3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
選手たちがそれぞれの生活に戻る中、サトシの姿はキタカミの里にあった…。
独自の共栄圏のもとにあるニッポン大陸の各地方の中でも最北端に位置する寒冷地体が目立つ巨大な島を基点にして文化を形成するのがシンオウ地方である。
その島から海を挟んで南側、大陸の最北端にポツンと存在しているのがキタカミの里の地理的な特徴だ。
「「んっん〜〜〜!!」」
「空気が気持ちイイぜ!」
「ホント!」
「ぴかぴかぁ〜。」
「ぽっちゃぽちゃあ!」
バス停に降り立ち、グイーと伸びを揃ってするサトシとヒカリ。足元にはそれぞれ相棒のピカチュウとポッチャマが主人に倣う。
田園風景の真っ只中に2人が佇むきっかけといえば2日前の8月15日のこと。
シンプルな話、ヒカリがサトシを誘っての慰安旅行であった。本来ならばポケチューバーチャンネル『ヒカリンTV』を運営するヒカリとケンゴが想定分の撮り溜めを完了させての骨休めとする予定であったのだが、ケンゴが夏風邪を盛大に拗らせてダウン。
2人分旅館を予約していたヒカリが片っ端から知人に声をかけた結果、最終的に引っかかったのがサトシだった。
「あそこかな?」
「うん。スイリョクタウン。」
田園の間にくねくねと伸びる車道に沿った先に見える建造物の数々は、そこが集落であると如実に伝えていた。
「行くか。」
「うん!」
土地勘に疎い2人とはいえ流石に視認出来る距離ならば迷いようもない。ひとまずスイリョクタウンを目指し歩き出すことにした。
「なんかこうしてサトシと歩いてると昔を思い出しちゃうな。タケシも一緒にシンオウ地方を旅してた頃!」
「あの頃のヒカリそそっかしかったよな。あ、今もか?」
「むぅ〜、サトシだって無鉄砲なのは相変わらずだってタケシから聞いたわよ?」
「なんだと〜?」
「なによ〜?」
ご機嫌に歩き出したかと思えばすぐさま額を突き合わせるように睨み合うサトシとヒカリ。この光景は2人が合流した時点で相棒たちも半ば予想はついていた。
ポケモンが大好きで活発という似通った性質を併せ持つが故にサトシとヒカリは小さいことをきっかけとしてしょっちゅう揉め、一緒に旅するタケシやピカチュウたちを困らせる。
そんなやり取りが日常茶飯事ながらも互いにシンオウ地方での旅を輝かしい思い出として記憶しているのは、そうやって張り合う相手が自分の夢のために全力で臨む姿に感じ入り、常にエールを送り合っていたからだ。
リスペクトこそが正しく人を認め、高め合うのに必要なことを2人は知っていた。
ドウン!
「なんだ?」
彼方よりの轟音と地響き。
「村の方からよね?」
「ぴか!ぴっかぁ!」
「ぽぉちゃぽっちゃあ!」
方角を確かめればピカチュウもポッチャマもここぞとばかりに『行ってみよう!』と主人たちを囃し立てる。
あくまでいがみ合っていたのを抜きにして、彼方の異変が気になるという風に振る舞いながら。
「いくぞヒカリ!」
「オッケー!」
2体の思惑通りにサトシとヒカリは一触即発であったのも忘れて走り出す。
ピカチュウとポッチャマはそれに追従した。
「ウホッ!いいバトル…。」
スイリョクタウン入り口、正面にあるのは村中心部に建てられた茶色い屋根の公民館。
その手前に出来た人だかりの真っ只中が轟音の発生源であった。
「どさぁぁぁい!!」
「ドサイドンよ!バトルしてる!」
「相手は…!」
「ごどぅあああ!!」
「ぴかちゅぴか!!」
『ボスゴドラ!!』とピカチュウが驚くのも無理はない。
さほど間の置かない再会…直近では特に言葉を交わしたでもないが、何より遠くからでもハッキリ認識できるような豪快なパワーファイター。しかも極めて高レベルのそれだ。
そんなトレーナーの心当たりなどは1人しかなく、サトシが抱くその心当たりはズバリ的中していた。
「ドサイドン!とっしんだ!!」
「どっさいさいさいさいさい!!」
「ボスゴドラ!受け止めろ!!」
「ぐおおおおおい!」
深緑色のニット帽に濃く蓄えられた髭面の『山男』が現出させるドサイドンの荒々しいパワーファイトに、同じくパワーで以て真っ向から受け止めるボスゴドラ。
そのトレーナーは、現在トキワジムのジムリーダーを務めるシンジだ。
「シンジ!?なんで!?」
激しく組み合うボスゴドラとドサイドンの迫力もそこそこにヒカリがシンジに目を丸くする中、サトシはシンジとポケモンバトルに興じている山男にも見覚えがあった。
だがいくら記憶の底を捻り出してみても名前が思い浮かばないのだ…。
「密着してしまえばあとはこっちのもの!ドサイドン!じしん攻撃だ!!」
「どさぁぁぁ…!!」
がっぷり四つなところからドサイドンの全身に土色のじめんエネルギーが迸る。
地脈に干渉するじしんの技エネルギーそのものを叩き付けようというのだ。
「ボスゴドラ、ラスターカノン!!」
「ごっどぅあああああッ!!」
チュッボアアアアア!!
至近距離からの一撃で決めにかかる手筈なのはシンジも同様であった。
ボスゴドラの開いた口にチャージされるはがねエネルギーの凝縮されたブレスがじしん攻撃より先に放たれる。
「どぅさぁ〜!!」
「ドサイドーン!!」
効果は抜群。
はがねタイプのエネルギーブレスを接射の形で叩き込まれたドサイドンは吹っ飛ばされて倒れ、勝負アリとなった。
「ご苦労だった、ボスゴドラ…ドサイドンの鍛え方、方針は今のままでいいと思います。その手のポケモンは下手に小器用にさせるよりは、細かいことは抜きにしてパワーファイトをさせる方が強く育つ。」
「よく頑張ってくれたなドサイドン…そうか。天下のトキワジムのジムリーダー様にそう言われたんなら安心だ。付き合ってくれてありがとうよ。」
「いいバトルをさせてもらいました。」
「「シンジ!!」」
バトルを終え、互いに戦ってくれたポケモンを労い握手を交わすシンジと山男。
そこに駆け込むサトシとヒカリの姿を認めるシンジは一瞬ギョッとした。『なんでこんなところにいる?』あからさまにそう問いかける表情であった。
もとよりシンジが知り合いとの再会を喜ぶようなタチでもない人となりをしているのは、サトシとヒカリも知ってはいたが。
「おぉ、坊主!いや、今はワールドチャンピオン様だったな。」
「お久しぶりです!」
「知り合いなの?」
「カントー地方を旅してた時にバトルしたんだ。名前はー、えーっとー…。」
ポケモンバトルを通しての仲の相手の名前を忘れるなどというのは失礼極まりない話だと理解しているが故に、サトシはどうにか記憶の意図を手繰り寄せ続けているのだが、ここにきても手応えはまるで見えないところに山男はガハハと大笑い。
「そりゃあ思い出せないわな!なんせ名乗っちゃいなかったんだから。」
「あれ?そうだっけ!?」
思わず年上相手の対応も忘れるサトシに山男は続けた。
「俺は、男の名というのは何かでっかいことを成し遂げ、世間に対して"俺はここにいるぞ!!"ってことを知らしめるときに初めて名乗るものだと思ってる。だからまだ何も成せていない今の俺はただの"山男"…それ以上でもそれ以下でもないのさ。」
「へぇ〜…なんかいかにも硬派って感じでカッコイイ!!」
「可愛らしいお嬢ちゃんにそう言われちゃあ照れちゃうな。ま、どうしても呼び名に困るってんなら気軽に"ヤマさん"とでも呼んでくれや。」
サトシと山男に因んでのヤマさんとの縁はサトシが語る通り3年前のカントー時代へ遡る。
ポケモントレーナー同士、目と目が合えばそれはバトルの合図。バトル自体はサトシが勝ち、後腐れもなく別れたのだが山男のサイホーンを相手に繰り出したフシギダネにこのバトルをきっかけとして進化の兆しが訪れ、『進化の儀式』での一件に繋がり、サトシにとってのポケモンの進化に対するスタンスが固まったのだ。
そういう意味では彼との出会いもまた、今のサトシを構築する要素として欠かせないピースである。
「それでシンジはなんでここにいるの?私たちと同じで慰安旅行?」
「キクコさんに頼まれたんだ。」
言い切ってからしまった、とシンジは思った。表情を僅かに引き攣らせる。
シンジ視点、下手にサトシとヒカリに何かを匂わせるような物言いをすると納得するまで付き纏われるイメージがシンオウ時代に固まっていた。
大きなため息の後、ゆっくりと口を開く。
「ここの村長とキクコさんが懇意でな。その縁で調査をして欲しいと頼まれた。」
「調査?」
「そいつはもしかして、この辺りに出没する噂の"赫月(アカツキ)"って奴の話か?」
「アカツキ?」
話にヤマさんが入り込めばシンジは首肯し、サトシとヒカリは首を傾げる。
「ぴかぴか?」
「ぽちゃちゃ?」
「知ってるんですか?」
「"山男ネットワーク"で噂を聞いた。鬼が山にアタックした同志が下山中に唸るような声を森の方で聞いたらしい。」
「森の方、か。」
里の中心部にある火山を指差しながらヤマさんが話せばシンジはスマホロトムを操作し、近辺の地理を確認する。
「かくいう俺も噂を確かめるために来たんだが、どうだい?奴さんと鉢合わせするまでは共同作業ってのは?」
「どちらがゲットするかはその場の成り行き…ですか。」
持ち掛けるヤマさんは不敵に笑う。申し出のドライさに好感を覚えるシンジは応じることにした。
「ドサイドンの回復まで入り口で待ちます。」
短く告げてこの場を立ち去ってゆく。
ボスゴドラのダメージは回復を挟むまでもないのだとなればシンジとの力の差を痛感しながらもヤマさんは公民館入り口のそばでテントを張り、回復装置を管理する気だるげなギャルの元へ向かう。
「いいの?シンジは。」
「あいつなら大丈夫さ。」
バトルも終わったことで人だかりもなくなり、皆日常へと帰る中、サトシとヒカリは旅館へのチェックインへと向かうことにした。
アカツキとやらへの興味はあるが、シンジの実力と性質をよく知るが故に今の所の介入は控えたのだ。
「ようこそおいでくださいました。どうぞごゆっくりしていってください。」
「はぁ〜!着いた着いた!」
「ぴかぁ〜!」
「綺麗〜!」
「ぽちゃぽちゃあ〜!」
旅館の女将さんからの歓待を受け案内された和室に荷物を投げ置き大の字になって寝転がるサトシとピカチュウ。
ヒカリはポッチャマと窓から見える夕焼けたキタカミの空を眺めながら風をその身で浴びる。
その聴覚に朧げながら飛び込んでくるのは何やら楽しげな祭太鼓の調べ…。
「んーと?」
気になってスマホロトムで検索をかけるヒカリの表情がパァァと輝いた。
「サトシ!今近くでお祭りやってるんだって!」
「おっ!いいじゃん!行ってみようぜ!」
「ぴっかぁ〜!」
「ぽちゃあぽちゃ!」
同じく目を輝かせながらサトシは上体を飛び起こす。ポケモンが大好きで夢に真っ直ぐ、そして楽しい催し事に目がない。
やはりこの2人、根っこのところが似た者同士なのだ。
『山男のヤマさん』
年齢不詳。本人の申告する通り山男。
山をこよなく愛する豪快な人物で、3年前サトシと戦ったことのある人物。
1度バトルしただけではあるが、確かに彼もサトシのライバルなのだ。