3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
猛攻を仕掛けるカオルコを相手に冷静にゴローニャで相討ちを取るセイヨの胸には、かつてリーグで敗れたリベンジの決意も宿っていた。
「ボーンラッシュとれんぞくぎりのラッシュ対決!!セイヨ選手、今度はカオルコ選手の猛攻に対してガードではなく打ち合ったーッ!!」
「それは、少し不味いかもね。ダンデくん?」
「あぁ…ガラガラは二刀流で骨を振るうのに対し、ハッサムは腕そのものなハサミを振り回している。同じラッシュでも腕に持つ武器と腕そのものとでは与えるにしても受けるにしてもインパクトが違ってくるんだ。」
「では直接殴り付けているハッサムの方が不利ということでしょうか?」
「その逆だよ。それに加えて、あのハッサムは最初から"ああいう戦い方"のために仕上がっている。」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!
互いに両手を振るいラッシュをぶつけ合う中、ジリジリとガラガラが後退させられてゆく。
「パワー以上に体格差が如実に出てきたな…ハッサムは高さ1.8m重さ118kg、対してガラガラは高さ1.0mに重さ45kg…。種族としての攻撃力もハッサムの方が上だ。」
「でもポケモンバトルは体の大きさやパワーだけでするもんじゃないぜ?」
「ぴっかちゅう。」
ラッシュの速さ比べで徐々に押し負け始めたガラガラにシゲルが呟けばすかさずサトシとピカチュウが力説を返す。
小さいものが大きなパワーの持ち主を打ち倒すことに対し、サトシに言われたらば物凄い説得力を感じざるを得ない。
「ハッサムもハッサムで確かに腕にダメージは蓄積されている。だがあのままでは先に参るのはガラガラだ。」
元々はいわタイプのエキスパートとしてジムを守ってきたタケシだ。パワーファイトに関しては一家言ある。
「戦術はカオルコ選手、戦略はセイヨさん…しかし、その差も誤差の範囲。実際、ゴローニャのだいばくはつも直前段階で見抜かれていた訳だが…。」
荒々しく超攻撃的なカオルコを相手に読み違えるないしは逆に狙いを読まれたらば一気に流れを掴まれどうしようもなくなるだろう。
セイヨの一手は薄氷の上のものであるとナンテは思った。
「はぁッ!!」
ガッキン!!
「がぁらッ…!」
「あーッと!ハッサム、振り上げた両腕でガラガラの骨を弾き飛ばしたーッ!!ガラガラはこれで丸腰ーッ!!」
「しかし休みなしのラッシュでハッサムも両腕は一旦置かないと!」
「フィニッシュはパンチとは限らないみたいよ。」
「はッ!さむッ!!」
カルネが目敏く見抜くは、ハッサムの真後ろに振りかぶられた頭。
その真っ赤な頭がメタリックさを増し、より硬度を高めて鈍器と化す…!
「アイアンヘッド…!」
「いかにガラガラが固い骨を被っていようと!」
宙に舞い上がる骨はまだ落ちてこない。
ガラガラは丸腰、打つ手なし!
「ハッサム、やっておしまい!」
「ふぁーッ!!」
真紅の鉄頭がガラガラの頭の骨に叩き落とされる、まさにその時!カオルコは見た。
セイヨの口元が吊り上がり、獰猛な笑みを象っているのを。
ドンッ!
そしてその時には、ガラガラの左拳がハッサムの右ボディに突き刺さっていた。
「すぁッ…!?」
ジュウッ…!
腰の回転全てを使っての突き上げるような、さながら『肝臓打ち(リバーブロー)』がハッサムをよろけさせる。
その左は、微かに焼け付いていた。
「アイアンヘッドを叩き込むところのハッサムに、ガラガラからのカウンターパンチーッ!!ハッサムのリアクションがただのパンチを受けたにしては大きいッ!!」
「まさか、ほのおのパンチ?」
「そうね。視認されないギリギリのほのおエネルギーを拳から出力して、カウンター狙いを悟らせないように細工した…こうなってから見ると、セイヨ選手はそもそも初めからこの流れのために敢えて打ち合いに付き合ったんじゃあないかしら。」
カルネの推察はまさしくズバリである。
「飛ぶのよハッサム!距離を取って回復を!」
「させるもんですか!」
「がぁらぁッ!!」
ドンッ!
身体をやや左側に捻りつつダッキングして、そこから伸び上がり懐から左フックを頭部に叩きつけるガラガラの『ガゼルパンチ』がハッサムの頭を揺さぶり、カオルコからの指示を聞き取る聴覚機関にも一時的なダメージを与える。
「不味いわね。あのガラガラ、あのまま倒しに来るわよ。」
カンナが呟くもこの場はセイヨのバトルの構築を評価するよりなかった。
対スピアー同様ハッサムもまんまとカオルコの超攻撃的なスタイルを型にハメて反撃に転じてきたのだから。
「がらぁ、がらぁ、がらぁ、がらぁ…!」
『ガゼルパンチ』でハッサムのボディが浮き、その間に間合いを取る。
そこから上半身を∞の形のような軌道でヒュンヒュンとガラガラは振りながら遠心力を得てゆく。
「なんだあの動きは!?合宿でも見たことないぞ!?」
「おそらくは対カオルコ選手用に開発してあったのをずっと温めていたのでしょう。動きからして明らかにシングル特化で、しかも開発目的である当の本人に向けてのお披露目ときた。」
1度負けた相手へのリベンジ…その熱量がセイヨに普段以上のパワーを与えているのだろうとナンテは考える。
リベンジ相手に対策手を披露する…自分自身覚えのあることでもあったからだ。それはサトシにとっても同様だ。
彼女と全く同じシチュエーションがこの後待っているのだから…。
「(3年前は骨を叩き落とされてから一気にやられた…だからこそ打ち合いができるように骨を二刀流出来るよう改造し、拳も鍛え上げた!)」
遠心力に重みが加わるのは被る骨の重さからだろう。
ピーカブースタイルに拳を構えるガラガラの瞳には、主人の決意の炎が乗り移る。
「全ては今日、この日の為に!ガラガラ!今こそほのおのパンチ!連続よ!!」
「がぁらぁ〜!!」
「は、はッさッ…!」
ドンッ!
ハッサムの意識レベルが回復したのはカオルコの育成力の賜物であった。
そこにガラガラの左フックが抉るように顔面にぶち当たる。
ドドドドドドドド…!!
「ガラガラ、連打!連打!連打ーーーッ!!遠心力と反動を利用し、左右から重いフックの雨ーーーッ!!」
「こいつは強烈だなぁ!そうだカルネさん!確か10年前に『ポッキー』の5作目に出てたんだったよな?」
「え、えぇ。」
イッシュ地方発のスポーツ映画で全6作のシリーズ作品として不朽の名作と言われる『ポッキー』シリーズ…イッシュが誇る名俳優スライが主演するうだつの上がらない三流ボクサーが世界チャンピオンとの試合を経て恋人と共にスターダムへ駆け上がる作品に22歳の頃カルネはエキストラとして出演していた。
役者として全力で臨んだのは当然のことだが出演作としては知る人ぞ知る…というレベルのもの。当然、当時既にガラルチャンピオンとして多忙なダンデが言ってしまえば端役に過ぎない自分の出演作をチェックしていたのかとなると疑問が残る話である。
というか、ダンデの人となりからしてとても知っているとは思えない…。
「がぁぁらッ!!」
ドンッッ!!
左右からの連打を浴びせ続ける『デンプシー・ロール』のフィニッシュとしてガラガラの右フックがハッサムのボディを吹っ飛ばし、仰向けに倒れさせる。
同時に跳ね上げられた骨がガラガラの背後に落下し、フィールドに突き刺さるのを横目に審判としてジュンが走ればハッサムの容態をチェックする。
完全に目を回していた。
「ハッサム、戦闘不能!ガラガラの勝ち!」
セイヨ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。
カオルコ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。
ウオオオオオオオッ!!
「やったやった!セイヨさんが2ダウン目取った!」
「あと1体!あと1体!」
「あと1タイレーツ!!」
チーム<マナーロ>側応援席ではナリヤ校長のポケモンギャグでセイヨの押せ押せムードも盛り上がる。
熱狂によりイマイチな親父ギャグでも勢いの加熱に繋がっていた。
「カオルコ選手が2ダウン目!残りダウン可能数はあと1体ッ!!」
「追い込まれた時ほどポケモントレーナーは真価が発揮されるものよ。まだまだ油断は禁物。」
「セイヨ選手の緊張の糸が何かの拍子で切れたならカオルコ選手にも逆転のチャンスはあるぜ。」
予断を許さない。そんな戦局の中…
「「「「「ファイト!ファイト!カオルコさん、ファイト!」」」」」
「ハッサム、お疲れ様。」
「ガラガラ、交代よ!」
大声援が響く中でカオルコは倒れたハッサムを、セイヨは骨を回収したガラガラをそれぞれボールに戻し、ふと互いに目が合う。
「ずいぶんとこちらを研究してらっしゃったようね。余程3年前のことが悔しいと見える。」
「悔しさを忘れたらポケモントレーナーとしておしまいでしょう?」
「それはそう。」
クスリ、僅かに笑みを交わす2つの美貌。すぐにまた厳しい戦闘モードの視線へと舞い戻り、
「このまま押し切らせてもらう!ゆけッ!」
「さぁ、いくわよ!」
同時に次なるポケモンを繰り出した。
「つぼつぼ〜。」
「やっぱりカオルコさんはあのマダツボミか。」
フラワーポケモンマダツボミ。小振りなウツボカズラをひっくり返したような頭部と、細長い茎の胴体、脚のように枝分かれした根と、腕のように生えた2枚の緑色の葉が特徴の植物ポケモン…。
話すだけならばよくあるくさポケモンの域を出ないが、ことカオルコの個体となると話は別であった。
「ぴぃ…!」
当時サトシのポケモンたちの主力メンバーであったピカチュウとフシギダネを立て続けに撃破した猛者なのだ。
ピカチュウも3年前に受けた踵落としの一発を思い出し頭を抱える。
「べ〜と〜べとぉ〜!!」
「アローラの姿のベトベトン!あの子も私たちには見せたことない!」
「本当に対カオルコ選手のための想定と準備をずーっと固めてきたみたいですねぇ。」
そんなカオルコのエースを迎え撃つべくセイヨが投入したポケモンは、ガラガラのボクシングスタイル同様にチーム<マナーロ>の面々も初めて見る顔であった。
ヘドロポケモンベトベトン、そのリージョンフォームであるアローラの姿。
液状化したボディを染め上げる黄色・青・暗緑・紫が層のように重なったサイケデリックな体色と、体の各所から爪や牙のように生えた毒素の結晶が特徴の不定形ポケモンだ。
「セイヨさんは敢えて相手の土俵に立ち、相手の得意な形に乗せた上でひっくり返すのが信条のトレーナー。それがここまで相手の戦法に対して有利なポケモンを使うなんて。本当に本気、ゼンリョクなんだ。」
ハウとしてもリベンジの形で勝利に徹しにかかるセイヨの姿が頼もしい限りである。
そしてその気持ちは、チーム<マナーロ>全員が共有し、是非とも雪辱を晴らしてもらいたいと願っていた。
『3年前のセキエイリーグ4回戦』
決勝トーナメントまであと1勝というタイミングで激突した当時ルーキーのチャンピオンサトシはフシギダネでスピアー、ストライクを立て続けに撃破するもカオルコ選手のラス1であるマダツボミに大苦戦。
1番の相棒であるピカチュウさえ倒され万事窮すであったサトシを救ったのは軟体ボディのベトベトンだった。
マダツボミの柔拳も流動形状のボディをしたベトベトンには通じず、フィジカルの差で押し潰して無事サトシがリーグ初出場ながら決勝トーナメント進出を決めたのだ。