3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 シンジが繰り出した絶滅種ガチグマを前に圧倒されるカスミ。
 一発逆転をかけ、カスミはブロスターを繰り出し、必殺のZワザを放つ体勢に入った…。


それぞれの戦い ランクマッチ シンジvsカスミ③

 アローラ地方より伝わり、多くのポケモントレーナーが会得しているZワザ。

 これを発動させる際にトレーナーが取る一連の動きとポージングは『ゼンリョクポーズ』と呼ばれ、発動し、このポーズを取ることによりポケモンとトレーナーを共鳴状態へと押し上げる。

 ゼンリョクポーズにより共鳴状態となった両者の間に、Zクリスタルが不可視の『繋がり』を通してZリング、或いはZパワーリングがトレーナーの気力や体力を光のパワーに変えてポケモンに送り、ポケモンにオーラを纏わせ、極大威力の大技を放てるようにするのだ。

 このシステムの何よりの利点は、ポケモンとトレーナーの信頼関係の構築は大前提としてクリアしている必要こそあれど、周辺デバイスさえ用意してしまえば場所を問わず発動へ踏み切れる気軽さにあった。

 この辺りは対応のポケモンが限られるメガシンカや、場所の縛りがあるダイマックスにはない利点と言えよう。近年公式ルールに追加されたテラスタルは、まだその仕様の全貌がトレーナーに浸透しきってはいない。

 その反動として、一度きりの瞬間最大火力であり、使い所を考える必要は当然あるのだがそこはトレーナーの裁量の領域である。

 諸々のポージングが格好良くない、と使用を渋る者が一定数いたりはするがそこもトレーナーの裁量の領域であり、Zワザそのものの欠点とするには筋違いであろう。

 

「たぁぁぁ…はっ!やっ!」

 

ゴオオオオオッ!!

 

 世界の美少女、おてんば人魚を自称するカスミのゼンリョクポーズは、たゆたう波間を演出し、優雅で穏やかな所作からブロスターへ送り込まれるみずのエネルギーは一点全てを押し流す激流の如き勢いに満ち満ちたものである。

 静から動、動から静。師より教えを受けた戦いの流儀をこの一撃に乗せ叩き込むのだ。

 

「いくわよブロスター!これがあたしたちのゼンリョクの一撃!!」

 

「るぉっさぁ!!」

 

 Zパワーを受け取ったブロスターはその象徴的な、本体よりも巨大な右腕の鋏の後部から水流を発射しジェット代わりに飛翔。

 瞬く間にダイマックス状態のガチグマの鼻先の高さまで到達して見せた。

 

ジャコンッ!!

 

 右腕のランチャーをガチグマの顔面へ構え、ロックオン。

 狙うは一撃必殺、あるのみ。

 

「スーーーパーーー!アクアーーー!!」

 

「るぉぉぉぉぉ…!!」

 

「ぬうッ!!」

 

 カスミとブロスターの瞳の中に映るのは巨大な大波。

 瞬く間に足元から浸水していき、やがて呑み込まれてゆく、イメージ。シンジは戦慄した。守らなければ、やられる!

 

「ガチグマ、ダイアースを足元に放てッ!!」

 

「ぐおおおおおッ!!」

 

 すかさずガチグマに指示を飛ばす。

 ガチグマの両腕は、ブロスターを叩き落とすのではなく、自身の足元に直接振り下ろされ、凄まじい量のじめんエネルギーが舞い上がった。

 そこに水の一撃が叩き込まれる…。

 

「トルネーーーーードッッッ!!」

 

「るぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ブロスターの右腕の鋏が限界まで開かれては、螺旋状に渦巻くエネルギーを纏った一条の極太な水流弾が放たれる。

 研究所の湖に匹敵するほどの強烈な水量がZエネルギーによって圧縮されガチグマに叩き付けられた。

 

ズォォォォォドドドドドォォォォォ!!

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「耐えろ!耐え凌げガチグマぁ!!」

 

「ぐおおおおお…!!」

 

ズドォォォォォ…!!

 

 両者絶叫、やがてスーパーアクアトルネードを放ちきり、ブロスターはカスミの足元へ着地する。

 

「ダイマックスの限界時間だ!」

 

「ぴぃか!」

 

 同時にガチグマの巨体が縮小し、元の大きさへ戻ってゆく。ダイマックスの限界時間か、それとも…。

 

「ん!ブロスター、ハイドロポンプ!」

 

「るぉッるぁ!!」

 

 カスミの感知は早かった。

 ガチグマは、倒れてはいない。ダイマックスの限界時間なだけであることを看破した。

 すかさず元の大きさまで戻る際のラグに攻撃を被せる判断は流石に技巧である。

 しかし、それはもうシンジにとっては瑣末な一手に過ぎなかった。

 

「(よし…。)ガチグマ!いけ!!」

 

「ごおおおおおお!!」

 

 シンジの安堵はポーカーフェイスの前に阻まれ、カスミには窺い知れない。

 ハイドロポンプの水流弾が確かに命中する。

 絶えず浴びせられ続ける水流の中を、ガチグマは四足で一直線にブロスターへ駆け出した。

 

「くうッ!頑張ってブロスター!!」

 

「るぉぉぉ!!」

 

 カスミの懇願にブロスターも応え水流弾を放ち続ける。

 しかし、ガチグマの猛進は、止まらなかった。

 ハイドロポンプの水流弾は確かに強力だ。だが、その前に、その強力な技をベースにしたさらに凄まじい破壊力のZワザを叩き込まれてなおガチグマは健在であるのだ。

 

「ダイアースにはポケモンの特殊防御力を高める作用がある。それを2回使われ、加えてシンジは2発目をZワザへの相殺として使った。咄嗟の判断、流石じゃのう。」

 

 オーキド博士の隣でキクコは満足げに頷いていた。言葉はない。

 

「ぶちかまし攻撃!!」

 

「ぐごぉぉぉぉぉあああ!!」

 

ズガァンッ!!

 

 ハイドロポンプを受けながら、真正面という最短距離を突っ切りブロスターを間合いに捉えてはガチグマは、その上体を起こして両腕を頭上に組み、力任せにブロスターの頭に振り下ろした。

 

「るぁッ!!すぁぁぁぁぁ…ッ!!」

 

「ブロスター!!」

 

 ハンマーのように思い切り叩き付けられたガチグマの両腕のパワーを前に、体は地面にぶつかる反動から大きくバウンドし、湖へ投げ出され着水。

 

バシャン!

 

 水面に浮かんできたブロスターの目は、ぐるぐるに回っていた。

 

「ブロスター、セントウフノウ。ガチグマノカチ。ランクマッチショウシャハシンジセンシュトイタシマス。」

 

「ブロスター!」

 

 ドローンロトムの無機質な機械音により試合の終了が宣告されてはバリアフィールドが霧散し、ドローンロトムも飛び去ってゆく。

 カスミはぐったり戦闘不能なブロスターをすぐに湖へ飛び込み、抱き抱えて一緒に上がった。

 

「ありがとうブロスター。お疲れ様。よく頑張ったわね。」

 

「るぉ…。」

 

 こういう時にモンスターボールの回収光線を使わず自分の手でポケモンを迎えに行き、直接抱き上げ労うところにカスミの生来の愛情深さがあった。本質的には心優しい女の子なのだ。

 

「ご苦労だった、ガチグマ。」

 

 言葉は少なく、だがしっかりと労いながらシンジはガチグマをボールに戻す。

 

「勝つには勝ったけど見直しは必要だねぇ。」

 

「分かっています。」

 

 すでに背後に忍び寄っていた師に、シンジは驚くことはなく首肯して見せる。

 カスミが叩き込んできたZワザの想定を超える威力を前にシンジは確かに戦慄し、安堵させられた。自身の甘さだ。それを潰すのが今後の見直しなのだ。反省すべきところはたくさんある。

 湖から上がるカスミは改めてプロスターをボールに戻す。そうして両者は歩み寄り健闘を讃え合う意の握手を交わした。

 

「いいバトルさせてもらったわ。次はあたしが勝つから。」

 

「こちらもだ。次も俺が勝たせてもらう。」

 

 お互い現時点で相手に出せる限りのものは出した。が、コレが限界などというつもりもない。ここからまだまだトレーナーとしても、ポケモンのレベルも高めてゆくのだ。

 

ぐぅ〜…。

 

「あ、ごめん。お腹鳴っちゃった。」

 

 良質な緊張感と爽やかな空気を吹っ飛ばしたのは、空腹を告げるサトシの腹の虫。

 これには一同たまらずずっこけるしかなかった。

 

「ぴかぴ…。」

 

 サトシの肩からずり落ちたピカチュウもこれにはやれやれ、と首を振っていた。

 

 

 

 試合を終え、研究所のポケモンたちの力を借りながらフィールドとして使われたエリアの環境整備を済ませた頃には正午を少し過ぎたくらいの時間帯であった。

 折角なのでと研究所の倉庫からバーベキュー用の椅子とテーブルをサトシとケンジが引っ張り出し、その間にシンジとカスミは研究所内の回復装置を使わせてもらってポケモンの体力を回復。

 それが終わり次第シンジはすぐ帰るつもりだったのだがサトシに呼び止められた。

 

「ママがシンジの分もお弁当作って俺に持たせたんだ。せっかくなんだし食べてから帰れよ。」

 

「お友達も来るんでしょーって言ってたわよねママさん。」

 

 友達じゃない。

 内心そう呟くシンジは憮然としながら腕を組む。師のキクコは、試合が終わり次第そそくさと帰ってしまったようだった。

 その辺りの身の軽さ、と言うよりはゴーストポケモンの特徴を利用した半ば人外とも言える立ち回りは師弟の間柄でも教わることはない。元よりシンジは別にゴーストタイプ専門のトレーナーでもないからだ。

 もっとも、ゴーストポケモンと一緒に壁を通り抜けたり、影の中に入り込む技などは同じゴースト使いでもどれくらいが出来るのかも分からないのだが。

 立ち去り際に替えの白衣を羽織って出てきたオーキド博士と二、三言葉を交わしていたようだがその中身はシンジの興味とするところではない。

 

「ん〜やっぱりママさんのお弁当絶品だわ〜!」

 

「やっぱり、ってカスミそんなにママと頻繁に会ってるのかよ?」

 

「アンタが帰らなさすぎなだけでしょー?」

 

 少し遅い昼食。ハナコがサトシに持たせたお弁当を皆で頂く。

 相変わらず、というようなカスミの言い回しに妙にサトシが食い付くのをカスミが華麗に打ち返せばサトシは何も言えなくなる。

 見果てぬ夢を追いかけて走り回るのは性分だ。今更止められる道理もない。

 だが事実としてママを1人、家に置き去りにしているのだ。これにはサトシも堪えたがそうなることを承知でカスミは打ち返したのだから、悪気などあるはずもない。

 ご近所付き合いで割と普段からお弁当を頂いているオーキド博士とケンジにとってもほとんど日常の味と言ってよかった。

 

「(これがお袋の味、というやつか。)」

 

 シンジには兄のレイジしかいなかった。

 この世界では特段珍しくもない家族の形であったし、物心ついた頃からシンジにとってはそれが普通でもあった。

 だからそもそも親というものを懐かしみ寂しがるという概念自体が限りなく薄い。

 そんなシンジにとってなお温もりを感じさせるハナコのお弁当が、戦い終えたシンジの味覚から優しく全身を癒す力にただただ感じ入っていた。

 

 

 

 食事が終わる頃には研究所の庭園は普段の日常へと戻っていた。

 あちこちでトレーナーから預かったポケモンたちが思い思いに時を過ごしている。

 野生のポケモンが紛れ込んだりもしているが普通に受け入れられている。

 これ以上長居する理由は本当にない、とシンジはオーキド博士に一礼、次いでサトシを見た。

 

「ワールドチャンピオン、か。今となっては随分と差をつけられたが、このままにしておくつもりはない。」

 

「今度会ったらまたバトルしようぜ。」

 

 シンジからの宣戦布告。鋭く真っ直ぐな視線に、サトシも真正面から応える。

 どこか満足げにしながらシンジは背を向け歩き出す…前にほんの少しだけ立ち止まる。

 何か忘れ物か?サトシたちは首をほんの少し傾げた。

 

「お前のママさんに伝えておいてくれ。お弁当、美味しかった。ご馳走様でした、とな。」

 

「あ…あぁ!」

 

 おおよそサトシたちのイメージらしからぬ、思いがけぬシンジの謝礼。トレーナーとしてだけではない。

 人としても大きくなったシンジが再び目の前に立ち塞がるであろう未来に思いを馳せては、サトシは武者震いせずにいられなかった。

 その日は、そう遠くない未来に実現する…。

 

 

 

 

 

 




PWCSランクマッチ シンジvsカスミ
 
3C1D方式(使用ポケモン3体からの1体戦闘不能で決着)

テッカニン         コダック
テッカニン→ガチグマ    コダック→サニーゴ

ガチグマ(ダイマックス使用)
              サニーゴ→ブロスター
ガチグマ○ ブロスター●(Zワザ使用)

勝者 シンジ



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