3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 アイリスとアランの試合が終わり、祭り帰りのサトシとヒカリは『赫月』にやられてしまったヤマさんが救急車に担ぎ込まれるのを見る。
 思った以上に大事だと感じた2人はシンジへ同行を打診。
 渋々応じたシンジだが、彼らの後を追っている者がいた。


ROAD TO THE TOP ヒスイの息吹、赫月を求めて

「なるほど。ヤマさんが不覚を取るわけだ。」

 

 自分たちを尾けてきた少女はサザレと名乗り、彼女の語る経緯はシンジにヤマさんのリタイアをある程度納得させた。

 

 

 

 シンオウ地方から村の夏祭りシーズンに合わせて避暑旅行に出ていたサザレは、事前にネットで赫月の情報を仕入れ、その激写に情熱を燃やしながらキタカミの里にやって来た。

 昨日はキタカミセンターでの祭りの騒ぎに乗じて両親の目を盗んで上手いこと抜け出し、捜索のヤマを張った森林地帯へ足を踏み入れたまではよかった。

 

「ぐわああああーーーーッ!!」

 

 突如放たれた真っ赤な光が迫るところに野太い声の主が光を遮り、次の瞬間にはその身が焼かれていた。

 

「あ、ああッ…!」

 

「ぐぅッ、な、なにしてる嬢ちゃん。早く逃げねェか…!」

 

「おじさんこそ!」

 

「俺ァ逃げないぜ。やっと見つけた獲物だ、絶対ゲットしてやるぜ!いけぇドサイドン!!」

 

 『赫月をゲットする』…その思いに嘘はないのだろう。

 それと同じくらいその身を盾に自分を逃がそうとしてくれている、そんな心意気が恐怖とないまぜになってサザレの足を出口まで抜け出させた。

 

 

 

「俺もこいつらもお前の親じゃあない。今回のやらかしは、帰ったらご両親に説明して教育指導は一任する。」

 

 昨晩の顛末を聞かされてのシンジの決断は、ひとまずはサザレを側に保護しておくというものであった。

 彼女をダシにサトシとヒカリ、最悪どちらか片方だけでも村に送り返すことも頭によぎったが、それで素直に帰るタマだとも思えなかった。

 ここで無駄な騒ぎを起こされ、赫月の警戒心を強めさせてしまうことで身を潜められてはそれこそ捜索が難航すると踏んだのだ。

 当然、ポケモンを持っていないサザレを夜道に1人で帰すのも危険だった。昨日赫月以外の他の野生ポケモンに襲われずに済んだのはたまたまに過ぎないだろう。

 

「帰らなくて…いいの?」

 

「俺たちも出来る限りの保護はするがターゲットの全貌を掴んでいるわけではないからこの先何が起こるかは分からん。怖い思いをしても知ったことではないし、帰ったらご両親にたっぷり叱ってもらう。」

 

 シンジとしては、昨日襲われてすぐにこうしてまた森へ足を運ぶサザレのガッツそのものを殊更否定する気にはなれなかった。

 かく言う自分自身もポケモンをもらう前に自宅のトバリシティから夜の215番道路へひっそりと抜け出し、野生のポニータに追いかけられ危ういところで兄に助け出されたことがあった。

 今思えば両の頬を引っ叩かれるのも当然の愚行だと思えた。

 

「ヒカリ。サザレのこと頼んだぜ。」

 

「りょーかい!」

 

「ぽっちゃ!」

 

 シンジにしては柔軟だなと内心思いながらサトシはその決断を支持する。

 とりあえずサザレのことは同じ女の子同士、ヒカリに任せるとして森の中へと踏み入ることにした。

 

 

 

 とこしえの森の西部にはキタカミ原生地域にある川が流れ落ちてできた小さな湖が出来ている。

 水辺というのは野生ポケモンにとって重要なライフラインであるのはいうまでもない。

 サトシたちも湖の近くにテントを張ることにした。

 人の社会からも異名を取るほど力のある怪物だ。野生ポケモンの中でも恐れられ、絶好のスポットを周りから奪い取っているであろうという予測からだ。

 とはいえ設営してしまった後は張り込むよりない。周囲を捜索する前に腹を満たす為夕食を摂ることにした。

 ポケモンたちもここでは隠密活動が優先である為派手な宴はせず、主人の下でおとなしくポケモンフーズを齧るのみだった。

 

「アレは、バスラオかな?」

 

「イダイトウだ。」

 

「ぴかぴちゅう?」

 

 赤色の筋や斑点が現れ、頬と下顎に魂魄を髭のように付着させ湖を泳ぎ回るポケモンはサトシの初めて見るポケモンであった。

 隣り合わせて作ったテントより出て来たシンジの発する名前にピカチュウは首を傾げる。

 

「このキタカミの里にはヒスイ地方からシンオウ地方になってゆく過渡期に海を超えて逃げて来た絶滅種がいくらか生息している。奴もその内の一部だろう。」

 

「詳しいんだな。ヒスイ地方のポケモンのこと。」

 

「…オーキド研究所でのランクマッチの後に調べて分かったことだ。キクコさんの祖先はどうやらカントーからヒスイにかけて名の知られたポケモン使いだったらしくてな。その人の遺したらしい書物の中にイダイトウのことも書いてあった。」

 

「そっか。キクコさんの…。」

 

 そう語る内に赤色の個体の側に水色の筋や斑点が現れ、口元は魂に覆われて青い口紅をつけたように見える個体が寄り添い、大きな2体の周りを遠目には上顎部分から2本の白筋が背中を通って尾びれまで伸びている小さなおんこうポケモンバスラオが泳いでいる。

 赤と青のつがいがこちらを睨んでくれば、サトシとピカチュウは手を振り敵意のないことをアピールする。

 それを見たおおうおポケモンイダイトウは、とりあえずはサトシたちのことは捨て置く判断をしたようで特に何もしてこない。

 

「絶滅…してるんじゃあないのか?」

 

「所詮は人類が確かめられる領域。観測にも限りはあるということだ。」

 

 この返しは今のサトシと全く同じ疑問をぶつけた際、返ってきたキクコのものをそのまま使っている。

 そんなやり取りなど知る由のないサトシは、そのままシンジの見識として受け入れていた。

 

 

 

「ねぇサザレちゃん。サザレちゃんはどうしてアカツキの写真を撮りたいの?」

 

 テントの中から入り口を開け、湖に映る月明かりを見ながら簡素なカップヌードルを啜るヒカリはふとサザレに尋ねる。

 それは彼女の身の安全の確保にばかり目を向けていたサトシとシンジが触れなかった部分の問いであった。

 

「ん…。んー…。」

 

 サトシたちが外で見ていたイダイトウらの姿を何枚か撮るサザレはヒカリを向きううむと頭を掻いた。

 

「パパとママに褒めてもらいたい…は違うんだよね。えーと、なんなんだろう?」

 

 見守る目を掻い潜っての好き放題から危ない橋を渡ることをして喜ぶ親ではない、とはサザレ自身も両親のことを把握はしている。

 それでもこうして飛び出すことを止められないのを上手く言語化できないのは、幼さ以上に本能的な欲求に根ざしているのではないか?そうヒカリは見た。

 その欲求自体分からない話でもないからこそサトシもシンジも頑なに帰す選択はしなかったのかなとも思う。

 あの2人のことだ、いざとなれば自分たちで体を張ればどうにかなると言う算用を立てているくらいのものなのだろうが。

 

「「「ばぁっすぅぅぅ〜〜〜!!」」」

 

 そんな時だった。湖でぶらぶら泳いでいたバスラオたちが騒ぎ出したのは。

 

「何!?」

 

「バスラオたちが網にかけられてる!!」

 

 普段から写真を撮るのが好きな分視力も良好で夜の景色に視野が慣れてる分サザレの指摘は早く、的確だった。

 

「サトシ!シンジ!」

 

 テントから身を乗り出しながらヒカリが叫べば、すでに2人は臨戦体勢に入っている。

 

「お前のピカチュウを狙ってるふざけた奴らか?」

 

「ロケット団なら真っ直ぐこっちにしかけてくるよ。」

 

 それはサトシから見たお騒がせチームの確かな変化であった。

 3年前のロケット団は徐々に公式戦の邪魔立てこそしなくなっていったが、そう言う場所以外では普通に襲って来ていたし、それ自体は今も変わっていない。

 ただ、この3年間の中で彼らの活動指針がより先鋭化されているのをサトシは感じていた。

 以前のロケット団は度々ピカチュウ以外のポケモンを奪おうとしていたこともあったが、今の連中は端的に言うなら、ピカチュウゲット以外の目立った悪事は見た限りしなくなったのだ。

 そのピカチュウゲットこそがサトシからすれば迷惑千万なことから嫌な奴らであるのも依然据え置きなのだが…。

 

「兄貴ィ〜!大量ですぜ!」

 

「むっふふふ!絶滅危惧種のバスラオとイダイトウ!こいつぁ高く売れそうだなぁオイ!!」

 

 そんなサトシの推察通り、バスラオたちを捕まえる不埒者はロケット団のお騒がせチームではなく、ゴロツキのポケモンハンター集団であった。

 

「「いだぁぁぁぁぁい!!」」

 

 我が子が網にかけられ激昂するイダイトウに頭目らしい男が銃を向け発射する。

 収束された粉塵を吹きかけられたつがいは水面に体を打ち付けてしまう。

 ポケモンのねむりごなを加工しての特殊催眠弾だ。

 

「へへ…流石は占いで未来を見てるとか抜かす連中が作ったモンだ。いい技術力してるぜ。」

 

「お前たち!イダイトウたちを放せ!!」

 

「ぴかぴかちゅう!!」

 

 そこに駆け込むサトシとピカチュウ。シンジもあからさまに不快な表情を向ける。

 

「なんだぁ?正義の味方のつもりかぁ?」

 

「兄貴!兄貴!マズイですぜ!あいつ、ワールドチャンピオンのサトシでさぁ!」

 

 子分からの耳打ちに頭目はギョッとする。

 改めて面構えを確かめれば、なるほど確かに見かけたツラだと頷くよりなかった。

 

「モンスターボールによる育成目的以外のゲット及び、ポケモンを強引に拘束する形での捕獲…それを高値で売りつけるのは"ポケモン保護法"における重大な違反行為だ。お前たちの行為は見過ごせん。」

 

 虫唾の走るクズどもめ、そうシンジは吐き捨てた。

 自分のもとで活動していくに足りぬポケモンを『使えない』と切り捨てるスタンスは変わらないが、ジムリーダー以前にポケモントレーナーとして根本的には真っ当な精神を有しているのもまた同様に変わらないのだ。

 

「兄貴たちに抵抗すんじゃねぇ〜!こいつらがどうなってもいいのか〜!」

 

 背後からの声で振り向けば、そこにはヒカリとサザレを連れ出しナイフを突き付けるゴロツキがいた。

 ヒカリが『ごめん!』と申し訳なさげに視線をサトシに向ける。テントの中にいて外にいた別動隊の存在に気付くのが遅れたのだ。

 腹ごしらえを済ませておねむになったポッチャマをボールに戻していたのも不味かった。

 

「でかしたぁ!!さぁ兄ちゃんたち、ボールをホルダーから外して両手を挙げてもらおうか。」

 

 形勢逆転、ここぞとばかりに頭目が下卑た笑みを向けてくる。

 

「(2.300mくらいか…。)」

 

 サトシはヒカリたちとの距離をザックリ計算し、ピカチュウと僅かに頷き合う。

 この距離ならばでんこうせっかの最大スピードで飛び込めばどうにでもなる。

 ヒカリとサザレさえ救い出せればこいつらに容赦する必要もないのだ。

 

「ぴぃかぁ…!」

 

 『やるか!』と、呟きながらピカチュウは四つ足に力を込め飛び込まんとする、その時だった。

 

キィィィン…!

 

 エネルギーの収束音が研ぎ澄まされた聴覚に届く、刹那…

 

ボビィィィィィィィ!!

 

「うわ!?な、なんだぁ〜!?」

 

 赤い閃光が頭目たちハンターを襲った。

 

チュドオオオオン!!

 

 イダイトウらを搬入するつもりであったろうトレーラーを閃光が撃ち抜き、爆散させる。

 

「「いだ!?」」

 

 その轟音でイダイトウのつがいも目を覚ませば、すぐさまその牙で我が子たちを捕らえる網を噛み破って見せた。

 

「「「ばすばすばす!!」」」

 

 解放された我が子たちが湖へ飛び込むのを見届けてからつがいもその後を追う。

 瞬く間にイダイトウらが水底へ退避する水面には、『赫い月』が浮かび上がっていた…。

 




 『サザレ』
 8歳。写真撮影が趣味の女の子。
 『赫月』の激写のために動き回っていたが襲われてしまい、ヤマさんに助けてもらった。
 根は家族思いの良い子だがいたずらっ子で、自分のやりたいことを優先してしまうところがある。
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