3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
ほのおのちきゅうなげを決め手として、ついにミラクル・モードのレオンをフィールドに沈める。
そしてその勝利は、アローラにバトル最強地方の栄冠をもたらすのだった…!
両チーム整列し、試合を行った同士健闘を讃え合う握手から流れるようにスタジアムは表彰式へと移行してゆく。
「さぁまずは今大会盤石の布陣で決勝まで勝ち上がり、準優勝に輝いたカントー代表チーム<セキエイ>に銀メダルが授与されます!」
「おめでとう!最高のファイトだったぜ。」
「ありがとうございます!」
PNTT発起人という立場からダンデは、この表彰式においてメダルやトロフィーの授与は必ず自分が、と役員たちに押し通していた。
新たに創設された舞台に全力で臨んでくれた者たちへの心からの敬意を少しでも示したかったからだ。
「ヒロシくん。」
「カンナさん…。」
ヒロシとしては、短いながらも行動を共にしたことである程度はカンナが向けてくる瞳の意図をなんとなく読めるようになっていた。
無理して朗らかに努めているのが不恰好に見えたのだろう。
サトシとのバトルは確かに心ゆくまで真剣勝負を楽しめた。しかし、それはそれとしてやはり負けたのは悔しい…そんな気持ちが漏れ出ていたのだろう。
「リベンジしにいきましょう。このPNTTの舞台においては、私もあなたも同じチャレンジャーよ。」
カンナも負けて悔しい気持ちが分からないはずはない。
ヒロシが取り繕えていないところを自認し、恥じるのを見ればそこから必要以上に言葉を重ねることはしなかった。
ヒロシははい、と進行の邪魔にならない程度に声を抑えて返事をし、頷いた。
「そしてアローラ代表チーム<マナーロ>!見事チームをまとめあげ、優勝に導いた大会MVP、チームリーダーのチャンピオンサトシに栄光の金メダル!そして!!燦然と輝くPNTTカップが今、手渡されました!!」
マナーロ!マナーロ!マナーロ!マナーロ!マナーロ!
「おめでとうサトシ!おめでとうチーム<マナーロ>の諸君!!キミたちがNo.1だ!!」
ダンデの心からの祝福にサトシたちは胸を張って見せる。ここまで勝ち抜いてきた相手への敬意からだ。
「それじゃあサトシ。一言頼むぜ。」
「うん。」
ダンデから手渡されたマイクを受け取れば、優勝カップを左脇に抱えてサトシはゆっくりと口を開く。
「俺たちチーム<マナーロ>がこうして優勝出来たのは、チームの1人1人が力を合わせたことはもちろん、ライバルチームの皆と競い合う楽しさを肌で感じることができたからだと思います!こうやって、皆で力を競い、高め合うことこそがポケモンバトルの良さであって、それをもっと広めていくのがチャンピオンとしての俺の役割なんだと、この大会を通して改めて思いました!」
ん゛、と一旦ひと呼吸を置く。
「そしてコレは俺個人的なことなんですけど、今度はククイ博士をここまで連れてきて胴上げしてあげたい!!その為に4年後、俺たちチーム<マナーロ>はもう一度!いや、何度でも頑張っていきます!!ありがとうございました!!!」
ウオオオオオオオオオオッ!!!マナーロ!マナーロ!マナーロ!
「あいつ…生意気言いやがって。」
「はい!」
サングラスを外すククイ博士にバーネット博士の腕の中のレイがハンカチを差し出す。
嬉しくも照れくさく受け取れば、熱くなった目頭を拭った。
「素直じゃあないんだから。」
男同士のことはバーネット博士には分からない。それでも夫とサトシの間にある確かな絆は微笑ましいものに思えた。
『さぁ表彰式の後は記念撮影、そして優勝チーム<マナーロ>メンバー歓喜のビクトリーランです!!』
マナーロ!マナーロ!マナーロ!マナーロ!マナーロ!
『ユニフォームの上にエプロンを着て走るのはジェニー選手!職場のアイナ食堂をここぞとばかりにアピールしております!第1回戦の逆転劇に関わり、決勝でもサムライ選手を相手にその進撃を見事止めて見せました!』
電光掲示板にはジェニーのマリィ戦とサムライ戦のハイライトが映し出される。
続けては満点の美貌がアップになる。
『可憐な姿に大胆さと緻密さを兼ね備え、シングル、ダブル問わず活躍!チームで唯一、両ルールにおいて勝ち星を収めましたセイヨ選手!!』
ジェニーと並び立って走るセイヨは審判団の中にいたジュンと目が合えばウインクを飛ばす。
視界の先にいた野郎どもが勘違いと共にメロメロ状態になる中、ジュンは顔を真っ赤にしながら頷くよりなかった。
『四天王枠としてチームを支え、ダブルバトルの柱"黄金ペア"を結成し戦い抜いた四天王ハプウのパワフルファイトは、我々にアローラの鮮烈さを見せつけました!!その四天王ハプウとコンビを組み、苦しみながらも決勝にて大金星のスイレン選手も一緒に最高の笑顔です!!』
ハプウとスイレンは肩を抱き合いながらハプウは左手を、スイレンは右手を振り上げ歓声に答えつつ走っている。
『大金星と言えば彼も忘れてはなりません!準決勝、四天王レンブとの試合にてその身も省みず王手をかける貴重な勝利をチームにもたらしたカキ選手のガッツは、まさに素晴らしいの一言でありましょう!!』
「お兄ちゃーん!おめでとー!!」
「ホシ〜!ありがと〜!」
応援席からのホシの声に全身でろでろに溶けながらもカキは走る…というよりはメタモンのような軟体生物が蠢いてる様に皆ギョッとするよりない。
『ハウ選手も第1回戦と決勝戦にて堂々たる戦いぶりを披露しました!!お祖父様のしまキングハラ氏もこの結果に鼻高々としていることでしょう!!』
両手を振り、無邪気な笑みを振り撒きながらハウは走る。
電光掲示板にはザマゼンタを撃沈したハリテヤマの勇姿が映っていた。
『電撃的な現役復帰とともに3戦全てダブルバトル2、団体戦の初戦を常に戦い抜き、そのポテンシャルの高さは未だ健在と見せ付けましたオーキド・シゲル選手!!』
「「「「「「いいぞ、いいぞ、シ、ゲ、ル〜!!素敵!素敵!シ、ゲ、ル〜!!」」」」」」
「よかったですわね、博士。」
「ありがとうママさん。ま、あいつもいい顔するようになったようじゃのう。」
ここ1番のパフォーマンスに精が出るシゲルガールズをよそにハナコに声をかけられたオーキド博士としては、満更でもない表情でビクトリーランのシゲルを見る。
正直な話、孫であることを抜きにしても博士はポケモントレーナーとしてシゲルに対してさほど期待はしていなかった。
彼がトレーナーを引退し研究者としての道を志すと聞いた時は、サトシに対してのダシに使い続けてきたことへの反発かとも思っていた。
だがそうではなかった。トレーナーとしても研究者としてもシゲルはシゲルなりにいつもいつでも本気で打ち込み、その結果人間として得難いものを手に入れ成長してきたのだとまざまざと見せ付けられた。
「お前たちのシゲルは、立派な男になったようじゃぞ。」
天を仰ぐ博士の目には、愛する妻と、先立っていった息子夫婦が夜空から微笑んでいるように見えた。
『チーム<マナーロ>にて活躍したのは選手だけではありません!監督やバックアップのメンバーも一丸となったことが最高の結果に繋がったのです!!』
選手たちのビクトリーランを見守る監督のナンテ、チームドクターのタケシ、フードアドバイザーのデントも万感の思いを噛み締めながら胸を張っている。
ライチュウのテディも腕を組むようなポーズで何度も頷いていた。
「らいらい。」
『そしてなんといってもこのチームを語り、締め括るには彼を置いて他にありません!!全戦全勝!第1回戦では反撃の口火を切り、準決勝、決勝戦では団体戦の勝利を決めた頼れるチームリーダー!!チャンピオンサトシ!!世界を制したその圧倒的な強さで、全国にアローラ在りと知らしめました!!』
「ははは!やったやった!PNTT優勝、ゲットだぜー!!」
「ぴっぴかちゅう〜!!」
一団の先頭をキープし、優勝トロフィーを両手で頭の上に掲げながらサトシは走り、その傍らにピカチュウも続く。
冷めやまぬ熱狂の只中で優勝の喜びを噛み締めるチーム<マナーロ>の選手たち、彼らを中心にPNTT最高潮の夜は更けていった…。
それから1週間後。ポケモンバトル最強地方の称号をアローラに持ち帰ってきた精鋭たちへの歓待ムードもひと段落すれば、チーム<マナーロ>は解散となりそれぞれの日常へと戻って行った。
PNTTの次回開催は4年後のポケモン歴2004年。代表チームが再始動するとして、今回のメンバーがそのまま集まるかといえばそれは多分ない。
「いらっしゃーい!あ、セイヨさん!」
「どうも。今日もランチ頂けるかしら?」
「はーい!マオちゃんランチ一丁〜!」
お昼時、アイナ食堂にやってきたセイヨは、マオに注文を通せばカウンター席に座る。
そこにお冷を持って来たジェニーこそが、今後おそらくチームに加わることはないであろう1人だった。
「いつ発つんだ?」
「この後15時の便よ。だからアローラでのご飯はここでしばらく食べ納め。」
「みんなに何かメッセージはあるか?」
「カキくんとスイレンさんにはチャンピオンリーグで会いましょう、って言っておいたし、他の人たちとは縁があればまたどこかで会うでしょ。」
「そうか。私も配達があるから見送りは出来んが、元気でな。」
「ありがとう。ジェニーさんは、これからもここでバイトを?」
簡素なやり取りの後にジェニーは荷物を背負い出口へ向かう。
思わずその背にセイヨが聞けば、ジェニーは横顔だけ振り向く。
「いや…バイトはもうやめだ。」
「あら、そう。」
「これからは…アイナ食堂"正社員"のジェニーだ。」
そう告げてからジェニーが出ていけば地元カントーからリーグ制覇の旅を再開する予定のセイヨは朗らかに笑い、ランチが来るまでに日課の毛繕いをピカチュウへ施すのだった。
「ふぅ、今日もアチィのう〜!」
ポニ島に戻ったハプウは畑仕事に精を出していた。その傍でゴルーグは案山子の役割を全うしている。
「ハプウちゃ〜ん。一休みしたらどうじゃね〜?」
「もちっとこの辺り毟ってからのう〜!」
仕事仲間の老婆に鷹揚に応えてから額の汗を腕で拭い、中腰になり作業再開。
PNTTで家を空けている間はある程度ご近所さんがしてくれていた畑の手入れ、今後のその穴埋めに奔走せねばならない。
「よいせ!ほいせ!ほにゃあ〜!」
世の中持ちつ持たれつ、労働の汗はハプウの身体中より爽やかに滴り続けていた。
「よいしょ!っとぉ〜。」
「「あはは!釣れた釣れた!また釣れた〜!」」
スイレンはテンカラット山を背に置き、久々の浜釣りを満喫していた。
左右には双子の妹のホウとスイが姉に倣って釣り糸を垂らしている。腕前もなかなかだ。
姉としては、自分ほどではないという具合だが。
「おーいスイレン!釣れてるか〜?」
「カキ!ぼちぼちー!配達ー?」
「あぁ!じゃあなー!」
そんな彼女たちの頭上をリザードンに乗ったカキが飛んで通り抜けてゆく。
カキのリザードンは亡き祖父から譲り受け、現在ではバトルポケモンとしては引退しているがライドポケモンとしてはまだまだ現役バリバリであった。
老いてなお盛ん、というやつだなとスイレンは思う。
「3人とも、そろそろおやつにしたらどう?」
「「「はーい!」」」
髪型は一本結びで、結んだ部分はまるで船の錨のような形の三姉妹の母に呼ばれてスイレンたちは駆け寄っていった。
「まわしを締めて来いだなんて、じいちゃんなんなんだろう?」
ハウがリリィタウンの相撲部屋で弟子の人たちの協力を得てまわし姿で稽古場にやって来れば、そこには同じくまわしを締めた祖父の姿があった。
「………!!」
それは、長らくハウが願い、待ち望んだ展開であった。
ズドンッ!ズドンッ!
双方ともに土俵入り、四股の後で体をせり上げる時、両腕を左右一杯に広げる不知火型の理想系を鏡合わせのように踏む祖父と孫。
言葉はない…必要ない。
互いのこれまでは肌を合わせれば自ずと分かることなのだ。
バッチィィィィィ!!
リリィタウン中に伝わる振動と共に、長い長い取組が始まった。
ポケモンスクールの職員室は冷房がよく効いている。シゲルは抜き打ち小テストの答え合わせをしていた。
「よぉ!」
「ククイ博士。」
その手を止めることはなくシゲルや居合わせた教師たちは来訪者に軽く会釈する。
今やスクールの主任教諭として教育者という立場からもククイ博士はアローラ中を飛び回っていた。
だから無理が祟って体を壊すのでは?そうシゲルは訝しんでもいるのだが…。
「彼は今頃現地に着いた頃ですかね。」
「かな。ポケチューバーやってる仲間に呼ばれたから、ってそそくさと行っちまったからな。」
自分の席に着くククイ博士はテーブルの上にドカッと置かれたままな書類の山に表情を引きつらせる。
不在の間に溜まった物の中でも博士自身が目を通さねばならない類の代物が厳選されてあり、こればかりはどうしようもない。
「ふぅー…。」
そんな博士を尻目にシゲルは作業に区切りをつけ伸びをする。
シゲルもまた、今後選手として表舞台に立つことはない1人だ。
ふと視界に入った青い空の下で、またぞろ我が永遠のライバルは面倒ごとに首を突っ込んでいるのだろうと思い、その姿を夢想し自然と笑みが溢れていた。
そんなサトシはと言うと…、
「サトシ〜、着いたわよ〜?」
「ぽ〜ちゃ〜!」
「ぴかぴー?」
「ん?んっんー!あーよく寝た!」
ヒカリに叩き起こされバスから降りる。
風光明媚な景色が広がり、田んぼやりんご園などのどかな自然がサトシの肌に心地よかった。
水田にはみず、じめんタイプの原種ウパーが歩き、うすばねポケモンヤンヤンマが飛び交うこの地は…キタカミの里。
『スイレンママ』
文字通りスイレンとその双子の妹ホウ、スイの母親。
周囲からはずっとこの呼ばれ方をしていて、本人もそれを受け入れているため家族や親しい間柄以外には本名を失念されているらしい。
今回でこのパートは区切り。外伝を挟み、次のパートに入ります。