3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ドラピオンを倒され追い詰められたジェニーは、あくまで勝利のみを狙いボーマンダに賭けることにしたのだった…。
「何か企んでおるな…。」
交代先を1回戦で見ていたグランブルと想定していたサムライは、その予想が外され呟きながらもやることは変わらなかった。
復活させたカイロスのパワーを活かしてフィールドを捩じ伏せるのみだ。
「全身全霊でもってぶち当たるのみ!カイロスよ、真の力を発揮せよ!!ひでん技…かいりき!!」
「マ…カ…セ…ロスゥゥゥゥゥッ!!」
モリモリモリモリモリィィィッ!!
「それでは拙者もぉぉぉぉぉッ!!」
モリモリモリモリモリィィィッ!!
「あーッとカイロス、ここで全身を大きくパンプアップ!サムライ選手もムキムキだーーーッ!!」
「かいりきの技はポケモンの潜在能力を引き出しての力仕事に重宝するが、なるほど。全身の筋肉を盛り上げてパワーアップしたんだな。」
「それにしてもいい筋肉してるわねあの子。ジロウくんもよかったけど。」
ダンデがかいりきの用途を開設する中カルネは白シャツを千切り飛ばして鋼の肉体を晒すサムライのその筋肉自体に目を輝かせる。
彼女自身スタントマンを使わない撮影にこだわる役者として体づくりには人一倍気をつかい、興味も尽きないのだ。
「あの男、この上まだ力を温存していたのか!」
カキは驚愕する。同時にメガシンカ1本で戦っていた準決勝までと比較し、戦術面での引き出しの多さに舌を巻かされた。
「でも、あれだけあの手この手を使ってくるってことは…。」
「あぁ。彼も彼で崖っぷちなことを理解してるからこそだし何より…。」
「それだけジェニーさんが強いって認めてるからだよね。」
スイレンが気付き、タケシにハウが続いて頷き合う。
サムライのバトル巧者振りは確かに驚異だが、それでもそこにジェニーは追従している事実がある。最も多く一緒にトレーニングをしてきたセイヨもまたその事実から確信をチームの皆と共有しながら固唾を飲んでフィールドを見つめる。
一様に思うところはひとつ、まだワンチャンある!
「いざ、尋常に勝負ッ!!」
「…ッ!」
『何かある』…そう踏んだサムライだが敢えて踏み込むことにした。
カイロスの体力も決して万全ではない以上にここで迂遠な立ち回りを取るのは自身の性情からして飲み込み難い話であったからだ。
兵法に曰く、戦いとは正法と詭法の運用に過ぎずと心得ているサムライとしても、その本質は正々堂々の決着を望む潔白な思想が根幹にあるのだ。
その理念を熟知するカイロスは、瞬く間にボーマンダの懐へ飛び込んでゆく。
「は、速いッ!カイロス、かいりきによるパンプアップでパワーだけでなくスピードも上がっているようです!」
「というか本来、筋肉のパフォーマンスが向上すればパワーと一緒にスピードも増すものなのよ。」
カントーから伝わることわざの中にある『大男総身に知恵が回りかね』という観念もカルネにはイマイチピンときていない話であった。
どうすれば体を大きく鍛えられるか突き詰めていくには知恵も必要だと知っているからだ。窮まったねずみポケモンに噛まれて泣くねこポケモンなどは単に力が足りていないだけの話なのだ。
カイロスの角にお腹を挟み上げられるボーマンダは苦悶の表情だ。筋肉強化で増幅されたカイロスの身体能力に反応できなかったのはひとえに体力が残り少ないことも要因として大きい。
「ボーマンダはもう飛んで逃げる体力も残ってないみたいね。」
「違う。」
フィニッシュへのセットアップに入るカイロスの姿にサムライの勝ちをぼんやり見出したカスミに待ったをかけたのがシンジだった。
「あのボーマンダは逃げられなかったんじゃあない。逃げなかったんだ。」
「何故です?」
「最後の一撃に持てるリソースを全て注ぎ込む為だろう。」
ジロウに簡潔に答える。カスミも改めてトレーナーサークルにいるジェニーを見ればその表情にはまるで動揺や諦観は感じられない。
「ヤツは相当あの技の連携に自信があるようだが…。」
その型にはめることに固執するところにシンジは僅かな綻びを見ていた。
「これが最後に吹き荒れしやまあらし!カイロスよ、盛大にかかれぃ!!」
サムライの号令を受けカイロスはぐるぐると回転開始。まさしくドラピオンを仕留めた時と同じルーティンだ。
「んぐぁう…!!」
ボーマンダが空中へ投げ出される流れも同様。そうして落下先でカイロスが角を目一杯広げてぐすね引いて待つのも…
「エネルギー充填120%…対ショック、対閃光防御…!」
「アレは!あの技は!選考会で妾に見せたやつではないか!?」
ハプウの叫びに見上げるサトシたちも合点がいく。
自由落下に身を任せながら開くボーマンダの大口には膨大なドラゴンエネルギーが蓄積されていたからだ。
「相手が攻め手を組み上げ、熟練しているならばその流れに敢えて乗っかって反撃しようと言うのだな!」
カキが膝を打つ。土壇場でもポーカーフェイスを貫くジェニーの肝に感じ入った。
「最終セーフティ…解除!」
「ぬううッ!?」
「"はどう砲"…発射!!」
シュバァァァァァァァ!!
群青と赤黒のドラゴンエネルギーが奔流となりカイロスへ撃ち下ろされる。
「なんのこれしき!カイロスよ、ハサミギロチンで断ち切ってしまえ!」
ズバババババババ…!!
「あーーーッとカイロス、なんという豪快さだ!空中から落下しながらのボーマンダの強烈なりゅうのはどうをハサミギロチンでき、切り刻んでいるーーーッ!!」
「こいつは、決まったか?」
ジェニー側最後の一手が防がれるとなってはもはやボーマンダに打つ手は残っていまい。
カルネも戦術的な打開策は浮かばなかった。
「ぼ、ぼまま…!」
まさか自慢の必殺技を切り刻んでやり過ごしにかかるというのはボーマンダにとって青天の霹靂、ありえない光景であった。
「まだだボーマンダ!私たちはチーム<マナーロ>の一員、そしてアイナ食堂の看板を背負って海を越えて来たんだ!!」
ショックなのはジェニーも同様、しかしそれでも高らかに咆える。
その間に放たれ続けるドラゴンエネルギーの奔流は縮小していく…。
「最後の最後まで勇ましく戦うぞ!全ての力を出し切るぞ!その姿で、みんなに笑顔を与えるために!!!」
「サトシ…!」
「あぁ…!」
タケシにサトシはバトルから目を離すことなく返事をする。
ハンサムがやって来た時から初めて聞くジェニーの吐露、それ自体はマスター道場で聞いたそれとさほど変わらない。ただ、今のジェニーが紡ぐ言葉には確かな『熱』があった。
そこには、『熱』とは対極にいたポケモンハンターJの印象などは見受けられない。
ジェニーは、間違いなく『己自身の魂』を燃やしているのだ。それも、他者のために。
「ぼ、ま…!まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
ボシュアアアアアアアアアア!!!
放つ波導を通して主人の闘志を受け取るボーマンダの眼光が鋭く光れば、奔流が息を吹き返す。
それはやがて、カイロスの角の動作すら追いつかないほどの圧力として放射されてゆく。
「な、なんと…!?」
「いけぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」
ハサミギロチンのガードをついにぶち抜き、強化されたりゅうのはどうがカイロスの脳天から全身を呑み込む。
チュッドァァァァァァァン!!!
そこから一際大きな爆発。爆風にあてられたボーマンダはニュートラルポジションより少し後方に墜落した。
「やった!やった!やりおった!!ジェニーが決めよった!!優勝じゃあ!!」
「いや、まだジャッジが入ってない。」
はしゃぐところにデントに待ったをかけられてはハプウもそういえばとフィールドへ改めて注意を向ける。
「壮絶な大技同士のぶつかり合い!!りゅうのはどうを防ぎ切られたかに見えたボーマンダでしたがジェニー選手の熱いパッションに後押しされ盛り返したッ!!しかしボーマンダ自身もうつ伏せて両者倒れ、あーッと!!」
「起き上がろうとしてる!」
戦術的な面でどうにもならないならば後は精神的な面で競り勝つよりない。むしろバトルとなれば求められてくるのは精神面の方が大きいのだ。
カルネは、最後の最後に気持ちを爆発させたジェニーを好ましく思った。
「見ろよ、カイロスの角…!」
「ボロボロだぁ…!」
観客が呻くほどにカイロスの状態は深刻であった。自慢の角はあちこちがひび割れており、今にも根元からポキリと折れてしまいそうな有様。
対するボーマンダも起き上がらんとする四つ足が覚束ない。
「立て!立ってくれカイロス!立ちさえすれば拙者たちの勝ちだ!」
「ボーマンダッ…!」
「マ…カ…セ…ロ…!」
カイロスもボーマンダももはや攻防する力などは残っていない。ただ己が肉体を起き上がらせることしか思案にはなかった。
「ス…ぐばぁ!!」
ドサァッ
ぐるんとカイロスの目が白目を剥き、仰向けに倒れ込む。
ジュンがチェックに入れば両目はぐるぐると回っていた。
「カ、カイロス、戦闘不能!ボーマンダの…」
「ぼまッぐふぁッ…!」
ズゥゥゥン
カイロスが倒れるのを見届けるまでがボーマンダの限界であった。
審判からの勝ち名乗りを受ける前に四つ足が脱力し、ボーマンダもまた沈黙。
カイロス同様目を回している姿を確認しては、最終的なジャッジがシングルバトル2を締め括った。
「カイロス、ボーマンダ、ともに戦闘不能!よってこの試合、勝者なしの引き分け!!」
パチパチパチパチパチパチ…!!
「シングルバトル2はこれまた壮絶な幕切れ、両者同時に3ダウン目をカウントにより引き分けとなりました!これでチーム<マナーロ>は2勝1敗1分け、チーム<セキエイ>は1勝2敗1分けで最終戦シングルバトル1を迎えることになります!!」
「勝ち切るまではいかなかったがジェニー選手のあのガッツは見事だったぜ!」
「えぇ。やっぱりポケモンバトルで最後にモノを言うのはメンタルだもの。」
引き分けという形としては煮え切らない決着、それでもダンデとカルネにはじゅうぶん満足できる内容であった。
もっとも、今日の試合で満足の基準を下回る試合などはないのだが。
「カイロス、済まぬ!最後は拙者が気持ちで上を行かれた…この試合、形こそ引き分けだが実際は拙者の負けだッ…!!」
カイロスをボールへ戻してからサムライはベンチへ引き上げる。
「お疲れ様、サムライ。」
「ヒロシ殿…。」
枠線上の入れ替わりでヒロシとサムライはすれ違う。
戦略上で上回っていた試合を引き分けに持ち込まれた悔しさをそのどんぐり眼の奥に追いやる様にヒロシは小さく頷いて見せる。
「カイロスの角は大丈夫かい?」
「心配には及ばぬでござる。これくらいならばポケモンセンターでの回復でじゅうぶん。回復すれば此度よりさらに強く、雄々しく復活するのでな。」
「それはいいや。」
「ぴかぴ。」
「あぁ。」
左肩に乗るレオンに呼びかけられヒロシはサムライを見送ってから改めてトレーナーサークルへと向かう。
3年ぶりの因縁、その続きをいよいよ再開できるので高揚していた。背中に浴びるチームメンバーたちの声ももう届いていない…。
「ジェニーさん、ナイスファイト!」
ボーマンダをボールに戻し、ベンチへ引き上げるジェニーをチームの仲間たちが迎え入れる。
この暖かい雰囲気への既視感はすぐに導き出せた。アイナ食堂と同じ温もりがそこにあったのだ。
「サトシと監督は何を話してる?」
「色々あるんだと思う。最終戦だから。」
スイレンから受け取るタオルで汗を拭いながらジェニーが視線を向ける先では、トレーナーサークルへ入る前のサトシを呼び止め言葉をかけているようだった。
「カキくんには申し訳ないけど、もしもチャンピオンがこの後負けて控え同士の決定戦に持ち込まれればまず勝ち目はありません。」
「"限界を越えたZワザ"による後遺症、でしたっけ?」
「はい。」
「ぴぃかー…。」
2勝1敗1分けという王手をかけつつもピリッとしない戦績ながら、この団体戦の勝敗は変わらずシングル1にかかっている、とナンテはサトシに伝えたのだ。
「おーいサトシ!気楽に行けー!負けても俺がビシッと決めてやるからなー!!」
渦中のカキが檄を飛ばして来る。
シゲルたち他のメンバーも一斉にサムズアップを送って来ている。
「ああ言ってますがいざバトルとなると思考レベルの低下は避けられんでしょう。結局のところ、次でチャンピオンに決めてもらう他ありません。」
「らいちゅう。」
ナンテの言葉の後にテディがうん、と頷く。
サトシの答えは決まっていた。
「任せといてください。俺、絶対勝ちますから!なんたってあいつは…。」
フィールドへ向き直り歩を進めれば悠然と枠線内へ踏み込んでゆく。
「ずっと前からもう一度バトルしたかったんだ…。」
サトシもまた、過去の因縁に意識をトリップさせていった。
PNTT決勝戦 シングルバトル2
ジェニーvsサムライ
シングルバトル 6C3Dルール
ジェニー サムライ
ドラピオン カイロス
→ボーマンダ
ボーマンダ◯ カイロス●
(Zワザ使用) (メガシンカ使用)
アリアドス● クワガノン◯
ドラピオン →ベラカス●
(さいきのいのりによりカイロス復活)
ドラピオン● カイロス◯
ボーマンダ● カイロス●
勝者、なし。引き分け。