3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 サトシがPWCSで戦っていた頃、シンジはシンジで飛躍の時を迎えていた。
 キクコの薫陶は、シンジの力を更なるステージへ押し上げたのだ。


それぞれの戦い 師弟2つ カンナとカスミ

 時を戻そう。

 

「へー。それでシンジはPWCSの方には出ずに、キクコさんに弟子入りしてずっと修行してたのか。」

 

「あぁ。」

 

 シンジとキクコの師弟関係の成り立ちを聞いていたサトシにシンジは短く返す。

 マスターズトーナメント直前に再会した時、バトルの中にサトシが感じたシンジの中の、自分はジムリーダーとして本当にやっていけるのかという迷いが今は払拭されている。

 その一助にあの時なれたのだと考えれば、サトシは最強のライバルの飛躍を嬉しく思えた。

 

「ふーん。ならお互い条件は一緒ってことよね。」

 

「なにがだよカスミ?」

 

「四天王直々に鍛えてもらってたのはシンジくんだけじゃあないってこと。」

 

ふふん、とカスミは胸を張って見せれば、実った胸がたゆんと揺れた。

 

 

 

 時は遡る。

 3年前、PWCSを制した後の、あてもなく旅をしていたサトシと別れてからカスミが向かったのはカントー地方から南にある7つの島の集まり、「ナナシマ」。

 それぞれ文化の発展をしながらも、助け合って成り立つ島々の中の4番目に位置する「4の島」は、暖かい気候でありながら、その北東部には溶けることのない氷で覆われた洞窟がどこかしらアンバランスさを醸し出している。

 そんな「いてだきの洞窟」の中で、流れ落ちる滝の下の湖からは、その轟音をかき消すほどの激しいバトルの衝撃音が響く。

 湖の中心部に陣取るのりものポケモンラプラスの周りを、ギャラドスがぐるぐると泳ぎ回っている。

 ラプラスの背には柔和さと厳しさを兼ね備え、眼鏡をかけ整った顔立ちに反し、首から下はもはやエロティシズムの暴力とさえ言えるほど実り切り、練り上げられた肢体をビキニでどうにか押さえ込んでいる…そんな色香の塊のような美女が腰掛けていた。

 ギャラドスの背には、白いワンピース型の競泳水着姿なカスミ。

 

「今日こそいいの入れさせてもらいます!お師匠様!」

 

「うふふ、どこからでもどうぞ。」

 

 カスミの啖呵に、お師匠様と呼ばれた美女、カンナが表情に携えた柔和さと厳しさの比率が切り替わる。

 みずとこおり、2つのタイプを極めたエキスパートとして名を轟かせ、ポケモンリーグ本部を構えるセキエイリーグにて四天王にまで上り詰めた才女は、その極めた2タイプの特質を精神性にまで昇華させていた。

 

『流れるままの自然体な水と、一瞬で全てを凍て付かせる厳しい氷、それがまたすぐに溶けて流れ出す。』

 

 カスミに伝授したその精神の流動こそがカンナの奥義であり、それはポケモンにも伝播している。

 トレーナーの精神をポケモンに伝播させ、ポケモンの意思もまたトレーナーがキャッチする。それを体感させるために、こうしてあえてライド状態でのポケモンバトルを度々行っていた。

 彼女の故郷である4の島までわざわざ訪ね弟子入りを志願したカスミは、修行をつけてもらってからの1年をかけてそこを理解することが出来た。

 ミーハー気味に"カンナ様"と呼んでいたのがいつしか"お師匠様"と呼ぶようになり、よりトレーナーとして真摯に修行に向き合ってゆくカスミの姿は、カンナにとっても心地よかった。

 

『お願いします!私にカンナ様の極意を伝授してください!どんな厳しい修行にも、耐えてみせますから!!』

 

 こうやって、カスミが自宅まで押し掛けての猛アタックからこの師弟の関わりは始まった。

 当初は、言葉を選んでどうにか追い返そうとしたカンナであったが、手土産としてカスミが持ち込んだ1/1スケールのラプラスのぬいぐるみがそれを封じ込めてしまった。

 カンナのぬいぐるみ集めという趣味は、決して表立って広げたつもりはなかった。

 それをどこからどう聞き付けたのか、カスミは弟子入りの交渉材料として普段は頼らない姉たちの人脈すらフル活用し、カントーのメーカーに掛け合って受注生産の品を取り寄せたのだった。

 こうまでされては、カンナも無碍には出来なかった。

 仕方なしにトレーニングへの同行を許せば、そこはみずポケモン専門のジムを切り盛りしているからか筋は最初からよく、言われたことを受けては自分なりに噛み砕いて飲み込み、創意工夫を重ねるカスミの姿に、次第にカンナも教えを伝えるのが楽しくなっていた。

 それはそれとして、師であるが故に修行とはいえ勝負を譲る気も毛頭ないが。

 

「ギャラドス、かえんほうしゃ!」

 

「ぐぉおおお!!」

 

 ギャラドスのきょうあくポケモンたる所以の大きな口から激しい業火が吐き出される。

 ラプラスは避けられない、いや、避けない。避けるまでもない。

 

「初めて手合わせしたときに比べて、ギャラドスも随分レベルアップしたわね。」

 

「お師匠様の教えのおかげです!」

 

「あらあら。トレーナーの方は口もお上手になったのね。…ラプラス、フリーズドライ。」

 

「うッ!!」

 

「きゅううん!!」

 

 水から氷へ。

 カンナのバトルの真髄は一瞬の切り替わりにある。当然、その決着もまた往々にして一瞬なのだ。

 カンナともどもかえんほうしゃを涼しい顔で受け切りびくともしないラプラスは、体内のこおりタイプのエネルギーを瞬時に解放させて湖を凍結させる。

 そこに泳いでいるギャラドスも、なにも手立てがなければ巻き添えを喰らうのみであったが、1年も押し掛け弟子をしていれば否応なく師が放り投げてくる一撃必殺の一手も頭の中に叩き込まれていた。

 ちなみにだが、滝の近くに住んでいる野生ポケモンたちはこの2人がやってくるなり全てを察して立ち去るまでは安全圏まで避難している。

 

「ギャラドス!!」

 

「ぐおおお!!」

 

 カスミが名を呼べば、ギャラドスは我が意を得たり、とばかりに水面から浮上、飛行状態に移行して湖の凍結から難を逃れる。

 このフリーズドライのかわし方は修行を受け始めたカスミが3日で編み出した回避ルートだ。

 カンナからすればもはや使い古された手段であるため特に感慨もない。見慣れ切った動きなのだ。

 

「ギャラドス、このまま真っ直ぐラプラスへ突撃よ!」

 

「ぐおおおッ!」

 

「ラプラス、こおりのつぶて。」

 

「きゅうううッ!」

 

 ギャラドスがラプラスに接近を開始すればすかさずカンナはそうはさせじと指示を飛ばす。

 凍結させた湖の氷をラプラスは制御下に置いて細かく礫状に砕いていけば弾丸として次々と発射していく。

 湖全体を凍結させたのだ、弾はいくらでもある。

 

「ギャラドス、アクアテール!」

 

「ぐるぉッ!!」

 

 当然カスミも、ラプラスからの一方的な弾幕勝負に付き合う気はさらさらない。

 ギャラドスは空中で車輪のように素早く縦回転しては、そのまま尻尾にみずエネルギーを凝縮させそれを勢いよく眼下の氷面へと叩き付ける。カスミも振り落とされたりなどしない。

 先程のかえんほうしゃとて、それでラプラスを倒せるなどとは微塵も考えていない。業火を吐いた際の熱エネルギーもまた布石なのだ。

 熱エネルギーがヒレを通して口から尻尾まで素早く伝達されていき、その上でアクアテールを発動し氷面を砕けば加わった熱エネルギーにより水蒸気が激しく霧散してゆく。

 カンナとラプラスの視界を封じにかかったのだ。それはこおりのつぶてによる弾幕攻勢も無意味とカンナに察しさせる。

 

「あら。」

 

「ぐおおおおお!!」

 

「きゅううーーん!!」

 

「いっけぇーッ!」

 

ガキィィィィィン!!

 

 衝撃音とともにモヤが晴れる。

 展開されているのは肉弾戦の距離まで迫り、かみくだく攻撃を仕掛けたギャラドスと、それを迎え撃つラプラスのメガホーンによる両者一歩も譲らぬ鍔迫り合いだ。

 

「口だけじゃあないわね。トレーナーとしても随分立派になってる。」

 

「ありがとうございます。でもまだまだ!」

 

 鍔迫り合いによりぶつかり合う技エネルギーが激しくスパークする。

 みずとこおりの師弟は勝負師の視線をぶつけ合わせ、不敵に微笑みあった。それから先も修行の日々は続いた。

 

 

 

「それで、結局カンナさんには勝てたの?」

 

「う…それはそのうちよ、そのうち。」

 

 時を戻そう。

 サトシが何気無く聞いたことにらカスミは苦い顔をしながらそっぽを向く。

 どうやらコレは軽く地雷でもある質問なようだ、サトシはそれ以上突っ込むのはやめにすることにした。

 サトシの知るカスミは激情家な面が強く、下手に詮索しすぎれば普通に手が出るタイプの娘なのだ。自身の未熟が原因とはいえ、初対面でもいきなり頬を引っ叩かれているし、度々イジり過ぎては猛烈にシバかれてもいる。

 それに、サトシとしても目標であるダンデにはまだ対等な条件のバトルで勝ってはいないのだから立場としてはカスミとそう変わらないものだ。

 自分のことを棚に上げて他人のことは言えまい。

 

「(なるほど。あの小娘、地元に引き篭もって何をしてるのかと思えばやることはやってたようだね。)」

 

 カスミを通してその背後にいるカンナのことをキクコは認める。

 カンナが見出したカスミと自分が磨き上げたシンジのぶつかり合い、さながら四天王同士の代理戦とも言える構図であった。

 キクコは我が事のように高揚しているのを抑える。それをオーキド博士は感じ取っていたが、決して口にはしない。

 そうこう話しているうちに、飛んできたドローンロトムへオーキド博士は手を振って誘導する。

 

「おぉ、PWCSのドローンロトムが来たぞ!」

 

「オマタセイタシマシタ。PWCSコウシキランクマッチヲオコナイマス。リョウセンシュ、ジュンビハヨロシイデスカ。」

 

「問題ない。」

 

「オッケーよ。」

 

 シンジ、カスミ共にドローンロトムに準備完了を告げる。

 

「ワカリマシタ。コレヨリ、PWCS19794イ、シンジセンシュトPWCS19771イ、カスミセンシュノシアイヲカイシシマス。シヨウポケモントルールハ3C1Dホウシキトナリマス。」

 

「だねふし、だねふしゃ!」

 

 ドローンロトムがアナウンスをしている中シンジとカスミはそれぞれバトル用にスペースを取る。

 その周りで研究所の用心棒を務めるサトシのフシギダネが中心となり通路規制をしていた。

 

「ソレイガイハPWCSコウシキルールニソクシマス。ソレデハバトルヨウバリアフィールド、テンカイ。ジンコウガラテラリュウシ、サンプカイシ。」

 

 バトルの余波による被害を防ぐバリアフィールドが形成され、その内部にのみガラル粒子とテラスタルエネルギーの合成物質が散布される。

 ドローンロトムには撮影用機材も内蔵されており、フィールド内の試合を生配信、そのまま動画投稿サイトにアップできる仕組みも整っている。

 なにより、該当条件下でなければ発動自体不可能なダイマックスやテラスタルをどこでも過不足なく使えるようになるのが参加者にとっては大きいのだ。

 

「全力でいかせてもらいます。」

 

「同い年なんだし敬語なくていいわ。てか手を抜いたらあなた負けるわよ?」

 

「だからこそ全力でいく。」

 

「ソレデハ、ポケモンヲダシテクダサイ。」

 

 両者譲らず覇気をぶつけ合わせる中、ドローンロトムの無機質なアナウンスはつつがなく試合進行に努めていた。

 

ゴオオオッ!!

 

 シンジの覇気がカスミを抑えつけるように放たれる。

 鳥肌、凄まじいプレッシャー。しかしカスミは揺るがない。

 サトシからはカスミもまた強者の波導を放っているのが見えていた。

 

 

 

 




 『カンナ』
 48歳。カントー地方セキエイリーグの四天王。
 3年前、オレンジ諸島でサトシと出会い、終生忘れることのない訓示を与えた。
 エースポケモンは、故郷である4の島で共に育ったラプラスだ。
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