3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 いざ試合が始まる、となりカスミのボールから飛び出したのはコダックだった。
 コダックを馬鹿にされた、と半ば難癖付けながらの強引な起用は、確かにシンジ側にダメージを与えた。
 だが仕留めるには至らなかった。シンジの反撃が始まる…。


それぞれの戦い ランクマッチ シンジvsカスミ②

 互いに先発は壮絶な痛み分けとなり、二番手のポケモンの入ったボールを構える。

 今度は流石に横槍の気配はない。

 

「改めていくわよ!My Steady!!」

 

「さにーっ!!」

 

「おっ、サニーゴだ。あいつとも懐かしいなぁ。」

 

「ぴかちう。」

 

 カスミのボールから飛び出したのはさんごポケモンのサニーゴ。

 サトシも旅の中何度もその勇姿を見て来たカスミの頼れる1体だ。おそらくは本来の先発であったのだろう。

 

「シンジは一体どんなポケモンを出すんだろう?」

 

 カスミに対し今度はシンジ側の挙動が一瞬遅れる。

 そのわずかな逡巡に、キクコは鋭い視線を向けながら即座にその意図を察した。

 

「もう"そいつ"を使うとはね。確かに、それほどの相手ではある。」

 

「いったい何が出てくるんじゃキクちゃん?」

 

「キクちゃん言うんじゃないよ!」

 

 先程から、やはり妙な距離感のオーキド博士とキクコも気にかかるケンジは、今度こそと話を切り出そうとすれば場の空気が突然切り替わる。

 現れた時と同様、いやそれ以上の覇気を、バトルの経験がさほどないケンジですらビリビリと感じ取れるほどにシンジは放っていた。

 

 

 

 時は遡る。

 3年前、場所はトキワジム。公認ジムリーダーの試験を受ける直前、シンジとキクコは死闘もそこそこに最終調整を進めていた。

 アルバイトの清掃員曰く、試験を受け持つジムの監察官が来るのが先か、ジムそのものが崩壊するのが先かと言うほどの激しいポケモンバトルであったという。

 

「はぁ、はぁ。これだけやれるなら万が一にも落とされることはないだろう。よく耐え抜いたね。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 肩で息をするキクコを見つめるシンジは呼吸が整うまで待つ。

 下手に駆け寄り、心配する素振りを見せようものならば、年寄り扱いするんじゃあないよ!と杖を振るわれるのが実体験としてあったからだ。

 ボールに戻そうと先程まで戦わせていたリングマを見やる。が、バトルフィールドにその巨体がない。

 

「リングマ?」

 

 視界を動かせば見つけたリングマは、ジムのトレーナーサークルからちょうど中央部、審判サークルの真後ろの壁の上に置かれている物体に手を伸ばしていた。

 

「なにをしている。」

 

 思えばこれに近い出来事は何度かあった。

 トキワジムに出入りするようになり、リングマを繰り出せばしきりにとある一角に意識が向いているようで、それが原因でもらわなくても済む一撃をもらったことは一度や二度ではなかった。

 

「アレはあたしの先祖がヒスイ地方…今のシンオウ地方から持ち帰って来たって話の品らしくてねぇ。見たところ泥っぽいが、石炭の塊らしい。何があの子の琴線に触れたのかね?」

 

 値打ち物ではないであろう事は明らかなのだが、先祖代々からの品だと言うので処分するのも憚られる。

 なのでとりあえずは御神体代わりにジムに置くしか思い浮かばなかったと語るキクコも首を傾げている。

 

「リングマ!遊んでいる暇はないんだぞ!」

 

 戻れ、とボールを向ける。

 その時、立てかけられていた石炭の塊が落っこちてはリングマはそれをキャッチする。そうしてからの、発光。

 

「なっ。」

 

「おやまぁ。」

 

 まさかの事態にシンジもキクコも驚愕するよりなかった。

 

 

 

「(とんだハプニングだった。だが"コイツ"の力もあって俺は試験を難なくクリアし、公認ジムリーダーの資格を得て今に至っている。)」

 

 時を戻そう。

 ググ…とシンジはボールを強く握り締める。頂を目指す鋭い視線と覇気を放ち真一文字にボールを構え、投げ放つ。

 

「(こいつで決める…!)」

 

 これまでシンジに感じたことのない波導の変化に、サトシは目を見開く。鳥肌が立っていた。

 

「ガチグマ!バトルスタンバイ!!」

 

「ぐおおおおおおおッ!!」

 

 大きな体格で焦茶色の毛皮。四足で大地を踏み締め、額には雲がかかった満月のような模様。背中と四肢は灰色の固まった泥で覆われている。

 その咆哮は研究所はおろか、マサラタウン全域にまで轟いた。

 

「なんだあのポケモン!?リングマ!?でも微妙に違うぞ!?」

 

「アレは確かガチグマ…系図としては途絶えたはずのリングマの進化系であったかのう。」

 

 リングマに近いフォルム、しかしリングマとは明らかに違う。ケンジが指摘すれば、オーキド博士が思い出したように口走った。

 

「ふっ。伊達に研究者はやってないみたいだねユキナリ。そうさ。アレこそ現代に蘇った絶滅種ポケモンのガチグマ!あの子の新たなる力さ。」

 

「ガチグマ…!」

 

 キクコが鼻高々に語る中、サトシは見開いた目を輝かせていた。元来の性格からはしゃぐことすら忘れている。それだけガチグマの迫力に魅入られていた。

 そのガチグマを、シンジはボールにすぐ戻す。交代のコールはかかっていない…。

 

「ダイマックス!?」

 

 カスミは身構える。

 初見のポケモンにいきなりダイマックスなどされてしまっては、そのポテンシャルの把握を大きく難航させるのだ。無論、それがシンジの狙いでもある。

 元よりトレーナーとしてのレベルの差があり、さらには未知という巨大な武器を持つアドバンテージを、シンジは容赦なく振るえる男でもあった。

 

「いくぞガチグマ!ダイマックス!」

 

 ドローンロトムがバリアフィールド内に散布した人工ガラテラ粒子を受け取ったシンジのダイマックスバンドからのエネルギーを受け、モンスターボールが巨大化、それを放り投げ開放すればダイマックス状態のガチグマが改めて姿を見せた。

 その威容はマサラタウンのどこからでも観測できるほどのサイズである。

 

「ぐおおおおおおおおおお!!!!」

 

「くうッ…!!」

 

 ダイマックスして飛び出してからの再度の咆哮、その圧力にカスミの身体がずざざ、と交代させられる。

 両手をバツの字で顔の前に構えてガードを固め尻餅をつく無様は免れていた。

 

「まずはサニーゴ、げんしのちからッ!」

 

「さにゃにゃにゃにゃー!」

 

 サトシも認めるシンジに、初めて見るポケモンに、圧倒されているのは認めよう。

 しかし、勝敗は別である。

 みずポケモンで攻めて攻めて攻めまくるカスミのポリシーに、後退のネジは巻かれていない。

 サニーゴはフィールドの土の中から岩の弾丸を形成し、それを次々とガチグマへ発射する。

 

「とげキャノンからパワーアップした技だな!」

 

 見知った仲のサトシはそのいわタイプの技らしからぬスピーディーな弾幕から即座に見抜く。

 げんしのちからを放ち続けるサニーゴの纏うオーラが増してゆくのを見ては、ステータスを上昇させる追加効果も発動しているのが分かった。

 一方岩の弾幕をぶつけられるガチグマは、微動だにしていない。

 

「効果は今一つのようね…。」

 

 リアクションからカスミはおおよそのガチグマのタイプに予測を立ててゆく。

 しかし落ち着いて考察する時間もなかった。シンジがガチグマをいつまでも棒立ちさせておくはずがないのだから。

 

「やれ、ガチグマ!ダイアース!!」

 

「ごぉああああああ!!」

 

「来たッ!サニーゴ、湖に飛び込んで!!」

 

「さにぃ〜!」

 

 ドローンロトムがバリアフィールドで覆った戦場の中、カスミの立つ左サイドほど近くに研究所敷地内の湖が含まれていたのは、決して幸運ではない。

 あらかじめカスミは自分の陣取る近くに水場が来るように、シンジと距離を取り合う中計算尽くで場所取りをしていたのだ。

 攻防に関わらず、いざという時には水中を活かして立ち回るためである。

 げんしのちからもダメージを与えるというよりは、ステータスを高めて素早く水中に飛び込ませるためという意味合いが大きい。

 そんなカスミの巧妙な盤外戦術を、シンジも当然看破した上でスルーしていた。

 

「さにさにぃ!」

 

 スイスイとサニーゴは駆け抜け、湖へ飛び込みそのまま潜水する。水底まで潜りダイアースの威力を少しでも弱めてやり過ごす算段だ。

 そこにガチグマの巨大な右拳が構わず振り下ろされた。

 

ズッッッ!!!ドゴオオオオオオオ!!!

 

「さにぃ〜!!」

 

「サニーゴッ!?」

 

 ガチグマの拳から伝播する強大なダイマックスエネルギーは、湖の水を丸ごと跳ね上げ、水底のサニーゴを容易く空高くに放り出させた。

 そこは、ガチグマの拳の射程内…。

 

「不味ッ…!サニーゴ、じこさいせい!!」

 

「ダイナックルだ!!」

 

「ごぁあああああああああ!!」

 

 聞くものの身を硬直させる雄叫びと共に放たれるガチグマの左拳を、じこさいせいによりダメージを回復させたサニーゴはその身で受ける。

 

ズガン!

 

 鈍い音と共に殴りつけられればサニーゴはカスミの足元へ落着した。

 

「さにゃ!!さに…さに…。」

 

「ぐるるう…おおおおおおお!!」

 

「虫の息だね。お嬢ちゃんのサニーゴは。」

 

「カスミのサニーゴはげんしのちからで能力を高め、湖の水を盾代わりにしてようやくじこさいせいで耐え凌げたダメージ、一方シンジのガチグマはダイアースでサニーゴを湖から引きずり出してからダイナックルを放り込み、次の一撃の破壊力をより高めに来た。どちらも実に計算高く戦っとるのう。」

 

 ガチグマのダイアースにより跳ね上げられた湖の水は、バトルを観戦していたサトシたちの頭上にも容赦なく降り注いでいた。

 それに対し、オーキド博士はこともなげに白衣を脱いではキクコの頭上へ構え、彼女が濡れるのを防いでいた。

 

「(余計なことを…。)」

 

ずぶ濡れで白衣の水を搾りながら話すオーキド博士に、満更でもなさげな視線を向けるキクコの胸中は、バトルに夢中なサトシとケンジに分かるはずもなかった。

 

「ケンジ、スケッチブックは大丈夫か?」

 

「ありがとうサトシ。オンバーンも。それにしても凄いパワーだねダイマックスは。」

 

「わきゃあ!」

 

 サトシとケンジの方は降りかかる湖の水に対してサトシの仲間であるおんぱポケモンオンバーンがすかさず飛来し、その大きな翼を使い2人が濡れるのを防いでいた。

 ケンジに褒められたオンバーンは喜びはしゃいでいる。

 

「ダイマックスだけじゃない。あのガチグマのパワー自体が凄いんだ。」

 

 サトシはガチグマの巨体を見上げてから、その足元のシンジを見やる。

 シンジは、ガチグマの巨体を傘代わりにずぶ濡れを回避していたようだった。

 ライバルの見せる圧倒的なバトルに、熱いものを感じずにはいられなかった。

 そのまま視線を横に流してカスミを見れば上着のラッシュパーカーとデニムのショートパンツを躊躇なく脱ぎ捨てていた。

 

「うわわ、カスミ!?」

 

 年頃の娘のあまりにも思い切りのいい脱ぎっぷりに、ケンジはたまらずスケッチブックで顔を隠す。

 この辺りは付き合いこそ長けれど彼が年相応の異性観を持っていることを窺わせた。

 ただそれは杞憂である。

 カスミは下着代わりに白の競泳水着を着用していたのだ。もっとも、3年前より体つきの発育は進んでいて、競泳水着のデザインからしっかりVラインも主張してきている。ケンジが水着フェチだというのなら話はまた違ってくるが…。

 

「カスミのやつも勝負に出る気だな。」

 

「うむ!いい顔つきをしておるわい。」

 

「ふふ、さぁてどれくらい粘って見せてくれるかね。」

 

 サトシ、オーキド博士、キクコは三者三様それぞれながらもその視点はカスミの瞳一点に絞られていた。

 この時ケンジは初めて、この場にいる自分を除く尽くが、骨の髄まで『ポケモントレーナー』であることを気付かされていた。

 

「サニーゴ、戻ってちょうだい。」

 

「さに。」

 

 サニーゴの立ち回りは決して無駄ではない。

 カスミの見立てとして、ガチグマはおおよそいわタイプあるいはじめんタイプと見ることが出来た。

 つまりは、渾身のみず技を叩き込めれば活路は開ける!

 

「世界の美少女!おてんば人魚!」

 

 瞬間、カスミが闘気を発散させたのをシンジは認める。ここ一番の一手を差し込みにくる覚悟の意気を察した。

 

「このカスミちゃんの底力!とくと見せてあげる!!いっけー!My Steady!!」

 

「するぁぁぁぁぁあ!!」

 

 カスミが繰り出した3体目はサトシが昨日見た、因縁深いランチャーポケモン、ブロスター。

 カスミ決死の一撃を担う切り札だ。

 起死回生を狙うカスミの腕に巻かれるZクリスタルが煌めいた。

 

 

 

 




 『ケンジ』
 18歳。オーキド博士の助手を務めるポケモンウォッチャー。
 サトシとは、オレンジ諸島で知り合った仲だ。
 ハナダジムとも付き合いが深く、よく水道管の修理や、ジムの掃除を頼まれたりしているんだって。
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