3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
手痛い一撃をくらい、かつての恥部を抉られたリザードンは発奮。わすれていたちきゅうなげを思い出しミラーマッチを制するのだった…。
「バトル最強地方を決めるポケモンナショナルチームトーナメント決勝戦シングルバトル1は現在のところ、ヒロシ選手の残りポケモンが3体となったことで10分間のクーリングタイムに入り、フィールドでは清掃ロトムが整備活動してる中両選手は枠線ギリギリから睨み合っております!チャンピオンカルネにイミテさん、これまでの試合内容を振り返ってみてどうですか?」
「序盤こそはヒロシくんに一本取られたけれど、流石はマスターズトーナメントでダンデくんに勝ってみせたサトシくん。その後はサイクルを回して相手に掴みどころを与えず前半を押し切っていたわね。けれどその分手の内を多く見せちゃってる。だけどヒロシくんの残りを考えるならアレで正解だったのかも?」
「ヒロシ選手の残る3体はピカチュウ以外まだ見えてないけど…あっ。」
イミテは少し思案して解に行き着く。同時にサトシの狙いも見えてきていた。
「サトちゃん…考えてるねぇー…。」
イミテの知己としてのサトシはポケモンへの愛情こそ深けれど無鉄砲でまだまだ知識不足のルーキー、そんな印象であった。
それがピン芸人コンクールで優勝した時期に号外で飛んできたマスターズトーナメント制覇の報を聞かされては、ビックリしたものである。
「そろそろですね。行ってきます!」
「頼むぜ、名審判!」
10分間のクーリングタイムは選手のみならず審判団にとっても束の間の休息であった。
試合そのもののジャッジを行うセイヨの元級友ジュン少年を筆頭に、フィールド四隅から各所に不正防止の為の監視員が配置されていく。
「さぁて、いよいよだ。」
審判ルームはさながら自分だけの特等席に早替わり。ダンデは大会の発起人として以上に、1人のポケモントレーナーとしてこれまでの試合を楽しんでいた。
「ぐぅるぅ。」
そんな主人の楽しそうな表情に、リザードンも満足げだ。
「セイソウカンリョウ、テッシュウ。テッシュウ。」
ロトムが清掃ロボを動かしフィールドより退却してゆく。入れ替わりでジュンが審判サークルに入れば、
「クーリングタイム終了!両選手、トレーナーサークルへ!」
「いくぜピカチュウ!」
「ぴっぴかちゅ!」
「いこう、レオン!」
「ぴぃかぁ!」
そのコールと共にサトシもヒロシも相棒を肩に乗せて走り、フィールドインをする。
ピカチュウもレオンも主人の右隣に降り立ち出陣命令を待つ。
「さぁー、10分間のクーリングタイムを終え、いよいよ後半戦となります!ここから先は原則中断はなし!どちらかのポケモンが6体全てダウンするまでノンストップで駆け抜けて参ります!!チャンピオンサトシがセキエイ大会のリベンジと、チームの優勝をバシッと決めるのか!?ヒロシ選手が1回戦に続くジャイアントキリングを成し遂げ、控え選手同士の決定戦に持ち込むか!?」
「ここで流れを止めてみせる!パピー、キミの出番だ!!」
「よーし、フシギダネ!キミに決めたッ!!」
「ふりりりりりぃ〜!!」
「だねふしぃ〜!!」
サトシとヒロシが同時に投げ込むボール、サトシはフシギダネ。
ヒロシはバタフリーの『パピー』をフィールドに投入する。
「あーッと!後半早々、チャンピオンサトシはフシギダネ!コレでチャンピオンサトシのエントリー6体が全て判明!一方ヒロシ選手のポケモンはバタフリーです!!」
「ピカチュウ、キングラー、ゼニガメ、ピジョット、リザードン、そしてフシギダネ、ね。」
「対するヒロシ選手はピカチュウ、ドククラゲ、オニドリル、リザードンにバタフリー。残る1体は…。」
「まぁ、ここで見てるだけの私たちが分かるようなこと、実際戦ってるサトシくんが分からないはずもないでしょうね。」
カルネにイミテも頷く。サトシが『この後』のために自身の執る温存策に意味を持たせるには、実質この盤面の突破が急務なのだ。
「カスミ殿、チャンピオンの6体選出にはどんな意図が含まれておるのでござる?」
サムライの質問はカントー側ベンチの総意。
サトシと付き合いが長い自分ならばこの6体の編成の意味が分かるのではないかという期待に対し、カスミは左眉を困ったように曲げながら答える。
「あたしが知ってるあいつの思考パターンなんて大筋はみんなが思ってるイメージと一緒よ?パーティ構築に理論や知識を持ち込むタイプじゃあないわ。さしずめあの子たちは、カントーで試合することになったから呼び集めた、ってところかしら。」
カスミの説明にシンジは口は開かず納得していた。3年前のシンオウリーグにおいて、事前にエイチ湖で行ったフルバトルのメンバーをそのまま自分にぶつけてきたサトシのことだ。
『里帰り』という側から聞けばぬるい理由でパーティを構築していてもおかしくないと思えた。
こういうところがやはり相入れられないのだ、あいつとは…。
睨み合いの中、ヒロシはパピーをボールへ戻す。
モンスターボールには使用者の十全な運用補助のため音声認識機能も備わっており、原則ボールへの回収にはポケモンへの声かけもセットになっている。
それがないということは…
「ヒロシの奴、仕掛けてくる気だな!」
「ぴかぁ…!」
「立ちはだかる巨大な壁も見方を変えたら大きな扉…僕たちは開いてみせる!勝利のための扉を!!」
ヒロシの手の中のボールが徐々に肥大化してゆく。
「真実は、いつも1つ!!パピー、キョダイマックス!!」
「ぴかぴか〜!」
レオンが隣で囃し立て、ヒロシは応えるようにダイマックスボールを空高く投擲。
「ぶり゛り゛り゛り゛り゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」
開かれるボールからはキョダイマックスバタフリーと化したパピーが姿を現す。
それと同時に鱗粉がフィールド中に降り注ぐがフシギダネは意に介していない。
「やはりくさタイプにパピーの眠りの鱗粉は効かないか…!」
ねむりごなに代表されるくさタイプ由来の粉系技は、同じくさタイプには無効化されてしまう。
となれば搦め手ではなくパワーで押す他ない。
「やってやるぞッ!」
「来るぞフシギダネ!ここは俺たちでバタフリーを止めるんだ!」
「だぁねやッ!!」
リザードンやゼニガメ同様久々の公式戦となり、気合がじゅうぶんに乗っているフシギダネはつるのムチをパシパシと地面に叩き付ける。
「パピー、ダイジェット!!」
「ぶり゛ぃ゛!!ぶり゛ぃ゛!!」
ブァァサ!!ブァァサ!!
「だにゃあ〜!?」
パピーの翅がはためけば強烈な突風が吹き荒れる。1mにも満たず、10kgもない小さなフシギダネではイチコロだ。そう、試合を観るいくらかは思う。
事実、木の葉のようにフシギダネは突風に巻かれ空中へ打ち上げられてしまうのだし…。
「フシギダネ、つるのムチで踏ん張れ!」
「だぁねぁ!!」
シュルル、とすかさず伸ばした蔓はパピーの触覚を捉え、彼が見上げてみるも頭と触角の動きに連動して振り回されるフシギダネ。
側から見ればさながら財布や携帯電話に括り付けられたストラップのようだ。
「パピー、キョダイコワク!!フシギダネを振り払うんだ!!」
「ぶぅ゛り゛ぃ゛!!」
キィン!とパピーの真っ赤な複眼が輝けば周囲を振り撒く鱗粉が次々と蝶の形になっていき…
バチバチバチバチバチッ!!
「だにゃあ〜!!」
「フシギダネ!!」
「キョダイコワク炸裂だーッ!!無数の鱗粉全てがいわばキョダイマックスバタフリーが放つ弾幕!!フシギダネひとたまりもないかーッ!?」
「ダイジェットのダメージも小さいものでもないし、流石にコレはワンサイドかも…。」
「うーん…だとしたならチャンピオンの動きが緩慢なところありません?」
イミテにカルネは確かにと頷く。キョダイマックスバタフリーの脅威を前にサトシの対応にしてはやけに後手に回っている印象が散見されるのだ。
「フシギダネ!蔓を伸ばしてパピーの触覚を縛るんだ!」
「なにッ!?」
「だぁねやぁぁぁ!!」
キョダイコワクの爆撃を叩き込まれながらもフシギダネは健在。
全身の麻痺を感じつつ体を触覚の周りでぐるぐると、鉄棒選手の逆上がりのように自らのボディを振り回せば、つるのムチがパピーの触覚をギュギュと縛り付けていったのだ。
「ま、不味い!パピー、キョダイコワクで蔓を吹き飛ばして!!」
「ぶり゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛…!!」
バタフリーというポケモンの触覚は僅かな花粉から花畑の場所を正確に割り出す超感覚の要であり、ここを痛め付けられてはパピーは前後不覚に陥りかねない。
再度複眼が発光し、鱗粉をむしエネルギー体の蝶に変換させ無数に放つ攻撃でその大事な触覚を傷付けることなく蔓だけを狙い撃ちできたのはひとえにヒロシとパピーが鍛錬を重ね、攻撃の精密性を極めたからに他ならない。
バッチンバッチンバッチン!!
「だぁぁねぁ!」
「いいぞフシギダネ!!」
キョダイマックスの限界時間まで持ち堪える。
あえて持久策にサトシが走ったのも、パピーが本来の体力に戻るタイミングに勝負どころを設定したからだった。
「さぁここでヒロシ選手はバタフリーのキョダイマックスが終了!元のサイズに戻っていきます!っと、あーッと!!チャンピオンサトシ、何かを投げ込んだ!あ、アレはーーーッ!?」
「「テラスタルオーブ!!」」
「今度は俺たちが見せてやろうぜフシギダネ!ゼンリョクの輝きを!!テラスタルだぁぁぁッ!!!」
触覚に巻き付けたつるのムチを破壊されては空中から着地するところのフシギダネを投げ込まれたテラスタルオーブからの輝きがキャッチ。
さながらクリスタルがゆりかごのようにフシギダネを包めば、飛び出す彼の頭にはくさのテラスタルジュエル。
変化はそれだけでは、ない。
「だぁぁ…ンにぁぁぁ!!!」
「アレをやる気だなサトシ。」
アローラ側ベンチからもハッキリ視認できるフシギダネの変化にタケシも身を乗り出す。
サトシがここから繰り出す一発に関わった者として、誇らしさと気恥ずかしさがない混ぜになった感情を瞳に携えていた。
糸目である彼の瞼の奥に隠された瞳の色に気付く者は皆無であるのだが。
「な、なんだぁっ!?フシギダネの全身が黄金色に染まり、こ、これは一体!?」
「うーん…ダイジェットにキョダイコワクと強力なダイマックス技を叩き込まれたフシギダネの体力は残り僅か、とするなら特性しんりょくはまず発動してると見て間違いないけど、それだけじゃあない気がするのよね。」
ジッキョーに振られたカルネが煮え切らない推論と共に顔を向けてくるのでたまったものではないのはイミテだ。バトルの世界の頂点に立つカルネに分からないことがいちお笑い芸人である自分に分かるはずないのだ。
それでもコメントは残さねばならない…。
「えーっと、んと。サトちゃんの事だからきっとそこら辺の一般トレーナーじゃあ思いつかないようなスケールのでっかいことをしてる。そんな気がしまーす。あはは…!」
敬称すら忘れ知己として語るのをイミテは恥じる。
カルネはそんなイミテの談にある程度の納得を見ていた。サトシならやりかねない、と。
「パピー、来るよ!迎え撃とう!」
「ふりぃぃぃ〜!」
着地のことも考えず自由落下に身を任せたまま背中の球根を向けてくるフシギダネ、種は光のエネルギーを吸収している…。
ヒロシはパピーを真正面から受けて立たせる択を取った。
狙いを把握しながらもサトシ同様、真っ向勝負が信条の熱い男なのだ。
「(サトシのフシギダネのソーラービームが凄い威力であることは僕も知っている。だからこそコレを打ち破れば一気に流れを持っていける!パピーはむし、ひこうタイプ!どちらもくさタイプに強い…さらに!)」
ブゥゥゥン…!
パピーの全身から紫色のサイコパワーがゆらめくように噴出する。そのままバリアーとして役割を持たせる腹づもりだ。
「(パピーはシルバーを仲間に加えてから切磋琢磨し、サイコパワーをより強くすることが出来た。いかにソーラービームが強力であっても最悪直撃コースから逸らして見せる!)」
「いくぜぇぇぇ!!」
「来いッ!!」
テラスタルジュエルがひときわ輝きを増し、球根にチャージされるエネルギーは満タン。
体のしびれによるアクションの阻害は、なし!
「フシギダネ!!ゴールデン・ソーラービーム!!!」
「だぁぁぁ!!ねぇあああああ!!!」
ボワアッ
受けて立つ、どころではなかった。
ヒロシの額を戦慄の汗が滴り落ちた時には、パピーは既に強烈な光の束に呑み込まれていた。
『芝居小屋「イミテハウス」』
ものまね芸人イミテが現在も拠点として活動する見世物小屋。
ここでの活動を足がかりにイミテはメタモンの変身能力に加え、自らの変装スキルも磨いていったのだ。