3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
それ即ち、ルギア降臨の時でもあった。
伝説のポケモンのパワーを前に、サトシはフシギダネ、ゼニガメを立て続けに倒されてしまうのであった…。
「よーし2体抜き!いいぞヒロシ!その調子でいけー!!」
フシギダネ、ゼニガメと立て続けにサトシのポケモンたちを破るヒロシとシルバーにベンチからアキラも声を張る。
カントー側応援席も一気に活気を取り戻していた。
「あとはピカチュウ、ピジョット、リザードンの3体、か。」
カオルコは電光掲示板を見てサトシの残り3体を確認する。
フシギダネやゼニガメはサトシのポケモンとしてそのイズムを最も吸収している最古参メンバーではあるが、やはりそのサイズの小ささからくるパワーの違いでシルバーを相手に当たり負けしていた。
だがここから出てくる残りはパワーも兼ね備えた最古参なのだ。決して予断は許されない。
「戻れゼニガメ!いいぞ、よくやった。」
ゼニガメを戻し、その働きを労う。サトシとて最も頼りとするメンバーをむざむざと倒されたつもりはない。
ヒロシと組んだルギアのシルバーがとてつもなく強いことは分かり切っていた話なのだ。
「まだまだーッ!ピジョット!キミに決めたッ!!」
「ぴじょおおおッ!!」
再度繰り出されるピジョット。その姿にヒロシの口角が吊り上がる。
「シルバー!」
「るぅぅぎあああ…!!」
ブァサァ!ゴアアアアアッ!!
号令に応え、シルバーは咆哮とともに翼をはためかせる。ただ単に気合いを入れ直したのか…?
「(ヒロシのバトルに無駄なことなんかない!俺とおんなじだ!)」
サトシの直感はすぐに現出する。
「ぴ、ひじょあッ…!?」
空へ飛び立つピジョットの飛行が明らかに覚束ない。
そこに長い間トキワの森の縄張り争いで仲間をオニドリルたちの群れから守り続けていた群れの守護者たる堂々さは微塵も見受けられなくなっていた。
「ルギアは風を操り、ピジョットが飛行するための風のルートを阻害しておるんじゃ。うーむ不味いのう!」
「それじゃあ、ピジョットは鳥ポケモンなのに事実上空中戦を封じられたモンじゃあないですか!!」
「なんならリザードンもルギアの前では自慢の翼が使い物にならな、イシツブテ!!」
ポケモン研究の権威たるオーキド博士は流石にフィールドの状況整理が早かった。反応するククイ博士とナリヤ校長だが、その表情はどこか口角が吊り上がっている。
それはオーキド博士も同様だ。3人とも見てみたいと思っていた。伝説のポケモンルギアを相手にサトシがどう立ち回り、破ってゆくのかを。
それが不可能であるかもしれないとはこれっぽっちも考えていなかった。サトシを信じているからだ。
「"馬鹿は風邪を引かない"って言うからサトシはまぁいいとして、ピカちゃんは大丈夫かしら?」
「あ、あはは…。」
オーキド博士たちが熱い眼差しをフィールドに送る中、ハナコはなんとものんきな心配を口走り、バーネット博士は苦笑いするよりなかった。
「ぴじょッ!!」
不規則に荒れ狂う風の流れの前にピジョットはついにベチャリとフィールドに落着する。
体を起き上がらせる頭上には、既にシルバーが大口を開いて、
「エアロブラストだッ!!」
ボビュオワアアアアア!!
無慈悲なブレスを発射する。
「ぴかぴ!」
「ピジョット、エアロブラストの風を利用して飛べッ!!」
「ぴじょッ!!」
サトシからの指示でピジョットの双眸に一気に生気が蘇る。
ババッ!!
前に3本、後ろに1本の趾(あしゆび)で目一杯地面を蹴り上げ空中へ身を踊らせる。
今一度飛び立つピジョットをみすみす逃す理由などはヒロシにはない。
「シルバー、もう一度風を操って!ピジョットを叩き落とすんだ!」
「るぅぅぅぎぁぁぁ…!!」
シルバーの双眸に輝くサイコパワーが再び風の流れをめちゃくちゃに弄くり回す。
それでも今度はピジョットが揺らめくことはしない。
「飛べてる…そうか!」
ピジョットを見上げすぐにカラクリを見抜く。
「いいぞピジョット!」
「ぴかっちゅ〜!」
「ぴじょおおお〜!!」
硬質化させたはがねのつばさを羽ばたかせてピジョットは飛び続ける。
不確かな風の流れに際し、より強靭な翼を得ることでボディの安定に繋げたのだ。
「ルギアの海の神としての本領発揮もチャンピオンサトシ、冷静に対処です!ピジョットは荒れ狂う空を悠然と飛ぶーッ!!」
「アレならルギアに風を操作されても平気ね。」
「でもはがねのつばさで常時エネルギーを消耗していく…加えてオニドリル戦のダメージもあるからあまり長いこと戦うのは無理じゃないですかね?」
「うーん、そこはサトシくんだしなんとかするんじゃあないかしら?」
朗らかに笑みながらもフィールドから視線は外さないカルネ。
ここまでのやりとりで割と雑なところもあるのだなとイミテは失礼ながら思ってしまっていた。
それが人間的欠陥と言うよりはカルネという女性のチャーミングポイントにつながっているのはむしろ強みなのだ。
「(追わせるか?いや、迎え撃つ!)」
空を駆けるピジョットにシルバーの飛翔も考えたがすぐに振り払う。空中戦となればパワーよりも小回りがモノを言う。
飛行能力こそはルギアである以上そこいらのポケモンに遅れを取ることはありえないにしても巨体の隙を散々突いて打ち倒してきたのがサトシなのだ。下手に身動きすればそれが命取りになりかねない。
「エアロブラストで撃ち落とすんだ!」
「あぁあああああ…!!」
シルバーはブレスのために大口を広げエネルギーをチャージする。
「ぴかぴ!」
「ん!」
そこでサトシは気付く。肌を打つ風の流れがシルバーの攻撃態勢移行につき一定化する感覚に。
「(空気の流れを操るのと攻撃は同時には出来ない!)ピジョット!!エアロブラストが来るぞ!!」
「ぴじょおッ!!」
「見抜かれたか…!」
ピジョットがはがねのつばさを解除して飛ぶ様に、ヒロシはシルバーの技と習性の並行使用が不可能なところの看破を知る。
しかしてエネルギーは充填完了。撃つより他にない。
ボファアアアアアアア!!
3度放たれる竜巻ブレス。迫る風の奔流を前にピジョットは、
「風に乗れピジョット!シルバーに近付くんだーッ!!」
「ぴぃじょおおおッ!!」
退くのではなく、前に出た。
「あーーーッと!!ピジョット、え、エアロブラストの周りをなぞるようにルギアへ飛びかかるーッ!!」
「エアロブラストは竜巻のブレスを叩き込む技…つまりは攻撃として練り上げられている分風の流れは激しくもある程度法則性があるということ!」
「サトシのピジョットは長らくトキワの森で仲間たちを守るため縄張り争いをしてきた。それこそ雨の日も風の日も関係はなかったことじゃろう!その積み重ねがエアロブラストを掻い潜る知恵と勇気に繋がっておるんじゃのう!」
カルネもオーキド博士も膝を打つ。
伝説のポケモンが持つ強力な固有技をまんまと掻い潜るピジョットは皆が固唾を飲んで見る中シルバーに肉薄していき、
「今だ、ねっぷう攻撃!!」
「ぴじょ、ぴじょ、ぴじょあああッ!!」
ボッファァァァァ!!
熱を帯びた風を浴びせかけていく。
「これしきでシルバーは倒れやしない!」
ボワアアアアア!
ヒロシが叫んだ直後であった。シルバーの身体中の発火が彼の身を焼いたのは。
「ぎゅぃあああああ…!!」
「あーーーッと、ルギアの全身が激しく炎上!!これは一体どういうことだーーーッ!?」
「ねっぷうによるやけど、じゃあないわよね?」
カルネにイミテも頷く。
いかにピジョットの羽ばたきがパワフルであろうともそれだけで発火するはずがないのだ。ましてその前にゼニガメのハイドロポンプが霧散した水飛沫で体は濡れているのだから…。
「ぴぃか!ぴかぴかっちゅう!!」
「え?…あぁ、そういうことか…!!」
レオンが指差す先を凝視しヒロシは発火の原因に行き着く。そのカラクリ、サトシの戦略に舌を巻かざるを得なかった。
「やどりぎのタネの破片?」
「えぇ。おそらくは。」
アローラ側ベンチでそこに辿り着くナンテが口を開く。
「フシギダネのやどりぎのタネは決まれば体力回復、駄目だったとしても種子の一部がルギアの体に付着さえしていればよかった。続くゼニガメで種の破片にハイドロポンプで攻撃を兼ねつつ水をかけて植物としての生命維持を行い、今こうしてピジョットのねっぷうによる発火材として利用した…これがチャンピオンの対ルギアコンボ。」
「やどりぎのタネの破片にアレだけ盛大に燃え広がる生命力を付与できたのもテラスタルによる増加したくさエネルギーあってのことですね。」
「はい。ただ最初から想定してた、というよりは遅くともゼニガメが倒される前後辺りまでに不意に思い付いた…というところでしょうか。」
言葉を繋いだシゲルにナンテは笑みと共に首肯。
高い推理力から素早く正確な状況判断を持ち味とするヒロシの頭脳レスポンスを掻い潜ってこの作戦を決めるとならば突発的なアイデアによる奇襲の方が好ましい、そう締めるナンテの予測は正鵠を射ていた。
「サトシ、きみってやつは…。」
相手に貼り付けた種子を発火させる流れは準決勝から帰ってのナマコブシ投げの際、ピカチュウゲットで襲ってきたロケット団のメカへダメージを与える流れそのままだとシゲルは思い出す。
過去の出来事を戦術に組み込むサトシの柔軟な思考力に舌を巻いた。
「シルバー!なみのり!みずのエネルギーで火を消すんだ!」
「るぅぅぅぎ…!」
両翼を折り畳むようにクロスさせたシルバーの全身、内側から青白いオーラが放たれれば数多の水流として全方位へ発射される。
「ぴじょッ…とぅあ!?」
「あぁッ、ピジョット!!」
炎を瞬く間に弾き飛ばし、さながらレーザーのようにあちこちに飛び交う中でダメージの抱えた体でかわし切ることは叶わず、左翼の被弾から水流弾を立て続けに撃ち込まれたピジョットはたまらず墜落。
「ぴ…じょ…!」
なおも起き上がらんと上体を持ち上げるが叶わずに倒れてしまった。
「ピジョット、戦闘不能!ルギアの勝ち!!」
サトシ、残りポケモン2体。
ヒロシ、残りポケモン2体。
オオオオオオオッ!!
「ルギアやはり強し!!ピジョットも倒されコレでチャンピオンサトシの残りポケモンがヒロシ選手と並んだーッ!!1回戦に続き成るか、ジャイアントキリング!!」
言い切ってしまってから『しまった』と横目でカルネを見るもフィールドに目を向けたままで実況のことは気にも留めていない。
ジッキョーはホッと胸を撫で下ろした。
「ぴかぴぃ。」
「うん、そうだね。ピジョットを相手に負ったシルバーのダメージは完全にぼくの油断からだ。サトシのひらめき力の怖さは重々承知のはずなのに。」
心の奥底に『伝説のポケモンを従えている』という万能感があったのだとヒロシは自戒する。
シルバーが受けたダメージそのものは軽微なれど判断に隙を生じさせなければ防げたのだ。
ようやくここでイーブンに持ち込めたに過ぎない。この後の判断ミスはそのまま試合の決着に繋がるとヒロシ吐を引き締め直した。
「戻れピジョット!よくやってくれたな。」
「ぴかぴか〜!」
フシギダネから繋いだ作戦の成功は圧倒的なスペックを誇るシルバーに確かなダメージを与えることが出来た。
その成功体験からサトシとピカチュウの表情は明るく、自然体だ。
「すげぇ…本当に強いなシルバー!ヒロシとのコンビネーションもバッチリだぜ!」
「この子のお母さんやオサムに託されたからね。下手なバトルは出来ないさ!」
『ポケモンバトル最強の地方はどこか?』そんな問いかけの解となるPNTT決勝の舞台にて2人は不敵ながらも眩しい笑みを浮かべる。
この試合幾度目かのやり取りから、
「リザードン、キミに決めたーッ!!」
サトシが繰り出すはリザードン。
「ぐるぅぅぅーッ!!」
シルバーを見上げ、気合いと共に炎を夜空へと吐く。
「るぎぃぃぃあああああッ!!」
立て続けの強者たちとのぶつかり合いに、シルバーもまた高揚し、雄叫びを返した。
『オサム』
銀岩島の近くに住む少年。
出入りする海辺の海底に棲み家を構えていたルギアの親子と仲良くなり、子供のルギアに『シルバー』と名前を付けた。
ヒロシのシルバーは、彼との友情の証でもあるんだ。