3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 キクコを師事するシンジと、カンナを師事するカスミ。
 同じセキエイ四天王を師と仰ぐ2人が、ランクマッチにて激突する。
 この一戦を制し、幸先のいいスタートを切れるのは、どっちだ?


それぞれの戦い ランクマッチ シンジvsカスミ①

 いよいよ戦いが始まる。

 シンジとカスミがそれぞれ先発を託すポケモンのボールを右手に握り込む。投げ込まれればそれが開戦の合図だ。

 

「2人とも!この試合に出るポケモンたちを観察させてもらっていいですかー?」

 

「邪魔にならん程度に好きにしろ。」

 

「オッケー、ケンジ!」

 

 ボールが投げ込まれる前にケンジが2人に声をかける。ポケモンウォッチャーとして、それぞれ全く違うアプローチで鍛え上げられたであろう両サイドのポケモンは、願っても無い観察対象なのだろう。シンジもカスミも了承をした。

 

「テッカニン、バトルスタンバイ!!」

 

「いくわよ!マイステ…あらぁ!?」

 

 シンジの先発はテッカニン。

 カスミの先発は…というタイミングで腰のホルダーから飛び出したのは…。

 

「くわぁ?」

 

「おっ、コダックだ。久しぶり!」

 

「ぴかっちゅ!」

 

「またコダックのいつものやつが出たなぁ。」

 

 あひるポケモンのコダックだ。

 とぼけた面体にサトシが話しかければ、ピカチュウとコダックはお互いによっ、と片手を挙げ挨拶を交わす。

 カスミの握っていたモンスターボールから投げ込まれてはいないのを見てケンジはあちゃー、と苦笑いした。

 モンスターボールの中には、ポケモンにとって快適な居住空間が広がっている。種類により程度は違えどその点においては共通だ。

 しかし、それはそれとして、ポケモンの気性からトレーナーの意思に関わりなく勝手にボールを出入りする事例も珍しくはない。

 

 

「ちょっとアンタ、なーに勝手に出てきちゃってんのよ〜。」

 

「くわぁ〜?」

 

 慌てて駆け出しコダックをカスミは抱き抱える。

 明らかに想定された先発ではない、ドローンロトムもそれを判断したのか試合開始のコールは差し止めている。

 

「にんにん?」

 

「おい、そのコダックはバトルメンバーじゃないんだろう。」

 

「ッ…!」

 

 早く本来の先発を出したらどうだ、そんな意図のシンジの至極真っ当な訴え。

 コダックでは勝負にならない、言外にそう促されたかのような受け取り方をしたカスミはムッ、と表情を険しくした。そう、見せた…。

 

「…コダックでいくわ。ほら、最初はアンタよ。」

 

「こわぁ?」

 

「カスミ!?無茶だよ!!」

 

 ケンジもカスミとは付き合いが長い。

 コダックを侮るようなシンジの態度を感じ取り、それに怒ったカスミが意地になってしまったのだと受け取る。実際そうなるだけの激しい性情の持ち主であることは事実だからだ。

 それがよりによってあのシンジ相手に発動してしまっては、本来のペースを崩し、悲惨な結果を招くというのが容易に想像がついた。

 

「まぁまぁ。あのコダックもなかなかやるのじゃろう?なぁサトシ。」

 

「はい。強いですよあのコダック。」

 

 オーキド博士にサトシは頷く。3年前からカスミのコダックの力に助けられたことは幾度もあった。

 なにより、ジョウト地方を旅していた頃に参加したみずポケモンを扱うトレーナーたちの大会「うずまきカップ」。伝説のポケモン、ルギアのお膝元としても伝承に残る「うずまきじま」を舞台としたポケモンバトルの祭典において、サトシ自身そのカスミのコダックにより苦杯を舐めさせられているのだ。

 その言には、重い実感があった。

 

「…なら構わない。」

 

 進化しているしていない云々で手心を加えるような配慮はシンジにはない。いや、それはむしろ配慮ではなく相手を舐めていることになる。それは対戦相手への敬意を欠いているし、なによりシンプルに足元を掬われる油断へと繋がりかねない。

 事実、シンジのライバルであるサトシとて、ピカチュウをはじめ、ポケモンの進化にさほど拘りを見せていないのだ。

 

「(油断を誘うつもりならそうはいかんぞ。)」

 

 シンジとドローンロトムに視線を送り頷いて見せる。

 カスミもコダックをその場に下ろして引っ込みそれに倣った。

 

「ソレデハ、シアイカイシ。」

 

 この場の誰からも思わぬ流れからゴングが鳴らされた。

 先手を取るのがテッカニンなのは、対面を見れば誰にとっても明らかだった。

 

「れんぞくぎりだ!」

 

「にん、にん、にん!」

 

「こわぁ〜!」

 

バシュ!バシュ!バシュ!

 

 俊敏な動きでコダックの周りを飛び回り、瞬く間に距離を詰めればその爪で何度も切り付けていく。

 

「あちゃ〜!まるっきり押し込まれてるよ、カスミー!コダックを交代させるんだ!意地張ってちゃ駄目だ!」

 

「ケンジよ。お前さんもあのコダックの力は知っておろう?」

 

「それはもちろん。でも相手が相手ですよ?あのテッカニンもまるで鋭いナイフのように鍛え抜かれている!」

 

 早々に一方的な展開に持ち込まれているのを腕組みしたまま見つめるオーキド博士は、ケンジの言い分ももっともであるとは認める。

 サトシのライバルとして切磋琢磨し、キクコより太鼓判を押されるほどのトレーナーになったシンジが、コダックというポケモンの特徴を知らないはずがないのだ。

 

「(大方、コダックのサイコパワーを爆発させて一発逆転を狙ってるつもりだろうがそうはいかん!)」

 

 カスミがこのまま意地を張り続けてコダックをみすみす消耗させるもよし、引き下がらせるもよしであった。

 テッカニンにはバトンタッチという、後続のポケモンに自身のパワーアップ状態を引き継がせた上で交代する技を覚えさせている。

 これと、テッカニンの特性である"かそく"を組み合わせれば、どんな盤面だろうと速さで圧倒できるという二段構えだ。

 小型から中型ポケモンのスピード自慢の扱いに長けたサトシとは真逆の、大型ポケモンのコントロールに長けたシンジのトレーナーとしての性質の欠点を丸々カバー出来る戦術である。

 

バシュ!バシュ!バシュ!

 

「にん!にん!にん!」

 

「くわぁ!?こわぁ〜!」

 

 二段構えの作戦を反芻する中シンジはある違和感に気付く。

 テッカニンが俊敏なフットワークで頭を抱えて蹲るコダックを滅多打ちにしている、それはいい。

 だか、肝心のテッカニンのスピードが、特性かそくによる恩恵を一切受けていないのだ。素早さが一定のままなのである。

 

「(まさか!)」

 

 シンジの目が見開かれる。一つの可能性に行きついた。

 それが当たっていれば、テッカニンでの戦術は丸潰れもいいところだ。

 

「テッカニン、とんぼがえり!」

 

「(しめたッ!)」

 

 技の切り替えから発生するテッカニンのれんぞくぎりによる猛攻の手が止まる。

 この瞬間を待っていた、とカスミはニヤリ。

 好き放題テッカニンに攻撃され続け蹲り目を瞑っていたコダックが目を開けば、その目は青白く輝いていた。

 サイコパワーは、すでに発動していたのだ。

 

『勝負とは流動がカギよ。水から氷、氷から水。一瞬の判断が全てを左右する。その連続がポケモンバトル。』

 

「コダック、アクアブレイク!!」

 

「こわぁ〜!!」

 

 師の教えが頭に響く。

 静と動の運用がカンナ流に言い換えられたそれを体現するコダックの全身を使った突撃は、とんぼがえりによるテッカニンの突撃と真正面から、テッカニンに優るとも劣らぬスピードで放たれた。

 

ドッカァ!!

 

「にんんんん!?」

 

「くッ!!」

 

 思いがけぬ衝突に大きく押し負け、テッカニンが吹き飛ばされる。

 テッカニンは、そのポテンシャルの大半をスピードに振り切ったフォルムをしている。

 故に素早く動き回ることには長けているがいざ守勢に回されると打たれ弱さが出てしまう。しかし…。

 

「にん…。」

 

「戻ってこい、テッカニン。」

 

 致命傷ながらとんぼがえりの効果により、シンジのボールへ舞い戻るのを見るに戦闘不能にはなっていないようだ。

 

「コダックがあんなスピードで動けるなんて!カスミのやつ、いつの間に、どんな特訓をしたんだ!?」

 

 ケンジからしてもカスミのコダックは知らない間柄ではない。それにしても、この一瞬で見せた俊敏さは彼の中のイメージには到底ないものだ。興奮するのも無理はなかった。

 

「あれほどのスピードを地上で発揮するのはたとえコダックが進化したゴルダックであっても、ポケモン自身の身体能力をいくら鍛えようが無理じゃろうのう。」

 

 ケンジの興奮の理由を理解しているが故に頭ごなしな否定をすることはないオーキド博士。

 その双眸はカスミの仕掛けたカラクリに早々に気付いていた。

 

「スキルスワップだな。」

 

「まぁね。」

 

 テッカニンをボールに戻したシンジが一言呟けば、カスミは不敵な笑みを返す。

 ここにきて初めてケンジはそうか!と合点がいっていた。

 

「スキルスワップは自分と相手の特性を入れ替える技!滅多打ちにされながらもコダックはそれを使って反撃の隙を窺っていたのか!」

 

「やるじゃあないかあの嬢ちゃん。なかなかの策士だね。」

 

「サイコパワーはもちろんコダックのタフさも凄いぜ。テッカニンの攻撃だって軽くはない。あのシンジのポケモンなんだからな。」

 

「ぴかちう。」

 

 キクコはカスミの手腕を、サトシはそのカスミの作戦を成立させるコダックのガッツを称賛、ピカチュウも頷いていた。

 

「(とりあえずどうにか一発かませはしたけど…。)」

 

 カスミからすれば、シンジが相手のポケモンの種族や状態を見て油断するようなトレーナーではないのは分かりきっていた。

 それはコダックを出して油断を誘う、などという作戦が通じるはずがないことも意味していた。

 ならば、とカスミは意地を張ってコダックを出した振りをしつつ油断を誘う作戦…をシンジにわざと看破させたのだ。

 それがテッカニンのラッシュの最中に、コダックのスキルスワップによってシンジの戦略の要である特性かそくをまんまと奪い取ることに繋がった。

 

「くわぁ、くわぁ…。」

 

「(仕留め損なっちゃったか。)」

 

 本来ならば、隙を突いてのアクアブレイクでそのままテッカニンを倒す算段であった。

 3C1Dルールは、相手のポケモンを1体でも倒せばそこで試合は終わるからだ。その点に関してはアテを外された。

 好き放題打たせすぎて、逆にシンジにスキルスワップという返しの一手までを導き出させてしまったのだ。

 特性かそくを失ったテッカニン同様、滅多打ちにされてダメージの大きいコダックもこれ以上戦える状態ではない…。

 

「コダック。もういいでしょ。戻ってらっしゃい。」

 

「くわぁ〜。」

 

 カスミもコダックを戻す。ボールに向けてカッコよかったわよ、と慈愛の眼差しで呟いたのは誰にも聞こえない。

 同時に、彼女がこのバトルにおいて最大の勝機を逸したことは、ケンジ以外察していた。

 

「(この女、悉く抜け目がない。油断できん…一気にいくしかないな。)」

 

 

 

 




 『キクコ』
 58歳。カントー地方セキエイリーグの四天王。
 トキワジムのジムリーダーを兼任していた折、シンジを見出し、最強のジムリーダーに仕立て上げた張本人。
 エースポケモンはゲンガーで、壁なんてあってないようなものに過ぎないんだ。

※日付設定をミスって投稿時間が遅れてしまいました。
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