3 years later〜虹の向こうに〜 作:nami73
2体のガチグマはサトシとヒカリのコンビネーションの前に退散し、残すは赫月のみ。
その赫月の手強さを気に入ったシンジは、真っ向からゲット宣言をするのだった。
「(あの額から放つ赤い光線は一見ビームのようだが、その実は奴自身の闘気が凝縮されているものと見た。故に強力無比な反面連発は効かぬようだな。)」
バッ、とボールを放り投げる。次で決めるという確信と共に。
「パルスワン、バトルスタンバイ!」
「ぱわおーん!」
黄色と白を基調とし、四つ足部分が黒い体色の猟犬然とした勇ましい犬型のポケモンにサトシは図鑑アプリを開く。
『パルスワン。いぬポケモン、ワンパチの進化系。電気を作って脚に送り、走りをアシスト。三日三晩休まず走れるのだ。』
「ぴかかぴ?」
「ワンパチの進化系なんだって。」
ワンパチと言えばサトシとピカチュウに馴染みがあるのはやはりサクラギ研究所にいた個体だ。
コハルと仲良くしていたのを覚えている。
「いけッ!」
「ぱわう!」
シンジの号令に従いはパルスワンは駆ける。
そのスピードはユキメノコやアクアジェットを活かしたマリルリ同様、いや、さらに上だった。
「ワァギィ…!」
赫月の目が動きを見失うことはない。パルスワンの小刻みな軌道にキッチリ追従している。
「やはりな…やはりお前は目がいい。故に!」
パルスワンは跳躍、飛びかかってゆく、
「"こちら"はそうでもないだろう!!」
「ぱわおおおおおおおん!!」
キイイイイイン!!
「ワッッッ…ギヤアアア…!!」
「な、何これ?耳が〜!!」
「ぴぃかぁ〜!」
「ううう…!」
「く、は、ハイパーボイスだ!」
飛びかかったパルスワンのシャウトが森中に響き渡る。
バトルを見守るサトシたちですら耳を抑える威力である。至近距離から浴びせられた赫月としてはたまったものではなかった。
視覚狙い…と見せかけての聴覚狙いだった。
ボビィィィィィィィ!!
迎撃の為に放つつもりであった赤い光線が夜空へ暴発する。
両手で耳を塞ぎ、その双眸もほとんど零距離からの爆音で閉じられてしまっていた。
「ぱわぁう!」
「よし…!」
ハイパーボイスの反動を利用して軽やかに空中でバランスを取り主人の手前に舞い戻るパルスワン。
そこでシンジは既にゼンリョクポーズを決めていた。
8月の真夏にも変わらずトレードマークの紫色の上着、その左袖からチラと見えるZリングがキラリと輝く!
「シンジ、Zワザ使えたの!?」
「デンキZか!!」
「ぴぃかちゅ〜!!」
シンジのZワザ自体に目を見開くヒカリ。
サトシは冷静にシンジのゼンリョクポーズから、放たれるZワザがスパーキングギガボルトであろうことを見抜いた。
「ぱうおおおおお!!」
「ゼンリョクで立ち向かうぞパルスワン!!共に自分より大きなものへ!!若さを燃え尽きない流星と変えてゆけ!!」
7色のZパワーがシンジより放たれ、注がれたパルスワンは真上に飛び上がり、空中で前転を繰り返す。
ギュオオオオオッ
強烈な縦回転に、パルスワンの牙から放たれる電撃が纏われるのはまさしく雷の弾丸!
「コレが俺なりのZワザ…スパーキングギガボルト、もとい!」
激しく揺さぶられた聴覚へのダメージから回復し、両目を開いた赫月の鼻先に、既に弾丸は飛び込んでいた。
ドシュアアアッ!!!
「絶・天狼抜刀牙!!!」
「ワァギヤアアアアア〜〜〜ッ!!」
激しく回転するパルスワンの牙が逃げ出そうとした赫月の背中を捉えれば、その巨体全身が激しくスパークする。
この時ヒカリは、先のマリルリのみずびたしが、パルスワンで大打撃を与えるための布石であったのかと合点がいっていた。
「今だ!モンスターボール!!」
全身からブスブスと焦げ臭い煙を立ち込めさせながら沈黙する赫月へシンジはボールを投げ付ける。
本来受けるはずのないでんき技による抜群ダメージのショックが赫月から抵抗力を奪い去っていた。
モニュモニュ…
モニュモニュ…
モニュモニュ…
赫月を閉じ込めたボールがピクピクと動作を繰り返し、
ポーーーン…。
やがて完全に静止する。シンジは軽く鼻で息を吐いた。
赫月は、シンジによってゲットされたのだ。
「やったなシンジ!」
「おめでとう!」
アカツキをゲットしたシンジに駆け寄るサトシとヒカリ。
心底鬱陶しげにフン、と鼻息を小さく鳴らすシンジはサザレを見る。
「撮れたのか?写真は。」
「うっ、うん。」
「ならいい。引き上げるぞ。」
目的は果たした。ならば長居は無用とテントを畳み、そそくさと撤収の運びへと移る。
残りのガチグマ2匹は放置する流れとした。統率役の赫月を失ったことにより、最早通常の野生ポケモンの域を越える脅威度を出すことは不可能であるからだ。
「「「ひぃ〜ん…!」」」
ポケモンハンターどもに関しては縛り上げたまま湖の近くに放置の形だ。
最寄のジュンサーさんに座標だけ伝えてサトシたちは森を後にすることにした。
ジュンサーさんが確保しにくるまで、イダイトウたちが不埒者を監視しているので湖に背を向け、来た道を戻ってゆく。
「ぴかぴ!」
行く手を遮るようにぬらりと横切る影にすかさずピカチュウが反応。
月明かりに照らされるのみで体色の全貌は掴めないが、見た感じベージュ色で、首や腹、脚や関節などの部位は白色をしているそのポケモンは、頭頂部の角や額から顎にかけての顔の外周、肩、斧、足にある2本の爪は黒色の岩で構成されていた。
ギョロリ!
ギラつく眼光を前にシンジはサザレの顔面へ左掌を差し出した。
『間違っても撮るな。』というサインにサザレも一眼レフへ伸びかけた手を戻す。
「ストライク?ハッサムかな?」
「バサギリだ。ヒスイ種。」
極めて簡潔に伝えてくるシンジの声色はただならぬ気配を察知していた。
言外に最初にピカチュウが見つけた以上お前が対処しろという旨を受け取ったサトシは1歩前に出る。
「こんな夜遅くに騒いじゃってごめん。キミのことを邪魔しに来たんじゃあないんだ。目的はもう済んだ、あとは帰るだけなんだ。」
敵意はない…サトシなりにそう伝えれば、バサギリは向けた視線を戻し、一行の前を左から右へ横切って森の中へ姿を消す。
その首には、草を結んでモンスターボール?のような何かがぶら下げられていたがとても聞ける雰囲気ではなかった。
「帰ろっか。」
「ぴぃか。」
ふぅ、とひと安心しながらサトシたちはスイリョクタウンヘ戻るのであった。
「ウチの娘がご迷惑をおかけしました…これから怪我をした方のところにもお詫びに伺う予定でして。」
「そうですか。お嬢さんが無事でよかった。」
翌日、公民館で宿を取っていたシンジは呼び出され、サザレの一家から深々と謝罪を受けていた。
当のサザレはと言うと頬がパンパンに腫れている。よほどキツい折檻を受けたようだ。
彼女の両親が良識的な感性の持ち主でひと安心といったところである。
「たっぷり絞られたみたいだな?」
「うん!」
シンジにサザレは照れくさそうにニッコリ返す。
そうしてスイリョクタウンを後にするサザレ一家を見送れば、赫月をゲットしたことでシンジとしてもここに居座る用事はなくなった。
となればトキワシティへ帰るのみである。
「えっ、シンジ帰っちゃったんですか!?」
その日の昼、サトシとヒカリが公民館を訪ねた時にはシンジは既に村を発っていた。
赫月周りの話におしかけで助太刀するために無理な寝溜めを敢行した結果昼過ぎまで寝てしまっており、見送りも出来なかった形である。
シンジからすれば必要ない、の一言であるが。
「チャンピオンさんへ言伝を預かってまして。」
2人に応対する眼鏡をかけた村の管理人はゴホン、と息を整える。
「"俺は必ずマスターズトーナメントまで駒を進めてみせる。そこで死力を尽くしてやり合う時まで、誰にも負けるなよ"…だそうです。」
「ハハッ、シンジらしいや。」
「ぴかぴかちう。」
そのまま2人は特に用事もない公民館を後にする。
今回のことでシンジはアカツキをゲットし、より強大な戦力を確保した。
きっと戦う時は3年前とは比べ物にならない激闘になるに違いないとサトシの胸は踊った。
「ねぇサトシ。」
「ん?」
「あのバサギリってポケモン、なんか寂しそうな目してなかった?」
「してたな。」
あっさり首肯して見せるサトシ。
ポケモンのこととなれば黙ってられないサトシの気性をよく知るヒカリとしては、昨日のバサギリをただただ見送ったというのは不思議な話であった。
サザレを安全に送り返すため、という名目があるにしてもである。
「なんというかさ。あのバサギリの目は、誰か大切な相手をずっと待ってる…そんな感じだと思ったんだ。でもそれは、少なくとも俺たちじゃあない。」
「そっか…。」
自分たちの縁でないところに深入りはできない…そこまで聞けばヒカリはバサギリのことは納得することにした。
「サトシがPWCS頑張ってるのって、今度は対等な条件でダンデさんに勝つためよね?」
「そうさ。」
「それが出来た後は、なにをするとかあるの?」
ふと浮かんだ疑問をヒカリはぶつけてみる。
「んー…。」
サトシは空を見上げて思案に入る。
このパターンから大抵まともな返答は返ってこない…それは、シンオウ時代からの付き合いでヒカリが学んだことだ。
この時点で真っ当な回答が来ることは諦めていた。そんなサトシの足がピタリと止まる。
「ぴかぴ?」
「あれ…。」
主人の指差す先、虚空に浮かぶは青白い『穴』。
空間にヒビを作り開かれた『穴』は、遅れて見上げるヒカリを絶句させた。
「ぽちゃぽちゃ〜!!」
主人の足元で盛大にポッチャマがパニックになる。
「サトシ、アレって!?」
「ウルトラホールだ!!」
空間の裂け目は、ウルトラスペースとこちらの世界とを繋ぐ扉。
3年前、アローラ地方で一時的に多発していた怪現象がキタカミの里の住民たちを震え上がらせる中、サトシのスマホロトムに着信が入る。
「もしもし?」
「サトシ!今、シンオウの近くにいるんだったよな!?」
空を見上げながら通話に出る。相手はククイ博士だ。
「今エーテル財団の方から連絡があったんだ。お前がいるであろうエリアの近くにウルトラホールが発生したって!!」
「うん。目の前にあるよ。」
「あっ、何か出てきた!」
通話越しの会話を遮る形でヒカリが叫ぶ。
裂け目から舞い降りるは、蜂とドラゴンを混ぜ合わせたような紫色のボディ。
刺々しいフォルムに、立派な両翼。それら全てが紫色に染め上げられたポケモンのウエスト部分に掛けられている青と黄色のペンダントが、サトシとピカチュウの表情を明るくさせた。
「ぴかぴ!ぴかぴかちゅ!!」
「あぁ!!間違いない!アーゴヨンだ!!おーーーい!!アーゴヨーーーン!!」
「あ゛ぁ゛〜!!」
逞しい体付きとは裏腹の、異質な甲高い声と共に紫色のボディが喜び勇んでサトシへ飛び付く。
どくばりポケモンアーゴヨン。ウルトラビーストにカテゴライズされる1体で、サトシとは切っても切れぬ絆で結ばれた友達だ。
3年前に多発したウルトラホール発生及び、そこから派生するウルトラビーストの出現案件に対応するべくエーテル財団とポケモンスクール(というよりは荒事に対する経験豊富なサトシがメイン)が手を取り合って結成された『ウルトラガーディアンズ』の一員として学生生活の傍ら保護活動に明け暮れていたサトシと出会ったのが、当時は進化前であったベベノムの頃のアーゴヨンだった。
死の大地と成り果てた故郷に光を取り戻すための流浪の末に巡り会った『新たな家族』…彼らに背中を押され、本来の使命を全うしてからの、別れ。しばらくの後、ベベノムはアーゴヨンとなり再びこちらの世界にやってきた。
マナーロ・アイランドに飛来したあくじきポケモンアクジキングの鎮圧と、アローラリーグを制覇したサトシの続くエキシビジョンでの勝利のための貢献…全て故郷を救ってくれたサトシの恩義に報いるためにである。
「それでお前、どうしたんだよ?もしかして"かがやきさま"や仲間たちに何かあったのか?」
「あ゛ぁ゛〜ご。」
アーゴヨンが通り抜けたことでウルトラホールは閉じ、サトシたちはひとまず村から出て舞出山道の片隅にてピクニックがてらに話を聞くこととした。
サトシからすれば、アーゴヨンとまた会えたことはとても嬉しい。
しかし、この子がウルトラホールを開けてやって来るということはそれなりの案件も同じく起きていると考えるのが自然であった。
だが、アーゴヨンは首を横に振った。
『かがやきさま』…ネクロズマや同胞たちの住む世界に異変はないと言うのだ。
「ぴかぁ、ぴかっちゅ?」
『じゃあ何しに来たの?』、そうピカチュウが尋ねたところでサトシのスマホロトムが振動する。
PNTTにてチーム<マナーロ>の一員として活動している中で、とりあえずスマホロトムが何らかのアクションをしたらば中身を確認しろとシゲルに口酸っぱく注意され続けたのが流石に堪え、ようやく少しだけ身についたチェック癖。
その届いた内容にサトシはアーゴヨンに液晶を見せた。
「お前…"この人"と俺が戦うのを感じ取って、こっちに来てくれたのか?俺とまた、一緒に戦うために…!!」
「あ゛ぁ゛〜〜〜ご!」
アーゴヨンは液晶を見てから逆さに浮いてクルクルと横回転。
それは紛れもなく肯定。ベベノム時代から嬉しい時にする仕草だ。
「次のランク戦の相手?って、えぇッ…!?」
ヒカリも続けて液晶を覗き込めば、スカートに隠れた純白の中身も忘れてひっくり返ってしまった。
サトシの次なる対戦相手は、左目が隠れるの暗い青色の長髪に赤いマントを羽織り、ただならぬ雰囲気を醸し出す青年。
その名は…タクト。
『ウルトラホール』
サトシたちが住む世界と無数の異世界を繋ぐ空間。
異世界に住む異形のポケモンたちこと『ウルトラビースト』はここを通ってやってくる。
サトシが3年前に仲良くなったほしぐもちゃんやアーゴヨンもウルトラビーストとして扱われる存在だ。