかし、ウーラオスは立てるのか…?」

 

 シゲルが気にするのは体力面と言うよりは状態異常の面だ。こおりのテラスタルジュエルに直接組み付いて凍り付いた両脚だ。この試合中にどうにかできる代物ではないだろう。

 そこでウオオ、と会場中がどよめく。

 

 

 

「ぷ、ぷっく、ぷく…!」

 

 

 

「あーーーッとプクリン!伝家の宝刀スイレン・スペシャルを受けてなお立った、立ち上がりましたーーーッ!!両脚が凍って動けないウーラオス、万事休すだーーーッ!!」

 

「流石だな…。」

 

「えぇ、流石ね…。」

 

 讃えるダンデとカルネの意図は、完全に一致していた。

 

 

 

「べ、べあッくぁ…!」

 

 両脚は凍り付き、力が入らず体は起き上がらない。

 ウーラオスは、見下ろしてくるプクリンを恨めしげに睨むより他になかった。勝ち誇った顔のプクリン…

 

パッキィィィィィ…ン!

 

 その頭上の氷のティアラが霧散する。

 

「ぷ…ッくりぁッ…!!」

 

 ドサァッ!歴戦の風格と愛嬌をない混ぜとした丸いボディがうつ伏せに倒れたのを見て審判がフィールドイン。

 

「ブロスター、戦闘不能!バンバドロ、戦闘不能!」

 

 遡ってのジャッジを下し、コールをしてゆく。

 

「プクリン、戦闘不能!ウーラオスは…。」

 

 ジュンが確認すれば、ウーラオスは起き上がれないなりにみずの型の構えを取りファイティングポーズを見せる。

 

「ウーラオスはこおり状態であるのみ、戦闘不能とは見られず!!」

 

 ジュンは一旦息を溜め、

 

「よって勝者、チーム<マナーロ>しまクイーンハプウ&スイレン選手!!」

 

 ダブル1の決着をコールした。

 

 

 

ウオオオオオッ!!オオオオオッ!!

 

「プクリン、立ち上がったところで力尽きてダウン!!この瞬間、チーム<マナーロ>の黄金ペアが1勝を、今大会最強のカントー師弟コンビからもぎ取ったーーーッ!!」

 

「よかったわね。あのウーラオスが勝って。」

 

 言外にトリップしてたぞ、と伝えるカルネにダンデはいやー、と頭をかくよりなかった。

 

 

 

「お疲れ様、プクリン。」

 

「カンナ様…私がもうちょっと早くバンバドロの前にブロスターを出させてたら…。」

 

「あのタイミングで完璧だったわ。あれより早くても遅くても駄目。そうじゃなかったらプクリンごと押し込まれていた。」

 

 最後まで戦ってくれたブロスター、プクリンをボールに戻してからカンナとカスミはそれぞれ大会スタッフが回収している脱ぎ捨てた衣類を受け取る。

 試合で発生した砂埃にまみれて洗濯機にぶち込まなければ着れそうもない。水着とボディコン姿の2人自体も気付けば全身の汗に砂が張り付いている。

 

「まだまだ強くなれそうね、私たち。」

 

 師がニコリと柔らかな笑みを弟子に向ける。弟子はハイ!と元気よく頷き、トレーナーサークルを後にした。

 

「やった…やった!やったぞスイレン!!妾たちの勝ちじゃーッ!!」

 

 思えば1回戦からずっと負け続けてきた中でのようやくの勝利であった。そんな喜びを爆発させながらバンバドロを労いながら回収したハプウがスイレンに抱きつこうとすれば、その両腕は空振りする。

 ウーラオスをボールに戻しながらスイレンがストン、とその場に尻餅をついたからだ。

 

「はぁ…はぁ…勝った…?」

 

 ようやく得た勝利、その実感の前にスイレンの体からはどっと脱力、腰が抜けていた。

 四天王カンナを相手取っての大立ち回りでプレッシャーを浴び続けながら戦っていた反動が後から来たのだ。

 

「あぁ。妾たちが勝ったのじゃ。」

 

「ハプウちゃん。」

 

 ささ、と差し出された自分より小さいながらも雄大なポニ島の空気を思わせるハプウの右手を掴みスイレンは立ち上がる。

 

 

 

ゴールデン!ゴールデン!ゴールデン!ゴールデン!

 

 

 

 2人の勝利を祝うゴールデンコールに肩を組み合いながら拳を突き上げる。

 

 

 

オオオオオオオッッッ!!!

 

 返ってくる歓声を受け、スイレンとハプウは汗を拭くことも忘れ互いに破顔した。

 

 

 

 ダブルバトル1が終わり、両陣営の選手がベンチに引っ込んだ段階で整備のためにロトム入りの清掃ロボットがフィールド中を駆け回っている。

 

「そういえば水のフィールドや荒野のフィールドなんかは使わないのかな?」

 

「使用ポケモンが限定される類のフィールドは近年オミットされてるみたいだよ。」

 

「ぴかぁ?」

 

 フィールドをボーッと眺めるサトシにシゲルが回答を入れれば、ピカチュウが『なんで?』と見上げるので優しく頭を撫でながら続ける。

 

「近年はフィールドそのものへの対応力よりトレーナーやポケモンのポテンシャルを引き出してくるかを見る方が重要視されている…とは公認リーグのサイトの言い分だけど、実際のところはスタジアムの維持費や放映周りが理由らしいね。」

 

「要するにお金の問題、ってこと?」

 

「まぁそういうこと。」

 

 サトシにシゲルは首肯する。ポケモンリーグの舞台として扱う可変式のスタジアムを管理するのも楽ではないのだと程度の違いこそあれど双方納得はしていた。

 

「それにしても最後のハプウのアレはトレーナー妨害を取られなくてよかったな。」

 

「そうだね。イッシュだと割とギリギリかも。」

 

「そういうものなのかのう?アレくらいよくあることではないのか?」

 

 タケシとデントが話すのはバンバドロが10まんばりきでフィールドを揺らしてカンナのポケモン交代を阻害した場面のことだ。

 当のハプウはスポーツドリンクを飲み干してから首を傾げる。

 

「まぁ、相手がカンナさんだったから素直に受け入れてくれたところも多分にあるでしょうね。」

 

 ポケモン歴1950年代から1970年代までの『OK世代』にトレーナーとして青春時代を過ごしたカンナであるが故に今以上に荒っぽくトレーナー側のアクションを阻害するような作戦が飛び交うのは日常茶飯事であったのだろう。

 そんな中で少しフィールドを揺らすくらいを妨害行為として訴えていたらポケモンリーグ本部に構えるセキエイの四天王として名が廃る…だからこそカンナは潔く負けを認めた。そう、ナンテは考えた。

 

「なぁ、スイレン。セイヨさん大丈夫なのか?ずーっとあっち見てるが…。」

 

「そういえば私たちが戻って来てから一言も喋ってない。」

 

「ぶいぶい?」

 

 カキの耳打ちにスイレンもセイヨを見る。

 そのセイヨはというと、ベンチからフィールドへ出る段差に左足を持ち上げ、腕を組んだままジッとカントー側ベンチを見つめていた。

 表情も男子ならシゲル、女子なら彼女と端正な顔立ちの代表たる整った美貌に携えるのはただただ静かに燃やす闘志であり、そこに普段の高飛車な態度は微塵も見られない。

 足元をチョロチョロするナギサにも気付かない程だ。

 

「もしかしてコレが原因か?」

 

「なになにー?」

 

 ジェニーが見せるスマホロトムの画面にハウを始め皆視線を向ける。そこには、確かにセイヨが次の試合に意識を過剰なほど向けるに足りる理由があった。

 

 

 

「カオルコ、大丈夫か?」

 

「心配には及びません。」

 

 カントー側ベンチ、セイヨから向く強烈な視線とプレッシャーを前に一歩も引かず正対する和服の美女は言葉短にアキラに返す。

 

「あら?まだフィールド整備かかってたんだ。」

 

「元々あちこちかなり傷んできてるのよ、このスタジアム。」

 

 ベンチの奥の出入り口よりスタジアム内のシャワールームから帰って来たカンナはレディーススーツに身を包み、カスミは白のへそ出しタンクトップにホットパンツ姿である。

 ボディコンや水着でボディラインを丸出しにされているよりは野郎どもの視界にとってマシだろう。

 

「確か、来年から大幅な改築に入るんでしたよね?」

 

「えぇ。工期はワタルが言うには4年ほど。その間はジョウトのポケスロンドームを借りてリーグ周りのイベントはこなす感じね。」

 

「いまだに個室が和式トイレですもんね、ここ。」

 

 ヒロシに受け売りの話をカンナが返す。ジロウとしてもここのトイレにいい思い出はないようだ。

 

 

 

「お〜いナリヤ〜!」

 

「おぉ、ユキナリ〜!」

 

 チーム<マナーロ>側の応援席にオーキド博士とハナコは合流していた。

 予約席で試合を見てるだけでは殺風景な話であると思い立ったためである。

 

「ククイ博士、ウチの息子がお世話になってます。バーネット博士も。」

 

「いえいえそんな!今となっちゃ、チャンピオンになったサトシにこっちがおんぶに抱っこな感じですよ。なぁバーネット?」

 

「えぇ!」

 

 オーキドの従兄弟同士が再会を喜び合う中、ハナコはククイ博士とバーネット博士に深々と頭を下げれば慌てて頭を上げてもらおうと2人はアタフタ。

 そんな両親の様子をキョトンとしながらレイは見ている。

 

「それならよかったですわ。で、ウチの子いつ出番なんです?」

 

「あぁ。シングルバトル1ですから最終戦ですね。今からあと2回試合して、それで決着が付かなかったらって場合の大将戦。」

 

「まっ、あの子ったらそんな大役!」

 

「サトシくんならきっと成し遂げてくれますわ。」

 

 団体戦のトリを飾る立場な息子にハナコが今更ながら口元を両手で覆いアローラ側ベンチを見る。

 本当に愛されて育ってきたのだろう、そんなハナコを見てククイ夫妻はサトシの生育環境が幸福であったことを確信した。

 

「実際どうなの?ここから先は。」

 

「まぁ楽な形にはならんだろう。なにしろ相手はポケモンリーグのメッカ、カントーのお膝元で集められた精鋭だからな。」

 

 ククイ博士自身もカントー地方をいちトレーナーとして巡っていた経験から妻に語る。

 バトル文化そのものの歴史の深さはガラル地方に譲るが、やはりポケモンリーグという枠組みはこのセキエイスタジアムから発信されるリーグ戦から全国各地へ伝わっているのだ。

 

「あのー、チーム<マナーロ>の応援席はここでいいんですかね?」

 

 おずおずと尋ねる声、振り向けばそこには濃いめの江戸紫色のブレザーを着た男たちと、薄い水色の学生服の女たち。

 彼らをククイ博士はきっぷ良くあぁ!と迎え入れた。その見た目からすぐに素性は察せたからだ。

 

 

 

「さぁー、清掃ロボットが引き上げていきフィールドも綺麗ピカピカとなり仕切り直し!ここからいよいよ後半戦、シングルバトル3連戦でPNTTの初代覇者にして、バトル最強地方の栄冠を手にするチームが決まります!」

 

「おぉ、間に合った間に合った。」

 

「ダンデくん。」

 

 フィールド整備中の小休止の間トイレに行っていたダンデが戻って来る。重度の方向音痴という悪癖は周知の事実、そこで道中には大会スタッフが案内を買って出ていた。

 だからこうして試合が再開するまでに戻って来れたのだ。

 

「ん?どうしたカルネさん?」

 

「………いいえ。」

 

 そんなダンデの姿をじっと見つめてからカルネはフフ、と鼻から笑みを漏らしながら視線をフィールドに向ける。

 ダンデもジッキョーとカルネの間の指定席にフワリと座る。

 その仕草と立ち振る舞いを、カルネは横目で見逃してはいなかった。

 

 

 




 PNTT決勝戦 ダブルバトル1
 ハプウ&スイレンvsカンナ&カスミ
 ダブルバトル 3C2Dルール

 ハプウ  スイレン   カンナ    カスミ
 ヌオー● アシレーヌ  ルージュラ● スターミー
      (Zワザ使用) (Zワザ使用)
 ゴルーグ アシレーヌ● プクリン◯ スターミー◯
             (テラスタル使用)
 →バンバドロ ウーラオス◯ スターミー●
 バンバドロ● ウーラオス◯ プクリン● ブロスター●
 (Zワザ使用)

 勝者 ハプウ&スイレン
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