3 years later〜虹の向こうに〜   作:nami73

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 タクトの過去を垣間見ながらサトシは彼の駆使する伝説のポケモンたちを相手に立ち回ってゆく。
 追い込まれたタクトは『剣の王』ザシアンをフィールドに降臨させ、反撃の意図を明確に示すのであった。


ROAD TO THE TOP ランクマッチ サトシvsタクト③

「タクト選手の3体目はつわものポケモンザシアン!!PNTTガラル代表チーム<シュート>に参加していたホップ選手のザマゼンタと対をなす、ガラル地方の伝説のポケモンであります!!」

 

 放送席のオーバもナンテもトレーナーとしては歴戦の域に達している猛者である。

 それでもタクトの繰り出すポケモンたち、そのどれもこれもが伝説のそれであるのだけでも圧倒されるが、さらにその超強力ラインナップをサトシが同じ土俵で真っ向から跳ね返していくのはもう痛快というよりなかった。

 

「いやはや、なんともはや…。」

 

 ナンテはハンカチで額の汗を拭う。

 ダークライ、ラティオスと来て極め付けのザシアンともなれば最早解説泣かせどころの騒ぎではない。

 

「不勉強な身で見たままのことしか話せませんが、全身のしなやかな筋肉で依って立つ四つ足のボディを鎧がガードし、攻撃に関してはなんといってもあの口に咥えた剣、ですか。アレが脅威であろうとしか言いようがありませんな。」

 

「右に同じく。どんなバトルをするのかワクワクが止まらないぜ!!」

 

 ゲストとはいえ半ばトークの放棄と取られても仕方がないコメントではある。

 それでもオーバが放送席に呼ばれ続けるのは四天王の肩書き以上にポケモンバトルを愛する裏表のない笑顔が理由として存在している。

 タレントとして華があるのは立派な強みなのだ。

 

 

 

「ウルォォォーーーード!!!!」

 

 3度目となるザシアンの咆哮は、『どこからでもかかってこい!』というアピール以外の何物でもない。

 タクトとザシアンの繋がりもまた波導の中で垣間見た彼の出生した環境に関わることなのだろうが、そんなことは今のサトシにはどうでもよかった。

 強い相手ほど燃えてくる…ポケモントレーナーの本能に身を任せるのみである。

 

「戻れアーゴヨン!」

 

 アーゴヨンをボールに戻す。

 勝つには勝ったがやはりダメージが大き過ぎる。これ以上突っ張ってもやられてしまい、せっかくの連勝ムードに水を差されるのがオチなのだ。

 みすみす勝ちの芽を摘むことはない。まして、相手がタクトなら尚更だ。

 

「ゆっくり休んでくれ。」

 

 この試合が終わればまたアーゴヨンは故郷へと帰ることになっている。

 こちらの世界へ来た目的を最高の形で果たさせてやれたというのはこの子のトレーナー冥利に尽きるとサトシは思う。

 後は、ザシアンと相対するのみだ。まさかここにきてサイクル戦もあるまい…そんな確信とともにサトシは次なるボールを手に取る。

 

「頼むぜ!キミに決めたーッ!!」

 

 そのまま放り投げるボールから出るのは、

 

「みよみよ〜!」

 

 威風堂々たる剣の王の御前に対するにしてはあまりにも小さい体躯、それでも出てきた瞬間にスタジアム全体がモワリと熱くなる感覚を現地の人たちは肌で受け止めた。

 パルデア地方でゴタゴタの末にゲットしたポケモン…そのデビュー戦はここをおいて他にないとのサトシの選出にイーユイは全幅の信頼を寄せていた。

 

 

 

『あーッと!チャンピオンサトシも3体目を投入!な、なんだぁっ?トサキントではないようですが…?』

 

「可愛い〜!サトシいつあの子ゲットしたのかしら?」

 

「この場に出てくるんだ。ただ可愛いだけとも思えないけどな〜。」

 

空中を泳ぐ姿で無邪気に喜ぶヒカリ。ケンゴの予測は正鵠を射ている。

 

 

 

「アレはさいやくポケモンイーユイ。パルデア地方にてつい最近まで封印されていた伝説のポケモンです。ポケモンハンターが封印を解き、捕えようとしていたのをチャンピオンが助け保護したのですよ。」

 

「ありゃあほのおタイプだな?かーっ!たまんないぜ〜!!」

 

 ナンテの簡潔な説明にオーバは見た感じからタイプを見抜いて大興奮。

 ほのおタイプのエキスパートとしてよりここから先は見逃せないとヒカリ同様無邪気に振る舞っていた。

 

 

 

「パルデアのさいやくポケモン…なるほど、きみもサトシくんに惹かれたんだね。」

 

「みよ?」

 

 タクトにイーユイは首を傾げる。

 彼らさいやくポケモンの封印に携わったポケモン使いとはタクトたち寄り人の民の同志であることは、この場の真剣勝負に関係のない話と思考を切り替える。

 黒炎の勾玉がザシアンのボディに張り付いてきたのだ。

 

「ウルォッ!!」

 

 剣の王の覇気が勾玉を霧散させる。

 咥えた剣の輝きとともに背中と腰に付いている金色の羽のような装飾が移動し、それぞれ刃と柄頭の部分を連結させ青緑色に輝く大剣へと姿を変えてゆく。

 

「今こそ"妖精王の剣(オベロンズ・ソード)"の真髄を見せよう!!」

 

 

 

「おべろん?」

 

「旧世紀の伝承に登場する妖精の王様です。ザシアンの出自的に多分ガラル由来かと。」

 

「ほーん。」

 

 その手の民俗学にはとんと疎いオーバはナンテの解説に頷く。といってもスタジアムを出る頃には忘れてる程度の興味ではあるが。

 

 

 

「刮目せよ!空覆う悪しき影を断ち裂く王剣を!!」

 

「来るぞイーユイ!」

 

「みよ!」

 

「きょじゅうざんッ!!」

 

 気を引き締めるイーユイの鼻先には、すでに太刀筋。ザシアンが一瞬で距離を詰め、大剣を振り抜いていた。

 そのタイミングに合わせてイーユイのほのおエネルギーが弾けたように熱として放たれるのが見えたのは一部のエキスパートのみである。

 

ザッシュウウウウウッ!!

 

「みよ〜!」

 

「ぴーかちゅ〜!」

 

『あーッと、これは強烈ーッ!!剣の王ザシアン、容赦ない斬撃をイーユイにぶち当てたーーーッ!!』

 

 振り抜かれた大剣を叩き込まれたイーユイは空高く吹っ飛ばされてゆく。

 客席を保護するためのバリアフィールドギリギリで体勢を立て直して見せる。

 

「"妖精王の剣"に届かぬ間合いはなし!!」

 

「ウルルルルルルルゥゥゥ!!」

 

 イーユイを見上げる構図のザシアンはその場で激しく横回転。

 さながら自分の尻尾を追いかけ回しているようにも見えるが無論それは見せかけだけの話である。

 

シュバッ!シュバッ!シュバッ!

 

 

 

「ソニックブーム!」

 

「いや、"飛ぶ斬撃"だ!!」

 

「ぽちゃあ〜。」

 

 『何が違うの?』という怪訝な顔でヒカリはケンゴを見る。この辺りはいわゆる男のロマンの領域から来る解釈といえた。

 ポッチャマもここはケンゴの言に頷きを見せている。男の子だからだ。

 

 

 

「ぴかぴ!」

 

「あぁ!!」

 

 相棒に応えながらサトシが右手に持つのはテラスタルオーブ。

 

「イーユイ!見せてやろうぜ、俺たちのゼンリョクの輝き!!」

 

「みよ〜!」

 

 勢いよく放り投げたテラスタルオーブめがけイーユイも空を泳ぐ。

 

ピカァァァァァ…ジュワワッ!

 

「ぬうッ!?」

 

 眩い輝きの中でイーユイがクリスタルに包まれれば、そこに飛び込む斬撃は瞬く間に強烈な熱波の前に消し飛ばされる!

 

「テラスタルだぁ〜ッ!!」

 

 燃えるようなほのおのテラスタルジュエルを頭に被るイーユイがクリスタルの中から現れれば、それはさながら夜空に太陽の如く輝きを見せる。

 

 

 

「チャンピオンサトシ、ここでテラスタルを発動!!凄まじい熱気がここまで、放送席まで伝わってきております!!汗が止まりません!!」

 

「上手い!イーユイにはわざわいポケモン共通のあくタイプがあります。それをテラスタルによってほのおタイプとしての特徴を前面に押し出せば、見たところかくとう技であるザシアンのきょじゅうざんを抜群で受けずに済みます!」

 

「それどころじゃあないことになってるみたいだぜ。」

 

 ナンテもオーバも汗を拭うことを忘れて試合にのめり込む。ザシアンの詳しいデータもない以上実況も手探りといったところだ。

 

 

 

ジュウウウ…!

 

「ウ、ウルゥ…!」

 

「な、なんと…!」

 

 イーユイがテラスタルによって放つ強化された熱波は思わぬところからザシアンを攻め立てていた。

 くちたけんと一体化し、鉄壁の鎧に身を包む王狼、その肝心要の鎧が熱の前に徐々に鋭角を失い、解け始めてきたのだ。

 

 

 

「一般的に鉄が熱に負けて溶け出すのはだいたい1500℃ほどと言う。流石にあのザシアンのフォルムに直結する鎧がそこらの鉄と同じだとは思えんからその倍の融点だとして、それでもイーユイの操る熱エネルギーは3000℃なんだよな…うあっち!」

 

 全身汗だくになりながら身を乗り出し、フェンスに手をかけたククイ博士は盛大に火傷してしまう。

 フェンスもまたイーユイの放つほのおエネルギーにより熱せられているのだ。

 

 

 

「いいぞイーユイ!もっともっと熱くなっていこうぜ!!れんごく攻撃だぁ〜!!」

 

「みぃよぉ〜!!」

 

シュボワッ!シュボワッ!シュボワッ!

 

 ほのおのテラスタルジュエルがイーユイの、サトシの意気に応えるように輝けば、フィールドはさらなる焦熱地獄へと誘われてゆく。

 

『あーーーッと!!フィールドのあちこちから地面を掘り返しての炎柱がいくつも撃ち上がったーーーッ!!』

 

「コレでザシアン得意の機動戦は潰された、か…!」

 

 しかしてタクトは垣間見る。

 派手に撃ち上げられた炎柱の配置から、ザシアンとイーユイを真っ直ぐ繋ぐ直進ルートには全くの手付かずであることを。

 

「(こちらが斬りかかるのを迎え撃つ算段と見た…!)」

 

 勝機がないではない。最初のきょじゅうざんを直接叩きつけた際、イーユイはその威力の大半を自身が発する熱のエネルギーフィールドにて防いでいた。

 今はれんごくによる炎柱の展開と、迎撃の為であろう一手の為に防御にまでリソースを回すのは不可能と言う判断へ至った。

 誘われてることは明白、しかし乗る以外に手立てはなかった。

 

「ウルゥーーー…!!」

 

「(流石タクトさんだ。)」

 

 まっすぐ斬りかかりにくることの他に勝ちの芽はない…即座に覚悟を決めたタクトと、その判断に迷いなく加えた剣から再度エネルギーの大剣を形成するザシアンを前にサトシは帽子のツバを後ろに回す。

 サトシとて油断はない。

 詰めの一手を打ち間違えることなどはあり得ない。繰り返すが、まして相手はタクトなのだ。

 

「「いざ!!尋常に勝負、勝負〜!!!」」

 

「ウルォォォーーーーード!!!!!」

 

 この試合一番の咆哮を携えて剣の王は疾駆。

 うだる熱を切り裂くシアンの太刀をイーユイめがけ叩き込むのみだ。

 

「一意専心・フルパワーきょじゅうざん!!!!!」

 

「(アデクさん!バンジロウ!2人の技、使わせてもらいます!!)」

 

 王としてではなく、ただ一個のつわものとして渾身の斬りかかりを見せるザシアンに、サトシとイーユイは真剣勝負に燃える炎を瞳へ宿し、

 

「全身全霊のぉぉぉ…オーバーヒートだぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

「みぃぃぃぃぃよぉぉぉぉぉッッッ!!!!!」

 

 スズランスタジアムに真っ赤な太陽を花開かせ、人々に夜を忘れさせた。

 

ボアアアアアアアアア!!!!!

 

 強烈、と言うでは生ぬるさを覚える熱の奔流の中でなおザシアンは必殺の剣を突き立てんと鉄剣を噛み締める力を絞り出してゆく。

 

「テラスタルパワー全開、燃えろぉぉぉ!!!イーユイ!!!」

 

「みぃよぁぁぁぁぁ!!!」

 

 今一度輝くは、真の王者の王冠。

 現代のワールドチャンピオンの魂を震わせるシャウトが、イーユイにその出生に関わる薄暗さとは無縁の爽やかな情熱を引き出した。

 

シュボワアッ!!

 

「なにッ!?」

 

 エネルギーが、燃える。それはさしものタクトも驚愕を隠せなかった。

 きょじゅうざんを成立させるための膨大なエネルギーが放つシアン光が炎に飲み込まれれば、それはすなわちザシアン最後のひと太刀が呑まれたことと同義である。

 

「ウルォアアア…!!」

 

 きょじゅうざんによる技エネルギー反発作用を失ったザシアンは大熱波にその身を焼かれながら吹き飛び、タクトの最後方フェンスへとその身を叩き付けられる。

 そこでサトシは、またもタクトの記憶のビジョンを見せられていた。

 

 

 




 『寄り人の民』
 世俗から切り離された秘境に集落を作り、伝説のポケモンたちの側にて生きる修験者たちの集まり。
 タクトはこの集落に生まれ育ち、民の一員としてダークライやラティオスと幼少の頃より心を通わせていた。
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