3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 アイリスの営業に引っ付く形でアルトマーレに来ていたバンジロウは祖父の付き合いからカノンと仲良くなる。
 そんな彼女のために立ち上がり、秘密の庭に踏み入る悪者へ挑みかかるのだった。


外伝 がんばれバンジロウ! 水の都の大騒動 後編

「戻れッ、カイリュー!!」

 

 倒れたカイリューをボールへ戻すバンジロウ。

 目の前の鉄の塊は人が乗り込むロボットだ。ポケモンの技を発動できるというのはどうにも解せなかった。

 

「このポケティノイド01ことジャイアント・ヒードラン…通称"GH01"には胴体にあるメインエンジン部のみならず、各部4本の足ごとにバオッキーをそれぞれ1匹ずつ格納してるんだよね。それら5匹のエネルギーによってGH01は稼働してるのさ〜。」

 

「バオッキーだと?確かバオッキーはカウンターなんか覚えなかったはずだ!」

 

 地元イッシュで初めて見つかったポケモンだ。バンジロウにも相応の知識はあった。

 そこからの疑問にアンスト8は小馬鹿にした笑いと共に返答した。

 

「バオッキー自身がカウンターを覚えなくてもかわらわりやローキック、それこそきみのカイリューが今さっきやってたばかぢからは覚える。そんなバオッキーの発するかくとうエネルギーを機体の方で抽出、流用すれば別のかくとう技に転用するのは簡単なんだよ。そう!ボクたちスクライアの民の科学力があればね〜。」

 

「なんだとぉ〜…!!」

 

 聞けば聞くほど不快な話であった。

 機械の動力源のみならず迎撃策のために酷使しているにも関わらず、こいつらは、バオッキーに対して感謝もリスペクトもカケラもない。

 

「ウルガモスーッ!!」

 

「くるるるるぅッ!!」

 

 相棒のウルガモスにもバンジロウの義憤が伝播する。敵視の眼差しにアイアンビースト28は心底鬱陶しく思った。

 

「え〜まだやるの?やめといた方がいいと思うな〜。」

 

「ほざきやがれ!おめーらみてーな自分のポケモンを雑に使うやつらは許せねー!!ウルガモス、むしのさざめきッ!!」

 

「くるぅるるるるるぅッ!!」

 

 翅の羽ばたきが不可視の刃となりJH01を襲う。が、機械のボディはにべもなく弾き返す。

 

「いやだなぁ〜。誰がバオッキーが僕たちのポケモンだって言ったの?僕たちがこんな不人気ポケモンなんかわざわざゲットするはずないじゃん。いわエネルギーを抽出。擬似がんせきほう発射用意〜。」

 

「了解〜。不人気ポケモンに働きどころを与えてあげる僕たちって優しい〜!」

 

 機体前方にチャージする凝縮されたいわエネルギーが程なく岩石そのものを形作る。

 

「なにッ!?」

 

 むしのさざめきから次の攻撃に入る気満々であったバンジロウは完全にレスポンスが遅れる。

 

「いや〜残念!そのウルガモスも鍛えられてるんだろうけど、所詮科学の力の前では人ができる努力なんてたかが知れてるんだよね〜。」

 

「現実は非情である〜!」

 

ドシュウウウウウ!!

 

 2人してキリッ!と表情を作る中放たれるがんせきほう…がウルガモスに命中することはなかった。

 

バッシュ!!バッシュ!!

 

 彼方から放たれた水流弾によりがんせきほうは砕かれ四散する。

 

「あっ…今度はなに〜?」

 

 アイビー2の苛立ちと困惑の声を無視して雪崩れ込むのは2人の少年たち。

 

「うぉれぉ!」

 

「大丈夫か!?」

 

「酷い…こんなに荒らされて…あ、ごめんなさい!入っちゃ駄目なのは知ってたんですけど、騒音が酷くていてもたってもいられなくなって…!」

 

 ゴウがバンジロウの隣に駆け込み、先の水流弾を放ったインテレオンもウルガモスに並び立つ。

 トキオはGH01に踏み荒らされた秘密の園の惨状に絶句してから、ボンゴレとカノンに頭を下げた。

 

「きみたち…!いや、ありがとう。よく来てくれたね。」

 

 ボンゴレが2人を叱るなどはあり得なかった。ゴウにもトキオにも、バンジロウ同様その瞳には確かに宿る正義の心が見えたからだ。

 ラティアスとラティアスと共にある一族の人間として、心の清濁を見抜く力には長けている自覚もあるのだ。

 そしてそれはカノンも同様…。

 

「お願いします!ラティアスを、あの娘を助けて!!あの娘は大好きだったラティオスを…兄を失って、ようやく前を向き始めたところなの!あの娘の心にこれ以上傷を付けさせないで!!」

 

 涙ながらのカノンの叫び。これに応えないでは男じゃあない!

 バンジロウは水上レースの時に見た顔だとゴウとトキオを思い出すも、自己紹介は後とした。

 その前にやるべきことがある。その意識を2人も共有した。

 

「おいらたちに任せとけーい!!」

 

「頼んだよ、メガニウム!」

 

 バンジロウを中心にして右手にゴウ、左手にトキオが立ちウルガモスの左隣にメガニウムが入る。

 そこで3人は予期せぬビジョンを垣間見た。GH01の機体内部の構造、動力源として封じ込められている5体のバオッキーの正確な所在を。

 

「コイツは…!」

 

「あの機械、バオッキーたちの力で動かしてるのか!」

 

「でも彼ら苦しそうだし何より嫌々な感じ…!」

 

 何故こんなクリアなビジョンが見えるかと言えば、カノンに介抱されているラティオスの『ゆめうつし』の力によるものだ。

 

「その子も彼らを信じたんだろう。あの子を助けてくれる、と。」

 

「うん…。」

 

 ラティアスとカノンは小さい頃から秘密の園で仲良くなった親友である。

 ラティアスの兄のラティオスも妹と仲良くするカノンのことを次第に信頼していった。そんな中で3年前に悲劇は起きた。

 秘密の園に安置されているこころのしずくと、博物館の古代機械を狙った怪盗姉妹ザンナーとリオンの侵入を受け、結果的には流れのポケモントレーナーたちの尽力もあって事なきを得た。

 だが先代のこころのしずくは失われ、力の均衡と制御を失ったアルトマーレを大津波が襲ったところに自らの身を投げ打った兄の肉体は滅び、その魂が新たなこころのしずくとなり水の都は守られた。

 残されたラティアスの心の傷は大きかった。そんなところに転がり込んだのがこのラティオスだった。

 彼は彼女を姉のように慕い、その無邪気な様が徐々にラティアスの心の傷を癒していったのだ。

 

「ウルガモスで四つ足を切り離す!!バオッキーたちを助けるんだ!!」

 

「「了解ッ!!」」

 

 二つ返事でバンジロウのフォローに回る選択をするゴウとトキオはインテレオン、メガニウムをGH01へ走らせる。

 

「うぉれぉれぉぉ!」

 

「がッにゅ〜ん!」

 

バシュウ!バシュウ!ボォン!ボォン!

 

 走りながらインテレオンはねらいうち、メガニウムはエナジーボールを放つ。

 GH01の周囲をぐるぐる回りながらの連射は埃を巻き上げるのみで機体にダメージはない。

 

「そういえばさ。格下は格上の周りを回るものだって言うんだよね〜。」

 

「そうそう!ま、ポケモンバトルに限らずスポーツなんて僕たち選ばれた一族からすればくだらないおままごとでしかないんだけどね〜。」

 

 水流弾とエネルギー弾の絶え間ない着弾によるモヤでコクピットに映される液晶カメラの視界が封じられるもアイビー2、アンスト8ともに動じない。

 視界を封じる一手だと読み取り機体のサーモグラフィカメラであっさりインテレオンとメガニウムの動きを捕捉してあるのだ。

 

「トキオ!我慢比べだからな。」

 

「うん!」

 

 ねらいうちもエナジーボールも鋼鉄の機体にダメージが通らないのは最初の数発から見えている。

 それでも2人は攻め手を緩めない。

 

バシュウ!バシュウ!ボォン!ボォン!

 

「うぉれぉあ!」

 

「がんにゅう!」

 

 円周を走りながらの連射にインテレオンもメガニウムも徐々に疲れが溜まり、技の精度も落ちていく。

 明らかに走行スピードが低下したタイミング、ちょうどそこがアイアンビースト28の我慢の限界点であった。

 

「そうはいかんざき〜!」

 

 インテレオンもメガニウムも足が止まったところですかさずアイビー2が操縦。

 円周で囲む2体を蹴散らしにかかるもコンソールからの操作を期待が受け付けなくなっていた。

 

「ちょ、どうしたのさぁ〜?」

 

「エネルギー伝達に異常!そっちで動かせない〜?」

 

「やってみる…こちらからも駄目だ〜!」

 

 アイビー2が右半身を、アンスト8か左半身をそれぞれ管制制御する形で操縦されるGH01、そのエネルギー回路を丸ごとウルガモスが遮断出来たのは、やはりラティオスからのゆめうつしの力あってのことだとバンジロウは思う。

 GH01がゴウとトキオに反撃しようとエネルギーの流動を開始するその瞬間を射抜くようにサイコキネシスで胴体と四つ足の接続部を堰き止めたのだ。

 

ボッコアアアアッ!!

 

「「うわあああッ〜!?」」

 

 堰き止められたタイプエネルギーの暴発がGH01の胴体と四肢を切り離す。これで機体の本丸は丸裸だ。

 

「ビリジオン!マジカルリーフ!!」

 

「きゅうううッ!!」

 

 疲れてしまったメガニウムに代わりトキオが繰り出したビリジオンの発する大量のくさエネルギーが寄り集まり、さながら柄のない刃となれば楕円型のGH01の胴体部を真ん中から真っ二つに切り裂いた。

 

「わきゃきゃ!いきゃきゃ〜!!」

 

 切り裂かれた胴体下部と四つ足部から体を這い出させ、逃走を図るひのこポケモンバオッキーが5体。

 その怯え逃げる様にゴウが天性持つポケモンゲットの嗅覚が確信を呼び込んだ。

 

「モンスターボール、GO!!」

 

 投げ込むボールが5体のバオッキーを寸分狂いなく捉え、ゲットに成功する。元より動力源に利用されていて弱っていたのが大きい。

 

「あのまま野生に逃げ帰ったらかわいそうだもんな…。」

 

 このアルトマーレは水に囲まれた人の生活圏たる浮き島だ。

 水場が苦手なほのおタイプのバオッキーを弱ったまま放置するというのはポケモン愛護の観点からない、そうゴウは判断した。

 

「なんだよこれ…まったく、しょうがないなぁ〜…。」

 

「ヒードランなんて洞窟の中を這い回るしか取り柄のないようなポケモンをモチーフにしたからこうなったんだ。僕たちは悪くないッ!」

 

 アイビー2は心底つまらないというため息。アンスト8はモチーフにしたヒードランへと責任転嫁。

 最早抵抗力は失われたGH01の残る頭部装甲がバキョリと外れ飛べば、内部のコクピットがジェット噴射して上昇していく。

 

「くぉ!くぉ〜!」

 

「くぁぁ…!」

 

 コクピット上部の檻の中のラティアスにラティオスが叫ぶ。体を動かそうとするも既にエネルギー切れでままならない。

 

「ラティアスが!」

 

「ま、今日のところはこれくらいにしておいてあげるよ〜。ラティアスだけでも連れ帰れば新しいポケティノイドの動力源に出来…えっ?」

 

 アンスト8の捨て台詞が吐き終わるより前に脱出カプセルとなっていたコクピット全体が空中でピタリとストップさせられる。

 

「あっ、ラティオスがもう1体!?」

 

「アルトマーレの異変を察知して戻ってきてくれたか!そうか…お前は兄さんに気づいてもらうために無茶を!」

 

 ボンゴレがカノンに介抱されるがままのラティオスを見てその知能に舌を巻く。

 

「くぉぉぉーーーッ!!」

 

 3年前、兄を失ったラティアスに寄り添うようにアルトマーレにやってきたのはラティオスの兄弟であった。

 体の大きな兄は世界中を飛び回って疲れた同種を秘密の園まで誘い羽を休めさせる役割を担い、小さい弟が傷心のラティアスに付きっきりとなった。

 弟が慕うラティアスを傷付けんとする輩に兄が手心を加えることなどはない。

 

「「うわ〜〜〜ッ!?」」

 

ズッガァァァン!!

 

 サイコキネシスで捉えられたコクピットは勢いよく庭園へ墜落させられ、その衝撃で檻は壊れラティアスは脱出する。

 

「く、くっそ〜やっぱり不人気ポケモンなんかに頼ってちゃ駄目だったか〜。」

 

「やっぱり僕たちみたいな名族にはもっと相応しいポケモンがいなきゃいけないみたいだね〜。」

 

 墜落し、完全に大破した機体からブツクサとボヤきながら這い出るアイアンビースト28はそこでようやく事態を把握する。

 

「「あっ…。」」

 

 周囲を取り囲むバンジロウたちに加え、庭園に住んでいた野生ポケモンたちの睨み付ける視線を前に彼らは逃げ場がないことを悟り、そして…

 

「「ボクたちは悪くな〜〜〜い!!ボクたちを認めない世間が悪いんだぁ〜〜〜!!」」

 

 訳の分からない主張をジュンサーさんが到着するまで地団駄を踏みながら繰り広げていた。

 

 

 

「ほら!キリキリ歩く!!」

 

 黄褐色の髪の双子の少年に手錠をかけ、ジュンサーさんが連行していく。

 ポケモンを所有していなかったとはいえ、11歳でトレーナーカードはとっくに発行されている身分な以上『この世界』では大人と同じように裁かれるのだ。

 罪状としては不法侵入に加え器物損壊、並びにポケモン虐待など枚挙に暇がない。

 そんな『誇り高き有能有名たる名族、スクライアの民のアイアンビースト28』の末路に、バンジロウたちが目を向けることはなかった。

 

「おいら、バンジロウ!アンタらのおかげで助かったぜ!サンキューな!」

 

「俺はゴウ。よろしく。」

 

「僕はトキオ。ラティアスたちが助かってよかった。」

 

 一見落着となり、改めて自己紹介もそこそこに3人は互いの健闘を讃え合う。

 こころのしずくを、ひいてはアルトマーレそのものを救う戦いを切り抜けた連帯感が爽やかな潮風となり彼らの肌を撫でてゆく。

 

「くぉぉ。」

 

「おっ、よかったなおめーたち。」

 

 そこにおずおずと近づくのは小さいラティオスを中心に大きなラティオスとラティアスが左右を囲む。

 彼らの視線は一点、バンジロウを見ていた。

 

「なんだ?おいらの顔になんかついてるのか?」

 

「ラティアスたちは小さいラティオスをバンジロウくんに預けたいらしいぞ?どうやら今回の件を通して、もっと強くしてやってほしいようだ。」

 

 首を傾げるところにボンゴレの通訳が入ればバンジロウはギョッとする。次いでゴウとトキオを見れば、

 

「ポケモンの気持ちが最優先っしょ。」

 

「最初から彼らを助けに入ってたのはきみだものね。」

 

 サラリと身を引かれてしまう。

 そしてラティオスと視線を合わせれば、大好きなラティアスを我が身一つでは守りきれなかった不甲斐なさと、そこからくる強さへの渇望がバンジロウにシンパシーを与えた。

 

「よし、よし!よーしッ!!一緒に強くなろーぜ!!ラティオス!!」

 

「くぉーーーう!!」

 

 パシリ!右手と右翼を叩いて意気投合。

 ラティオスはバンジロウのポケモンとなる。その様子をカノンは微笑みながら見届けていた。

 

 

 

『さぁ皆さんお待ちかね!アルトマーレ夏のフェスタ!水上レース夜の部が間も無くスタートです!昼の部を沸かせた強豪たちに加えて、スペシャルゲストとしてイッシュリーグからチャンピオンアイリスも参戦!バトルで見せる抜群のポケモン捌きがレースでも見られるか要注目です!』

 

「負けねーぞー姉ちゃん!」

 

「バンジロウがあたしに勝つなんて10年早いってのよ!」

 

「「ばうばう〜!」」

 

 スタートラインでバンジロウとアイリスのカイリューが互いに煽り合う。

 アイリスからしてなにやらバンジロウが吹っ切れたのが分かった。

 

「やれやれ。」

 

 昼よりやかましくなった、と変わらずインテレオンと出場するゴウは呆れ、観戦のトキオは苦笑いを浮かべていた。

 

「ちっ。」

 

「ちっ。」

 

「ちっ。」

 

「てょ〜!」

 

「どおりゃあ〜!!」

 

 ネイティ3体とネイティオのシグナルによりスタートが告げられ、一斉に水上カートが爆走を開始する。

 白熱していくレース展開を、ラティアスとラティオスは光の屈折を活かした透過能力で姿を消し追いかけながらレーサーたちに追従する。

 アルトマーレの夏の夜は、フェスタの楽しい喧騒とともに更けていくのであった…。

 

 

 




 『カノン』
 14歳。『秘密の庭』を管理する一族の少女。
 秘密を保持する番人としての責任感を強く持ち、3年前に襲来した怪盗姉妹の悪行からサトシたちに助けてもらった過去を持つ。
 祖父ボンゴレの身の回りの世話をしながら趣味の絵画を楽しんでいる。
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