3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 カメラ小僧ならぬカメラ小娘のサザレをなし崩し的に迎え入れ、張り込みをするサトシたち。
 そこに現れたポケモンハンターたちと一悶着している中、闇夜を照らす『赫い月』が姿を現すのだった。


ROAD TO THE TOP 赫月襲来、月下の三熊

 サトシとシンジは見た。こちらを小高い丘より見下ろす『赫い月』を。

 人間を覆い隠さんばかりの巨体に、気だるげにも見えるガチグマの愛嬌とはまるで違う。

 目が吊り上がった人相は強面さが増し、月明かりが薄い茶色の体色をバックより照らしていた。

 

「ワギュウウウ…!」

 

 見るものの目を奪い、本能的な恐怖を掻き立てる左目は不気味に輝く緑の黒目がギラつき、ポケモンハンターたちを震え上がらせるのを、ヒカリは見逃さなかった。

 

「そぉい!」

 

キーーーン!!

 

「ぼぎょぅはぁ〜〜〜!?」

 

 利き足を使い、渾身の力を込めた蹴り上げが、ゴロツキの金的を撃ち抜く。

 

「サザレちゃん!」

 

「う、うん!」

 

 股間を押さえながら前のめりに蹲るゴロツキを一瞥することなくヒカリはサザレの腕を掴み、一目散に走った。

 

「ぴっかぁ!」

 

 そこにピカチュウが駆け付けサトシの元までエスコートする。

 

「大丈夫かヒカリ?サザレ?」

 

「ダイジョーブ!」

 

 襲われた時点でサザレの身の安全を考慮し、あえて抵抗していなかった分外傷はなし、とヒカリはニッコリアピールする。

 サザレの方は、姿を見せた赫月に完全に目を奪われていた。

 

「ワギアアアアアアア!!」

 

 そんな赫月の咆哮が森の木々を激しく揺らす。

 

「なんであいつ、ここにやって来たんだ?」

 

「さぁな。大方、あのイダイトウ…というよりはバスラオが奴らにとってちょうどいい餌だったんだろう。」

 

 ガチグマもイダイトウも絶滅危惧種のポケモンである、というのはあくまで人間側の都合でしかない。

 自然界で生きているのならば捕食者と被捕食者という立場に分かれて生死を、種の存続を賭けて争い続けねばならない。

 で、あるからこそハンターどもに『餌』の供給元であり、『餌』そのものでもあるイダイトウらを攫われるのを嫌ったというのがとりあえずシンジとしては理屈として通る話だった。

 サトシとしては、シンジが『奴ら』と形容したことに引っ掛かったが、その引っ掛かりもすぐに解消されることとなる。

 

「う、うわぁ〜!!」

 

「た、助けてくれ〜!!」

 

「「わぁぁぁぎぃぃぃ!!」」

 

「ガチグマ!?」

 

 サトシとシンジが対峙していた頭目たちと、ヒカリとサザレを人質にしていたゴロツキ…湖を右手側に前後に展開していた不埒者どもの背後からガチグマが巨体を現していた。

 先程の赫月の咆哮は、この2体の仲間を呼び寄せる合図だったのだろう。

 

「俺は赫月とやる!お前たちはガチグマ2体を止めろ!!」

 

 シンジにサトシとヒカリは同時に頷く。

 シンジとしては当初の予定通りの流れとなり、サトシとヒカリとしてはいかにポケモンハンターどもが悪辣とはいえ、ガチグマの手にかかって本来精算すべき罪を償わないまま逝くというのは話が違った。

 ジュンサーさんに突き出す前にやられてしまっては困るのだ。

 

「いくぜヒカリ!」

 

「オッケー!」

 

「「マグマラシ!!」」

 

「キミに決めたーッ!!」

 

「チャーム・アーップ!!」

 

「「まぁぁぁぐぅぅぅッッ!!」」

 

 2人同時にボールを投げ込み、繰り出すは揃ってマグマラシ。

 牽制で吐きかけた炎が掠めれば、サトシたちへガチグマのターゲットが切り替わる。

 

「あ、兄貴!」

 

「なんだか助けられたみたいだな…今のうちにズラかるぜ!」

 

 ガチグマがマグマラシへ狙いを定め直した隙に逃げ出さんとするハンターたちだったが、その行く手を炎が走り遮った。

 かえんほうしゃが延焼し、さながらほのおのうずのように逃げ場を奪ったのだ。

 サトシたちからすれば連中がガチグマにやられるのは困るが、逃げられるのはもっと困る話だからだ。

 

「そ、そんな〜。」

 

 これには頭目含めハンターたちになす術はなかった。

 

「「わぎあああああおおお!!」」

 

 ガチグマが土色のじめんエネルギーを全身に迸らせながらマグマラシたちに前後より飛びかかる。

 背中合わせに向かい合うサトシとヒカリは、息をピッタリ合わせて頷きながらに指示を飛ばした。

 

「「マグマラシ、かえんぐるま!!」」

 

「「まぁぁぁぐるぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 マグマラシ同士その場でジャンプし、互いに黄色い体下半分を庇い合いながら後頭部と臀部の発火器官から炎を噴き出せば、そのまま勢いよく回転する。

 

「「フレイム・カウンター!!」」

 

シュバババッチィィィッ!!

 

「「わッぎぁ〜!!」」

 

 サトシとしては幾度か出場したことのある、ヒカリからすれば昔取った杵柄…そんなコンテストのノウハウがこの場のアドリブにて噛み合った。

 合体しながらのかえんぐるまにより迎え撃たれたガチグマは10まんばりきを弾き返され、背中から地面に落下してしまった。

 

「ぐうう…!」

 

「わぎゃう!!」

 

 どうにか起き上がった2体のガチグマは互いを見合ってから、勢いよく木々の只中へ走り出す。

 命あっての物種、とばかりに逃げ出していった。

 

「「イェーイ!!」」

 

パッシン!

 

 ガチグマを追い払い、ポケモンハンターどもを無力化させられたのでサトシとヒカリはハイタッチする。

 

ピカァァァァァ…!

 

「ぴかぴ!ぴかか!」

 

 その時、不意に放たれる輝きを見たピカチュウが2人を呼び、目を向ければ、その中心にはそれぞれのマグマラシがいた。

 

「こ、これって…!」

 

「進化だ!!」

 

 先の戦闘がきっかけとなったのだろう。四つ足のマグマラシの体が光の中で起き上がってゆく。

 

「やったぁ!バクフー…んん?」

 

「ばくぁ?」

 

 やがて進化の光が収まり、姿を見せるのはマグマラシの進化系であるバクフーンだ。が、サトシのバクフーンはどこか様子が違っていた。

 ヒカリのバクフーンは大きくなった体格を自慢げに後ろ足だけで立って見せ自信満々だが、サトシのは背中の体色が黒から濃い紫色に変わり、本来背中側にだけあるはずの発火器官が、首回りを1周する形で増加している。

 体つきとしては前脚が少し大きくなり、二足歩行がしやすくなっているように見える。

 

「ばぁ〜?」

 

 その表情もヒカリのバクフーンのキリリとしたものとは違い、アイシャドウが入ったような垂れ目で耳も同じように後ろに垂らしている。

 総じて全体的なフォルムとしてバクフーンらしいのは伺えるが、明らかに通常とは異なる姿に進化していたのだ。

 

『データなし。謎のポケモン。』

 

 ポケモン図鑑アプリを起動し、向けてみるも解答は得られない。

 

「うーん…後でオーキド博士に聞いてみるか。とにかくやったな、バクフーン!!」

 

「んばぁ〜。」

 

 バクフーンと呼び掛けて人懐っこい笑みを向けてくるのでひとまずサトシとしてはそのまま進化を祝福することにした。

 分からないことがあったらば詳しそうな人に聞けばいいのだ。

 それよりこの場で気になるのは、やはりアカツキなのだ。

 

「アレが…赫月…!!」

 

 2人の側にて守られるサザレの視線は赫月の威容に圧倒され、シャッターを押すのも忘れていた。

 

 

 

「ワギイイイ…!!」

 

 牽制として互いに鋭い眼光を飛ばすシンジと赫月。

 決して視線をずらすことはないながらも思考を激しく巡らせていた。

 

「(群れを率いてバスラオを狙うのはいい。だが我が子を護らんと出向いてくるイダイトウはみず、ゴーストタイプ…ガチグマのハイパワーを活かしたノーマル技は効かんし、じめんタイプである以上逆に弱点を突かれるのはガチグマ側だ。にも関わらず捕食者としての立場が成り立つ理由を挙げるなら…!)」

 

 ホルダーからボールを取り出し、右手に取る。

 

「(試すか…!)ユキメノコ、バトルスタンバイ!!」

 

「めのぉ…!」

 

 シンジが繰り出したのはゆきぐにポケモンユキメノコ。

 純白の振袖を纏った女性のような姿をした艶かしいフォルムで降り立つもその足は僅かに宙に浮かんでいる。

 ゴーストタイプ特有の浮遊能力だ。

 

「撹乱しろ。ゆきげしき!」

 

「めぇのぉ!」

 

 両腕の間に凝縮されたこおりエネルギーを発生させ、空高く打ち上げる。

 すると飛散したこおりエネルギーは雪となり、この場をゆき状態へと天候変化させてゆく。

 

「シンジのやつ、ユキメノコで素早く攻めるつもりか!」

 

「ぴぃかぁ…!」

 

 『あの女には手を焼かされた』…3年前のシンオウリーグでの対戦を思い出しピカチュウは呟く。

 

「めの!めの!」

 

 ユキメノコは目まぐるしく飛び回り、時に透過能力を使って姿を消しての撹乱に対し赫月はと言うと、彼女の動きを負いながらも精神を統一させてゆく。

 

「めいそう、か…。」

 

 翻弄されているのか、されたフリなのか…その答えは攻めの一手を打てば分かると見た。

 敢えてシンジは、動く!

 

「ふぶき攻撃ッ!!」

 

「めんぬぉ〜!!」

 

 赫月の背後に姿を現すユキメノコが全身からこおりエネルギーを発散させ、強烈なブリザードを放つ。

 冷風が巨体の身を打つも、赫月が確かにユキメノコの動きを捉えているのをシンジは見た。

 

「ワァァァ…!!」

 

 額の赤い紋様が怪しく輝く。そしてすぐさま、

 

ボビィィィィィィィ!!

 

「め、のぉ〜〜〜!?」

 

 強烈な光線となりユキメノコを呑み込んでいった。

 

「あぁっ、ユキメノコが!!」

 

 赤い光線にやられ、倒されたユキメノコにヒカリが狼狽える。

 普段のシンジならば煩わしいことこの上ない外野の反応であったが、今この時に関してはそんなことはどうでもよかった。

 

「戻れ。」

 

 ユキメノコをなんら感慨なさげにボールへ戻す。

 疑念は確信に至った。そのための犠牲として機能したのだ。シンジとしては彼女も役に立ったと言える。

 

「(間違いない。奴にはゴーストタイプの実体を捉える力がある。その鍵を握るのはあの左目…さしずめ"しんがん"といったところか。)」

 

「ワギャアアアアアッ!!」

 

 確信を得たシンジ目掛け、赫月は振り上げた両手の間に凝縮させたフェアリーエネルギーの弾丸を撃ち放つ。ムーンフォースだ。

 

「危ないッ!」

 

 シンジが呆けてるように見えたヒカリがポッチャマのボールを出そうとするのをサトシが制止する。

 無言で首を振るのは、コレはシンジのバトルだから、という主張だ。

 同時に、これしきでやられるようなやつでもないとサトシなりに確信あってのことである。

 

「バトルスタンバイ!」

 

バシィッ

 

 続けてシンジが投げたボールより飛び出す影がムーンフォースを蹴り上げた。

 

ドゴオオオオオン…!!

 

「りるぅ…!」

 

 空高くで爆散するムーンフォースがゆきげしきをかき消し、降り立つのはマリルリ…シンジはビシッと赫月を指差しながら高らかに告げる。

 

「喜べ!お前は合格だ!野生の中でぬるい暮らしをしているのが勿体無いくらいに"使える"奴だ!これから俺がゲットして、最強のポケモンにしてやる!!」

 

 改めてのゲット宣告。

 これほどまでにポケモンゲットにテンションが上がったのは、とてつもない『もうか』のパワーを見せたヒコザル以来だと胸中にてシンジは思う。

 結局その子とは折り合いがつかず別れたが…というところでその思考は振り切る。赫月を相手には関係のないことだ。

 

「ワギャアアアアアアア!!」

 

 額の模様を輝かせながら赫月は咆哮。

 『誰がお前になど捕まってやるものか』、そう如実に切り返していた。

 

「サザレちゃん?」

 

「はうあ!!」

 

 赫月に圧倒されっぱなしだった肩をヒカリがポンと叩けばポカンとしていたサザレの意識が引き戻され、ビクリと跳ねる。

 

「いいの?撮らなくて?」

 

「撮って、いいの?」

 

「そのために来たんでしょ?」

 

 それはそうだが、とサザレはヒカリからサトシ、そして戦況へと視線を泳がせる。

 ここに来て自分を守るように立つ2人は、戦うシンジが致命的な不手際を打つなどとはこれっぽっちも考えていないことに気付いた。それだけ彼の腕を信用しているのだろう。

 そっと一眼レフを構え、シャッターを押す。

 カシャリという撮影音は、赫月の耳には入っていないようだった。相対する男に神経を集中させているのだ。

 

「マリルリ、距離を詰めろ!アクアジェット!」

 

「りぃる!」

 

 みずエネルギーを纏いながらマリルリが赫月の懐へ飛び込んでゆく。

 先制技による超スピードへギョロリと左目が妖しい輝きと共に追従している。

 額の紋様が赤く光り出すのは必殺の一撃の予備動作である。

 

「みずびたし!」

 

「りるるるる!」

 

 2体が組み合えば互いの怪力を比べ合う。

 その中でマリルリは体を震わせ、至近距離から大量の水を赫月へ浴びせかけた。

 

「みずでっぽうでもハイドロポンプでもない!?」

 

 じめんタイプにみずタイプの技は効果抜群だ。だがそれはあくまで攻撃技の話。

 勢いのない、ただ単に水を浴びせかけられただけではどうにかなるものでもない。まして相手は赫月なのだ。

 

「シンジには何か考えがあるはずだ。」

 

「ぴぃか…。」

 

 ヒカリの反応にサトシはポツリと呟く。

 

ボビィィィィィィィ!!

 

「りる〜!!」

 

 そこで赤い光線が放たれ、今度はマリルリを吹き飛ばす。

 卵型のボディが吹き飛ばされ、ポヨンと尻餅から跳ねてうつ伏せにお腹で着地しては、グロッキーながら辛うじて戦闘不能にはなっていないようだ。

 

「戻れマリルリ。」

 

 そんなマリルリをシンジは引っ込める。

 鋭い眼光は次のボールを構えながら赫月の細かい見立てを進めていた。

 




 『サトシとヒカリのハイタッチ』
 シンオウ時代からの2人のコミュニケーション。
 ある時は互いの勝利を、またある時は困難を乗り越えてその度に繰り返してきた。
 ハイタッチの数を重ねるたび、2人は友情を深めてきたのだ。
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