3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
サトシもヒロシも、3年前の互いの因縁の始まりへと思いを馳せるのであった…。
「あっ、ピカチュウ!誰のですか?」
「えっ?俺のだけど。」
「可愛いですね!」
「あぁ、うん。まぁ。」
時は遡る。
3年前、セキエイリーグ4回戦を突破したサトシの前にふらりと現れたのがヒロシだった。
レストランの厨房を強引に貸し切ってのハナコのワンマンクッキングの後、エレベーターに乗り合わせたのが縁の始まりである。
「なにやってんだ?」
「ん。ほら、あの星とあの星をこう結んでいくと…。」
悪巧みをかまし、ポケモンたちを奪っていったロケット団のお騒がせチームをその身一つで追いかけるサトシとヒロシは、追跡途中に夜中の河辺で野宿をすることにした。
寝袋の中でサトシはヒロシが夜空の星をなぞる動きを注視する。1つはイワーク、また1つはピカチュウ…。
「ははっ、お前本当ポケモンが好きなんだな。」
「うん。ポケモンっていいよね。自分が育てたポケモンが頑張ってるのを見てると、自分も頑張ろうって思えるんだ。」
「あぁ。」
「ねぇ、サトシの夢ってなんなの?」
「ん?へへっ、俺の夢は世界一のポケモンマスターになることさ。」
「世界一の?」
「そうさ。」
「僕は違うな。」
「え?」
「僕は宇宙一のポケモンマスターになるよ。」
「…よく言うぜ!」
満点の星空の下で2人は笑い合う。それからロケット団を退治してポケモンたちを取り返し、友情を深めた2人がベスト8をかけてぶつかり合うことになるのは、運命の悪戯としか言いようがなかった。
ポケモンリーグの閉幕したセキエイスタジアムにヒュルリと冷たい風が吹き抜ける。
その客席からフィールドのセンターサークルをただただ見つめるサトシとヒロシがいた。
「終わったな。ポケモンリーグ。」
「いろいろあったね。」
「あぁ、いろいろあった。」
「ぴかぴ〜!」
「ぴっか〜!」
「ピカチュウ!」
出入り口から飛び出して2体のピカチュウがそれぞれの主人の元へ走り込む。
頬を寄せ合うサトシとピカチュウを見つめてからレオンを肩に乗せるヒロシはゆっくり立ち上がる。
サトシと出会って、ポケモンとの関わりにモンスターボールは必須ではないということをヒロシは学んだ。
以降、相棒のレオンはサトシ同様外に連れ歩いている。
「僕、行くよ。」
「そうか、元気でな。」
「さようなら。」
「ぴか。」
ポケモンにも別れの挨拶を欠かさないヒロシの対応がピカチュウには好感であった。
「ヒロシ!」
歩き出す背中にサトシが呼び掛ければヒロシは振り返る。
「この次はきっと勝つぜ。」
「ぴかぁ〜!」
互いにサムズアップを送り合い、ヒロシが先立ってスタジアムを後にする。
2人の脳内に去来するは大会を通しての出会い、そして戦い。セキエイ大会の舞台は、2人のルーキーを確かにいくらかステップアップさせたのだ。
時を戻そう。
奇しくも3年前と同じ方角からトレーナーサークルに入るサトシとヒロシ。旅の中で顔を合わせることはあったがこうして真剣勝負の舞台でぶつかるのはあの日以来だ。
『この次』がやってきたのだ。
「サトシ。今日は勝たせてもらうよ。」
「今日は?"今日も"の間違いだろ?」
「アレで勝ったと思えるほどお気楽な性格してなくてね。きみもそうだからまたPWCSに出てるんだろ?」
図星を突かれた、サトシは苦笑いする。
サトシがダンデを完全に超えたと思っていないように、ヒロシもまたセキエイ大会での一戦でサトシに勝ったとは考えていないのだ。
『やはり似たもの同士』…そう互いに改めて認識し合った。
「あらまぁ。あの子も大きくなったわね。」
ようやくやってきた息子の出番もそこそこにサトシと同じく20cm近く身長を伸ばしたヒロシをハナコは見る。
ほんの僅かな関わりながらその理知的な振る舞いに、我が子へ爪の垢でも煎じて飲んでもらいたい…そう呑気に考えるのもまた子を持つ親としてよくある発想と言えた。
「ククイくん。どうじゃな?この試合の予想は。」
「俺ですか?いやぁ天下のオーキド博士の前じゃなんか気恥ずかしいですよ。」
「なんのなんの。ワシなどはとっくに現役を退いた老兵。現代のポケモンバトルにおける知見の広さはきみの方がよほど上じゃろうて。」
カカカと笑いながらのオーキド博士にはぐらかすのはそれはそれで面子を潰す、となればククイ博士も所感を述べざるを得ない。
「情報アドバンテージは1回戦でゲッコウガ、準決勝でベイリーフとそれぞれ3タテしてきた分若干サトシのが上。しかし、勢いに関してはヒロシ選手のがカルネさんに勝った分上、ですかね。見えてる情報としてもヒロシ選手は強力なピカチュウにキョダイマックスバタフリー、それにルギアもいる。裏に控えた3体もこの子たちと同等のパフォーマンスを発揮すると考えるならサトシでも楽に勝てる相手じゃあないでしょう。」
「加えて一度負けた相手じゃ。準決勝ではコテツくんを相手に上手く気持ちを整理できておったようじゃが此度はまだ分からんのう。」
ともにトレーナーとしての活動歴がある博士同士の所感は的を得ている。応援合戦の喧騒の中でも確かな説得力は失せるものでもない。
「さぁ8月の初めから10日間にかけて繰り広げられてきたバトル最強地方の座を賭けてのポケモンナショナルチームトーナメント決勝戦!いよいよ最終シングルバトル1となります!チーム<マナーロ>からはここまで1回戦、準決勝とどちらも圧倒的な実力を見せつけ3タテ勝利を飾ってきたチャンピオンサトシが満を持して大将戦に登場!!対するチーム<セキエイ>からは1回戦にてチャンピオンカルネを破り、続く準決勝ではチームが3連勝のストレート勝ちをしたことにより温存となっていたヒロシ選手が出てきています!しかもこの2人、3年前のポケモンリーグセキエイ大会において一度対戦が実現しておりその時はヒロシ選手が勝利しています!チャンピオンサトシからすれば準決勝に続くリベンジマッチと言えるでしょう!!って、あッとー?これは一体どういうことだー?」
ウオオオオオッ!チャンピオン!チャンピオン!
「ダンデさん?」
「ぴかぁ?」
ジッキョーが素っ頓狂な声をあげるのも無理はなかった。あらかじめ打ち合わせで確認していた進行にない展開がフィールドで起きたのだ。
試合の主審を担当するジュンと一緒に審判サークルから、本来放送席にいるはずのダンデが出てきたからだ。
「そろそろいいんじゃあなくて?」
放送席では目を細めたカルネがダンデ?を見つめる。
一瞬ギョッとしながらも観念すればその顔は瞬く間に緑髪のツインテールに太眉がチャームポイントの美少女へと変貌、いや、元の姿へと戻る。
「あっ、あなたは!オープニングセレモニーで素晴らしいへんしんパフォーマンスを見せてくださったメタモン芸人のイミテさん!!」
「どうもどうも〜。いやぁ、本場の役者さんにはかないませんね。やっぱりすぐ分かっちゃったんで?」
「あなたの"イリュージョン"に落ち度はなかったわ。ただ私の役者魂と女のカンが見抜いちゃった、ってところかしら。」
つまりはシンプルに眼力でバレていたということだ。
イミテはこの替え玉の顛末を語るがそれもまたシンプルな話…シングルバトル3開始前にトイレに行っていたダンデが通りかかったイミテを見て話を持ちかけたのが始まりであった。
『せっかく始めたこのPNTT、もっと盛り上げたいんだ。同じエンターテイナーなら分かるだろう?』
ダンデの説得は正しくイミテには殺し文句だった。
お笑い芸人として観客や舞台を湧かせることへの注力に誰にも負けない意識を持つイミテはこの言葉に共鳴。ダンデに扮装して放送席に紛れ込み、まんまと2試合分解説をして見せた。
その間本物のダンデは審判団の待機ルームから試合をずっと見ていたのである。
「なるほどー。それで、何故チャンピオンダンデはイミテさんに替え玉を依頼したのでしょうか?」
「それは私も聞いてません。ただ、ああやって出てきたってことはこの後の試合をもっと面白くするためなんだとは思います。」
「違いないわね。」
イミテに相槌を打つカルネはダンデの思惑をうっすら読み取っていた。そしてそれはカルネにとっても願ってもない話であった。
「ん゛ん゛ッ!あー、あー。」
リザードンから受け取ったマイクで音量と喉を調整するダンデ。
案内員と別れてからのナビゲーターとして専ら仕事しているチャンピオンの相棒にはどこか無軌道な主人に懸命に付き従う哀愁が漂っていて一部の見るものには可笑しさすら浮かぶ。
「やぁみんな!試合楽しんでくれてるか?今のところ団体戦全体で見るならチーム<マナーロ>が2勝1敗1分けで勝つか引き分けなら優勝、チーム<セキエイ>がシングル1で勝てば控え選手による決定戦にもつれ込むんだが…ここで1つ大会責任者として両陣営及び観客の皆に提案をしたい!!」
「「提案?」」
「「ぴかぁ?」」
急に現れたダンデにサトシとヒロシ、ピカチュウとレオンも首を傾げる。その気持ちは皆同様だ。
「この試合のみ6体選出はそのままに、ダウン可能数を撤廃!つまりは完全フルバトルとしてルールの変更をしたいがどうだろうか?」
にわかに会場がザワつく。CD方式が主流となっている昨今において、公式戦のフルバトルなどは早々お目にかかれない貴重なルールだからだ。
「どうだ2人とも?」
「もちろんやるよダンデさん!」
「僕も大丈夫!是非やらせてください!」
「「ぴかぴっか〜!!」」
当人たちがやる気満々となればダンデも満面の笑みを浮かべる。ほどなくして、
ウオオオオオッ!!フルバトル!!フルバトル!!
「決まりだな。」
観客のコールもぶち上がれば誰も止めることはかなわない。
「あーーーッと!ここでチャンピオンダンデが試合ルールの変更を提案!フルバトルでの決着に対して両選手はこれを快諾!!」
「それじゃあ2人とも!最高の試合を見せてくれよな!」
「「はいッ!」」
サトシとヒロシの返事にダンデも満足げに頷き、踵を返す。
「これまで通りのいいジャッジを頼むぜ。」
「は、はい!あの、チャンピオン!」
すれ違い様にジュンを激励するダンデ。俺のことはもう気にするなとばかりに右手を上げて立ち去る背中は、
「審判ルームはそっちじゃあないですよ〜!」
ジュンの呼び掛けでズッコケてからリザードンの誘導で来た道へ戻ってゆくのだった。
「フルバトルか…。」
もとより6C3Dルールである以上6体の選出自体は1回戦よりさせている。
しかし3体倒れたら終わりのハーフバトルと6体総動員でのフルバトルとでは当たり前のように勝手は違う。
ナンテの見立てでは、サトシは経験こそあれど本質的には短期から中期決戦向きで長期戦が必至となるフルバトルへの根本的な適性には一抹の不安があった。実力以前の素養の問題である。
「ふぅ…これよりシングルバトル1、チーム<マナーロ>チャンピオンサトシvsチーム<セキエイ>ヒロシ選手の試合を行います!試合ルールにつきましては6C3Dからフルバトルに変更!それ以外はそのままです!」
ダンデが無事裏に引っ込んだのを確認してからジュンは改めて審判として試合の進行を行う。
サトシとヒロシにアイコンタクトを投げ掛ければすぐに了承のレスポンスが返ってくる。
「それでは、始めッ!!」
そうしてそのままシングルバトル1開始のコールを宣言するのだった。
『フルバトルの現在』
ポケモン愛護団体からのせっつきに応じる形で公式戦においてCD方式の採用が広がる中、大体は終盤ジムのいくつかや地方予選の決勝リーグ以降の試合よりルールとしては依然運用されている。
元はポケモントレーナーの最もバランスのいいパーティ構築として6体編成が挙げられたのもあり、バトルの花形はやはりフルバトルであるという思想は根強い。