3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 リザードンの頑張りでルギアはついに沈んだ。
 ヒロシのラスト1体、ピカチュウのレオンを前にサトシはリザードンを続投させた。
 それをリザードン自身が強く望んだからだ。


PNTT Fighting! 決勝戦 シングルバトル1 サトシvsヒロシ⑨

「流石、サトシ…!」

 

 こう呟くよりなかった。

 ヒロシとていかに伝説のポケモンだからといって、シルバーだけで形成をひっくり返してどうにかできると思うほどサトシを甘くは見ていない。

 しかし、いざ倒されてしまえばそのショックは想像以上に大きかった。それでも伝説のポケモンを扱うデメリットとしての精神的ダメージをサトシへのリスペクトが上回るのは、ヒロシが何よりポケモンバトルに敬虔であったからだ。

 

「ぴかぴぃ!」

 

「うん。そうだね。」

 

 ヒロシにレオンの言葉を解する術はない。長い間寝食を共にしたことにより相手が何を言ってるかなんとなく想像がつくという程度だ。

 ポケモントレーナーとポケモンの程よい関係性から互いの意図を呑み込むのはヒロシたちにとって造作もない。

 

「レオン!キミに頼んだよ!!」

 

「ぴぃかぁ〜!!」

 

 

 

「さぁヒロシ選手は最後の1体ピカチュウを投入!試合直後のミラーマッチ以降ずっとヒロシ選手の近くで温存され続けたエースに対し、チャンピオンサトシはリザードンを続投!!この盤面から決着となるか、はたまた再度ミラーマッチに持ち込むか!!」

 

 

 

「ねえサトシ。あの時もこの対面だったよね。」

 

「あぁ。昨日のことのように思い出せるぜ。」

 

 

 

「しっかりしろレオン!頑張るんだ!」

 

「ぴか!ぴぃ〜かぁ〜!…ぴ、ぴかぁ!?」

 

 3年前のセキエイ大会、互いに3体中2体を倒されてのラス1対決、サトシはリザードン、ヒロシはレオンに全てを託して臨んだ戦いは、

 

 

 

『おーっと、どうしたんだぁ?サトシ選手のリザードンが寝てしまったぞーッ!?』

 

 

 

「おいリザードン!何やってんだよ〜!今は試合中だぞ!?」

 

 レオンを前に体を横たえ寝転び、やる気をなくしてしまったリザードンにサトシが呼びかけるも大欠伸以外のリアクションはない。

 

「戦え!戦うんだリザードン!!頼むよリザードン、言うこと聞いてくれよ〜!!」

 

 

 

「あちゃあ〜…。」

 

「やっぱしまだまだ駄目なのね〜…。」

 

 リザードンの完全な戦意喪失、というよりは試合拒否。

 これにはサトシ側のコーチに立っていたカスミとタケシもガックリと肩を落とす。

 

 

 

「リザードン、戦意喪失!ピカチュウの勝ち!!よってこの試合、ヒロシ選手の勝ち!!」

 

 フィールドにいるのが戦う気のないポケモンでは試合にならない。客席から感じるフラストレーションも合わせて見かねた審判はヒロシに勝ち名乗りを上げ、サトシの初のリーグ挑戦は己のトレーナーレベル不足が敗因となった。

 元よりサトシ側がロケット団からの妨害を受けたとはいえ、大遅刻をかましていたことで観客はイライラしていた。そんなところから発する暴動に対してのリスク回避である。

 続くベスト4を賭けた一戦でヒロシは敗れ、サトシはベスト16、ヒロシはベスト8に終わった。

 

 

 

「俺もリザードンもあの時とは違うぜ!なぁリザードン?」

 

「ぐるぅぅぅ!!」

 

 ドシン!と右足を踏み鳴らし咆哮して応えるリザードン。

 その振動にもレオンは動じない。不敵に構えている。

 

「そうでなくっちゃあこの大会に参加した意味がないってものさ!!なぁレオン?」

 

「ぴぃぃぃか!!」

 

 一方的な戦意喪失で勝ちを譲られた側のレオンとしては憤懣やるかたないという気持ちをずっと燻らせていた。

 その張本人であるリザードンを相手取れば、否応なくテンションは上がるというもの!

 

「ぐるぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ぴッかぁッ!!」

 

 どこからでもかかってこい!と言うように咆えるリザードンに言われなくてもいったらぁ!とばかりにレオンの黄色いボディが弾丸と化し、跳ねた。

 

「しんそく攻撃!」

 

バシィ!

 

「ぐ、おうッ…!」

 

「リザードン!!」

 

 

 

「先手はピカチュウ!でんこうせっかよりハイスピードなしんそく攻撃!リザードンよろめくーッ!!」

 

「やっぱりミラーマッチに加えて対ルギア戦でリザードンの体力は消耗してる!」

 

 お腹に突撃を受け、前方に浮かせた左足を後ろに置くリザードンの表情から苦悶の色をイミテは感じ取る。

 得意であり、弱点を突けるでんき技ではなくあえてリザードンのバランスを崩しにかかる狙いをカルネは空に見た。

 

 

 

「大丈夫かリザードン!?」

 

 愚問と知りながらもサトシは聞く。

 これしきで闘志が折れるならばそもそもこうまでフィールドに居座りはしないやつなのだ、コイツは。

 

「今だッ!レオン、空へ!」

 

「ぴっかぁ!!」

 

 挨拶代わりの1発からレオンは尻尾をバネにして跳躍。その小さな体が気流に乗り、空高くへ舞い上がってゆく。

 

「パーティ単位で戦略を組んでいるのは僕たちだって同じさ!レオン!雨を、風を呼べ!!」

 

「ぴぃぃぃかぁぁぁ…!!」

 

ゴゴゴ、ゴロロロロォ…!

 

 にわかに雨雲が不穏な蠢きを見せる。カルネの読みが確信へと変わる。

 

「リザードン、かえんほうしゃだ!狙い撃て!!」

 

「ぐぅおう!!」

 

 天空のレオンめがけリザードンはブレス攻撃。灼熱の火炎が迫流も着弾よりわずかに早く、

 

「ミラクル・モード!!!」

 

ピッシャアアアアアアアン!!

 

 落雷一閃。かえんほうしゃを弾き飛ばす大自然エネルギーが流入すれば、レオンの全身に凄まじいスパークが走る。

 

「ぴぃかっちゅあああッ!」

 

 

 

「ヒロシ選手のピカチュウ、自然の雷エネルギーを取り込み超パワーアップ!!チャンピオンカルネ、この流れはもしかして…?」

 

「えぇ。あたしと戦った時の戦略です。しかも1回戦の時とは違って一か八かではない、明確な一手として打ったもの。」

 

 

 

「マズいな…。」

 

 ダンデが呟くのはレオンがまんまとパワーアップに成功したことよりはリザードンvsピカチュウという盤面そのものにあった。

 3年前のマスターズトーナメント決勝、その最終局面を飾ったラス1対決も同じ対面でリザードンを繰り出した自分が敗れている。

 『無敗』であり続けていた頃は特に気にもとめていなかったジンクスの類がダンデの脳裏にこびり付くようになっていた。

 今は、サトシがリザードンの側なのだ…。

 

 

 

 バシュン!と稲妻の具現と化したレオンは空中を滑るように舞い降りる。

 

「レオン!!」

 

「ぴかぁ〜!!」

 

 その右足が着地した瞬間、周囲にプラズマを撒き散らしながら黄色い閃光がリザードンへ飛ぶ。

 

「きりさくだぁ!」

 

 自慢の右爪を振るう、が、その先にレオンはいない。スパークだけが残り香のようにあるだけだ。

 

「チャンスだレオン!」

 

「ぴぃッ!!」

 

 迎え撃つきりさくのストロークを読んで左側に体を流したレオンの前には、右腕を振り下ろしたリザードンの横っ腹がガラ空きになっている…!

 

「ミラクル・ボルテッカー!!!」

 

「ぴかぴかぴかぴかぴか、ぴッッッかぁぁぁぁぁッ!!!」

 

バチチチチチチチィィィィィッッッ!!!

 

 乱雑な放電を纏い、黄色い閃光が弾丸としてリザードンの横っ腹へ真っ直ぐ突き刺さる。

 

「ぐ、るッが…!!」

 

「リザードン!!」

 

「ぴぃか〜!!」

 

バリバリバリバリバリィィィィィィ!!!

 

 ボルテッカーを叩き込まれたリザードンはサトシから見て左手側のフェンスへ吹っ飛んでゆく。

 その間も強烈な自然エネルギーの雷がリザードンの身を焼き、フェンスに左半身側から激突して倒れてしまった。

 

 

 

「ミラクル・ボルテッカー炸裂ーーーッ!!ただでさえでんき技のボルテッカーは効果抜群で辛い中でパワーアップ状態の一撃を喰らってしまってはリザードン立てないかーッ!?」

 

「やっぱり、ミラーマッチで決着かしら。」

 

 モヤに隠れ、スパークのみがうっすら見える中に審判が走る様を眺めるカルネはサトシとヒロシをそれぞれ流し見る。

 どちらが勝つにしてもポケモンバトルの未来は明るいだろうという確信と、PNTTの大成功を少し早めに内心ダンデに祝っていた。

 

 

 

「ぴぃ…がぁッ…!」

 

「レオン!?」

 

 リザードンを吹っ飛ばし、ニュートラルポジションへ戻ったレオンは自らのボディに走るスパークに苦痛を隠せない。

 

「やはり自然エネルギーを直接行使するなら短期決戦しかない、か。」

 

 キョダイマックスしたパピーの羽ばたきが残す気流に乗り、シルバーの残した雨雲から落雷を搾り出してのミラクル・モード…その弱点として、超大な自然エネルギーは絶えず吸収したレオン自身に大きな負担をかけるというものであった。

 

「ぴぃか…!」

 

 前髪を上下させ主人に頷くレオンは不敵な笑みを作る。

 これしきでへこたれやしない、というガッツは、ヒロシのポケモンたちの中でエースとして君臨する誇りと責任感に端を発していた。

 

オ…オオオオオ!?

 

 歓声の声色に違和感を覚えて吹っ飛ばしたリザードンの方を見る。

 戦闘不能のコールがないということからある程度予測は出来たが、いざ目の当たりにするとなるとやはり驚かずにはいられない。

 

「ぐぅ…うるぅ〜…!」

 

 フェンスにその身を打ち付けられ、全身に浴びせかけられた電撃でズタボロになりながらもその瞳に映る闘志の炎はいささかも消えてはいなかった。

 むしろ攻撃を受ける前以上に爛々と輝き、燃え盛っている。

 

「リザードンは…サトシを悲しませまいともちこたえた、のか…!」

 

 ヒロシは圧倒されながら呟いた。

 駆け寄ってきたジュンを押し除けるように起き上がったリザードンは翼を羽ばたかせ、若干よろめきながらも確かに再びフィールドへ足を踏み入れる。

 

「リザードン…お前…!」

 

「ぴかーぴか!ぴっかーちゅう!!」

 

 本来ならば致命傷として倒れても不思議でない一撃を受けてなお戦う意志を示すリザードンは、サトシとピカチュウに3本指を器用に使ってサムズアップ。

 サトシはゆっくり頷き、ピカチュウは囃し立てる。

 『獲物を譲った以上はきっちり勝って見せろ』、そんな荒っぽくも期待を込めた煽りを飛ばせるのも、ともにに主人を最もダメダメであった時期から支え続けてきた同期の桜であるが故のピカチュウなりのエールである。

 

 

 

「ぐおおおおお…!!」

 

 ピカチュウのエールを受けたリザードンは腹の底から声を発し生気を振り絞る。

 するとその全身から煌々としたオレンジ色のエネルギーが張り付くように浮き上がっていた。

 

 

 

「アレは…もうか、か?」

 

 ククイ博士はポケモン研究者とバトルロイヤルのチャンピオンという二足の草鞋を履いている。

 故にバトル方面にも明るくすぐにリザードンに起きた状況を理解できた。が…。

 

「だがもうかをあれほど上手く制御できるものなのか?」

 

「サトシのポケモンたちの中にはもうかが自慢のゴウカザルがおるからのう。同じほのおポケモン同士、リザードンもそやつから学んだみたいじゃ。」

 

「ポケモン同士で技術を伝え合う、か…。」

 

 オーキド博士がサラリと話す。

 ポケモンたちがそれぞれに一致団結して主人の見てないところでも研鑽を重ね強くなってゆく…それにサトシ自身も驕ることなく強さを磨き続ける。

 ポケモンもトレーナーも勝利の先の大切なことの為にひたむきに頑張り続ける様をククイ博士は尊く思った。

 

 

 

「やはりサトシのポケモン、どの子もしぶとい…だからこそ倒してゆくことに価値がある!レオン!!」

 

「いっけー!リザードン!!」

 

「ぐぉるるるぅ!!」

 

 もうかのエネルギーを纏ったままリザードンは地面スレスレを飛ぶ。

 狙いはレオンに一直線。サトシも思いを重ね、決して臆しはしない。

 

「しんそくで潰すんだ!」

 

「ぴかぁ!!」

 

 確かにリザードンは真っ直ぐ飛んでくる。しかしそのスピードは万全の時に比べれば天地の差、今のレオンからすればとんだスローモーションである。

 一度持ち堪えられたならば二度三度と致命の一撃を叩き込むまでだ。倒れるまで。

 

ズキィィィ…!!

 

「ぴ、ッか…!」

 

「レオンッ!?」

 

 再度脇腹を抉る一発のためリザードンの側面へ流そうとしたレオンの体から急速に勢いが消え、ゴロゴロと転がり込んでしまう。

 

「ミラクル・モードの反動でボディバランスが崩れたのか…!」

 

「今だリザードン!レオンを捕まえて飛べーッ!!」

 

「ぐるぅ!!」

 

 リザードンは間合いへ飛び込み、レオンの尻尾を掴んで夜空めがけ翔る。

 体力の限界はとうに超え、気力だけで戦う彼を支える源泉は、やはりサトシと詰み重ねてきた関わりにこそあった。

 

 

 




 『ダイスケ』
 サトシのリザードンの元トレーナー。
 コレクター気質で、当時ゲットしていたヒトカゲを育てようとせずに身勝手な理由で捨てたポケモントレーナーの風上にも置けないやつ。
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