3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 赫月をシンジがゲットし、里周辺を荒らし回っているという脅威は消え去った。
 入れ替わりで空に開いたウルトラホールから、サトシのアーゴヨンが飛来する。
 アーゴヨンは、過去最悪の相手との再戦を予期して助けに来たというのだ。


ROAD TO THE TOP ランクマッチ サトシvsタクト①

 キタカミの里での骨休めから約2週間の月日が経ち、8月から9月の初旬へと移り変わっての場所はシンオウ地方スズランスタジアム。

 今宵も客席は満員御礼。フィールドやスタジアム上空をドローンロトムが飛び回っていた。

 

「真夏の8月が過ぎ、明日のチャンピオンを夢見るトレーナーたちが各地のジムに駆け込みスパートをかける、いわゆる追い込みの季節となってゆくのはこのポケモンワールドチャンピオンシップスも変わりません!11月の終わりに期間終了を控えるランクマッチ、ここから先は一層負けの許されないデットヒートが繰り広げられるのです!!そんなマスターランクの重要な一戦の中継を放送席からお送りするのはこのジッキョーと、先月のPNTT…ポケモンナショナルチームトーナメントにおいて優勝監督となりました、解説にポケモン評論家のナンテさん!素敵なゲストには、シンオウリーグ四天王オーバさんにお越しいただいております!」

 

「よろしくお願いします。」

 

「おう!よろしくぅ!ナンちゃんはPNTTから仕事がぐぐーんと増えたみたいじゃあないの。」

 

「あっはっは。いやはや、チーム<マナーロ>様様ですよ。」

 

 オーバにナンテはホクホク顔をしながら頭を掻いて見せる。

 事実、ナンテへのポケモンバトルの解説としてのオファーはPNTT以降増加していた。

 

「さてお二方、早速ですが今回の試合どう見てますでしょうか?」

 

「このダークライ使いな。面白いやつだと思ってチャンピオンリーグに顔出したんだがなぁ…。」

 

 ううむ、と唸りながらオーバは呟く。

 あんこくポケモンダークライを従えた青年タクトは3年前、シンオウ地方のみならず、トレーナー界隈全体を震撼させた。

 ジム戦からリーグ戦まで瞬く間に快勝を重ね、圧倒的な強さでスズラン大会を制覇して見せたのだ。

 そんなニューカマーの存在を聞き付けウキウキでチャンピオンリーグに乗り込んだのはオーバだけではなかった。

 各地の四天王が噂のダークライ使いと一戦交えようと次々と参加を表明していく中、当のタクトはあっさりと参加を辞退。

 忽然と表舞台から姿を消してしまい当時の関係者は皆肩透かしを喰らわされていた。

 

「チャンピオンとしては、PNTTから続く因縁の対決が続きますから…やっぱり余計な力を抜いて、いかに自然体に近づけてのファイトが出来るかが鍵であり、同時につけこまれる要素になるかと。」

 

 そんなさながら台風のような男の猛威の前に、サトシもまた例外なく晒され、シンオウリーグ挑戦は敗退に終わっていた。

 

 

 

「ふぅー…。」

 

 PNTTの準決勝から続くリベンジマッチの連続は何かの巡り合わせだろうか…それが何か、何のつもりかは皆目見当もつかないし興味もない。

 サトシからすれば目の前の試合にゼンリョクを尽くす以外ないのだ。

 

「おっ!仕上がってるな〜ナイスバルク!」

 

「ぴかぴかかちゅ!」

 

 控え室にやってきたククイ博士はシャワー上がりのサトシとサムズアップを交わす。

 

「へへへ、いつ試合が来てもいいようにトレーニングしてあるからね。」

 

 ポケモントレーナーは個人事業主であり、いざという時にはポケモン愛護の観点からその身を挺してでもカバーリングに走らなければならない。

 サトシの身体能力はこの世界において特段飛び抜けて優れた物ではない。

 ワールドチャンピオンとなってから本格的な鍛え始めたトレーナー・マッスルは、13歳の秋を迎えますます隆盛真っ只中と言えた。

 しなやかさを中心に主張しすぎることなく、それでいて機能的な出力に特化した両腕でラットスプレッド・フロントのポーズを見せるサトシにククイ博士は頷いてからスッ、とモンスターボールを差し出す。

 

「今日に合わせてコンディションはバッチリだ。たとえダークライ相手でもやすやすとやられはしないだろうぜ。」

 

「ありがとう博士。バーネット博士とレイは?」

 

「来たのは俺だけさ。なんたって伝説のポケモンの技を見れるかもなんだ。この目で直接観察しなきゃな。」

 

「そっか。」

 

 ポケモンの技について研究を重ねるククイ博士にとってこの試合はまさに垂涎モノと言えた。

 パンツ一丁からいつもの服装に着替え、サトシは受け取ったボールをホルダーにセットする。

 感覚としてはそろそろ、というタイミングで相棒が肩に飛び乗ったところで、

 

「チャンピオン、入場お願いします!」

 

 スタッフからの通達がドンピシャで入り、サトシとピカチュウはニコリと笑い合った。

 

 

 

ウオオオオオッ!!

 

「ぽちゃぽちゃ!」

 

「出て来たわね!」

 

「流石は伝説のポケモンを持ったトレーナー…迫力あるなぁ。」

 

 客席の最前列、その一角にはチア衣装のヒカリ。

 その隣にケンゴがサトシの応援のために、そこから少し離れた場所へ控え室を後にしたククイ博士は腰掛けていた。

 

 

「青コーナー!マスターランク第6位!!シンオウリーグスズラン大会優勝、タクト選手、入場ォォォォォ!!」

 

 長髪の青年が放つただならぬ気配は極めて高純度に練り上げられた覇気として相対する者を威圧する。

 それでも実際に戦った者たちは口を揃えて彼を好青年と評した。

 ただ、伝説のポケモンに見初められる存在とするならむべなるかな、と間接的に聞いた者が捉えるよりないほどに、タクトという青年のことを誰も知らないのだ。

 

ドワオオオオオオオ!!

 

「素晴らしい…!」

 

 タクトは口角を吊り上げる。好戦的な中に爽やかさもない混ぜな笑みは、これからの待ち望んだひとときを前にした高揚からだ。

 

「赤コーナー!マスターランク第1位!!アローラリーグタイトルホルダー…チャンピオンサトシィィィィィ!!」

 

 

 

「サトシー!今度こそ勝ってよね〜!!」

 

「しかし相手はあのダークライ使いだからなぁー…いくらサトシでも今回ばかりは…。」

 

 顎に手を置きながらのケンゴはヒカリからの殺気立った視線に言葉を打ち切り、冷や汗を流しながらポンポンを振る。

 そんな幼馴染の『失言』を1度目は見逃してやるとして、ヒカリは入場するサトシへと視線を戻した。

 

 

 

『3年前にダークライ旋風を巻き起こしましたタクト選手はスズラン大会で優勝して以降表舞台から姿を消しており、今年のランクマッチにて突如エントリー!ダークライによる往年の圧倒的な強さはそのままで、あっという間にマスターランクまで駆け登って現在に至ります!そんな強敵を相手に、チャンピオンサトシはどんなバトルを見せるのでしょうか!?』

 

「あれから本当に…本当に腕を上げたようだね、サトシくん。今日は胸を貸してもらうよ。」

 

「胸を借りるのはこっちですよ。よろしくお願いします!」

 

「ぴかぴかぁ〜。」

 

 フィールド中央、両者互いの健闘を誓い合う握手の後にトレーナーサークルへ入る。

 すぐさま審判サークルにもジャッジが入り、両者と準備OKのアイコンタクトを取る。

 

「これよりPWCSランクマッチ、マスターランク第1位チャンピオンサトシvsマスターランク第6位タクト選手の試合を行います!!ルールはシングルバトル"6C3D"!メガシンカ、Zワザ、ダイマックス、テラスタルはそれぞれどれか1つを1度のみ使用可能とします!!」

 

「ぬん!」

 

 先んじてタクトが放るボールから繰り出されるは人魂のように揺らめき、頭部のほとんどを覆う長い白髪とそこから覗く青白い瞳、獣の下顎のような首回りに黒衣を彷彿とさせる漆黒のボディは、まさしく御伽話に出て来る死神のそれに近い…。

 

 

 

「いきなりであります!!あんこくポケモンダークライ出陣です!!タクト選手はこれまでのランクマッチを全てダークライ1体で勝ち抜いて来ております!!3年前の震撼、ワールドチャンピオン打倒により再び巻き起こすのか!?」

 

「どう見る?監督さん?」

 

「そうですね…ダークライは伝説のポケモンというカテゴリの中でもさらに希少性が高く、そのデータ量の不足ぶりはあのミュウにも肩を並べる幻のポケモン。一手打ち間違えればたちまちゲームエンドまで持ち込まれるのは当然として、攻めも守りも安直なものが通じるとも思えません。」

 

 

 

「さりとて搦め手に関してはそれこそダークライの方が1枚も2枚も上手だろう…なにせあの技があるからな…。」

 

 放送席のオーバとナンテ、客席のククイ博士、いずれもそう簡単にいく相手ではないとダークライを見る。

 そこらのポケモンとは桁違いのエネルギーに息を呑んだ。

 

 

 

「来たかダークライ。3年ぶりだな…俺はこいつだ!キミに決めたーッ!!」

 

ズシィィィン…!

 

 タクトに僅か遅れた形でサトシが投げるボール。

 中から出て来る先発ポケモンは、自身の重量を勇ましくアピールするようにフィールドへ降り立ちながら地響きを鳴らす。

 

「る゛ぅぅぅぅぅ…!」

 

 液体金属ボディで闘志満々に構えるはククイ博士からも万全とお墨付きを得ているナットポケモンメルメタル。

 ダークライは冷たく巨体を見上げていた。

 

 

 

「メルメタル…!幻のポケモン同士、確かに目には目をと言いますが…。」

 

「なんかまずいのか?」

 

「チャンピオンのトレーナー適性として強みが際立つのはどちらかと言えば小型、中型ポケモンを用いたスピードを活かしての機動戦です。それがメルメタルのような大型ポケモンではどうしても厳しくなる。」

 

「動きは大振りっぽいもんな、あいつ。」

 

 トレーナー適性云々はイマイチ頭に入って来ないオーバだが、見るからに鈍重そうなメルメタルが機敏なダークライに翻弄される絵面は容易に想像出来ていた。

 

 

 

『互いに幻のポケモン同士の対決!どのようなバトルとなるのかーッ!?』

 

「ダークライ、ダークホール。」

 

「ぬうッ!」

 

 左手に生成する漆黒のエネルギー球をダークライが投げ付ける。

 

 

 

「やはりダークホール!あの技がダークライの攻守の起点だ!」

 

 命中し、包み込む相手を眠りへと誘う黒球にククイ博士が身を乗り出す。

 どういう原理かは全く定かではないが分かることとすれば、当たれば事実上そいつはおしまいという点のみである。

 当たれば、だが。

 

 

 

「来たぞメルメタル!エレキフィールドッ!!」

 

「る゛びびびびぃぃぃぃッ!!」

 

「何ッ!?」

 

バチチチチチチチィィィィィッ!!

 

 ダークライの鉄板の動きとして相手を眠り状態へ叩き落とすダークホールが、メルメタルの全身より地面に展開されたでんきのエネルギーフィールドによってあっけなく霧散する。

 ナンテは目を見開き、大きく膝を打った。

 

 

 

「そうか、エレキフィールド!!いかにダークホールといえど、エレキフィールド下では相手を眠り状態には出来ない!!」

 

「見ろ!メルメタルが動いたぞ!!」

 

 

 

ドッシン!ドッシン!ドッシン!ドッシン!

 

「いっけぇーメルメタル!!」

 

「ぴかぴかぁー!!」

 

「る゛ぅぅぅぅぅ!!」

 

 まんまとダークホール封じを決めたメルメタルが巨体を走らせる。

 タクトはというとすぐに動揺を振り切った。これくらいの手は3年前の時点からしてきたのだ、サトシという男は。

 

「ダークライ、あくのはどうで動きを止めるんだ!!」

 

「ぬぅあああ…!!」

 

 突撃を止めるべくダークライはあくのエネルギー波を放つ。

 標的のメルメタルは走り込みながら金色ナットの頭部にはがねエネルギーをチャージしており…!

 

「ラスターカノンで迎え撃て!!」

 

ボッビィィィィィ!!チュドオオオオオン!!

 

 あくのはどうめがけて発射。相殺の形で両者の技を打ち消し合う。

 

「接近戦と見せかけてのラスターカノン…やるな、サトシくん!」

 

 言い切る間際のことであった。

 エネルギー爆発のモヤを掻い潜り、メルメタルの巨体が、必殺の剛腕の間合いがダークライを収めていたのを見るのは。

 

「ぬ…!!」

 

「ダブルパンツァー!!」

 

「る゛る゛る゛る゛る゛る゛!!」

 

ギュルルル…!!

 

 両腕を水平に伸ばし、メルメタルの巨体がさながらコマのように回転。

 

ボコアッ!

 

 すぐさまダークライの痩身を空中へ叩き上げ、

 

バッキャアッ!!

 

 落下してきたところの頭を思い切り地面へ叩きつける。

 

バチチチチチチチィィィィィッ!!

 

「〜〜〜ッ!?!?」

 

 鋼腕とエレキフィールドに挟み付けられたダークライの全身が跳ね回るように感電すれば、やがて沈黙する。

 その一部始終の最中、サトシの脳裏にはタクトとダークライ、彼らの周りには同じように伝説のポケモンを隣に置く者たちが厳しい表情で取り囲んでいる…何やら物々しい雰囲気の一面が映し出されていた。

 

 

 




 『タクト』
 年齢不詳。ポケモントレーナー。
 3年前、シンオウリーグを席巻した『ダークライ使いの男』。
 今回、再び姿を現した理由とは如何に…?
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