3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 ヒカリとともにキタカミの里にやってきたサトシは、里の近くを騒がす『赫月』なるポケモンの調査に来ていたシンジと再会をする。
 シンジのことはさておきとして骨休めにやってきた2人は、そのまま夏祭りに出向くことにした。


ROAD TO THE TOP  ランクマッチ アイリスvsアラン①

 キタカミの里の中心部に位置する鬼が山からは南東方面にある麓、スイリョクタウンからは北側に位置するキタカミセンターは、人々が楽しむ四季折々のお祭りの舞台として活用されていた。

 今の時期は夏祭りである。

 

「やっぱ夏はお祭りだよなぁピカチュウ!」

 

「ぴかちゅるちゅるちゅるちゅる。」

 

 スイリョクタウンの売店『桃沢商店』にて購入した甚平姿で屋台の立ち並ぶ中をサトシはかき氷を持ちながら闊歩し、ピカチュウはケチャップをたっぷりかけた焼きそばをちゅるちゅると吸いつつ相槌を打つ。

 緑色の甚平姿なサトシに対し、隣に歩くヒカリは青色の甚平を着こなしながら眼前に固定するスマホロトムを操作していた。

 

「なに見てんだ?」

 

「呆れたー。そろそろアイリスの試合でしょ?」

 

「あ、そっか。」

 

 一瞬、『夏祭りで浮かれてたのはヒカリも同じだろう?』とサトシは切り返したくもなったがやめにすることにした。

 この状況で女の子に反論してろくなことになったためしがないのはカスミで学習済みなのだ。

 

 

 

『全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンのみなさん、こんばんは!本日はポケモンワールドチャンピオンシップスランクマッチ"マスターランク"の試合をお送りします!』

 

 夏祭りで盛り上がるキタカミセンターから外れた暗がりの木陰に買い込んだ屋台の食べ物を並べ、ワイヤレスイヤホンを片方ずつ共有しながらスマホロトムの液晶を見るサトシとヒカリは画面の向こうへと意識をトリップさせてゆく。

 側から見れば逢瀬の真っ只中なラブラブカップルにも映るが当人たちにそんな気は一切なく、その辺りを気にすることも旅仲間同士の気安さからまるでない。

 パパラッチの類がこの現場に居合わせなかったのはただの偶然、幸福であった。

 

「ぽちゃちゃちゃ〜!」

 

「ぴっかっちゅ!」

 

 ピカチュウとポッチャマの漫才ショーで笑い転げるのはかざんポケモンマグマラシの2体。

 それぞれサトシとヒカリが1体ずつ連れて来ていた。

 

「ぐ〜まッまッまッ!」

 

「くすぁ!?」

 

 マグマラシの後部からの発火に危うく巻き込まれそうになり飛び退くのはサトシのエクスレッグ。

 むしタイプであるので火は洒落にならない。

 

「くわっくわっくわっ!」

 

 彼と同じくサトシにとっての集中育成期間にあるウェルカモはすっかりこのポケモン間の宴の雰囲気に順応しきっている。

 

 

 

「舞台はカロス地方ミアレスタジアム!放送席ではこのジッキョーと、このお方を招いております!」

 

「これは解説。バトルのやり取りを分かりやすく伝え、その魅力を広めること。ヒャッコクジムを預かるゴジカ…その役割に全力を尽くします。」

 

 紫色の髪の美女はタイトシルエットの黒い衣服に身を包み、銀色の腕輪、星形の耳飾り、月の形をしたそれらアクセサリーはその全身から夜空を表現しているように見える。

 何よりその褐色肌の男性な顔立ちに映える瞳は、覗く者を深淵へと誘うような引力を相対する存在に想起させた。

 

「ゴジカさん。ズバリ今回の試合、注目すべきはどのようなところにありますか?」

 

「これは若き才と若き才のぶつかり合い。研磨されゆく才は、やがて未来を明るく照らすこととなりましょう。」

 

「なるほど〜!」

 

「此度の戦いで見えてくるのは、どちらがより大きく輝けるかという1つの指標に他なりません。」

 

ウオオオオオッ!!ウオオオオオッ!!

 

 スタジアム中の歓声、そのボルテージが1段階上がる。

 いよいよ選手入場からの試合開始と相なるのだ。

 

 

 

『青コーナー!PWCSマスターランク第6位!!"最強メガシンカ"アラン選手、入場ッッッ!!』

 

キャアアアアアア!!ウオオオオオッ!!

 

「キャー!アラン様〜!!」

 

「見せてくれよ〜最強メガシンカ!!」

 

 地元のスタジアムなのもあり、青年を出迎え、激励する声は数多い。分かりやすくそれに手を振り上げて応えるパフォーマンスなどをするキャラでないと周知もされているので一点を見つめてフィールド中央へ歩みを進める姿が咎められることもない。

 ただ、アランをよく知り、寄り添う者たちからすればその表情が本調子からは程遠いのは明白であった。

 

『赤コーナー!PWCSマスターランク第2位!!イッシュリーグチャンピオン!!"昇竜姫"アイリスゥゥゥゥゥ!!」

 

ドワオオオオオオオオオオッ!!!

 

「アイリスちゃーーーん!!」

 

「お兄ちゃんだぞーい!」

 

 アランがフィールド中央で待ち構える中、アルティメット・ドレスを身に纏い湧き上がる客席に両手を振りながら堂々とアイリスは入場する。

 

 

 

「さて、アラン選手が地元でチャンピオンアイリスを迎え撃つ形となりました今回の対戦。チャンピオンアイリスは、昨日、今日の試合を経て現在ハイパーランク12位となりましたコーム選手と対戦。試合後すぐにカントーを発っての本日また試合となっております。トレーナーとして疲れが抜けきらないであろうところにアラン選手が食い付くか、チャンピオンアイリスの底力が弾き返すのか!要注目です!!」

 

 

 

「アイリスの奴、コームさんと試合してすぐアランとも試合なのか!」

 

「コームって人、知り合い?」

 

「うん。初めてリーグに出た時に戦ったんだ。」

 

 サトシがヒカリに語るのは3年前、カントーを舞台にした冒険の中でジムバッジを8つ集め、念願のセキエイ大会へ駒を進めたサトシ。

 最初のリーグの試合で激突したのが当時からすでに実力者として名声を得ているコームであった。

 

『使用ポケモンは各々3体!水のフィールド、第3試合開始〜!!』

 

「It's show time!サトシくん、勝利をありがとう!」

 

「どこまでもキザな奴だぜ!そう簡単には…!」

 

『くぉらぁ、ジャリボーイ!!』

 

 『曲芸師(ジャグラー)』の異名を取るほどの実力者と今年デビューのルーキー…その試合の下馬評は言うまでもなくコーム優勢であった。

 

「なんだぁ?」

 

『そんな軟派な奴に負けるんじゃないわよ!ビシッといいけぇ〜ビシッと!』

 

『いつもの根性でいけ根性で〜!』

 

「ロケット団!?」

 

「何故あんなところに…?」

 

 そんな強敵をいきなり迎えたサトシに思わぬところからエールが入った。

 端正な顔立ちに赤いバンダナの青年のキザで自信過剰な振る舞いに思うところはないではなかったサトシだが、それ以上にロケット団にもコームは業腹な存在であった。

 いつもの悪巧みのためにスタジアムに潜入していた折に袖に振られ怒りに怒っていたのだ。

 

 

 

「試合自体はクラブが、進化したキングラーが頑張ってくれたんだけど、俺としてはあの試合のあの人の実力が全力の全てだったとはとても思えなくてさ。」

 

 ナッシー、シードラ、ゴルバット…コームが繰り出して来るポケモンたちを相手取り、サトシにリーグ戦初勝利をもたらしたのはピカチュウや当時主力のフシギダネ、ゼニガメらのいずれでもなくそれまで研究所に預けておいたクラブであった。

 事前に水の溜め込まれたフィールドが試合の舞台と通知されていたが故の選出でハッスルしたクラブは初戦でナッシーを倒し、その経験値からキングラーへと進化。

 手にしたパワーで続くシードラとゴルバットも薙ぎ払って見せたのだ。

 が、ポケモンリーグとはその場を切り抜けることだけ考えてどうにかなるほど甘い世界ではなかった。

 トレーナーごとに総戦力との相談を都度重ね、決勝まで安定したパーティ編成を構築し続けねばならない。

 サトシを相手にしてのコームに慢心がなかったというのは嘘だが、それでも長丁場になるリーグの戦いを切り抜けていくためのプランとしてルーキーを相手にここぞというメンバーを出し惜しみできるかといえばそれは否である。

 そう、サトシは思っていた。

 

「リーグを勝ち抜くのは大変だってシロナさんも言ってたな。」

 

 いくらか親交のあるシロナもまた、リーグ挑戦における戦力の維持に苦心させられたとはヒカリも聞いていたのでサトシに同調する。

 それでなくても不意にダークライを持ち出して来る怪物もポップしてきたものね…と言うのは口には出さなかった。

 

 

 

「よろしくお願いします!」

 

「こちらこそよろしく。チャンピオン。」

 

 フィールド中央で健闘を誓い合う握手。アランと違い見た目や立ち振る舞いは誤魔化せてもアイリスもまた戦う前からやはり疲労はしていた。

 それぞれトレーナーサークルへ向かう足取りが僅かに重い。

 

「これよりPWCSランクマッチ、マスターランク第6位アラン選手vsマスターランク第2位チャンピオンアイリスの試合を行います!!ルールはシングルバトル"6C3D"!メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルはそれぞれどれか1つを1度のみ使用可能とします!!」

 

 審判のコールと共にスタジアムには客席保護用のバリアフィールドが展開。内部に覆われた中に人工ガラテラ粒子が散布される。

 コレでダイマックスやテラスタルもフィールド内で発動可能になった。

 

「アラン!あなたと戦える日をずっと待ってたわ!この娘がどこまでやれるか試したかったから、ねッ!!」

 

 同時に投げ込まれるモンスターボール。アイリスが勢いよく繰り出すは…

 

「ぐるぅぅぅおおお!!」

 

『チャンピオンアイリス!リザードン使いとして知られるアラン選手を相手にリザードンを投入!昨日のコーム選手とのランクマッチではこのリザードンによる3連勝からの本日続けざまの先発です!!対するアラン選手は?』

 

「んばぁぁぁぁぁ!!」

 

『ミラーマッチには乗りません!アラン選手の先発はバンギラスッッッ!!』

 

 確かに移動からすぐまた試合の疲れは抜けていない。それを補って余りある気力がアイリスとリザードンには満ち満ちていた。

 疲れからハイになっているだけとも言えるが。

 

「バンギラス、ストーンエッジ!」

 

「んばんんんんんッ!!」

 

ガガガガガッ!!

 

 ドシン!右足を大きく踏み込めばフィールドの土壌を突き破るように石柱がリザードンめがけ迫る。

 

「来るわよリザードン!"揺竜演舞"から突撃ッ!!」

 

「ぐるう〜!!」

 

 『揺竜演舞』…りゅうのまいの応用でさながら風に運ばれるがままの紙のようにリザードンは石柱のラッシュを掻い潜ってゆく。

 

ギュウン!

 

 ストーンエッジをやり過ごせば、そのまま翼を広げて空中に身を踊らせるリザードン。

 青白いドラゴンエネルギーによってリーチを伸ばした両腕の爪を突き出し、赤黄色のボディを錐揉み回転させながらの一撃は…

 

「スクリュー・ドライバーか!」

 

 先発のリザードンに加えてスクリュー・ドライバーを仕掛けて来る…それはことごとくアイリスからの挑戦状。

 かつてサトシを破った相手に対し、立場の違いなど関係なくなりふり構わず勝ちにいくというアイリスの意思の表れであった。

 

「ばばばんんん…!」

 

 錐揉み回転で突っ込んできたリザードンの爪がバンギラスのお腹にヒットする。

 

「そのまま抑えながらだバンギラス!ストーンエッジ、で…ッ…!?」

 

 激しいスクリュー回転の前に吹き飛ばされたバンギラスの巨体が倒れ込む。

 計算としてはリザードンの動きを止め、そこにストーンエッジを叩き込む算段だ。それ自体に作戦としての穴はなかった。

 

「ば、んぎぁッ…!」

 

「バンギラス、戦闘不能!リザードンの勝ち!!」

 

 ただ、それを実行するバンギラスが前提条件としてパワーアップしたリザードンのスクリュー・ドライバーを耐え切るのは不可能だっただけの話である。

 

 

 

アラン、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

アイリス、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。

 

 

 




 『コーム』
 21歳。ポケモントレーナー。
 曲芸師としての側面を持ち、高い人気を持つ美青年。
 サトシのリーグ戦における初めての相手であり、彼との試合から長く続くリーグの戦いが始まったと言える。
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