3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

250 / 302
 ついに始まったダークライのタクトとの再戦。
 サトシはメルメタルによるダークホール対策を決めてから、超パワーで一気にダークライを打ち据える。
 その時、不思議な光景が視界に飛び込んでくるのであった。


ROAD TO THE TOP ランクマッチ サトシvsタクト②

「なんだ?この光景?」

 

 言い終えてからサトシは、今見ている光景がタクトの波導から伝わるものだと理解する。

 『波導の力を持つ者同士、互いの内包する波導を通して相手の内なる光景を意図せずして垣間見ることがある』というのを、波導法習得のためにアイリーン女王がつけてくれた腕利きの波導使いより教わったのを思い出した。

 ビジョンの中のタクトと正対する、ほうじょうポケモンランドロスを頭上に置いたいかにも厳格という言葉をそのまま人の形にしたような老人が口を開くのに耳を傾ける。

 

『ならぬぞタクト!我ら"寄り人(と)の民"は、世俗との関わりを断つことで大自然の根幹をなす伝説のポケモン方と共に在り、世界のバランスを保つ為の存在!!俗世に近付き、見聞するなどは罷りならぬ!!』

 

『ならば里長!何故70年近く前に里を出た"白きジガルデの同志"は財を成し、今も俗世に在るがままなのです!?』

 

『あやつは…ギベオンめは、黒きレックウザの威光を我が物と過信し、己に不可能はなしと驕り高ぶる愚かしき余所者に誑かされて里を飛び出し、あまつさえ外法に魅入られ、外道に堕ちた存在!!とうの昔に我らが民の同志ではない!二度とあやつのことを口にするな!!』

 

『里長!!』

 

 そこまでであった。

 ビジョンが霧散し、倒れたダークライの下に審判が駆け寄る様を、サトシの視界は捉えていた。

 

「ダークライ、戦闘不能!メルメタルの勝ち!!」

 

 

 

サトシ、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。

 

タクト、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。

 

 

 

ウオオオオオッ!!

 

「ダークライKOです!!試合開始から僅か3分!!チャンピオンサトシのメルメタル、"台風の目"を見事打ち払ったーーーッ!!」

 

「ここまでは3年前でも出来たは出来たんだよな。あいつだけは。」

 

「えぇ。」

 

 オーバにナンテは頷く。

 無敵の進撃を続けていたダークライ使いのタクト、サトシもまた彼に敗れた1人である。

 他と違うところがあるとすれば、タクトと対戦したトレーナーの中では最も食い下がった存在であるということだ。

 

 

 

「やったやった!サトシすごーい!もうダークライをやっつけちゃった!」

 

「ぽちゃちゃ〜!」

 

「みんみみんみ!」

 

 バトルにあまり造詣を深めない層からすれば瞬殺とも取れるスピード劇にヒカリはたまらず飛び跳ねていた。

 

 

 

「メルメタル、戻って休んでくれ。」

 

 タクトがダークライを戻すのに合わせてサトシもメルメタルを引っ込める。

 次のタクトの一手は、なんとなく予想がついていた。

 

「ダークライがこうもあっさりやられるとは…やはり3年前とは見違えたねサトシくん。」

 

「まだまだこんなもんじゃないですよ。次です!」

 

 互いに繰り出すポケモンのボールを握り締め、

 

「次はコレだッ!」

 

「いっけーッ!キミに決めたーッ!」

 

 同時に天高く放り投げる。

 

シュババ!バシッ!バシバシバシッ!!

 

 開かれたボールより飛び出す影は目まぐるしく空中を飛び交い、小手調べとばかりに体をぶつけ合う。

 

「くぉー…!」

 

「あ゛ぁ゛〜!」

 

 そうしてニュートラルポジションに降り立つ2つの影はあらためて睨み合いの形となった。

 

 

 

「チャンピオンサトシはこれまた非常に珍しいポケモン、UBのアーゴヨン!!タクト選手の2体目はラティオスですッ!!」

 

「チャンピオンは、当時でもあのラティオスまでは撃破しています。」

 

 解説として呼ばれるまでもなくナンテもまたタクトの試合記録は細かくチェックを入れていた。

 サトシとの試合では結果的にダークライとラティオスを倒される形でサトシの6体を全滅させていることも当然頭に叩き込んである。

 それは、アーゴヨンが投入されたサトシの試合、アローラリーグエキシビションマッチについても同様だ。

 

 

 

「さぁ、行けラティオス!」

 

「アーゴヨン!いっけぇ〜!」

 

 両者号令すれば本格的なドッグファイトに突入。

 アーゴヨンもラティオスもその身を夜空の風景に溶け込ませ互いの背後を取り合う機動戦となってゆく。

 

「りゅうのはどう!!」

 

「あ゛ぁ゛〜んご!!」

 

 アーゴヨンが大口を開いての波導ブレスにラティオスは急速旋回。

 あっさりと背後を取り返しての、

 

「ラスターパージ!!」

 

「くぉぉぉーーーッ!!」

 

 ボディ前方へ眩い紫色のエネルギーを凝縮させた光線を発射する。

 ラティオスの膨大なサイコパワー、その発露のごく一部がアーゴヨンの左翼を捉える。

 

「あ゛ぁ゛ッ!」

 

『アーゴヨン被弾!!たまらず高度を下げてゆくーッ!!そこを逃がさじとラティオスは突っ込んだーッ!!』

 

 

 

「今度はサトシ側が瞬殺か?」

 

「ううむ…あのアーゴヨンというポケモンは、ラティオスにも負けず劣らずのスピードを叩き出せるポテンシャルはあるとは思うのですが…。」

 

「調整失敗でもしたんじゃあないのか?」

 

「仮にもチャンピオンがそんな子をバトルに出すと?」

 

「ないな。とりわけあのサトシは。」

 

 完全に部外者なオーバは見たままの状況でのみ話をするよりない。

 先月半ばまでPNTTにて行動を共にしていたナンテもいくらかはサトシのポケモンを目にしていたが、アーゴヨンの姿は終ぞ見ることはなかった。

 大会期間中に見せていたのがサトシのポケモンの全てではないのは重々承知な中でアーゴヨンのパフォーマンスがそれらメンバーに比べ見劣りしているように映るのは、ナンテがアーゴヨンの離脱経緯を知らないからである。

 

 

 

「やっぱり2週間ちょいじゃあ完全に今のサトシのレベルに追いつくのは無理だったか…。」

 

 フィールドへ墜落してゆくアーゴヨンを苦々しい表情で見るのはククイ博士だ。

 この場で唯一、サトシとアーゴヨンの物語を全て知っている存在として言葉が口をついて出る。

 アーゴヨンがウルトラボールを通過して飛来し、タクトが次の対戦相手と判明したサトシはすぐにトレーニングを再開。

 アーゴヨンのレベルアップに注力した。アローラリーグ終了後に故郷へ帰ったアーゴヨンのレベルは当時のものからほんの僅か成長を見せたのみで、対等な条件での打倒ダンデを掲げて敢行したサトシとポケモンたちの『ポニ島大合宿』にもこの子は参加していない。

 故にナンテが見るように今のサトシのポケモンたちと比べればずっとレベルアップが遅れていると判断されても仕方ないのだ。

 それでもこのタクト戦への起用を決めたのは、やはりサトシの漢気であった。

 

 

 

「あ゛ごご…!」

 

 墜落寸前でバランスを立て直し空中姿勢を取り戻すアーゴヨン。

 地面を背に見上げれば急降下の形で追撃してくるラティオスは全身に強烈なエネルギーを纏っていた。

 

「くぉぉッ!!」

 

「一気に決める!ギガインパクト!!」

 

「シザークロスだ!迎え撃てアーゴヨン!!」

 

「あ゛〜ッあ゛ッ!!」

 

カッ!チュドオオオオオン!!

 

 ラティオス自身のパワーに急降下の加速を加えての必殺を期する一撃を前にアーゴヨンは下半身の棘へむしエネルギーを纏わせてのカウンターアタック。

 メルメタルとダークライの一戦に続くエネルギー爆発がバリアフィールドを軋ませてゆく。

 

 

 

「大丈夫なのか、アレでサトシのアーゴヨンとかいう奴は!?」

 

「サトシならダイジョーブ!!」

 

 明らかに不利な状況での衝突にケンゴが不安がるのは真っ当な反応だ。

 そこにヒカリがすかさずフォローを挟むのは、ここでは彼女だけが旅の仲間としてのサトシを、その勝負強さを見知っているからである。

 

 

 

バチバチバチバチバチィィィィィッ!!

 

 爆風によるモヤが徐々に晴れてゆく。視界がクリアになる前に中から眩い電光があちこちへ走った。

 

「今だアーゴヨン!!10まんボルト!!」

 

「ぴかぴかぁ〜!!」

 

 ギガインパクトを持ち堪えたアーゴヨンがラティオスへ背後から組み付き、至近距離から電撃を浴びせかけていた。

 

「あ゛ぁ゛〜〜ッ!!」

 

「くぉ、くぉーッ…!!」

 

「ぬ、ぬうッ、ラティオス…!」

 

 強力な技には相応のデメリットが付き纏う。

 ギガインパクトの反動によりラティオスは自慢の身のこなしが完全に殺されているのだ。

 力なくもがき続けるもそれでチャンスをみすみす逃がすアーゴヨンでも、サトシでもない。

 

「そのまま最大パワーでいっけぇぇぇッ!!」

 

「あ゛ごぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!」

 

バリバリバリバリバリバリバリィィィィィ!!

 

 決して逃がすまじとお尻の針をラティオスの背中に突き刺し、両翼で覆いかけ密着を強めながらの大放電。

 激しいスパークとともにフィールドに落下する2体によるモヤが、サトシの脳裏にまた1つのビジョンを見せていた。

 

 

 

「まただ。」

 

 タクトの波導よりキャッチする、内なる記憶。

 そこには、里から飛び出し、慣れぬ体験の連続に困惑しながらも俗社会を懸命に生きるタクトの姿があった。

 

『ポケモンリーグ?』

 

『はい。トレーナーの憧れ。ポケモンたちとの絆の総決算、まさに夢の舞台ね。』

 

 どこかの町のポケモンセンターにてタクトはジョーイさんから話を聞いていた。

 自分たちが使命で以てバランスを保ち維持してゆく世界…その熱の中心部を目指すことは、世界を知ることを目的とするタクトにとってピッタリの道程に見えた。

 

『やってみるか。』

 

 相棒に語りかけるタクト。ダークライは、話自体にはさほど興味は示さないが主人のやることに従うのみと首肯を見せた。

 そこでビジョンが途切れ、サトシの視界がフィールドへと回帰する…。

 

 

 

「ラティオス、戦闘不能!アーゴヨンの勝ち!!」

 

「あ゛あ゛あ゛ッ〜!」

 

 勝ち名乗りを受けアーゴヨンは逆さに浮いて横回転。

 全身ボロボロながらもサトシに勝利を捧げることの出来た喜びを全身で表現していた。

 

「ぴぃ〜か。」

 

 ピカチュウもしみじみと頷いてみせる。

 己が身を犠牲にしてでも一撃を加えにいかねばあいつは倒せない…そんな実感がこもっていた。

 アーゴヨンがラティオスを仕留めてみせた姿に、かつての自分を重ねていた。

 

 

 

サトシ、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。

 

タクト、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

「あのシザークロスは相殺というよりはエネルギーを一点に集中させることでラティオスの前進より放たれるギガインパクトの強烈なパワーを分散させる役割のものだったのではないでしょうか?例えるなら、ピストルの弾を刀で斬るような…。」

 

「一点に集中させているエネルギーは面で押してくるエネルギーより純度が高いもんな。」

 

ウホオオオオオオオ!!チャンピオンスゲー!!

 

 アーゴヨンの一発逆転で客席が沸き立つ中、詰めの一発として放たれたギガインパクトに対する防御策をナンテが推察する。

 

「その後、いくら密着状態とはいえ効果が今ひとつなドラゴンタイプのラティオスに10まんボルトで押し切れたのはエレキフィールドのおかげかな。」

 

「はい。まさしくアローラの覇者のポケモンたちによるアローラチャンピオン・ホットラインの勝利でしょう。」

 

 

 

『この試合展開を誰が予測できたでしょうか!?伝説のポケモンダークライとラティオスを従えるタクト選手が瞬く間に残りダウン数あと1体とまで追い込まれております!チャンピオンサトシ、ここまで圧倒的な試合運び!!』

 

「そりゃあそうさ。ポケモンのスペックが並んでるなら後はトレーナーレベルの比べ合い。今のサトシは誰が相手だろうとそう易々とは止められないぜ。」

 

 だがしかし、とククイ博士はアーゴヨンを戻すサトシを見る。

 勝つには勝ったが残り体力としては限界ギリギリ。実質相討ちと言って差し支えないほどに痛め付けられたのだろう。

 相手はあのタクトだ。ほんの少しの歯車のかかり違いで戦局などはあっという間にひっくり返されかねない。

 そんな得体の知れなさに、博士の二の腕は鳥肌が立ったままだ。

 

 

 

「ダークライに続けてラティオス…それ自体はあの時と変わらない。ただ、ここまで押し込まれるとは。」

 

「俺、あれからもっとたくさん旅をして、たくさんバトルして、いっぱいいっぱい強くなったんです!!」

 

「そのようだ。」

 

 笑みを浮かべながらタクトが懐から取り出すのはボールではない。

 錆びてボロボロの薄汚れた剣が、サトシの目を見開かせる。

 

「くちたけん!?」

 

「来たれ!剣の王よ!!」

 

 口上とともにタクトはくちたけんを空高く放り投げる。

 

「ウルォーード!!」

 

 彼方より響くは英雄の咆哮。夜空にクルクルと回転するくちたけんに重なりしは、英雄たる狐狼の影。

 狐狼とくちたけんは一体となり、眩い輝きでスズラン島を照らしていった。

 

 

 

「まっぶし!なんなのいったい!?」

 

 訳が分からないと視界を庇い、やがて収まった輝きから回復したヒカリの目がフィールドにて捉えるのは、ひと目見るだけでも只者ではないと分かる凄まじい威風を携えたポケモンであった。

 全身の体色を淡いパステルカラーに寄せ、口には黄金に輝く『剣』を咥え、顔には騎士の鎧、背中には金色の翼のような装飾、首元からはツインテールを思わせるオレンジ色の長い毛が伸びた神々しい出で立ちを際立たせる。

 

「ウルォォォーーード!!!」

 

 いくさ場に降り立ち、今一度我が身の出陣を高らかに告げる『王』の名は…

 

「ザシアン!!」

 

「ぴかかちゅ!!」

 

 つわものポケモンザシアン、剣の王たる姿をタクトのニュートラルコーナーに見せた。

 

「剣の王!または"妖精王の剣"ザシアン!!彼女こそが僕の3体目!!サトシくん!いや、チャンピオンサトシ!!今一度改めて宣言させていただこう…その胸を借り、全身全霊で以て戦うと!!」

 

 タクトはマントを脱ぎ捨てる。脱ぎ捨てられたマントは、ゴトリ!!と鈍い音を立てながらフィールドにめり込んだ。

 

 

 




 『オーバ』
 23歳。シンオウリーグ四天王。
 真っ赤なアフロがトレードマークでほのおポケモンのエキスパート。
 扱うポケモンのタイプの通りに血湧き肉躍る熱い戦いが何より大好物だ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。